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街の中のとみぃ

18話。ドロップ

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「まだ魔物が残っているかもしれませんわ」
「そうですね。探してみましょうか」

 悪魔とこの周辺に居た魔物は駆逐したが、おそらく魔物はまだ残っているだろう。

 本音では魔力も体力も尽きかけているのでゆっくり休みたいのだが、いつ襲われるかもわからない状態ではのんびり休むことも出来ない。

「そんな時にはこれだよね」
「急になんですの?」

 休めないのなら休まなければいい。
 それを可能とするアイテムを俺は持っているのだから。

 俺は腰の鞄から真っ赤な液体が入った小瓶を取り出してアイリスさんに見せる。

「竜の血です。一滴舐めれば三日三晩戦えますよ」
「舐めますの?」
「舐めます」

【物質創造】魔法で針のような細い棒を創り小瓶に突っ込む。
 いい感じに竜の血が付いたので、それを口の中へ……

「フォォォオオオオウ! エクスタ……これ以上はいけない」

 クロスアウトしちゃう。

「なんですのそれ!? ヤバいおクスリですの!?」
「いえ、竜の血です。すみません、なんと言うか体の内側からこう……滾ると言いますか……舐めてみます?」
「絶ッ対に舐めませんわ!」

 残念。体力も魔力も回復するのに。

「コホン……あちらの方は建物が残っていそうですわ」

 アイリスさんは話を変えるために一度咳払いをして、建物の残っている方へと視線を向けた。
 乗っかっておこう。

「しっかりした建物が残っていればいいですね」

 魔物を全滅させなくても、しっかりとした建物さえ残っていれば中で休むことも出来る。
 俺とアイリスさんは散らばった魔石やドロップアイテムを拾いながら建物の残っている方へと歩き出した。

「結構ドロップしてますね」
「大森林の魔物はランクが高いのであまりドロップはしませんわね。魔物はランクが低い方がドロップしやすいのですわ」

 そうなんだ、逆かと思ってた。

「そこに落ちているのはワイルドボアのお肉ですわね。栄養価が高くて美味しい人気のお肉ですの」
「肉……」
「あちらの羽はクレイジーコッコの羽ですわね。高級寝具の材料になりますの」
「羽毛布団……」

 なんかイメージと違うけど、そんなもんか。

「クレイジーコッコが低確率でドロップする卵は最高に美味しいのですわよ。今回は残念ながら手に入りませんでしたけれど」
「鶏卵……卵かけご飯食べたいな」

 日本にいた頃は週三で食べていたのだが、この世界に来て一度も食べてない。
 卵かけご飯どころか米すら食べていない。そういえばパンも食べてないな……肉と野菜、木の実ばかり食べていた。
 あれ? 主食が無い生活だな。炭水化物……

「卵かけご飯……異世界ではお米に生卵をかけて食べると聞いたことがありますが……」
「美味しいよ」
「卵はゆでたまごにするのが至高ですの」
「わかる」

 ゆでたまご美味しいよね。

 そんなことを話しながら歩いていると、すぐに建物が残っている地区にたどり着いた。

「うっすらとですが悪意を感じますわ。やはりまだ魔物が残っているようですわね」
「全然わからないです」

 鳴き声や歩く音、破壊音なども全く聞こえない。
 それでもアイリスさんは悪意を感知しているのだから魔物はいるのだろう。

 俺ももっと索敵能力鍛えた方がいいかな?

 キョロキョロと周りを見渡していると、物陰から一匹の獣が姿を現した。

「うさぎ?」
「プチホーンラビですわね。Fランクにも満たない魔物で、木剣を持った子供でも勝てる最弱の魔物ですわ。トミーならデコピンで倒せると思いますわよ」

 デコピンってそれ普通のうさぎより弱くない?
 ってそれよりも気になることがある。

「プチホーンって角無くない?」
「ありますの。小指の爪より小さい角が生えてますのよ」
「そうなんだ……」
「倒すと高確率でその角をドロップしますわ。滋養強壮剤や精力剤の原料になりますの」

 うさぎって年中発情期だからかな?

