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四章 第四皇子、白百合と共に真相に迫る。
4-4 雨宿りのやさしい時間
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店の外へ出ると、先程までの晴天はどこへやら、なにやら雲行きがあやしくなっていた。
早く戻らねばひと雨あるかもしれない。ふたりはどちらからともなく、城壁の南門へ向けて、やや足早に歩きはじめた。
「ひと月前……わたしは間違いなく、吏部に首輪を預けております」
店からある程度離れたところで、隣を歩む瓔偲がつぶやくように言った。
「うん。そうだろうな」
燎琉はうなずいた。瓔偲と出逢ってまだわずかだが、その間に交わした会話などを思い起こしても、彼に限って、実は預け忘れたが記憶違いをしているなどということがあろうとは思えなかった。
瓔偲はたしかに、いまからひと月前に、首輪を手入れに出したはずなのだ。けれどもそれは、下請けの林珠寶店に預け入れられることはなかった。
そのことは、いったい何を意味するのか。誰がどの段階で、瓔偲の首輪に細工をしたのか。
燎琉は思案して、難しく顔をしかめる。
瓔偲の暮らす官舎に忍び込んで、隙を見てやったのでもない限り、それは瓔偲が吏部に首輪を預け、手元に戻されるまでの間になされたのではなかったのか。林珠寶店に首輪を預かった記録がないことからみても、そう考えるのが自然なように思われた。
そうなると、導き出される結論がある。
「吏部か」
無意識につぶやいた。
「薬も、たしか吏部の医局で処方してもらっていると言っていたな」
燎琉の確認に、瓔偲は、はい、と、頷いた。
「吏部……」
もう一度そう言ったとき、燎琉は、瓔偲がなにか考え込むように地面を見詰めているのに気が付いた。
「どうかしたか?」
燎琉が不審に思って訊ねたときだった。天から一条、すぅっと銀糸が流れ落ちた。
雨だ。
燎琉ははっとして、反射的に羽織っていた褙子を脱ぐと、瓔偲に頭からかぶせかけた。
「こっちへ」
肩を抱くようにしながら促して、一緒に近くの軒先へ走り込む。
雨は見る間に篠突くごとくの降り方になっていた。狭い軒の下、燎琉は瓔偲を雨粒からかばうように、その身を抱え込みながら立っている。
「殿下、いけません」
燎琉の褙子の下から顔を覗かせた瓔偲は、戸惑いを滲ませた小声で言った。
「御身が、濡れてしまいます」
わたしなどのために、と、瓔偲はつぶやく。
燎琉はそれに対し、むっとくちびるを引き結んだ。
「俺がお前を濡らしたくないんだ。何が悪い」
ぶっきらぼうに言う。
すると瓔偲は一瞬黙し、それから、すっと燎琉から顔を背けてしまった。
「こまります」
消え入りそうな声で、ちいさくこぼす。
「何が困るというんだ?」
燎琉が問うと、相手はなにやら言葉を探しあぐむふうだった。燎琉は、ふう、と、長い溜め息をついた。
「おとなしくしてろ。お前が暴れると、軒からはみ出した俺がもっと濡れるぞ。それでもいいのか?」
最後は半ば冗談のつもりで脅してやると、瓔偲ははっと息を呑んだ。
どうも脅しは効いたらしく、そのまま黙り込み、言われた通りに燎琉の腕の中におとなしく収まっている。その身体はどこか――あるいは、なぜか――緊張したように強張っていた。
「……どうして」
やがて、ぽつん、と、聞こえてきた声は、地面を打つ雨音に掻き消されそうなほどに頼りない。
もしかすると瓔偲は、それが燎琉に届かずとも、それでもよいと思っていたのかもしれなかった。だが、燎琉にはちゃんと聴こえた。だから、どうした、と、相手の顔を覗き込む。
