【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて

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リフィルの最後。

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ピリャンピリャンと、何処かで雫の垂れる音がする。暗い中、ぼーっと蝋燭の光が部分部分を照らしている。

罪を認めたリフィルは直ぐに地下牢に入れられた。ドレスは剥ぎ取られ、薄汚れた囚人服を着ていた。貴族の令嬢であるにも関わらず、牢屋のそれも最も過酷な地下牢に閉じ込めていた。それはキャンベル辺境伯を卑下しての事であった。

アマージョ王女とアフォガード第二王子との婚姻が決まれば、野蛮な辺境の者の力を借りなくても国を守れる。だからこそ、リフィルは辺境伯の人質としての役目は終わったのであった。後は邪魔なだけの存在。

「元婚約と言うだけで、鬱陶しいですわ。消してください。」
「アマージョ王女がそう言うなら、消すか。」
この国の王族たちは、同盟強固のためだけにリフィルを生贄として差し出した。


寒さでリフィルは身を震わせた。地下牢の陰鬱さがリフィルの気持ちを暗くする。

(お父様は、最後に私に会いに来てくれるかしら。)

リフィルは冷たい石の床に座り込み足を投げ出して空の見えない石の壁を見ていた。壁をつたう雫が床に落ち、薄汚れたリフィルの囚人服を濡らしている。

(罵倒されてもいい、罵られてもいい。最後に一目会いたい。)

リフィルの長い黒髪が床に流れる。

(お父様と同じ黒髪。私には、これしかない。)

リフィルは愛しそうに髪を束ねて抱き締めた。目を閉じれば、優しく微笑む父の顔が浮かぶ。あの琥珀色の瞳が細目られ微笑んでいる顔が。

(そんなことはあるはず無いのに、夢ね。)

夢の中の父親は限りなく優しく、自分はみんなから愛されている。 

(夢、夢。)

それは事実幼き頃の記憶で有ったがリフィルには思い出す事は出来なかった。

(私が死んだらお父様は少しは悲しんでくれるかしら? )

頭を振って、髪を強く抱き締めた。

(むしろ清々したと、喜ぶわね。だって私は、お母様を殺したんですもの。)

リフィルの目から涙が溢れた。

(ごめんなさいお父様、お母様を殺してしまって。ごめんなさいお母様、産まれてきてしまって。お母様を殺して、産まれてきてしまって。)

三日後、ありとあらゆる冤罪を着せられてリフィルは街の中を引き回されていた。あの薄汚れた囚人服で、足は裸足であった。三日間食事も与えられていなかった、誰も訪れず忘れ去られた者のように三日間地下牢に入っていた。ただ唯一望み、父親に会いにという為に壁につたう雫を舐めて生き長らえていた。

(お父様は、来てくれなかった。)

ヨロヨロと足裏に傷を負いながら、両手首を縄で縛られ馬に引かれて街なかを歩く。

国民が罵声を浴びせ、石を投げる。

国民が苦しいのは、リフィルが王子の婚約者として湯水の如く国税を使った所為。災害が起こるのは、リフィルが神の怒りをかった所為。そして同盟国の王女を毒殺しようと図り、戦争を起こさせようとしたと国家も教会もリフィルを断罪した。

国民総ての鬱憤の捌け口がリフィルに注がれる。罵倒が続き、石は止むことなく飛んできてリフィルを打ち付ける。崩れ落ちても、馬は止まることなく歩く。リフィルは体を石の道に削られながら街を引きずり回される。それでも罵倒も石も止まることはない。

処刑場の街の大広場に着いたときは、リフィルはぼろぼろの血塗れであった。微かに意識があるリフィルを二人の騎士が横から抱きかかえ、絞首台に登らせる。

リフィルの長い黒髪が邪魔だと騎士は剣で一纏めにして切った。リフィルの眼の前を黒髪が風に乗り流れていく。

(お父様……)

荒縄が首にかけられる。

「今日此処に、国家反逆罪のリフィルを絞首刑に処す!! 」

その言葉の後に荒縄が引かれた。荒縄の先は何人もの国民が握っている、何人もの国民たちがリフィルの首に掛かった縄を引いている。普通の絞首刑とは違った。

最も苦しませる絞首刑だった。じわじわと首を締め付ける刑。床が開き、落ちるとともに首の骨が折れ亡くなる絞首刑とは違った。

苦しみもがくリフィルを国民たちは笑いながら見ていた。

(お父様……お母様……)

青い空ももう見えない。

(私を……許して……)

リフィルは苦しみ抜いて殺された。

亡骸はその場にさらされる。その間も石を投げる者が大半だった。鳥についばめられ野犬に手足を食われ、腐り匂いが充満しはじめてリフィルはその場を降ろされた。

そしてリフィルはゴミとして森に、罪人を棄てる場所に捨てられた。








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