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3:俺、美希ちゃんが好き。
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「おいハル、いつまで寝てんだよ」
「いたっ」
時計の針の音だけが響いていた、見慣れた友達の部屋。
ベッドを借りて上に寝転んでいたら、友達の神崎慎也がそう言って俺の額にデコピンをした。
慎也とは高校に入学してからの仲で、学校は違うけど仲が良い。
その声に目を開けると、目の前には俺の顔を覗き込んでいる慎也がいた。
「…もうちょっと」
「もうちょっとじゃねぇし。もう22時だし。お前そろそろ自分家帰れよな」
「…」
そして俺の言葉に慎也はため息交じりにそう言うと、俺が被っていた布団を剥ぎ取る。
やーめーてーよー
そんな慎也に布団を奪い取ろうとしたら、それを遮るように慎也が言った。
「なに、また何かあった?」
「!」
「だってお前が俺ん家来る時は、たいてい幼なじみちゃんのことで悩んでる時だろ?」
そう言って、「また俺様が聞いてやろうか?」なんて憎たらしく笑う。
……その時、脳裏に思い浮かぶのは…
さっきの生徒玄関で、美希ちゃんと持田くんが手を繋いでいたあの姿…。
美希ちゃんには「先に帰って」って言われていたけど、心配だからって生徒玄関でずっと待っていた俺。
だって、こんな暗いなか美希ちゃんを独りで歩かせたくなかったし。
それに何より、「ハル、待っててくれたの!?」なんて、正直そんなありもしない展開を密かに期待してた。
けど、さっき美希ちゃんの隣にいたのは………
「………何で、俺っていつもこうなのかなぁ」
「…ん?」
紛れもなく、あの持田くん。
俺はベッドに寝転がると、うつ伏せになったまま慎也に言った。
「さっきね、美希ちゃんと二人で学校から帰る時…」
「うん、」
「美希ちゃんが忘れ物したっていうから、生徒玄関で待ってたの。先に帰ってって言われたんだけどね、」
「…うん」
「でも…美希ちゃん、生徒玄関に戻ってきたと思ったら、他の男と一緒だった。しかも、俺の友達。手も繋いじゃってた」
俺はそこまで話すと、「はぁー…」って盛大なため息をつく。
思い出すだけでもう、凄い悲しい。
しかし…そう思っていたら、俺の話を聞いていた慎也が容赦なく言った。
「ハル、お前重すぎ。その美希ちゃんがカワイソーだろ」
「!!」
そう言うと、俺の頭を軽くベシッて叩く。
「いたっ!?」
な、何するんだよ!
突然のそんな言動に俺が両手で自分の頭を押さえると、慎也が言葉を続けて言った。
「お前は、そもそも幼なじみ離れが出来てないんだよ」
「お、幼なじみ離れって…美希ちゃんから離れるなんてヤだよ!」
「だーかーら、そういうのがその美希ちゃんってコからすれば重荷になるんだよ。お前らはたかが幼なじみであって、恋人じゃねーじゃん」
「!」
慎也はそう言うと、目を細めて「はぁー」と息を吐く。
……でも、いきなしそんなこと言われたって。
俺はずっと美希ちゃんの傍にいたいし。
ってか、いつも寂しい思いをしている美希ちゃんだから、俺が傍にいなきゃなんだ、絶対!
しかし俺がそう思っていたら、慎也がまた口を開いて言った。
「ハル、お前それが出来ないならいい加減告れ」
「!!…っ、な、なんでそうなる…っ!」
「そりゃそうだろ。いつまでも告白出来ないで良い奴ぶって、幼なじみ離れが出来ずにちょっと嫌なことがあると俺ん家でそうやってウジウジ…」
「…ひ、ひどい…」
慎也はそう言うと、「だから、さっさと告ってさっさと楽になれ」なんて言葉を付け加える。
…いや、そりゃあこの俺だってね。
今まで、告白を考えた時だっていっぱいあったよ。
でも、いっつもできなかった。
いつもいつもいつもいつも、美希ちゃんの心の中には俺じゃない春夜がいて、美希ちゃんは春夜ばっかりだったから。
「…そんな簡単に告白が出来たら苦労しないよ」
「じゃあまたこれからもそうやって事あるごとにウジウジ悩むんだ?」
だけど俺の言葉に慎也がそう言うと、また痛いところをついてくる。
…ああ…そんなこと言わないでよ。
「いつまでもそんなことしてたら、そのうち別の男にとられるぞ」
「……でも、美希ちゃんはどーせ、俺なんてただの幼なじみだし。フラれるに決まってるもん」
「ばーか。結果なんて関係ねぇの。今とにかく大事なのは、伝えることだろ」
「!」
「美希ちゃん、いつも寂しい思いしてんだろ?お前がいなきゃなんだろ?ハルいつもそう言ってんじゃん。
だったらさっさと告白して、他の誰でもないお前が傍にいてやれ」
慎也は力強くそう言うと、うつ伏せになったままの俺の背中を叩く。
…幼なじみから、恋人に…。
確かにそれは、本当に憧れるけど……
でも、無理だよ。
しかしそう言おうとしたら、また慎也が言った。
「わかった!」
「…?」
「ハルが告れるように、この俺様が協力してやる!」
「…えっ!?」
「映画か…あ、遊園地?水族館?とかそういうテーマパークに数人で行って、お前と美希ちゃんを二人きりにさせてやるよ」
「え、い、いや、いきなしそれはマズイ…!」
突然の慎也の提案に、告白が出来ない弱虫な俺は即座に拒もうとするけれど…
時、既に遅し。慎也はキラキラした目で、話を続ける。
「なにがマズイんだよ、大チャンスだろ!好きって一言言えばいいだけの話だろうが!
