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ーイグニスの花嫁ー      ❅

「愛することは、勘弁してください。」

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フランクは顔をあげて、ベッドの上に起き上がっていたカサンドラを見た。

腰まで流れる白銀の髪、垂れ目の青い瞳。寝衣の袖から見える、青暗く痩せ細った腕。

フランクは、思考を停止した。

「ほっほっほっほっ。嫌われてしまったかいな。」
カサンドラは嗄れた声で笑った。

「イグニス国、ぶっ潰すーー!! 」
フランクは近くにあったテーブルを拳で叩き壊した。




『「愛せよ」、とは言わぬ。』




「愛せるかーー!! 」
(ある意味、犯罪だろーー!! )
フランクは叫んだ。

どう見ても、どう見なくてもベッドの上にいる女性は老女であった。

白銀に流れる髪。
(白髪だろ!! )

垂れ目の青い瞳。
(シワで垂れるだけだろ!! )

青暗く痩せ細った腕。
(枯れてるだけだろーー!! )

「余命いくばくない? 」
(寿命いくばくない、の間違いだろ!! )

フランクは心の中で、自分の言葉に突っ込んでいた。

「ほっほっほっ、この年になって初婚とは、神様も粋なことをなさる。」

イグニスの花嫁カサンドラは御歳80であった。フランクより52歳年上の姉さん女房となる。今即位しているイグニス王の大叔母にあたる。簡単に言うと、祖父母の兄妹になる。

「フランク様は、塾女はお好きでないですかいな? 」
「塾女過ぎるだろーー!! 」
つい、カサンドラの言葉にフランクは突っ込んでいた。  

「余命いくばくない、わたしに最後のお情けを こほ、こほ 」
(無理だーー!! )
弱々しく咳をするカサンドラの前で【戦場の死神】と呼ばれた男は、その場で膝から崩れ落ちた。

本気マジ、勘弁してください。」
「ほっ、ほっほっほっ。」
フランクは頭を床にこすり付けて土下座をした。

此処に戦場で【死神】と呼ばれた男が、精神的ダメージを負ってカサンドラに完敗した。

「ぷっ!! 」
「笑うなーー!! 」
後ろで、執事が腹を押さえて笑い悶えている。開け放たれた扉の向こうには、侍女達も声を押さえて笑っている。覗いていたマリーナは、訳が分からずきょろきょろと皆を見ていた。

「冗談ですわい、ほっほっほっほっ。」
カサンドラは軽快に笑った。

「人質にもならない厄介者、嫌われても仕方のないことじゃ。」
「ダメ!! お兄ちゃん、おばあちゃん嫌ったら、ダメ!! 」
カサンドラの言葉にマリーナが飛び出し、庇うようにフランクとの間に入った。

「おばあちゃんを嫌ったらダメ!! かわいそう!! 」
「ほっほっほっほっ、めんこいの~ 」
第一夫人幼女マリーナと第二夫人老女カサンドラの対面であった。

「いや、マリーナちゃん。お兄さん、別にカサンドラ嬢を嫌いな訳ではなくってな……… 女性として、愛するのは勘弁して欲しいと…… 」
おろおろと、フランクは言い訳をする。

「ぷはぁ!! 」
「笑うなーー!! 」
耐えきれず、執事は息を吐き出した。

「お兄ちゃんのイジワル!! おばあちゃんイジメたら、ダメ!! 」
「いや、マリーナちゃん。お兄さん、おばあちゃん虐めてないよ~ 仲良しだよ~ 」    
(泣くな、泣くなよ。泣かないでくれよ~ )
ぷんぷんと怒って責めたてるマリーナの機嫌を取るために、フランクはカサンドラと仲良しだと引きった笑顔を向ける。

「ほっほっほっほっ。(カサンドラ)」  

「くっ、くくくっ…… (執事)」

「「「ふふふふふふっ…… (侍女達)」」」

部屋の中に楽しく、くもった笑い声が響き渡る。

カサンドラとの初夜は、愉快に終わった。

「俺は、楽しくないーー!! 」



【完】








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