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第四話
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「私から提案したけど、正直ここまで快適な生活は想像してなかったなぁ」
しみじみと零した旭に、舞美が大きく頷いて共感する。
「それは私も同じだよ。上手くいかないって思ってたけど、あのときは元カレから逃げたかったし、この部屋に住みたいっていうのもあったし……。旭が違約金を払ってくれるっていうから、それならとりあえず住むかって気持ちだった」
「わかる。私も三か月くらい試してダメだったら、ルームシェアを解消しようって言うつもりだったから」
彼女と同じように、舞美も合わなければ三か月くらいで同居をやめればいいと思っていた。
一度引っ越せば、元カレとは距離を取れる。
連絡先をブロックし、三か月の間に新しい物件を探しておけば、次の引っ越し先もどうにか見つかっただろう。
だから、旭の提案に乗っかってルームシェアを繋ぎにすればいいか……というくらいの気持ちだったのだ。
彼女には悪いが、上手くいくとは考えていなかったから。
それが一転、あまりの快適さに今ではルームシェアをしてよかったと思っている。
まず、なによりも誰かと一緒に住んでいるというだけで安心感がある。
舞美は元カレから、旭は仕事で出会った知人から逃れられたし、もし家がばれたとしても一人暮らしじゃないというだけで心強さがある。
これは、体調が悪いときにも言えることだ。
熱が出て動きたくないときや本格的に動けそうにないとき、スポーツドリンクやゼリーを買ってきてくれるだけでもありがたい。
同じ屋根の下に頼れる人がいれば、体調を崩したときに感じる心細さも和らぐ。
リビングやバスルームなどは共有スペースになるが、それを踏まえても広い家に半分の家賃で住めるというのも嬉しい。
二部屋の洋室はどちらも八帖あり、充分なスペースがある。
バスルームも、以前まで住んでいた部屋よりもずっと広い。
八階建ての四階、立地的にも最寄りの三鷹駅から徒歩七分ととても便利だし、周囲に必要なお店もある程度揃っている。
食費や光熱費は完全に折半だが、料理は趣味だからという理由で舞美が請け負い、共有スペースの掃除は旭がしてくれている。
自室の掃除や洗濯は、それぞれに好きなタイミングで行う。
ゴミ出しの日には、舞美がゴミを纏め、彼女が出勤のついでに出しておいてくれる。
舞美はフリーライターという職業柄、取材のとき以外は家で仕事をすることが多いため、光熱費を少し多く出すことを提案したところ、旭が『掃除より料理の方が大変だからそこはいいよ』と笑顔で言ってくれた。
他には、彼女は荷物の受け取りに困らなくなったと喜んでいる。
平日であっても、舞美が家にいれば代わりに受け取っておくからだ。
しかも、一人暮らしのときには敬遠していた猫も迎えられた。
といっても、これは旭としっかりと相談し合い、本当に飼うのではなく預かりボランティアという形を取っている。
ルームシェアは二年間だけの約束のため、一緒に飼うことは難しい。
かと言って、どちらかが飼ってももうひとりも情が移って離れたくなくなってしまうだろう。
二匹飼って一匹ずつ引き取ることも考えたが、猫同士の仲がよくなったらかわいそうだ。
そこで、舞美が仕事で知った預かりボランティアを提案したところ、彼女も賛成してくれた。
そして、ルームシェアを始めて約半年後が経った昨年の十月下旬に、初めて猫を預かることになった。
実は、モチ丸は二匹目の子だ。
最初に預かりボランティアをした桃吉は、半年ほど前に飼い主が見つかった。
別れるときは寂しかったし、この家に馴染んで甘えてくれるようになった桃吉がいなくなった喪失感は大きかったが、新しい家でリラックスしている写真や動画が送られてきた日にはふたりでビールを飲みながら泣いた。
そうして、どちらからともなく『また預かりボランティアをしよう』と言い、モチ丸がやってきたのだ。
こんな感じで日々くらいしているが、今のところお互いに相手への不満はない。
恐らく、ウマが合うというのはもちろん、ふたりの生活習慣が似ていることも大きな要因だろう。
夜にきちんとお風呂に入るとか、電気はこまめに消すとか、洗い物はその日のうちに終わらせておくとか。
こういう小さな習慣が合うだけで、とても暮らしやすいということを知った。
「桃吉も可愛かったけど、モチ丸も可愛いし、こうして舞美の料理を食べながら飲むお酒はおいしいし、私はもう充分満たされてるよ……」
「それは私も同じだけどさ、一応お互いに結婚願望はあるわけだし」
「そうなんだよねぇ。結婚願望が完全になくなればいいけど、まだそこまでは割り切れないのよ。むしろ、最近は出産報告ラッシュでまた焦ってるし」
数日前、舞美も高校時代の友人から第一子が生まれたというメッセージをもらった。
旭はあまり仲良くなかった子だが、名前くらいは知っているだろうと思って話したところ、二年生のときに委員会が同じだったらしい。
ふたりして、祝福する気持ちと一緒に、ほんのりと複雑な感情を抱いた。
あのときは、彼女がいなければもっと不安や寂しさ、焦りに襲われていたかもしれない。
