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年月
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君にはもう、興味がないんだ。冷たくそう告げた時の彼女は、驚いていた。
「あの時あんなに泣いていた君が、私にもう興味がないなんて」
「そうだね。もう興味はない」
彼女は驚いた顔をすると同時に不思議そうな顔でもあった。そんなことってあるのか、という顔だった。その顔を見ていると面白くなるほど、彼女に対する興味は無くなっていた。
かつて二人で来た喫茶店で、かつて食べたメニューを頼んでそれを食べながら話をしていた。かつての姿を取り戻しているかのように見えているその中身は、5年前とは明らかに変化していた。
「君と別れてからしばらくはずっと君のことを考えていた」
「はぁ」
「ネトストみたいなこともしたし、どうにかして信頼関係を取り戻せないかと考えていた」
「はぁ、なるほど」
「でも、もう君とは縁のない人生を歩んでいるんだよ」
「うん」
僕が淡々と語る事実。それらは確実に彼女を苦しめていただろう。その謝罪すらもなく淡々と語る。この後で何かが起きればその時は全てを受け入れるしかない。彼女は飲み物にも食べ物にも手をつけないまま話を聞いている。彼女から話したいこともあったのではないかと思うが、それを聞く前に話したほうが早かった。
「君も僕と別れてからの5年間、君は君の人生を歩んできたはずだ。それと同じように、僕も僕の人生を歩んできた。たったそれだけなんだよ」
「でも、君はあの時、私のことをあんなにも欲していた」
「過去は過去。今は今だよ。もう、どこにもあの頃の僕はいないんだ。年月というのは人を変える。変わらないと言われて別れを告げられてしまった人間でも」
自分でも不思議に思うほど、気持ちは落ち着いていた。目の前の彼女も、落ち着いていた。
周りがどんな空気感であるかというのは関係なかった。今日は今まで言えなかったことを言って、これで本当の最後にするんだという気持ちがあった。
「あの時のデートを強行すればよかったのか。何も考えずに君を受け入れればよかったのか。いろんなことが過ぎって、考え続けた数年間だった。でも、君のいない人生を歩み続けると、君がいなくても自分の人生が回ることに気づいてしまったんだよ。残念ながら」
新型ウイルスによる感染症で、パンデミック寸前のところまで来ていたその時、僕たちはデートを中止した。別れが来たのはその後すぐだった。僕は彼女のことを一生考えながら、背負いながら生きていく人生になると思っていたのに、そうはならなかった。いつ、どんな形で変化が起きたのかは自分でさえも分からない。しかし、変化したことは事実なのである。
自分で相手のことも気にかけないまま話し続ける。この話の先に、彼女がどんな返答をするかは全く分からない。社会的か物理的を考えなければ自分が死んでいる未来まで起こり得る。
「君が僕に対して何を望んでこれからどうしたいのかは分からないけれど、こんなことを平気で言える人間とこれからも関わりを持ち合いたいと思えるのなら、酔狂と呼べるレベルだろうな」
彼女は押し黙ったままだった。変わり果てた僕に呆れ果てているのか、もはや話すことがなくなるほど、どうすることもできなくなっているのか。
「君は僕と違ってモテるだろう。そしてまだ20代だ。こんな人間のために貴重な時間を費やすべきじゃないんだよ。君はもっと有意義な人生を歩めるはずだ」
柄にもない一言だが、全て本心だった。僕のような愚か者を相手に話す時間があるならもっと有意義な時間の使い方があるはずだ。もう話しておきたいことは何もなかった。
「そっか、本当に君は変わってしまったんだね」
「うん」
「まぁ、今の私にも彼氏はいるけど、君ともう一度友達になれたなら、人生がもっと楽しくなるかなぁって思ったんだ」
「そっか」
短い返答の末に会話が終わる。言いたいことがあったかもしれないが、出てきた言葉はそれだったようだ。
その会話を最後に言葉が発生することはほとんどなく、食べ物を切り分けるときに相槌を打つ程度だった。
食べ物を食べきり、飲み物も飲みきり、最後に少しだけあった話の区切りもついたところで、二人とも立ち上がる。
「じゃあ、今日は僕が出すよ」
「いや、私も」
「いや、大丈夫」
レジで会計の紙を出して代金を払う。これが正真正銘、最後になる。会計が終わればすぐ外に出る。
「そっか、君はそんなにも変わったんだね」
「まぁ、いい意味でも悪い意味でもね」
自分でも分かっていなかった自分の変化に驚いてはいるが、それも人生というやつなのだろう。5年間いろんなことを考えてきた答えが、ここで言えたのはよかったのかもしれない。駅まで二人で歩く。駅の改札まで来たところで、彼女を見送る。
「じゃあまたね」
「え、帰らないの?」
「もうちょっとうろうろする」
「そっか」
「うん」
「またね」
「うん」
彼女が改札を抜けて階段を降りていく。その後は追いかけない。どうせ変える方向も逆方向だし、もう未練もない。彼女が見えなくなってから用事を済ませるためにまた戻っていく。
年月というのは人を変える。これほど実感することはなかなかない。これからも変わっていくのだろう。それでも、もう彼女と交わる人生にはならない。
彼女のまたねということが引っかかる。日本は狭いし、東京はもっと狭い。いずれどこかで会う可能性は0ではない。しかし、自分から話しかけることはもうないだろう。その時が来る時は、また年月が経っている。その時のお互いの変化は、どうなっているだろうか。幸せな二人で会えるだろうか。それを考えながら、駅前へと戻っていく。これから流れていく年月の中で、幸せな人生になることを願いながら。