「まぁ落としたら拾っておこうかな……って来ましたね」

 物陰から姿を現したプチボーンラビはこちらへと飛びかかってくる。
 その速度は遅く、なんの脅威も感じられない。

「ていっ」

 近付いて来たところをチョップで迎撃。
 プチホーンラビは地面に叩き付けられる寸前に黒いモヤに変わって姿を消した。

「よっわ……」
「トミーのチョップはプチホーンラビにはオーバーキルでしたわね」

 そんな会話をしながら魔石を拾おうと手を伸ばすと、魔石の横に小さなナイフが落ちていることに気が付いた。

「ナイフ?」
「ラビットナイフですわね。レアドロップですわ。トミーは運がいいですの」

 落ちているナイフは刃渡り20センチほどあり、どう見てもプチホーンラビよりも大きい。
 どういう仕組みなのか謎でしかない。

「よく切れるんですか?」
「強度も切れ味も並のナイフと変わりませんが、魔力を込めるとうさぎ系の魔物を呼び寄せる効果がありますわ」
「いらない……」

 魔物呼び寄せてどうするの? もはや呪いの武器じゃない?

「駆け出しを卒業したばかりの冒険者に大人気ですわよ? そのナイフでプチホーンラビを大量に呼び寄せてドロップ品のプチホーンを大量生産するらしいですわ」
「なるほど……でもそれって駆け出しでも出来るんじゃ?」
「たまに上位のうさぎ、ミドルホーンラビが来ますの。プチホーンラビなら装備が整っていなくてもなんとかなりますが、上位のミドルホーンラビは木の盾くらいなら容易く貫きますので」
「装備の整っていない駆け出し冒険者だと死んじゃうんですね」
「そういうことですわ」

 冒険者も大変だね。なる気無いけど。

「まぁ使うつもりにはなりませんね。鞄の肥やしにでも……おや?」

 建物の残っている区画、おそらく高級住宅地を歩いていると、なにやら不思議な感じがした。
 目の前の崩れかけた建物の中に、誰かいる。呼ばれている。
 姿を見たわけでも、物音を聞いたわけでも無いが、なぜかそう確信できた。

「アイリスさん、そこの家に誰かいる……呼んでいるような気がします」
「あの家ですの? わたくしは何も感じませんが……トミーがそう言うのなら確認してみましょう」

 その家の玄関は破壊されており、簡単に中に入ることが出来た。

「誰かいますかー?」
「魔物は……居ないようですわね」

 返事は無い。
 しかし近付いているという不思議な確信はある。

「2階ですの?」
「いえ、1階ですね……半地下かな?」

 不思議な感覚を頼りに屋内を進むと、厨房へとたどり着いた。
 中は荒らされており、調理人や使用人と思われる死体も転がっている。
 グロい……見たくなかった……

「……ここですね」

 見て見ぬふりをしながら進み、到着したのは厨房の片隅、目の前には床下収納の取っ手がある。
 その前にはその床下収納を守るかのように倒れる男性の遺体も転がっていた。

 南無…… 

「この中ですの?」
「おそらく……開けてみましょう」

 丁寧に遺体を横に退かしてから取っ手を掴み、ゆっくりと持ち上げると、中から怯えるような悲鳴が聞こえてきた。

「ヒッ!?」

 やはりここで正解だったようだ。
 力を込めて一気に開くと、中には一人の少女が隠れていた。

 厨房で倒れている人たちより上等そうな衣服を着ている。
 この屋敷の子だろうか。

「子供ですわね」
「だれ? 魔物じゃない?」
「魔物じゃありませんわよ。わたくしの名前はアイリス・フォン・イルドラース。隣国ファミマトの公爵令嬢ですわ」
「アイリス様……もしかして姫騎士様ですか?」

 おっと? なんだか気になる言葉が聞こえたぞ?
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