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いつしか伝説は、失われる。
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「国王陛下、王妃陛下。王太子殿下、王太子妃殿下。夕方の祈りのお時間す。」
屈強の戦士と共にあの魔道士が現れた。一応、王族ヘの礼を取っている。
「嫌よ、もう嫌!! 」
「お願いですわ、もう許して。」
王太子妃アイリスは髪を掻き乱し、王妃は許しを乞う。
「ダメっすね。」
魔道士が笑いながら言うと、なれたように騎士達が王族達を抱き上げる。
「体が怠いのだ……。」
「せめて一日起きにしてくれ……。」
騎士達に二人に両脇から抱きかかえられながら王太子は身体の不調を訴える、国王陛下は泣き言を言った。
「ダメっすね。王族の血は魔力を豊富に持ってますので、国民の為にがんばってくださいす。」
魔道士と騎士達は、王族を祈りの場にドナドナする。
「一日も休めば、王都の水量が半減するっす。」
鎮魂祭の終わったあの日から、総ての魔道具の殆どを止め、魔力は全てを何より大事な水の魔道具に注ぎ込む。
朝の祈りは、教皇と枢機卿数人中心に貴族の奥方達五十人と司祭五十人と。昼の祈りは、四大公爵を中心に貴族の子女達五十人と司祭五十人と。夕方は王族を中心に、貴族の当主五十人と司祭の五十人が。中心人物を除けて、日替わりの交代制で魔力を祈りの鐘に注ぎ込んでいた。
「今、急ピッチで川から水を引く水路を確保中す。それが出来るまで、頑張るっす。」
魔道士はケラケラ笑う。
森の川は遠く、魔道具も魔法もそう使えない。野獣や魔獣も出る中、水路の完成は何年掛かるものなのか。
その間、彼等は魔力供給源として祈りの場にドナドナされる運命を負ったのであった。
緑豊かな旧アンゼラス国。
この地に送り込まれた者達は復興に励んでいた。水はたわわに豊富で、魔道具も使い放題。建物も壊れているとはいえ、直せば住める様態だ。穀物も果実も実り、食料の杞憂もない。
「強いて言うなら、人材不足か。」
「そうだな、だが魔道具で何とか事足りている。」
アベルとガウディは古き王城の窓から外を見る。忙しなく働いている人達、指揮を執る公爵夫妻に微笑みが耐えない。彼等はみんな目に希望の光を持って幸せそうだ。
「よかった、みんなが来てくれて。」
「ああ、まともな食事にありつける。女神に感謝だな。」
「あら、それを言うなら馬鹿王にでしょう。」
「違いますわ、愚か者達ですわ。」
二人が振り返るとそこには、愛しい人が微笑んでいる。
「セラ。」
「リア。」
女神の使徒としての役目を終えた公爵家は、その血を残さなくてもよくなった。血の交じることが許される。
「アベル。」
「ガウディ様。」
愛し合う恋人達の周りに優しい風が彼等の髪をなびかせる。
旧アンゼラスの森の中。
「いいかリンネ、森の中は危険だ。俺の側を離れるな。」
銀髪のリンネルが人差し指を立てて目をつぶり話しかけている。目を開けると、いない。
「リンネ!! 」
慌てて辺りを見回す。
「すっぱい。」
何かを食べて、舌を出している。リンネの前の小さな木の実を食べたようだ。
「勝手にウロウロするな、勝手にそこいらの物を食べるな!! 」
リンネルはリンネの襟首を掴んだ。振り向くリンネのきゅゅるるんの黒い瞳で見られる。さらさらと黒髪が流れる。
「だって、この実。赤くて美味しそうだったんだもの。」
「どこが? ドス黒いぞ。」
「そうかな? 」
リンネは首を傾げる。
「とにかくだ、そこいらの物を勝手に口に……」
「これ美味しそう。ぱくん。」
「あ、言ってるそばから!! 」
リンネは手に届く木からピンク色の果実をもぎ取ってかぶりついた。
「なんかピリピリする、楽しい。」
「馬鹿、それは毒だ!! 毒でピリピリするんだ。ぺっしろ、ぺっ!! 」
「そうなんだ。もぎゅもぎゅ。」
弱い毒なので舌がピリピリするくらいなのでリンネは平気で堪能していた。
「ぺっしろ、ぺっ。!! 」
慌ててるのはリンネルだけだった。
城から出たことの無いリンネは何もできない、同じく元邪神のリンネルも何もできない。復興の邪、復興の為に食糧補給の為に森の果実の採取の仕事についた。
リンネが採取で、リンネルが護衛。リンネルがいる限り危ない野獣も魔獣も出てくることはないだろう。
「あ、きのこ。」
「きのこは駄目だ!! きのこは食うな!! 」
リンネに振り回されながらも楽しくやっている、元邪神リンネルであった。