瓔偲はまるで、迷子になって途方に暮れた子供のような表情をしていた。
「殿下はどうして……そんなにも、おやさしいのですか」
眉を寄せて問うてきたのは、そんなことだ。
「どうしてそんなに、わたしを……まるでだいじなものかなにかのように、扱ってくださるのですか。だってわたしは、癸性で、しかも、殿下のお邪魔にしかならぬような者なのに……ご婚約も、立太子も、だめにしてしまうような」
途方にくれたような瓔偲の口調は、けれども、わずかに燎琉を責めるような響きすら帯びていた。被けてやった褙子の隙間から、こちらを睨むように見る黒曜石の眸が、それなのに、ゆら、と、揺らいでいる。
そのたのみない眼差しに出逢った瞬間、燎琉は思わず瓔偲を引き寄せていた。ぐ、と、力を籠め、相手の身を己のほうへと近づける。
「べつに、ふつうだ。とくべつ何か考えてやってるわけじゃない」
こんなのはふつうのことだ、と、耳許にそう告げる。
「だからお前も変に気にするな。何も気にせず、おとなしくかばわれていればいい。これくらいのことなんでもないんだから」
そう続けると、それでも瓔偲は、頑固にちいさく頭を振った。
「だって、いままで誰も……癸性だとわかって以来、誰も……わたしのことを、そんなふうに扱ったりしなかった。こんなに無条件にだいじにしてもらったことなど……なくて」
言った瓔偲の柳眉が切なげに寄せられる。相手は、まるでひどくまぶしいものでも見るかのように、目を眇めて燎琉を見詰めた。
「それなのに、殿下は……どうして」
「だから……べつに特別な理由なんかない。それに、叔父上だってお前をだいじにしてたろう?」
燎琉が言うと、瓔偲はわずかにうつむいた。
「鵬明殿下は、公平な御方です。だから、仕事さえしっかりしていれば、それなりに使ってはくださいます。ただそれだけだと思います」
ほう、と、せつなく息をつくように言う。
「そんなわけはない」
叔父の名誉のためにも燎琉はそう思うが、瓔偲はどうやらそうは考えないようだった。
けれども、燎琉は容易には瓔偲の考え方を責められなかかった。なぜなら、瓔偲がそう思うのもまた、彼がこれまで不当に低く扱われてきた故なのかもしれない、と、そう思うからだ。
何に対するものか判然としない憤りが湧いてくる。
けれども、腹で蜷局を巻く重たい感情を燎琉が言葉にあらわせずにいるうちに、瓔偲のほうが言を継いだ。
「わたしは、殿下にとって邪魔でしかない者です。何の役にも立ちはしない。望まずつがってしまった相手、癸性の妃など、皇帝の命さえなければ、いますぐにも放り出したいでしょうに……どうしてですか? 殿下には、想う相手さえいらっしゃるのに」
瓔偲の口許にはほの笑みこそ浮かんでいるが、彼がいま見せる表情はまるで泣き出す寸前のそれのように見えた。
ざんざん、ざん、と、雨粒が地を、甍を、際限なく叩いている。わずかにうつむいた相手のひそめ眉がせつなくて、燎琉は思わず、瓔偲の形よいちいさな頭を己の肩に押しつけていた。
「普通だ。これが、普通……いままでお前が大事に扱われてこなかったというなら、そっちのほうが、間違いだ。癸性だろうがなんだろうが、役に立つとか立たないとか、そんなこととも関係なく、お前だって蔑ろにされていいわけがないんだ」
燎琉は瓔偲を抱く腕に力を籠めた。
「だって、そんなの、当然だろう? 蔑ろにされていい人間なんて、この世にいるはずがない。すくなくとも、俺はお前のことを……邪魔だなんて、思っていない。思っていないからな」
