【続篇完結】第四皇子のつがい婚―年下皇子は白百合の香に惑う―

熾月あおい

文字の大きさ
43 / 60
六章 第四皇子、白百合を冀う。

6-7 華燭洞房(二)*

しおりを挟む
「よかった……いやでなくて」

 瓔偲えいしの言葉を聴いて、燎琉りょうりゅうは、ほう、と、息を吐いた。

「つづき、していいか?」

「は、い……」

「いやだったら、ちゃんと言えよ」

「はい。でも……ほんとうに、いやなどでは、ないです。むしろ、殿下の手がふれてくださったところ、さっきから、ぜんぶ熱くて……」

 どうしようかと、と、瓔偲が目を伏せがちにしつつそんなことをつぶやいた。その刹那、かっと全身が熱くなって、くらくらして、燎琉は堪らず瓔偲を抱き締め、狂おしく愛撫を再開した。

「っ、ぅ」

 熱心に胸を撫でていたてのひらの、指の腹がふと尖りに触れたとき、瓔偲は驚いたように身をふるわせた。

「いたかったか」

「い、え」

 口許を押さえて、かぶりをふる。ふう、ふう、と、漏れる息は甘ったるく、相手の頬は快楽のためにほんのりと染まっていた。

 だから今度は、かりかり、と、爪の先で引っ掻いくようにいじってやる。と、そこはふっくりと愛らしく立ち上がった。つまんだり、指で押しつぶすようにしてみると、あ、あ、あ、と、瓔偲はてのひらで押さえた口から、こらえきれない甘い喘ぎをちいさく漏らした。

「かわいい」

「あ……お、おたわむれ、を」

「戯れなものか。ほんとうに誰よりかわいいと思ってるだけだ」

 言ってやると、瓔偲は黙ったままで、はたはた、と、瞬いた。涼やかな目許に恥じらいが浮かんでいる。その様がなおいっそうに可愛らしく見えた。

 繍菊しゅうぎく殿でんで対面した時、いかにも官吏然として、凛と澄んだ佇まいを見せていた相手と同一とは、信じられないくらいだ。こんな瓔偲は、きっと、つがいである燎琉しか知らない。この先も番である己以外の誰も知ることはありえないのだ、と、そう思うと、胸のどこかが途轍もなく深く満たされていく気がした。

「瓔偲……俺の、瓔偲」

 発情にてられているわけでもないのに、身体はもどかしいほどの熱を溜めていた。白百合の香が燎琉を誘う。

「瓔偲」

 彼の名を耳許に熱っぽく囁きつつ、白い胸にもくちづけを落としていく。自分もきぬを脱ぎ捨てて、相手の左胸に懐くと、ことこと、ことこと、と、早鐘みたいな鼓動が聞こえていた。

 胸の尖りは、燎琉に指先でくりくりといじられて、両方ともぷくりと健気に立ち上がっている。それを舐めて可愛がってみたくなって、燎琉は慾のはしるままに、そこにくちびるを近づけた。

 吐息がかかるだけでも刺激になるのか、瓔偲は口許に手をやって、なにかを堪えるような表情をする。それもまた、かわいい。けれども、我慢なんかせずに、もっと存分に、恥もてらいもかなぐり捨てて、乱れてくれればいいのに、とも、思う。

 だから燎琉はすこし赤さを増したように見える瓔偲の胸のいただきを、ついにぱくりと口に含んだ。ちう、ちゅう、と、軽く吸いつく。ちろちろ、と、舌先でからかうように舐めてみる。

「ぁ、あん……あ、っ、ぁ、ぁ、殿、下……」

「ん……ちゃんと、きもちいい、か?」

「あ、わ、わかりま、せん……あ、あぁ、んっ」

「いやではないか?」

「は、い……なんだか、ぞわぞわ、します。ん、んあ」

 身体を駆け抜ける愉楽をそんな言葉で表現してみせた。どうやら相手が快美を得ているらしいとわかって、燎琉は、よかった、と、息を吐く。瓔偲の反応に満足げに笑みを深めつつ、さらにしばらく、そこへの愛撫を続けた。