彼等はこれからは、自由に幸せの日々を暮らす。そして流れる年月に伝説は失われる。
【完】
屈強の戦士と共にあの魔道士が現れた。一応、王族ヘの礼を取っている。
「嫌よ、もう嫌!! 」
「お願いですわ、もう許して。」
王太子妃アイリスは髪を掻き乱し、王妃は許しを乞う。
「ダメっすね。」
魔道士が笑いながら言うと、なれたように騎士達が王族達を抱き上げる。
「体が怠いのだ……。」
「せめて一日起きにしてくれ……。」
騎士達に二人に両脇から抱きかかえられながら王太子は身体の不調を訴える、国王陛下は泣き言を言った。
「ダメっすね。王族の血は魔力を豊富に持ってますので、国民の為にがんばってくださいす。」
魔道士と騎士達は、王族を祈りの場にドナドナする。
「一日も休めば、王都の水量が半減するっす。」
鎮魂祭の終わったあの日から、総ての魔道具の殆どを止め、魔力は全てを何より大事な水の魔道具に注ぎ込む。
朝の祈りは、教皇と枢機卿数人中心に貴族の奥方達五十人と司祭五十人と。昼の祈りは、四大公爵を中心に貴族の子女達五十人と司祭五十人と。夕方は王族を中心に、貴族の当主五十人と司祭の五十人が。中心人物を除けて、日替わりの交代制で魔力を祈りの鐘に注ぎ込んでいた。
「今、急ピッチで川から水を引く水路を確保中す。それが出来るまで、頑張るっす。」
魔道士はケラケラ笑う。
森の川は遠く、魔道具も魔法もそう使えない。野獣や魔獣も出る中、水路の完成は何年掛かるものなのか。
その間、彼等は魔力供給源として祈りの場にドナドナされる運命を負ったのであった。
緑豊かな旧アンゼラス国。
この地に送り込まれた者達は復興に励んでいた。水はたわわに豊富で、魔道具も使い放題。建物も壊れているとはいえ、直せば住める様態だ。穀物も果実も実り、食料の杞憂もない。
「強いて言うなら、人材不足か。」
「そうだな、だが魔道具で何とか事足りている。」
アベルとガウディは古き王城の窓から外を見る。忙しなく働いている人達、指揮を執る公爵夫妻に微笑みが耐えない。彼等はみんな目に希望の光を持って幸せそうだ。
「よかった、みんなが来てくれて。」
「ああ、まともな食事にありつける。女神に感謝だな。」
「あら、それを言うなら馬鹿王にでしょう。」
「違いますわ、愚か者達ですわ。」
二人が振り返るとそこには、愛しい人が微笑んでいる。
「セラ。」
「リア。」
女神の使徒としての役目を終えた公爵家は、その血を残さなくてもよくなった。血の交じることが許される。
「アベル。」
「ガウディ様。」
愛し合う恋人達の周りに優しい風が彼等の髪をなびかせる。
旧アンゼラスの森の中。
「いいかリンネ、森の中は危険だ。俺の側を離れるな。」
銀髪のリンネルが人差し指を立てて目をつぶり話しかけている。目を開けると、いない。
「リンネ!! 」
慌てて辺りを見回す。
「すっぱい。」
何かを食べて、舌を出している。リンネの前の小さな木の実を食べたようだ。
「勝手にウロウロするな、勝手にそこいらの物を食べるな!! 」
リンネルはリンネの襟首を掴んだ。振り向くリンネのきゅゅるるんの黒い瞳で見られる。さらさらと黒髪が流れる。
「だって、この実。赤くて美味しそうだったんだもの。」
「どこが? ドス黒いぞ。」
「そうかな? 」
リンネは首を傾げる。
「とにかくだ、そこいらの物を勝手に口に……」
「これ美味しそう。ぱくん。」
「あ、言ってるそばから!! 」
リンネは手に届く木からピンク色の果実をもぎ取ってかぶりついた。
「なんかピリピリする、楽しい。」
「馬鹿、それは毒だ!! 毒でピリピリするんだ。ぺっしろ、ぺっ!! 」
「そうなんだ。もぎゅもぎゅ。」
弱い毒なので舌がピリピリするくらいなのでリンネは平気で堪能していた。
「ぺっしろ、ぺっ。!! 」
慌ててるのはリンネルだけだった。
城から出たことの無いリンネは何もできない、同じく元邪神のリンネルも何もできない。復興の邪、復興の為に食糧補給の為に森の果実の採取の仕事についた。
リンネが採取で、リンネルが護衛。リンネルがいる限り危ない野獣も魔獣も出てくることはないだろう。
「あ、きのこ。」
「きのこは駄目だ!! きのこは食うな!! 」
リンネに振り回されながらも楽しくやっている、元邪神リンネルであった。
彼等はこれからは、自由に幸せの日々を暮らす。そして流れる年月に伝説は失われる。
【完】
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