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街の中のとみぃ
19話。姫騎士
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「姫騎士様ですか……?」
床下収納の中に居たのは小さな女の子だった。
小さな体をさらに小さく縮こまらせて震える声で質問してくる。
姫騎士ってなんだろう、アイリスさんのことかな?
アイリスさんの方を見てみると、なんとも言えない表情を浮かべて固まっていた。
「アイリスさん?」
「え? え、えぇ……姫騎士……はい、そう呼ばれていた時期も……ありますわね」
アイリスさんはなんだか物凄く不服そうにしながらも、自身が姫騎士であることを認めた。
いいじゃん姫騎士。かっこいい。
「よかった……」
少女はアイリスさんが姫騎士であることを認めると、安心したのかそのまま気を失ってしまった。
どうしよう……
「気絶しちゃった……どうしよう姫騎士さん」
「トミー、お願いだからその二つ名でわたくしを呼ばないで……」
「了解っす」
お嬢様言葉を忘れる程に嫌なのか。
なんでだろう……かっこいいのに。
「この名はクソ王子が付けたのですわ……5年ほど前、わたくしとクソ王子が13歳の時に『イルドラース公爵家の姫なのにこんなに強いなんて、まさに姫騎士だね』などと……まさか小国家群にまで広まっているなんて……」
なぜ嫌なのか聞こうか聞くまいか迷っていると、アイリスさん自ら説明してくれた。
なるほど、クソ王子……えっと……エライヤツ? ヤバイヤツ? なんかそんな感じの名前の王子に付けられたのか。
恨みあるっぽいし、嫌いな奴に付けられた二つ名ならそりゃ呼ばれたくないわよね。わかるわかる。
「わかりました。もうその名で呼びません」
「お願いしますわ……」
「ちなみに他にはなんて?」
「『完璧令嬢』や『ファミマトの薔薇姫』、『神の愛し子』なんて呼ばれたこともありますわね」
「ほう、なるほど」
「絶対に呼ばないでくださいまし。黒歴史ですわ」
黒歴史なら言わなきゃ良かったのに。
でもこうやって言わなくていいことをポロッと言っちゃうところが可愛いよね。
「それより……」
今はアイリスさんの二つ名談義をしている場合では無い。
この子をどうしよう……このまま置いていく訳には行かないし、連れて行くにしても安全が確保出来ない。
せめてアイリスさんが万全の状態ならなんとかなるんだけどね。
「アイリスさん、ここで――」
「トミー、わたくしにも竜の血を分けてくださいますか?」
休んで行こう、と言おうとしたのだが、途中で遮られてしまった。
あれだけ拒否していたのに……舐めるの? いっちゃうの?
「ここでこの子が生きていたということは、他にも生き残りが居るかもしれませんわ。それなら多少無理をしてでも探さないと、手遅れになるかもしれませんわ」
「かもしれませんけど……いいんですか?」
断固拒否の姿勢だったし。
「是非も無し……ですわ。ここでゆっくり休んでいる時間はありませんわ」
「まぁ確かに」
今すぐ動けば助けられる命も休んでからでは手遅れになるかもしれない。
しかしそのためにあれだけ嫌がっていた竜の血を舐める決意をするとは……
なんだかんだ言って、アイリスさんって優しい人だよね。人のために頑張れるいい子。
「どうぞ」
舐め慣れていないアイリスさんに原液はキツいだろうと思い、20倍くらいに希釈した竜の血の入ったコップを手渡す。
「感謝しますわ」
アイリスさんはコップを受け取りそのまま口元へ 運ぶ。
しかしそこで動きが止まってしまった。
「アイリスさん?」
「大丈夫ですわ……ビビってなんかいませんわ……」
一度コップから口を離し、中の液体を睨みつける。
「これは義務、貴族の義務ですわ……か弱き民を守護するのは高貴なる身に生まれたわたくしの務め、それを果たすために……ええい、ままよ!」
なんでさっきからちょいちょい武士っぽくなるんだろう、不意に湧いた疑問を口に出さないように飲み込みながら見ていると、アイリスさんは意を決したのかコップの中身を一息で飲み干した。
「……回復しましたわ」
「でしょうね。そういうものですから」
「体がポカポカしますが、先程のトミーのように叫び出したくはなりませんわね」
「俺は原液派なんで……アイリスさんも次は原液行っちゃいます? 飛びますよ?」
「行きませんし飛びませんわ」
残念。分かち合えると思ったのに。
「それよりもこれからどうしますの?」
アイリスさんの質問に、俺はなんとなく感じている感覚について口にする。
「アイリスさん、多分ですけどこの先に教会かなにか……女神エルリア様に関係する建物があると思います。そこに大勢の人が居る……と思います」
なんとなくだけど感じるんだよね。呼ばれているような気もする。
「女神様に直接お会いしたトミーが言うなら間違いないですわね。わかりました、そちらに向かいましょう」
「今回は俺が先行します。遅れないように着いてきて下さい」
アイリスさんに子供を任せ、俺は安全を確認するために先に建物から抜け出した。
床下収納の中に居たのは小さな女の子だった。
小さな体をさらに小さく縮こまらせて震える声で質問してくる。
姫騎士ってなんだろう、アイリスさんのことかな?
