悪役令嬢の弟。

❄️冬は つとめて

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リオル陣営の出来事と第三幕の幕切れ。※詳しい第三幕は初回方をお読み下さい。

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学園の卒業式のその日、夜も明けぬ朝。
オースト国、西の砦ウォンットの前の街に四千程のアメリゴ帝国の兵が悲痛な顔で待機していた。大国のオースト国と戦を始めるには余りにも少ない兵力であった。帝国の皇帝は弟リオルをこの戦で討ち死にされようと狙った事が見えみえだった。ついでに自分の気に入らない将軍や自分をよく思ってない兵士達をも消し去る計算をしていた。
だがそれは、砦でオースト国の死神と呼ばれる英雄と合間見れればこその話だ。

「リオル様、こんばんわ。」
リオルの屋敷にロビンが顔を出した。
「ロビン、作戦は順調なのか? 」
「さあ。」
座っているリオルの隣に立っていたロレンスが作戦の進行具合を聞いた。
「さあ、とは? 」
「だって俺。案内役だし、進行具合なんて知らないな。」
ロビンは何を言ってるんだと言う顔で、ロレンスを見る。
「まあ、セルビィの事だから心配ないさ。」
ロビンは笑ってみせた。

確かにと、リオルは頷いた。だがロレンスは心配そうであった。
「結構集まったね。」
「ああ。と、言っても元貴族階級が多いいが。」
リオルは応えた。
「へぇ、貴族。」
「と、言っても三男や四男の後を継げない捨てられた奴等だ。」
「後を継げす騎士にも慣れなかった貧乏貴族、皇帝に反感を持つ者。皇帝が気に入らない者。つまりは、この戦で死んで欲しいものの集まりだ。」
ロレンスが応えた。
「へぇ…それはそれは、結構いるんだ。」
「その家族もいる。」
「厄介払いだな。」
リオルは哀しそうな目をした。
「へぇ…皇帝も結構腹黒いな。セルビィには負けるけど。」
テーブルの上にあるポットのお茶をカップに淹れながらロビンは言った。
「戦場から逃げ出さないようにと。」
「そうです。ここで根こそぎ排除しようと罪人の様に護送用の馬車に詰められて連れて来られた。」
「次の街では、正規軍が待っている。」
ロレンスとリオルの言葉に、ロビンはお茶を飲み干した。
「殺すき満々だな。」
「「………。」」
リオルとロレンスは押し黙った。カップをテーブルに戻してロビンは笑った。
「その非戦闘員、俺達の国が預かってもいいとセルビィが言っていた。」
「セルビィ殿が? 」
テーブルの上のお菓子を食べながらロビンは話を進める。
「ああ、何台か馬車も用意している。それに乗せて一時的に預かる積もりだ。」
「感謝する。」
「感謝しなくていいぜ。人質がわりに預かるだけだから。」
リオルは頭を抱えた。
「それでもだ。感謝する。」
帝国の者達なら、それこそ命の危険がある人質とされる。
「セルビィ殿は何処まで。」
ロレンスは溜息を付いた。
「なっ、真っ黒だろ。」
ロビンはお菓子を食べ終えて、自慢の様に笑った。

「それで、コアーラ砦へ行く者は決まっているのか? 」
ペロペロと指を舐めながらリオルに聞いた。
「ああ、俺と…」
「あたしよ~ん。ねっ、リオルさま~。うふっ。」
ゴリマッチョ将軍が現れた。
「あたしが、リオルさまを全力で守っちゃう~。」
抱き締めようとリオルに近づいた処で、ロレンスが間に入る。
「リオル様は私が護りますので、マンガン将軍は戦に専念して下さい。」
ロレンスとお姉さま将軍がリオルの取り合いをしている。
「おーい、急がないと昼までに砦に着かないぞ。」
ロビンは部屋の扉に近づくと。
「今日はあの青年はいないのか? 」
お父さん将軍がロビンに聞いてきた。
「ロビン君、新たな世界を知りたくはないかい? 」
「「「ぎゃあぁぁ!! 」」」
ロビンは後からお兄さん将軍に抱き締められた。リオルとロレンスも悲鳴をあげた。
お姉さまと性情様に抱き締められて。お父さん将軍だけが羨ましそうに三人を見ていた。


煌びやかな大広間に、音楽が流れる。セルビィは階段の踊り場で足を止め会場内を見回した。第三幕の幕開けを彼は待っていた。聖母の様に優しい微笑みを浮かべ、登場人物の役者達を見守っている。

けたたましい足音が、第三幕の幕開けを告げた。
「コアーラ砦が、墜ちました!! 」
「何!? 」

逃亡を阻まれたセルビィは、兵士を伴いゆっくりと階段を下りる。
会場内は沈黙に包まれている。音楽は止まり、砦が堕とされた事に貴族子女達は驚愕して声が出せなかった。
階段を下りる、セルビィの足音だけが会場内に響いている。
国王と三公の前に、セルビィは立ち止まった。
「何か、有りましたか。」
微笑みを絶やさず聞いた。

砦が墜ちた経緯を軍事総長である三公の一人が問い詰める。
セルビィは妖しく微笑んで、応えた。
「姉上。セルビアが王妃となる国を、父上は護りたいと言っておりました。」
セルビィは国王の後に居る王太子を見て、微笑んだ。
「が、婚約破棄をした以上 この国を護る意味を見出せない とも言っておりました。」
国王達、其所に居る全ての者が驚いた。

『豪の者』は、地位ある者との婚約の代わりに 激戦区の砦を護らせれていたのだった。その婚約が無くなったのなら、当然の事であった。其れを、国王達 オースト国の貴族達は失念していた。

「今朝方の信書には、姉上達の婚約破棄と。昼に、砦を後にするので替えの軍隊を寄越す様 書いてあったはずです。」
セルビィは くすくすと、笑った。
「今朝方、目を通していれば 砦が墜ちる事も無かったでしょう。」
『豪の者』との、婚約破棄の意味を強く知る事となった。

豪の領地は荒れ果てた大地だ、オーストの国の者は月の表面の様だとルナの大地と読んでいた。20年前から水さえオースト国の援助で成り立っている。それ故、オースト国の者達は豪の者を見下し奴隷の様に扱ってきた。

「豪の者が、飢えて死にますよ。」
宰相の言葉を聞いて、初めてセルビィは声を出して笑った。
「『子は親の鏡』とは、本当ですね。」
セルビィは、エリックを見て、宰相を見る。
「馬鹿ですね。何時までも、二十年前と同じなんて有るはずが無い。」
くすくすと、小馬鹿にした様にセルビィは笑った。

「今 此処に我ら『豪の者』は、荒れ果てた地に帰郷し!! 『ルナ』と言う国を建国する事を、宣言します!! 」
セルビィの独立の宣言で第三幕の幕が降りる。

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