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恋愛
境界線
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終電を逃した。好きな人から唐突にきた連絡がそれだった。どうやら遠出をして、なんやかんやがあって家に到達できなくなったらしい。詳しい話はされなかったが、どうやら宿を探しているらしい。わざわざ連絡があったということは泊めてほしいのかもしれない。どうせ一人暮らしだし、困るわけでもない。泊まっていいよと連絡すると、感謝の言葉の後、最寄駅に着いたら連絡すると言われた。
どこからどこへ帰ろうとしていたのかは分からないが、終電がないなら仕方ない。最寄駅を伝えて、しばらく待つと、その人から連絡が来たのは23時40分頃だった。
駅まで迎えに行くと、何回かみたことのある姿が立っていた。ポロシャツにジーパン。整っているとはお世辞にも言えない髪型。それでも、私から見れば魅力的だった。
「いやー、助かったよ」
「いや、まぁ、うん」
「着替えはあるから何とかなるんだけど」
「それはあるんだ」
「うん」
変なところで用意が良い。それならホテルという手もあったのではないかと思うが、友人の家ならタダで泊まれるという意図もあるのだろう。
駅から歩いて10分で自分の住むアパートに到着する。駅近というほど近くはないが、程々の距離で運動にはなる。
鍵を開けていつもの部屋に入る。彼も続いて中に入ってくる。大層な荷物ではない。一体どこに行ってきたのかは謎だ。
2人とも荷物を置いて、一息つく。私はお風呂に入っていたけれど、彼は入っていなさそうだった。そう思った時に、彼が申し訳なさそうな顔をした。
「お風呂借りても良いかな」
「うん、良いよ」
抵抗が無いわけではないが、変に荒らされることも無いだろう。適当にスマートフォンを操作しながら彼を待った。
10分ほどで彼が出てくる。着替えた状態の彼は、風呂に入る前とほとんど変わらない状態だった。髪も体も乾かして部屋に戻ってくる。
「助かりました」
「はーい」
律儀に挨拶をして、どう考えても寝にくいであろうジーパン姿で座る。
来客用の布団を敷いて、今日はそこで寝てもらう。彼が布団に潜って少ししてから、彼が布団を開けて手招きしてきた。
「おいで」
「え、うーん」
「抱きしめたい」
「うーん、まぁ、いいけど」
体を求められているわけではない。嬉しいような、悲しいような。私本体を求めているのだろうと思いながら彼に抱きしめられる。ついでに頭も撫でられる。力加減も強くない。そのまま吸い込まれるように抱きしめられていた。やはり好きな人に抱きしめられるというのは嬉しくなった。
そのまま彼は眠ってしまった。少しだけ頭を撫でられた後、安心したように眠りに落ちた。彼に抱きしめられながら考える。やはり私は友人の一人でしか無かったのだと。
身体を求められていたら応えられたかは定かではないが、それでも憧れがないかと問われると、それは否だった。優しく包まれたまま私も眠りに落ちた。
***********
次の日、目が覚めると彼に頭を撫でられていた。どうやら起きるまでそのままでいてくれたようだ。起きて目が合ったが、誤魔化して彼の胸に身体を埋める。昨夜は自覚がなかったけれど、腕枕もしてもらっていて、幸せだった。
そんな幸せな時間も過ぎ去り、二人で立ち上がる。もうちょっと彼の体に埋もれたい欲求を抑えて、朝食を食べる。備蓄してあるパンを彼と二人で食べる。
「今日は何時くらいに家帰るの?」
「朝ごはん食べたら行こうかなぁって感じ」
「そっか」
パンを食べ終わった彼は手早く準備をして立ち上がる。寂しい気持ちを抱えながら、玄関までついていく。
見送ったら終わりにしようかと思ったが、やっぱり駅までついていくことにした。その方が後悔が無いと思った。
駅までは10分ほど歩く。その間は特に会話があるわけでもなく、二人で景色を見ながら歩いていた。
「送ってくれてありがとう。助かった」
「あ、うん。大丈夫」
彼は方向音痴がマシになったとは言っていたけれど、とてもそんな風に見える歩き方ではなかった。それでも駅には無事到着したから、問題はない。
「じゃあ、行くわ」
「うん、またね」
「はーい」
朝でまだ活気のない駅を抜けて、そのまま改札も抜けていく。短い会話の後で彼の後ろ姿を目で追う。
改札を抜けて、階段を登る少し前、彼が振り返って手を振ってくる。それに応えるように手を振ると、彼はそれを見てから階段を登っていった。彼が見えなくなったのを確認してから、私も家に帰ることにした。
***********
その日を最後に、彼からの連絡は途絶えてしまった。1ヶ月に1回は何かしら話題を持って連絡をくれていた彼は、何処かへと行ってしまった。
時間の経過と共に私の中から彼という存在が消えつつあった。半年が経過したある秋晴れの日、ふと思い出して連絡先を探してみると、まだ消えてはいなかった。あの日を境に彼からの連絡が全くない。このままお互いに踏み込むことのないまま、時間だけが過ぎていくのだろう。
あの日、私は間違っていたのかもしれない。取るべき行動があったのかもしれない。今となってはどうすることもできないのに、そんなことを考えてしまう。その境界線を越えなければ、私はもっと彼と喋れていたのだろうか。そんなことも考える。