 同時に手を相手の下肢へと伸ばしていく。すそを割って、やわい内腿をするりと撫でたら、瓔偲の身体はちいさく跳ねた。

「あ……」

 ぞわぞわします、と、瓔偲はまた、目を潤ませながらそう訴えてくる。

 けれども、今度も決して厭がっているふうはなかった。馴染みのない愉楽に、打ち寄せる波のように次から次へと襲われて、ただひたすら戸惑うようだ。

 燎琉は軽く力を籠めて、瓔偲の両腿を開かせる。あわいに指を這わせると、そこはしっとりとうるおいを帯び始めていた。

 燎琉の愛撫を受けて、燎琉を胎内に受けとめる用意を、いま、瓔偲の身体は整えつつあるのだ。そう思うと、ぞくぞく、と、背筋を言明しがたい感情が脳天まで駆け抜けた。

 こく、と、無意識に喉が鳴る。

 燎琉は、ゆるゆる、と、指で瓔偲の秘められたつぼみを撫でた。そのまま、つぷ、と、中指の先を含ませる。

「ひ、ぅ……」

 そのとき、瓔偲が息を詰めたのがわかった。濡れてはいるが、そこはまだまだ固くつぼんだまま、かたくなだ。燎琉がもう片方の手で膝裏を抱え上げるようにすると、無理にこじられると思うのか、瓔偲がわずかに怯えを見せた。

「殿、下……」

 呼ぶ声にもかすかな不安が滲んでいる。

「だいじょうぶ」

 痛い想いも、怖い想いも、それからつらい想いも、燎琉は今夜のこのとこで、瓔偲にさせたくはなかった。させるつもりもない。

 痛くとも怖くともつらくとも、きっと、瓔偲はぜんぶをこらえてしまう。それは厭だった。自分を抑えさせたくはない。今宵は、きもちいい、しあわせだ、と、ただそれだけを味わってほしい。

 燎琉はいったん瓔偲の中から指を抜いた。そして両腕で瓔偲の腰を抱えるように抱いて固定すると、すらりとした白い肢の間で立ち上がりかけているものに、ゆっくりとくちびるを寄せる。

「え……?」

 瓔偲は戸惑った声をあげた。

「あ、や、なに……っ? ひ、ぃ……あ、あ、あぁ……っ!」

 ゆるく立ち上がりかけている相手の花茎をぱくりと口に含んで、そのまま舌を絡め、頬の肉で締め付けるように刺激しながら吸ってやると、瓔偲は半狂乱になった。必死で燎琉の頭を押しのけようとしてくる。だが燎琉は瓔偲を離さず、ますます彼の愛らしい花茎を舐めしゃぶった。

「あ、あ、だめ、やぁ、あん、ァ……殿下、殿下、アッ、そのような、いけませっ……あ、アン、や、ん」

 だめだ、と、相手は遮二無二、かぶりをふる。ふぅ、ふぅ、と、乱れた熱い吐息が、ひっきりなしに聴こえていた。

「んん、んあ、あぁん、ア、ア、アァ――……ッ!」

 ついに身体を突っ張らせる。同時に、燎琉の口の中に、とぷ、と、瓔偲が気を吐いた。

 白百合のような、凛として清冽で、けれども甘い香気が匂い立つ。

 理性をとろけさせる包荒に恍惚としながら、燎琉は喉を鳴らして瓔偲の吐いた蜜を嚥下した。

「あまい」

 つぶやくと、うそ、と、熱に目を潤ませて瓔偲が反論する。

「嘘なものか。お前はぜんぶが甘いよ。あまい、いい匂い……最初から、そうだった」

 そうだ、たぶん最初から、燎琉は瓔偲に惹かれていた。誰かの企みによって自分たちがつがったのだというのなら、それはまさに、天のはかりごとだったのではないか、と、そうおもう。

「な、瓔偲……そのまま、力、抜いていられるか」

 もっとお前を味わいたいんだ、と、請うように言って、燎琉は再び瓔偲の後ろの莟に触れた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!

水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。 それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。 家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。 そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。 ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。 誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。 「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。 これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。

処理中です...