アイリスさんの方を見てみると、なんとも言えない表情を浮かべて固まっていた。
「アイリスさん?」
「え? え、えぇ……姫騎士……はい、そう呼ばれていた時期も……ありますわね」
アイリスさんはなんだか物凄く不服そうにしながらも、自身が姫騎士であることを認めた。
いいじゃん姫騎士。かっこいい。
「よかった……」
少女はアイリスさんが姫騎士であることを認めると、安心したのかそのまま気を失ってしまった。
どうしよう……
「気絶しちゃった……どうしよう姫騎士さん」
「トミー、お願いだからその二つ名でわたくしを呼ばないで……」
「了解っす」
お嬢様言葉を忘れる程に嫌なのか。
なんでだろう……かっこいいのに。
「この名はクソ王子が付けたのですわ……5年ほど前、わたくしとクソ王子が13歳の時に『イルドラース公爵家の姫なのにこんなに強いなんて、まさに姫騎士だね』などと……まさか小国家群にまで広まっているなんて……」
なぜ嫌なのか聞こうか聞くまいか迷っていると、アイリスさん自ら説明してくれた。
なるほど、クソ王子……えっと……エライヤツ? ヤバイヤツ? なんかそんな感じの名前の王子に付けられたのか。
恨みあるっぽいし、嫌いな奴に付けられた二つ名ならそりゃ呼ばれたくないわよね。わかるわかる。
「わかりました。もうその名で呼びません」
「お願いしますわ……」
「ちなみに他にはなんて?」
「『完璧令嬢』や『ファミマトの薔薇姫』、『神の愛し子』なんて呼ばれたこともありますわね」
「ほう、なるほど」
「絶対に呼ばないでくださいまし。黒歴史ですわ」
黒歴史なら言わなきゃ良かったのに。
でもこうやって言わなくていいことをポロッと言っちゃうところが可愛いよね。
「それより……」
今はアイリスさんの二つ名談義をしている場合では無い。
この子をどうしよう……このまま置いていく訳には行かないし、連れて行くにしても安全が確保出来ない。
せめてアイリスさんが万全の状態ならなんとかなるんだけどね。
「アイリスさん、ここで――」
「トミー、わたくしにも竜の血を分けてくださいますか?」
休んで行こう、と言おうとしたのだが、途中で遮られてしまった。
あれだけ拒否していたのに……舐めるの? いっちゃうの?
「ここでこの子が生きていたということは、他にも生き残りが居るかもしれませんわ。それなら多少無理をしてでも探さないと、手遅れになるかもしれませんわ」
「かもしれませんけど……いいんですか?」
断固拒否の姿勢だったし。
「是非も無し……ですわ。ここでゆっくり休んでいる時間はありませんわ」
「まぁ確かに」
今すぐ動けば助けられる命も休んでからでは手遅れになるかもしれない。
しかしそのためにあれだけ嫌がっていた竜の血を舐める決意をするとは……
なんだかんだ言って、アイリスさんって優しい人だよね。人のために頑張れるいい子。
「どうぞ」
舐め慣れていないアイリスさんに原液はキツいだろうと思い、20倍くらいに希釈した竜の血の入ったコップを手渡す。
「感謝しますわ」
アイリスさんはコップを受け取りそのまま口元へ 運ぶ。
しかしそこで動きが止まってしまった。
「アイリスさん?」
「大丈夫ですわ……ビビってなんかいませんわ……」
一度コップから口を離し、中の液体を睨みつける。
「これは義務、貴族の義務ですわ……か弱き民を守護するのは高貴なる身に生まれたわたくしの務め、それを果たすために……ええい、ままよ!」
なんでさっきからちょいちょい武士っぽくなるんだろう、不意に湧いた疑問を口に出さないように飲み込みながら見ていると、アイリスさんは意を決したのかコップの中身を一息で飲み干した。
「……回復しましたわ」
「でしょうね。そういうものですから」
「体がポカポカしますが、先程のトミーのように叫び出したくはなりませんわね」
「俺は原液派なんで……アイリスさんも次は原液行っちゃいます? 飛びますよ?」
「行きませんし飛びませんわ」
残念。分かち合えると思ったのに。
「それよりもこれからどうしますの?」
アイリスさんの質問に、俺はなんとなく感じている感覚について口にする。
「アイリスさん、多分ですけどこの先に教会かなにか……女神エルリア様に関係する建物があると思います。そこに大勢の人が居る……と思います」
なんとなくだけど感じるんだよね。呼ばれているような気もする。
「女神様に直接お会いしたトミーが言うなら間違いないですわね。わかりました、そちらに向かいましょう」
「今回は俺が先行します。遅れないように着いてきて下さい」
アイリスさんに子供を任せ、俺は安全を確認するために先に建物から抜け出した。
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