燎琉はなぜか必死になって、念を押すように、瓔偲の耳許に言い募っている。瓔偲はしばらくなにも言わず、その身体も強張ったままだった。
だがふいに、くた、と、その身から力が抜ける。それと同時に、ことりとこちらの肩に重みがかかった。
刹那、甘い百合の香が匂い立つ。
「殿下」
「……ん?」
「すこしだけ……こうしていても、いいですか。いまだけ……この雨の間だけですから」
すみません、と、この期に及んで申し訳なさそうにそう口にする瓔偲は、これまで一度も、こんなふうに、誰かに寄りかかったことなどなかったのかもしれない。それを思うと胸が詰まった。
「うん」
燎琉はちいさく答え、相手の背にそっと腕をまわして、瓔偲を改めて抱き締める。ずっとこうしていてやれるなら、もういっそ、雨などずっと已まなければいいのに、と、そう思った。
どれだけそうしていたか知れない。
晴れすらまた永遠には続かぬのと同じ理屈で、篠突くごとく、小已みなく地面を打ちつけていた雨も、ようよう小康を見せていた。向こうのほうでは雲も切れ、高く透明な秋空も覗いている。
空が明るくなってきたのを、燎琉は瓔偲を腕に抱えたまま顔を上げて確かめた。燎琉が身動ぎしたので、それまでおとなしく燎琉に身を添わせていた瓔偲も視線を上げる。
「雨……已みそうですね」
ほう、と、その言葉とともにそっと嘆息がこぼされるのは、彼もまたこの時間を、貴く、得難いものだと感じていたからだとしたらいい。燎琉はそんなことを考えつつ、そうだな、と、短く応じた。
その時だった。
「あ……」
ふと、瓔偲が大経のほうを見て声を上げた。同時に、燎琉の身体を押すようにして、ふたりの間に距離を取る。
いったい急にどうしたんだ、と、ふいに離れていってしまったぬくもりが惜しくもあり、いきなりの反応に目を瞠るうちに、燎琉もまた気が付いた。
国府と城とを隔てる城壁の、その南門のほうへむけて走って行く、一台の馬車がある。ゆっくりとこちらへ向かって近づいてくるその馬車には、宋家の札が下げられていた。
早く戻らねばひと雨あるかもしれない。ふたりはどちらからともなく、城壁の南門へ向けて、やや足早に歩きはじめた。
「ひと月前……わたしは間違いなく、吏部に首輪を預けております」
店からある程度離れたところで、隣を歩む瓔偲がつぶやくように言った。
「うん。そうだろうな」
燎琉はうなずいた。瓔偲と出逢ってまだわずかだが、その間に交わした会話などを思い起こしても、彼に限って、実は預け忘れたが記憶違いをしているなどということがあろうとは思えなかった。
瓔偲はたしかに、いまからひと月前に、首輪を手入れに出したはずなのだ。けれどもそれは、下請けの林珠寶店に預け入れられることはなかった。
そのことは、いったい何を意味するのか。誰がどの段階で、瓔偲の首輪に細工をしたのか。
燎琉は思案して、難しく顔をしかめる。
瓔偲の暮らす官舎に忍び込んで、隙を見てやったのでもない限り、それは瓔偲が吏部に首輪を預け、手元に戻されるまでの間になされたのではなかったのか。林珠寶店に首輪を預かった記録がないことからみても、そう考えるのが自然なように思われた。
そうなると、導き出される結論がある。
「吏部か」
無意識につぶやいた。
「薬も、たしか吏部の医局で処方してもらっていると言っていたな」
燎琉の確認に、瓔偲は、はい、と、頷いた。
「吏部……」
もう一度そう言ったとき、燎琉は、瓔偲がなにか考え込むように地面を見詰めているのに気が付いた。
「どうかしたか?」
燎琉が不審に思って訊ねたときだった。天から一条、すぅっと銀糸が流れ落ちた。
雨だ。
燎琉ははっとして、反射的に羽織っていた褙子を脱ぐと、瓔偲に頭からかぶせかけた。
