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祝福の鐘の音。
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教会の横の東屋には国の中を行き来するための魔法陣が描かれてあった。ヘンリーの立太子が国全土に報告され、次の日には旧アンゼラスの復興の為に国民募集が行われた。
鎮魂祭の最終日の朝、教会の前には数百人の人々が集まっていた。殆どの者が公爵家に使えていた者達であった。前公爵の家族(後を継ぐ者達を除いて)や彼等を慕う者は自らの意思で。王家に反抗的な貴族達やスラムに住む孤児たちは、無理やりこの場に連れてこられていた。犯罪者達は、奴隷になると乞うて国に留まる事を許された。つまりは邪魔者やいらぬ者を旧アンゼラスへ送る事にしたのである。其れは王都以外の街や村でも同じであたった。村の厄介者、親のいない孤児たちを。付き添うシスターや牧師、高位の司祭達は旧アンゼラスの邪神の呪いを恐れ残った。
一応復興をうたっているため道具や食料品等を載せた馬車や家畜も数匹連れている。
「奥様お手を……。」
「ええ、ありがとう。」
奥様と呼ばれたのはフレイヤ公爵家の夫人であった。ちらりと教会の門辺りに止まっている見覚えある馬車に目を向ける。
「育て方を間違ったのね、馬鹿な子達。」
悲しそうに目を細め東屋に目を向ける。
「行きましょう。」
「はい、奥様。」
「行くぞ!! みんな!! 」
公爵夫人の言葉に、執事が応えその息子が声をあげた。彼等は、振り返ることなく前に進む。転送用の魔法陣に向かって。
「馬鹿だわ、今更行ってもお父様もお兄様も亡くなっているのに……。」
「母上も、彼奴等もバカばかりだ。」
馬車の窓から教会の東屋に消えていく母親と執事や使用人達にアイリスは唇を噛んだ。カインも言葉を吐き捨てた。アイリスは邪魔者のリンネルさえいなくなればよかったのだ、婚約さえ解消できれば。
「お父様さえ認めてくれれば……ここまですることはなかったのに。」
だがカインは違った、公爵家を継ぐには兄アベルと父親が邪魔だった。しかし、母親と有能な執事達を手放す気はなかったのに。彼等は、自分たちより父親や兄アベルをとった。
「バカ、ばかりだ……。」
「私は王太子妃になるのに……。」
東屋に消えていく人達や、荷物を積んだ馬車等が消えていくのを複雑な思いで見つめていた。
「ハーハハハハ!! これで邪魔者は消えた。」
「やっと王家の神威を取り戻せましたわ。」
「今回の事で、皆の者は王家の神威を恐れ敬う事でしょう。」
王座に座り、祝盃をあげる国王夫妻に息子のヘンリー。
「何が聖女だ、平民の小娘ではないか。」
「ええ本当に平民の娘が選んだだけで、王太子の座が移動するなんて酷いことですわ。」
聖女に選ばれ無かったヘンリック。王太子妃になれると思っていたオルタナは聖女が体の弱いヘンリックの兄を選んだことで王太子の座が移った事に憤りを感じていた。
「しかし、聖女の名は使えます。これからは高位貴族の中から聖女を選べは良いのでは? 」
「おお、それはいい。のお、司祭。」
ヘンリーの言葉に、下で控えている司祭達に向けて言葉を投げる。
「は、はい。左様でございます。」
「素晴らしいお考えです。」
「そのように、致しましょう。」
司祭達は、自分の信念を変えた。
リーーンゴーーン!!
鐘がなる。
鎮魂祭が終わり次の日の朝。
リーーンゴーーン!!
アンゼラス国の国民たちは、何時も聞く鐘の音で目覚める。日常に戻る最初の鐘の音。
リーーンゴーーン!!
国民たちは鎮魂祭が終わり、最初になる鐘の音を祝福の鐘の音と呼んでいた。
リーーンゴーーン!!
それは確かに祝福の鐘の音であった。邪神であるものが、完全体の神となった祝福の鐘の音であった。そして、その鐘の役目の終わりの鐘の音であった。
リーーンゴーーン!!
