【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

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リフター・キャンベル辺境伯。

「私が、一人で……」
リフィルの言葉を遮るようにそっとその口を押さえる者がいた。

「リフィルは何もしていない。」
重く冷たい声が会場内に響く。

「そうであろう、アマージョ王女。」
冷たい琥珀色の目が王女を見つめた。

「ヒィィ!! 」
王女はその瞳を見て腰を抜かし、震え上がった。ズルズルと距離を取ろうと後ろに這いつくばり逃げる。

「お前はキャンベル辺境伯、どうして此処に!! 」
後ろに立ちリフィルの言葉を遮った者は、キャンベル辺境伯であった。リフィルと同じ黒い髪、瞳は肉食動物を思わせる琥珀色。リフィルより頭一つ大きい背で彼女を優しく支えていた。

「キャンベル、カルパティア帝国の侵略阻止はどうした!! 」
今まさに東の地で隣の帝国が、領地を侵略しようとしていた。

「俺には関係ない。」
キャンベル辺境伯が、冷たい目と声で言うと、王は青ざめた。

「あ、ああ……!! 」
立ち上がって抗議していた王は椅子に腰を抜かしたように座り込み震えだす。

「イヤ!! 許して!! 」
王妃は辺境伯を見ると王座にしがみつき震えだした。

「母上、父上!? どうなされました!! 」
両陛下の怯える姿に王太子は辺境伯に怒鳴り声を浴びせた。

「王命に逆らい、なぜ戻って来た!! これは国家反逆罪だぞ!! 」
「そうですわ、国を護るのが辺境伯の仕事ですわ!! 」
王太子と王子妃が、怯える両陛下の代わり辺境伯を叱咤する。

「俺は愛する娘を迎えに来ただけだ。」
「お父様……。」
優しくリフターは娘を抱き締める。辺境伯が二人に目を向けると王太子と王子妃はガタガタと歯を鳴らし呆然とその場に崩れ落ちた。

リフィルの目から涙が溢れた。

(お父様が、私を愛していると……)

疎まれていると思っていた父に助けられただけでも嬉しいのに、愛していると言って優しく抱き締めてくれる。

「お義兄様!! その子は、お姉様を殺した娘ですわ!! 」
「叔父さま、愛する伯母さまを殺したのですよ!!」
「そうだ俺の愛するアニタが命がけで産んだ、俺の愛する娘のリフィル。」
まるで唸るように低い声で辺境伯は応える。

「俺の贈ったドレスをなぜリフィルは着ていない? 」
射殺すような目で、二人見る。

「アニタの妹だから、リフィルを預けたというのに……」
母を亡くした乳飲み子であるリフィルの乳母役として、丁度子供を産んだばかりのアニタの妹が選ばれた。

辺境が危なく多忙なため娘を連れ戻すこともできず、王都の屋敷共々面倒をアニタの妹に見てもらっていた。だがそれが愛する娘を追い詰める事になるとは思っていなかった。

蔑んだ目で二人を見ると、突如震えながら両手を床につける。

「「許して!! 許して!! 」」
床に頭を擦り付けて、二人は許しを乞うてくる。

辺境伯の登場に異常な空気が会場内にもたらされる。

「何をしている、衛兵!! 辺境伯を捕まえろ!! 王の命に背く国家反逆罪だ!! 」
第二王子アフォガードの言葉に衛兵達が辺境伯を囲った。剣をリフィルと辺境伯に向ける。

「お父様……。」
「大丈夫だ、リフィル。」
左手で胸に抱き締めると、胸に顔を埋める愛する娘の髪に口づける。背に担いでいる大剣を右手で静かに引き抜くき、床の大理石に刺した。カッンと大理石を砕き、破片が飛ぶ。

途端に衛兵達は剣を落とし、跪いた。周りで成り行きを見ていた貴族達も、腰を抜かして跪く。声も出せずにガタガタと震えだす。

今この場所に立っているのはリフィルと辺境伯、そして第二王子のアフォガードだけだった。

「何をしている衛兵!! 」

衛兵に怒鳴って顔を背けている間に、辺境伯の剣先が首に触る。

「まだ、思い出さないか。」
低い声と琥珀色の瞳に、アフォガードは目を見張った。

赤。

白く輝く大理石の会場が赤く染まっている。赤い床に転がる、体が斬り裂かれた亡骸。胴体と首、下半身と上半身と赤い床に転がる。

血だ。

赤い床の正体は血。斬り裂かれた元人間から流される血であった。その中に立ち尽くす一人。

「あ、あああっ!! 」

アフォガードは右腕を掴んだ、床に転がる右首。ひたひたと剣先から赤い雫を垂らしながら近づいてくる人。

「う、うわあああああああっ!! 」

アフォガードは悲痛の叫びは、白い会場に響き渡った。


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