この恋、秘密つき!

汐夜

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第2話 月城陽

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 「ただいまー!」


 真白ましろは玄関を開け、自身の帰りを大きな声で伝える。それとは反対に何も言わず静かに入る和海なごみ


 「おかえり。ひなた。和海」


 出迎えた男は月城組組長・月城春つきしろはる。すらっとした長身と細身の体に和服が似合う。茶色の前髪を伸ばし、右目を隠すようにしている。左耳には三日月の模様が描かれたイヤーカフ。おっとりとした顔つきの彼を誰も組長だとは思わないだろう。


 「陽~! デートとうだった~? デートと言えばホテル一択だよな~」


 ニヤニヤしながら聞いてくる男は凰士朗おうしろうという。髭を生やし髪はボサボサ。右耳にイヤーカフを着けている。常に着ているスウェットは伸びてしまっている。この下世話な男が月城組のナンバー二なのだから世も末だ。


 「だからデートじゃないって。コートを返しに行っただけ」

 「あっちの若頭も今さっき自分の会ってた相手が、敵視してる組の白狐びゃっこだなんて思いもしないだろうな~」


 陽も白狐も全て真白の事だ。彼女には三つの名前がある。
 一つは産みの親が命名した『真白』。この名前を普段使う事はない。潜入する時や咄嗟に名乗る時に使う事が多い。
 二つは育ての親がつけてくれた『陽』。彼女を迎え入れ、育てた月城組元組長がつけてくれた大事な名前だ。
 三つは仕事の時に使う名前『白狐』。顔を知られるわけにはいかない。そのために狐のお面に銀色のカツラをかぶる。その見た目から白狐と呼ばれるようになった。


 「私だってびっくりだよ。ナンパから女の人を助けただけなのに」


 真白は自身の左耳にイヤーカフを着けながら話す。
 二人の出会いは偶然だった。ある日の昼間、真白の目の前には二人の男と嫌がる一人の女性。どう見てもナンパだった。お人好しの彼女は女性を助けたが、女性はそのまま走り去ってしまう。助けを呼べばいいか、などと思っていた時に藤堂臣とうどうおみが現れ、助けられてしまった。その際、声をかけられないようにと一目で藤堂組だとわかるコートを着せられてしまい、返す事を余儀なくされた。臣と会った時、身バレを恐れた彼女は咄嗟に真白を名乗り、声の出ない女性を演じている。


 「僕は陽が藤堂組との架け橋になってくれたらいいと思っているよ」


 微笑みながら話す春。月城組は藤堂組を敵視していない。むしろ仲良くしたいと彼は思っている。その思いは一方通行だが。


 「俺は反対です」


 今まで静聴していた和海は一言だけ残し、自室へ向かった。


 「うみ、機嫌悪いのかな?」


 海とは和海の愛称で真白だけの呼び名である。


 「いや~あれは…」

 「陽。彩花あやかが来てるよ。相談事があるみたい。陽の部屋で待たせてるからいっておいで」


 春は凰士朗の話を遮り、真白に部屋へ行くよう言う。


 「はーい」


 言葉通り彼女は自分の部屋へと向かった。
 真白は自分の部屋の前で立ち止まる。それは何故か。部屋からすすり泣く声が聞こえるからだ。話が長くなりそうな気がする。そう思った真白は飲み物を取りに行こうとした。


 「ひ~な~た~。聞いてよ~」


 気配を察知したのか部屋の扉が開き、彩花が顔を出す。長く伸びた黒髪で顔が隠れ、すすり泣く彼女の姿はまるでホラー映画に出てくる某キャラだ。見つかったのなら仕方ない。真白は飲み物を諦めて部屋に入った。


 「どうしたの? また彼氏?」


 鞄を置き、ベッドに腰掛ける。


 「そうなの!」


 真白の手を握り語り始める彼女は結城彩花ゆうきあやか。二十九歳。事情があり月城組で育てられたが大学卒業後、就職。就職を機に現在は一人暮らしをしている。真白にとっては姉のような存在だ。


 「最近、彼の様子がおかしいの。返信は冷たいし、デート中も携帯ばかり触ってるし…」

 「気にしすぎとかじゃないの?」

 「だって! 前の彼は家デートしてくれないし、週末は返信もデートもしてくれないと思ったら既婚者だったんだよ! しかも子持ち! 前の前の彼氏は全財産持ち逃げするし! もうトラウマだよ~…」


 ついには真白の膝下で泣き出す。彼女の男運がないのか、見る目がないのか。またはその両方なのか。


 「返信が冷たいっていつも何送ってんの?」


 無言で見せられた画面は毎分ごとに彩花から送信された『大好き』と『愛してる』で埋まっていた。さすがの真白も引いてしまう。その返信も二ヶ月前は『俺も』だったが今では無視か適当な相槌へと変化している。


 「今度こそはって思ってたのに~」


 彼女は愛が重い。その上に尽くしすぎる所がある。料理が美味しいと言われば毎日料理を作りに行き、金がないと言われれば全財産を渡してしまう。髪やメイク、服装までもを彼氏の好みに合わせるので彼氏が変わるたびに彼女の雰囲気も変わる。


 「でもまだ確定じゃないんでしょ?」


 真白は彼女を撫でる。彼女は美人だ。艶のある髪に大きな瞳。豊満な胸を強調するような服装は今の彼氏の好みなのだろう。


 「うん..。でね、陽。お願いがあるんだけど…」


 彼女の話を遮るように通知音が鳴る。真白がポケットからスマホを出す。藤堂臣からのメッセージが画面に映し出される。そこには今日のお礼と次に会う日程、場所の提案がされていた。


 「誰から?」


 上目遣いで聞いてくる彩花。


 「彩姉が気にする事じゃないよ」


 メッセージを確認して承諾の返事を送る。彼女に教えないのは何かあった時に巻き込まないためだろう。


 「それで、お願いって?」


 スマホをしまい、話を戻す。


 「あのね、これから彼の所一緒に行ってくれない?」

 「……え?」


 予想してないお願いだった。真白は拍子抜けしたような声を出す。


 「ダメ?」

 「駄目じゃない。でも今どこにいるかなんてわからないよ?」


 位置情報でもつけていない限りどこにいるかなどわかるはずもない。今から彼氏を探そうものなら日をまたいでしまう。


 「実は彼のスマホに位置共有アプリ入れてるの」


 しっかりと入れていた。彩花は真白に自身のスマホを渡す。


 「でもね、見るのが怖くて…」


 位置情報で彼氏がホテルにいたらと考えているのだろう。真白は画面を触り位置情報を調べる。スマホが指し示したのはとあるホテルだった。少しの間見ているがそこから動く様子もない。どう伝えたらいいのか真白が悩んでいるとスマホが取られる。


 「やっぱり…」


 落胆した様子の彩花。こういう時なんて声をかければいいのか真白にはわからない。


 「よし! 陽! 行こう!」


 彼女は立ち上がり涙を拭く。


 「彩姉。無理しない方が…」


 止めようとする真白の肩を両手で力強く掴まれる。その強さに真白は少し顔を歪ませた。


 「陽! こういうのはその場を押さえるのがセオリーだよ! その方が未練もなく別れられるんだから!」


 肩を掴む手が僅かに震えていた。気丈に振る舞っているが彼女は怖いのかもしれない。真白はその手に自身の手を乗せ、頷く。


 「行こう」


 急遽、和海と凰士朗にバイクを出させ位置情報を頼りに真白と彩花は出発した。
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