最後に空間を震わすように鐘の音がなり響き、鐘は役目を終えて霧散した。アンジェラス(祈りの鐘)は、願いを叶えてその姿を消した。
鎮魂祭の最終日の朝、教会の前には数百人の人々が集まっていた。殆どの者が公爵家に使えていた者達であった。前公爵の家族(後を継ぐ者達を除いて)や彼等を慕う者は自らの意思で。王家に反抗的な貴族達やスラムに住む孤児たちは、無理やりこの場に連れてこられていた。犯罪者達は、奴隷になると乞うて国に留まる事を許された。つまりは邪魔者やいらぬ者を旧アンゼラスへ送る事にしたのである。其れは王都以外の街や村でも同じであたった。村の厄介者、親のいない孤児たちを。付き添うシスターや牧師、高位の司祭達は旧アンゼラスの邪神の呪いを恐れ残った。
一応復興をうたっているため道具や食料品等を載せた馬車や家畜も数匹連れている。
「奥様お手を……。」
「ええ、ありがとう。」
奥様と呼ばれたのはフレイヤ公爵家の夫人であった。ちらりと教会の門辺りに止まっている見覚えある馬車に目を向ける。
「育て方を間違ったのね、馬鹿な子達。」
悲しそうに目を細め東屋に目を向ける。
「行きましょう。」
「はい、奥様。」
「行くぞ!! みんな!! 」
公爵夫人の言葉に、執事が応えその息子が声をあげた。彼等は、振り返ることなく前に進む。転送用の魔法陣に向かって。
「馬鹿だわ、今更行ってもお父様もお兄様も亡くなっているのに……。」
「母上も、彼奴等もバカばかりだ。」
馬車の窓から教会の東屋に消えていく母親と執事や使用人達にアイリスは唇を噛んだ。カインも言葉を吐き捨てた。アイリスは邪魔者のリンネルさえいなくなればよかったのだ、婚約さえ解消できれば。
「お父様さえ認めてくれれば……ここまですることはなかったのに。」
だがカインは違った、公爵家を継ぐには兄アベルと父親が邪魔だった。しかし、母親と有能な執事達を手放す気はなかったのに。彼等は、自分たちより父親や兄アベルをとった。
「バカ、ばかりだ……。」
「私は王太子妃になるのに……。」
東屋に消えていく人達や、荷物を積んだ馬車等が消えていくのを複雑な思いで見つめていた。
「ハーハハハハ!! これで邪魔者は消えた。」
「やっと王家の神威を取り戻せましたわ。」
「今回の事で、皆の者は王家の神威を恐れ敬う事でしょう。」
王座に座り、祝盃をあげる国王夫妻に息子のヘンリー。
「何が聖女だ、平民の小娘ではないか。」
「ええ本当に平民の娘が選んだだけで、王太子の座が移動するなんて酷いことですわ。」
聖女に選ばれ無かったヘンリック。王太子妃になれると思っていたオルタナは聖女が体の弱いヘンリックの兄を選んだことで王太子の座が移った事に憤りを感じていた。
「しかし、聖女の名は使えます。これからは高位貴族の中から聖女を選べは良いのでは? 」
「おお、それはいい。のお、司祭。」
ヘンリーの言葉に、下で控えている司祭達に向けて言葉を投げる。
「は、はい。左様でございます。」
「素晴らしいお考えです。」
「そのように、致しましょう。」
司祭達は、自分の信念を変えた。
リーーンゴーーン!!
鐘がなる。
鎮魂祭が終わり次の日の朝。
リーーンゴーーン!!
アンゼラス国の国民たちは、何時も聞く鐘の音で目覚める。日常に戻る最初の鐘の音。
リーーンゴーーン!!
国民たちは鎮魂祭が終わり、最初になる鐘の音を祝福の鐘の音と呼んでいた。
リーーンゴーーン!!
それは確かに祝福の鐘の音であった。邪神であるものが、完全体の神となった祝福の鐘の音であった。そして、その鐘の役目の終わりの鐘の音であった。
リーーンゴーーン!!
最後に空間を震わすように鐘の音がなり響き、鐘は役目を終えて霧散した。アンジェラス(祈りの鐘)は、願いを叶えてその姿を消した。
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