【完結】アンジェラス ー祈りの鐘ー

❄️冬は つとめて

文字の大きさ
14 / 28

鐘の音。

しおりを挟む
食事を終えたリンネは立ち上がり伸びをした。近くで寝そべっているリンネル(闇猫)に微笑む。
「お腹もいっぱいになった事だし、封印を解こうかな。」
リンネは食後の祈りのように軽く言う。リンネルは赤い目を向ける。
『そうか。』
「……で。」
リンネは見詰め返す。
『で、問は? 』
リンネルは首を傾げた。

「どうやったら封印は解けるの? 」
今まで魔力の総てを国に捧げてきたので、魔法の使い方をリンネは知るよしも無かった。
リンネはリンネルと同じように首を傾げた。

『鐘を鳴らせ。』
リンネルは軽く言うが、放置されている鐘をどう鳴らせばいいのか分からない。リンネは首を傾げた。

呪いで黒くなっていた鐘はリンネの働きで銀色の鐘に戻っているだが、床に放置されたままだ。まずは上に鐘を吊して、内部にある舌を揺らさなければ鐘は鳴らない。
リンネは上を見る、吊せるような金具が見あたらない。見つけたとしてもリンネには鐘をつり上げられるほどの腕力はない。

『祈りを捧げろ。』
「祈り? 」
『そうだ、お前はただ祈ればいい。思い、祈れ。』
「祈るの? 祈れば鐘が鳴るの? 」
リンネは何時ものように鐘に向かって祈りを捧げる。膝をつき手を組み合わせ、静に目を閉じた。

祈る。祈りを捧げる。

リンネの体が銀色に微かに光り出す。その光りが鐘に吸い込まれていく。鐘は重さを感じされず、ふわりと浮かび上がった。

『そうだ、魔力を注ぎ込め。』
(俺をこの場から解き放て。)
リンネルの赤い目が細められていく。口元から牙か除く。

リンネは祈りを捧げる。

『鐘を鳴らせ、封印を解け。』

リーーンゴーーン!! 
鐘が鳴る。

『そうだ、鐘を鳴らせ。』
(聖女を殺した人間を、俺を此処に封印した人間を呪ってやる。)

リーーンゴーーン!! 
鐘が鳴る。
『そうだ、封印を解け。』
(お前を此処に送った総ての人間を、お前を殺そうとした人間の総てを殺してやろう。)

リンネルは鐘の音を聞きながらあの日聖女を殺した人間を、リンネを不当に扱った人間を呪った。

『鐘の音を響き渡らせろ、俺が総てを終わらしてやろう。』

リーーンゴーーン!!
鐘が鳴る。


「うっ!! 」
「父上!? 」
フレイヤ家当主が息を詰まらせた。アベルが声を掛ける。

「ああ、」
「お母様!? 」
ウィンディ家当主が胸を押さえた。
セラミドが母親に駆け寄る。

「くっ!! 」
「オヤジ!? 」
ガイヤ家当主も、胸を詰まらせる。ガウディが、驚く。

「はぁ、」
「お母さま!! 」
シルフィ家当主も同じく、息を詰まらせた。オフィリアが心配そうに抱き付いた。

リーーンゴーーン!!
鐘が鳴る。


「これは、鐘の音? 」
地下にいる八人の元にも鐘の音が聞こえる。

リーーンゴーーン!!
鐘が鳴る。

その音と共に四公の当主達は、苦しみ出す。

「アンジェラスの音!? 」
「リンネル様!? 」
「リンネル様が鳴らしているのか!? 」
「ご無事なのですね。」
親達を心配しつつ、リンネルの無事を喜ぶ四人であった。

リーーンゴーーン!!
鐘の音と共に魔力波が空気を揺らす。旧アンゼラスの東西南北の塔に設置されている魔石が魔力波に寄ってヒビが入る。封印の石である魔石が壊れようとしていた。

リーーンゴーーン!!
魔石にヒビが入ると同時に、魔石の色と同じ魔力を持つ四公当主達が苦しみ出す。

「これは……まさか。」
「封印が解かれようとしています。」
「リンネル様、が? 」
「おやめください、リンネル様。」
四公達は、苦しみながらリンネルに願う。

「「「「このままでは、邪神を野に放つてしまいます。」」」」

親達の言葉に、四人は驚愕する。
「そんな馬鹿な、」
「リンネル様が? 」
「あり得ません。」
「リンネル様に限って、」

怨みとか憎しみとかを抱くようなリンネルでは無いことを、彼等は知っている。だが、この鐘の音が放つ魔力はリンネルの魔力。そして、当主達の言葉。

「リンネル様は邪神に寄って謀れたに違いない。」
「あり得ます。」
「リンネル様。」
「おのれ、邪神め。」
苦しむ親を労りつつ四人は邪神に、なにも出来ない自分に憤りを感じていた。

リーーンゴーーン!! 
鐘が鳴る。

『お前は、リンネは俺が護ってやる。』
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女じゃない私の奇跡

あんど もあ
ファンタジー
田舎の農家に生まれた平民のクレアは、少しだけ聖魔法が使える。あくまでもほんの少し。 だが、その魔法で蝗害を防いだ事から「聖女ではないか」と王都から調査が来ることに。 「私は聖女じゃありません!」と言っても聞いてもらえず…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

捨てられた聖女は穢れた大地に立つ

宵森 灯理
恋愛
かつて聖女を輩出したマルシーヌ聖公家のソフィーとギルレーヌ王家のセルジュ王子とは古くからの慣わしにより婚約していたが、突然王子から婚約者をソフィーから妹のポレットに交代したいと言われる。ソフィーの知らぬ間に、セルジュ王子とソフィーの妹のポレットは恋仲になっていたのだ。 両親も王族もポレットの方が相応しいと宣い、ソフィーは婚約者から外されてしまった。放逐された失意のソフィーはドラゴンに急襲され穢れた大地となった隣国へ救済に行くことに決める。 実際に行ってみると、苦しむ人々を前にソフィーは、己の無力さと浅はかさを痛感するのだった。それでも一人の神官として浄化による救助活動に勤しむソフィーの前に、かつての学友、ファウロスが現れた。 そして国と民を救う為、自分と契約結婚してこの国に留まって欲しいと懇願されるのだった。 ソフィーは苦しむ民の為に、その契約を受け入れ、浄化の活動を本格化させる。人々を救っていく中でファウロスに特別な感情を抱きようになっていったが、あくまで契約結婚なのでその気持ちを抑え続けていた。 そんな中で人々はソフィーを聖女、と呼ぶようになっていった。彼女の名声が高まると、急に故郷から帰ってくるように、と命令が来た。ソフィーの身柄を自国に戻し、名声を利用とする為に。ソフィーとファウロスは、それを阻止するべく動き出したのだった。

処理中です...