部屋から出て、彼と歩いた道を歩いてから駅へと向かう。駅の構内にも、改札を抜けたホームにも、その影はなかった。彼との思い出を思い浮かべながらホームに立つ。今日を境に、私も変わる。さようなら、好きだった人。そう呟いて、連絡先の一覧から彼の名前を消した。
どこからどこへ帰ろうとしていたのかは分からないが、終電がないなら仕方ない。最寄駅を伝えて、しばらく待つと、その人から連絡が来たのは23時40分頃だった。
駅まで迎えに行くと、何回かみたことのある姿が立っていた。ポロシャツにジーパン。整っているとはお世辞にも言えない髪型。それでも、私から見れば魅力的だった。
「いやー、助かったよ」
「いや、まぁ、うん」
「着替えはあるから何とかなるんだけど」
「それはあるんだ」
「うん」
変なところで用意が良い。それならホテルという手もあったのではないかと思うが、友人の家ならタダで泊まれるという意図もあるのだろう。
駅から歩いて10分で自分の住むアパートに到着する。駅近というほど近くはないが、程々の距離で運動にはなる。
鍵を開けていつもの部屋に入る。彼も続いて中に入ってくる。大層な荷物ではない。一体どこに行ってきたのかは謎だ。
2人とも荷物を置いて、一息つく。私はお風呂に入っていたけれど、彼は入っていなさそうだった。そう思った時に、彼が申し訳なさそうな顔をした。
「お風呂借りても良いかな」
「うん、良いよ」
抵抗が無いわけではないが、変に荒らされることも無いだろう。適当にスマートフォンを操作しながら彼を待った。
10分ほどで彼が出てくる。着替えた状態の彼は、風呂に入る前とほとんど変わらない状態だった。髪も体も乾かして部屋に戻ってくる。
「助かりました」
「はーい」
律儀に挨拶をして、どう考えても寝にくいであろうジーパン姿で座る。
来客用の布団を敷いて、今日はそこで寝てもらう。彼が布団に潜って少ししてから、彼が布団を開けて手招きしてきた。
「おいで」
「え、うーん」
「抱きしめたい」
「うーん、まぁ、いいけど」
体を求められているわけではない。嬉しいような、悲しいような。私本体を求めているのだろうと思いながら彼に抱きしめられる。ついでに頭も撫でられる。力加減も強くない。そのまま吸い込まれるように抱きしめられていた。やはり好きな人に抱きしめられるというのは嬉しくなった。
そのまま彼は眠ってしまった。少しだけ頭を撫でられた後、安心したように眠りに落ちた。彼に抱きしめられながら考える。やはり私は友人の一人でしか無かったのだと。
身体を求められていたら応えられたかは定かではないが、それでも憧れがないかと問われると、それは否だった。優しく包まれたまま私も眠りに落ちた。
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次の日、目が覚めると彼に頭を撫でられていた。どうやら起きるまでそのままでいてくれたようだ。起きて目が合ったが、誤魔化して彼の胸に身体を埋める。昨夜は自覚がなかったけれど、腕枕もしてもらっていて、幸せだった。
そんな幸せな時間も過ぎ去り、二人で立ち上がる。もうちょっと彼の体に埋もれたい欲求を抑えて、朝食を食べる。備蓄してあるパンを彼と二人で食べる。
「今日は何時くらいに家帰るの?」
「朝ごはん食べたら行こうかなぁって感じ」
「そっか」
パンを食べ終わった彼は手早く準備をして立ち上がる。寂しい気持ちを抱えながら、玄関までついていく。
見送ったら終わりにしようかと思ったが、やっぱり駅までついていくことにした。その方が後悔が無いと思った。
駅までは10分ほど歩く。その間は特に会話があるわけでもなく、二人で景色を見ながら歩いていた。
「送ってくれてありがとう。助かった」
「あ、うん。大丈夫」
彼は方向音痴がマシになったとは言っていたけれど、とてもそんな風に見える歩き方ではなかった。それでも駅には無事到着したから、問題はない。
「じゃあ、行くわ」
「うん、またね」
「はーい」
朝でまだ活気のない駅を抜けて、そのまま改札も抜けていく。短い会話の後で彼の後ろ姿を目で追う。
改札を抜けて、階段を登る少し前、彼が振り返って手を振ってくる。それに応えるように手を振ると、彼はそれを見てから階段を登っていった。彼が見えなくなったのを確認してから、私も家に帰ることにした。
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その日を最後に、彼からの連絡は途絶えてしまった。1ヶ月に1回は何かしら話題を持って連絡をくれていた彼は、何処かへと行ってしまった。
時間の経過と共に私の中から彼という存在が消えつつあった。半年が経過したある秋晴れの日、ふと思い出して連絡先を探してみると、まだ消えてはいなかった。あの日を境に彼からの連絡が全くない。このままお互いに踏み込むことのないまま、時間だけが過ぎていくのだろう。
あの日、私は間違っていたのかもしれない。取るべき行動があったのかもしれない。今となってはどうすることもできないのに、そんなことを考えてしまう。その境界線を越えなければ、私はもっと彼と喋れていたのだろうか。そんなことも考える。
部屋から出て、彼と歩いた道を歩いてから駅へと向かう。駅の構内にも、改札を抜けたホームにも、その影はなかった。彼との思い出を思い浮かべながらホームに立つ。今日を境に、私も変わる。さようなら、好きだった人。そう呟いて、連絡先の一覧から彼の名前を消した。
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