それでも、『友達の幸せを願えない奴は幸せにはなれない!』と自分たちに言い聞かせるような綺麗事と強がりを言い合って、ふたりでお酒を飲んだ。
しみじみと零した旭に、舞美が大きく頷いて共感する。
「それは私も同じだよ。上手くいかないって思ってたけど、あのときは元カレから逃げたかったし、この部屋に住みたいっていうのもあったし……。旭が違約金を払ってくれるっていうから、それならとりあえず住むかって気持ちだった」
「わかる。私も三か月くらい試してダメだったら、ルームシェアを解消しようって言うつもりだったから」
彼女と同じように、舞美も合わなければ三か月くらいで同居をやめればいいと思っていた。
一度引っ越せば、元カレとは距離を取れる。
連絡先をブロックし、三か月の間に新しい物件を探しておけば、次の引っ越し先もどうにか見つかっただろう。
だから、旭の提案に乗っかってルームシェアを繋ぎにすればいいか……というくらいの気持ちだったのだ。
彼女には悪いが、上手くいくとは考えていなかったから。
それが一転、あまりの快適さに今ではルームシェアをしてよかったと思っている。
まず、なによりも誰かと一緒に住んでいるというだけで安心感がある。
舞美は元カレから、旭は仕事で出会った知人から逃れられたし、もし家がばれたとしても一人暮らしじゃないというだけで心強さがある。
これは、体調が悪いときにも言えることだ。
熱が出て動きたくないときや本格的に動けそうにないとき、スポーツドリンクやゼリーを買ってきてくれるだけでもありがたい。
同じ屋根の下に頼れる人がいれば、体調を崩したときに感じる心細さも和らぐ。
リビングやバスルームなどは共有スペースになるが、それを踏まえても広い家に半分の家賃で住めるというのも嬉しい。
二部屋の洋室はどちらも八帖あり、充分なスペースがある。
バスルームも、以前まで住んでいた部屋よりもずっと広い。
八階建ての四階、立地的にも最寄りの三鷹駅から徒歩七分ととても便利だし、周囲に必要なお店もある程度揃っている。
食費や光熱費は完全に折半だが、料理は趣味だからという理由で舞美が請け負い、共有スペースの掃除は旭がしてくれている。
自室の掃除や洗濯は、それぞれに好きなタイミングで行う。
ゴミ出しの日には、舞美がゴミを纏め、彼女が出勤のついでに出しておいてくれる。
舞美はフリーライターという職業柄、取材のとき以外は家で仕事をすることが多いため、光熱費を少し多く出すことを提案したところ、旭が『掃除より料理の方が大変だからそこはいいよ』と笑顔で言ってくれた。
他には、彼女は荷物の受け取りに困らなくなったと喜んでいる。
平日であっても、舞美が家にいれば代わりに受け取っておくからだ。
しかも、一人暮らしのときには敬遠していた猫も迎えられた。
といっても、これは旭としっかりと相談し合い、本当に飼うのではなく預かりボランティアという形を取っている。
ルームシェアは二年間だけの約束のため、一緒に飼うことは難しい。
かと言って、どちらかが飼ってももうひとりも情が移って離れたくなくなってしまうだろう。
二匹飼って一匹ずつ引き取ることも考えたが、猫同士の仲がよくなったらかわいそうだ。
そこで、舞美が仕事で知った預かりボランティアを提案したところ、彼女も賛成してくれた。
そして、ルームシェアを始めて約半年後が経った昨年の十月下旬に、初めて猫を預かることになった。
実は、モチ丸は二匹目の子だ。
最初に預かりボランティアをした桃吉は、半年ほど前に飼い主が見つかった。
別れるときは寂しかったし、この家に馴染んで甘えてくれるようになった桃吉がいなくなった喪失感は大きかったが、新しい家でリラックスしている写真や動画が送られてきた日にはふたりでビールを飲みながら泣いた。
そうして、どちらからともなく『また預かりボランティアをしよう』と言い、モチ丸がやってきたのだ。
こんな感じで日々くらいしているが、今のところお互いに相手への不満はない。
恐らく、ウマが合うというのはもちろん、ふたりの生活習慣が似ていることも大きな要因だろう。
夜にきちんとお風呂に入るとか、電気はこまめに消すとか、洗い物はその日のうちに終わらせておくとか。
こういう小さな習慣が合うだけで、とても暮らしやすいということを知った。
「桃吉も可愛かったけど、モチ丸も可愛いし、こうして舞美の料理を食べながら飲むお酒はおいしいし、私はもう充分満たされてるよ……」
「それは私も同じだけどさ、一応お互いに結婚願望はあるわけだし」
「そうなんだよねぇ。結婚願望が完全になくなればいいけど、まだそこまでは割り切れないのよ。むしろ、最近は出産報告ラッシュでまた焦ってるし」
数日前、舞美も高校時代の友人から第一子が生まれたというメッセージをもらった。
旭はあまり仲良くなかった子だが、名前くらいは知っているだろうと思って話したところ、二年生のときに委員会が同じだったらしい。
ふたりして、祝福する気持ちと一緒に、ほんのりと複雑な感情を抱いた。
あのときは、彼女がいなければもっと不安や寂しさ、焦りに襲われていたかもしれない。
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