「こっちへ」
肩を抱くようにしながら促して、一緒に近くの軒先へ走り込む。
雨は見る間に篠突くごとくの降り方になっていた。狭い軒の下、燎琉は瓔偲を雨粒からかばうように、その身を抱え込みながら立っている。
「殿下、いけません」
燎琉の褙子の下から顔を覗かせた瓔偲は、戸惑いを滲ませた小声で言った。
「御身が、濡れてしまいます」
わたしなどのために、と、瓔偲はつぶやく。
燎琉はそれに対し、むっとくちびるを引き結んだ。
「俺がお前を濡らしたくないんだ。何が悪い」
ぶっきらぼうに言う。
すると瓔偲は一瞬黙し、それから、すっと燎琉から顔を背けてしまった。
「こまります」
消え入りそうな声で、ちいさくこぼす。
「何が困るというんだ?」
燎琉が問うと、相手はなにやら言葉を探しあぐむふうだった。燎琉は、ふう、と、長い溜め息をついた。
「おとなしくしてろ。お前が暴れると、軒からはみ出した俺がもっと濡れるぞ。それでもいいのか?」
最後は半ば冗談のつもりで脅してやると、瓔偲ははっと息を呑んだ。
どうも脅しは効いたらしく、そのまま黙り込み、言われた通りに燎琉の腕の中におとなしく収まっている。その身体はどこか――あるいは、なぜか――緊張したように強張っていた。
「……どうして」
やがて、ぽつん、と、聞こえてきた声は、地面を打つ雨音に掻き消されそうなほどに頼りない。
もしかすると瓔偲は、それが燎琉に届かずとも、それでもよいと思っていたのかもしれなかった。だが、燎琉にはちゃんと聴こえた。だから、どうした、と、相手の顔を覗き込む。
瓔偲はまるで、迷子になって途方に暮れた子供のような表情をしていた。
「殿下はどうして……そんなにも、おやさしいのですか」
眉を寄せて問うてきたのは、そんなことだ。
「どうしてそんなに、わたしを……まるでだいじなものかなにかのように、扱ってくださるのですか。だってわたしは、癸性で、しかも、殿下のお邪魔にしかならぬような者なのに……ご婚約も、立太子も、だめにしてしまうような」
途方にくれたような瓔偲の口調は、けれども、わずかに燎琉を責めるような響きすら帯びていた。被けてやった褙子の隙間から、こちらを睨むように見る黒曜石の眸が、それなのに、ゆら、と、揺らいでいる。
そのたのみない眼差しに出逢った瞬間、燎琉は思わず瓔偲を引き寄せていた。ぐ、と、力を籠め、相手の身を己のほうへと近づける。
「べつに、ふつうだ。とくべつ何か考えてやってるわけじゃない」
こんなのはふつうのことだ、と、耳許にそう告げる。
「だからお前も変に気にするな。何も気にせず、おとなしくかばわれていればいい。これくらいのことなんでもないんだから」
そう続けると、それでも瓔偲は、頑固にちいさく頭を振った。
「だって、いままで誰も……癸性だとわかって以来、誰も……わたしのことを、そんなふうに扱ったりしなかった。こんなに無条件にだいじにしてもらったことなど……なくて」
言った瓔偲の柳眉が切なげに寄せられる。相手は、まるでひどくまぶしいものでも見るかのように、目を眇めて燎琉を見詰めた。
「それなのに、殿下は……どうして」
「だから……べつに特別な理由なんかない。それに、叔父上だってお前をだいじにしてたろう?」
燎琉が言うと、瓔偲はわずかにうつむいた。
「鵬明殿下は、公平な御方です。だから、仕事さえしっかりしていれば、それなりに使ってはくださいます。ただそれだけだと思います」
ほう、と、せつなく息をつくように言う。
「そんなわけはない」
叔父の名誉のためにも燎琉はそう思うが、瓔偲はどうやらそうは考えないようだった。