「あの時あんなに泣いていた君が、私にもう興味がないなんて」
「そうだね。もう興味はない」
彼女は驚いた顔をすると同時に不思議そうな顔でもあった。そんなことってあるのか、という顔だった。その顔を見ていると面白くなるほど、彼女に対する興味は無くなっていた。
かつて二人で来た喫茶店で、かつて食べたメニューを頼んでそれを食べながら話をしていた。かつての姿を取り戻しているかのように見えているその中身は、5年前とは明らかに変化していた。
「君と別れてからしばらくはずっと君のことを考えていた」
「はぁ」
「ネトストみたいなこともしたし、どうにかして信頼関係を取り戻せないかと考えていた」
「はぁ、なるほど」
「でも、もう君とは縁のない人生を歩んでいるんだよ」
「うん」
僕が淡々と語る事実。それらは確実に彼女を苦しめていただろう。その謝罪すらもなく淡々と語る。この後で何かが起きればその時は全てを受け入れるしかない。彼女は飲み物にも食べ物にも手をつけないまま話を聞いている。彼女から話したいこともあったのではないかと思うが、それを聞く前に話したほうが早かった。
「君も僕と別れてからの5年間、君は君の人生を歩んできたはずだ。それと同じように、僕も僕の人生を歩んできた。たったそれだけなんだよ」
「でも、君はあの時、私のことをあんなにも欲していた」
「過去は過去。今は今だよ。もう、どこにもあの頃の僕はいないんだ。年月というのは人を変える。変わらないと言われて別れを告げられてしまった人間でも」
自分でも不思議に思うほど、気持ちは落ち着いていた。目の前の彼女も、落ち着いていた。
周りがどんな空気感であるかというのは関係なかった。今日は今まで言えなかったことを言って、これで本当の最後にするんだという気持ちがあった。
「あの時のデートを強行すればよかったのか。何も考えずに君を受け入れればよかったのか。いろんなことが過ぎって、考え続けた数年間だった。でも、君のいない人生を歩み続けると、君がいなくても自分の人生が回ることに気づいてしまったんだよ。残念ながら」
新型ウイルスによる感染症で、パンデミック寸前のところまで来ていたその時、僕たちはデートを中止した。別れが来たのはその後すぐだった。僕は彼女のことを一生考えながら、背負いながら生きていく人生になると思っていたのに、そうはならなかった。いつ、どんな形で変化が起きたのかは自分でさえも分からない。しかし、変化したことは事実なのである。
自分で相手のことも気にかけないまま話し続ける。この話の先に、彼女がどんな返答をするかは全く分からない。社会的か物理的を考えなければ自分が死んでいる未来まで起こり得る。
「君が僕に対して何を望んでこれからどうしたいのかは分からないけれど、こんなことを平気で言える人間とこれからも関わりを持ち合いたいと思えるのなら、酔狂と呼べるレベルだろうな」
彼女は押し黙ったままだった。変わり果てた僕に呆れ果てているのか、もはや話すことがなくなるほど、どうすることもできなくなっているのか。
「君は僕と違ってモテるだろう。そしてまだ20代だ。こんな人間のために貴重な時間を費やすべきじゃないんだよ。君はもっと有意義な人生を歩めるはずだ」
柄にもない一言だが、全て本心だった。僕のような愚か者を相手に話す時間があるならもっと有意義な時間の使い方があるはずだ。もう話しておきたいことは何もなかった。
「そっか、本当に君は変わってしまったんだね」
「うん」
「まぁ、今の私にも彼氏はいるけど、君ともう一度友達になれたなら、人生がもっと楽しくなるかなぁって思ったんだ」
「そっか」
短い返答の末に会話が終わる。言いたいことがあったかもしれないが、出てきた言葉はそれだったようだ。
その会話を最後に言葉が発生することはほとんどなく、食べ物を切り分けるときに相槌を打つ程度だった。
食べ物を食べきり、飲み物も飲みきり、最後に少しだけあった話の区切りもついたところで、二人とも立ち上がる。
「じゃあ、今日は僕が出すよ」
「いや、私も」
「いや、大丈夫」
レジで会計の紙を出して代金を払う。これが正真正銘、最後になる。会計が終わればすぐ外に出る。
「そっか、君はそんなにも変わったんだね」
「まぁ、いい意味でも悪い意味でもね」
自分でも分かっていなかった自分の変化に驚いてはいるが、それも人生というやつなのだろう。5年間いろんなことを考えてきた答えが、ここで言えたのはよかったのかもしれない。駅まで二人で歩く。駅の改札まで来たところで、彼女を見送る。
「じゃあまたね」
「え、帰らないの?」
「もうちょっとうろうろする」
「そっか」
「うん」
「またね」
「うん」
彼女が改札を抜けて階段を降りていく。その後は追いかけない。どうせ変える方向も逆方向だし、もう未練もない。彼女が見えなくなってから用事を済ませるためにまた戻っていく。
年月というのは人を変える。これほど実感することはなかなかない。これからも変わっていくのだろう。それでも、もう彼女と交わる人生にはならない。
彼女のまたねということが引っかかる。日本は狭いし、東京はもっと狭い。いずれどこかで会う可能性は0ではない。しかし、自分から話しかけることはもうないだろう。その時が来る時は、また年月が経っている。その時のお互いの変化は、どうなっているだろうか。幸せな二人で会えるだろうか。それを考えながら、駅前へと戻っていく。これから流れていく年月の中で、幸せな人生になることを願いながら。
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