けれども、燎琉は容易には瓔偲の考え方を責められなかかった。なぜなら、瓔偲がそう思うのもまた、彼がこれまで不当に低く扱われてきた故なのかもしれない、と、そう思うからだ。
何に対するものか判然としない憤りが湧いてくる。
けれども、腹で蜷局を巻く重たい感情を燎琉が言葉にあらわせずにいるうちに、瓔偲のほうが言を継いだ。
「わたしは、殿下にとって邪魔でしかない者です。何の役にも立ちはしない。望まずつがってしまった相手、癸性の妃など、皇帝の命さえなければ、いますぐにも放り出したいでしょうに……どうしてですか? 殿下には、想う相手さえいらっしゃるのに」
瓔偲の口許にはほの笑みこそ浮かんでいるが、彼がいま見せる表情はまるで泣き出す寸前のそれのように見えた。
ざんざん、ざん、と、雨粒が地を、甍を、際限なく叩いている。わずかにうつむいた相手のひそめ眉がせつなくて、燎琉は思わず、瓔偲の形よいちいさな頭を己の肩に押しつけていた。
「普通だ。これが、普通……いままでお前が大事に扱われてこなかったというなら、そっちのほうが、間違いだ。癸性だろうがなんだろうが、役に立つとか立たないとか、そんなこととも関係なく、お前だって蔑ろにされていいわけがないんだ」
燎琉は瓔偲を抱く腕に力を籠めた。
「だって、そんなの、当然だろう? 蔑ろにされていい人間なんて、この世にいるはずがない。すくなくとも、俺はお前のことを……邪魔だなんて、思っていない。思っていないからな」
燎琉はなぜか必死になって、念を押すように、瓔偲の耳許に言い募っている。瓔偲はしばらくなにも言わず、その身体も強張ったままだった。
だがふいに、くた、と、その身から力が抜ける。それと同時に、ことりとこちらの肩に重みがかかった。
刹那、甘い百合の香が匂い立つ。
「殿下」
「……ん?」
「すこしだけ……こうしていても、いいですか。いまだけ……この雨の間だけですから」
すみません、と、この期に及んで申し訳なさそうにそう口にする瓔偲は、これまで一度も、こんなふうに、誰かに寄りかかったことなどなかったのかもしれない。それを思うと胸が詰まった。
「うん」
燎琉はちいさく答え、相手の背にそっと腕をまわして、瓔偲を改めて抱き締める。ずっとこうしていてやれるなら、もういっそ、雨などずっと已まなければいいのに、と、そう思った。
どれだけそうしていたか知れない。
晴れすらまた永遠には続かぬのと同じ理屈で、篠突くごとく、小已みなく地面を打ちつけていた雨も、ようよう小康を見せていた。向こうのほうでは雲も切れ、高く透明な秋空も覗いている。
空が明るくなってきたのを、燎琉は瓔偲を腕に抱えたまま顔を上げて確かめた。燎琉が身動ぎしたので、それまでおとなしく燎琉に身を添わせていた瓔偲も視線を上げる。
「雨……已みそうですね」
ほう、と、その言葉とともにそっと嘆息がこぼされるのは、彼もまたこの時間を、貴く、得難いものだと感じていたからだとしたらいい。燎琉はそんなことを考えつつ、そうだな、と、短く応じた。
その時だった。
「あ……」
ふと、瓔偲が大経のほうを見て声を上げた。同時に、燎琉の身体を押すようにして、ふたりの間に距離を取る。
いったい急にどうしたんだ、と、ふいに離れていってしまったぬくもりが惜しくもあり、いきなりの反応に目を瞠るうちに、燎琉もまた気が付いた。
国府と城とを隔てる城壁の、その南門のほうへむけて走って行く、一台の馬車がある。ゆっくりとこちらへ向かって近づいてくるその馬車には、宋家の札が下げられていた。
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