それに俺、その美希ちゃんってコとまだ直接会ったことなかったし、会ってみたい気もする」
「!」
慎也はそう言うと、「じゃあ決まりな」って早速カレンダーに目を遣る。
え……何これ。決定?本当に決定なの?
ちょっと待ってよ、俺心の準備がまだ……。
「じゃ、じゃあそれ、来年にしない?来年だったら俺いつでもおっけ、」
「ばかやろー、それじゃあおせーよ」
しかも俺が慌ててそう言ってみても、慎也は聞いてくれない。
それじゃあおせーって、もう既に告白なんて、遅い気がするけど……。
「ハル!」
「!」
そして俺が独り青くなっていると、ふいにカレンダーから目を逸らした慎也が、俺に言った。
「告白の時、美希ちゃんに好きって伝えたら、すぐに抱きしめてチューしろよ」
「!!なっ…」
何言い出すんだ急に!
俺はそんな突然の言葉にすぐに顔を真っ赤にすると、慌てて慎也に言う。
「ば、バカじゃないの!美希ちゃんをだっだだ抱きしめてチチチチチューとかっ…出来るわけないよ!」
「え、何で?俺はたいていそれで彼女作ってるけど」
「慎也は慎也!俺は俺!」
そして俺は半ば興奮ぎみでそう言うと、真っ赤な顔を必死で抑える。
でも、慎也は止まらない。
「いやハル、女はそういうギャップに弱いんだよ」
「……え?」
「お前みたいな普段子供っぽい奴が、いきなりチューしてきたり男らしいとこ見せたら、美希ちゃんも落ちるって」
そう言って、俺の気も知らないで悪戯に笑うそいつ。
…一方、そんなことを聞かされた俺は、思わず頭の中で美希ちゃんとのキスシーンを想像しちゃって、
恥ずかしすぎんのとドキドキしちゃって苦しいのとで、もう帰ろうかな(逃げようかな)…なんて。
ってかてか、いくらなんでもそんな簡単に落ちないでしょ!
「っ…も、俺帰る!」
そう言って俺はベッドを飛び出すと、逃げるようにして慎也の部屋を出た。
「おっお邪魔しましたー!」
「…、(やーっと帰った)」
そしてその後はもう見慣れた階段を駆け下り、玄関で靴を履くと真っ暗な外に出る。
そこはかなり涼しいけれど、顔だけは熱くなちゃってて。
おさまれ、おさまれって…ほっぺたを両手でパンパンしてみるけど、変わらずまだ熱いまま。
だって、今までの人生の中で俺は告白なんて一回もしたことがないのだ。
み、美希ちゃんにそんなことを言うなんて、簡単なようで俺には難易度が高すぎる。
「~っ、うーあーっ!」
俺はさっきのことやこれからのことを少し考えると、居てもたってもいられなくなって、
そんなよくわからない声を上げて(もちろん、控えめにね)慎也の家の前を後にした。
…声に出さなくても、なんとなくで美希ちゃんに伝わっちゃえばいいのに…。
******
そして、翌朝。
俺はいつもより早めに家を出ると、独りで学校に向かった。
生徒玄関に到着して靴を履きかえると、何だか昨日の嫌な出来事がまた頭に浮かんで…。
…美希ちゃん…
そう思って思わず不安になるけれど、その後慎也から言われた「重い」という言葉を思い出して、すぐに首を横に振る。
何のために今日独りで登校してるんだよ。
俺はいつもなら朝も美希ちゃんと一緒に登校していたけれど、今日はあえてそれをやめた。
確かに慎也の言う通り、いつまでも「美希ちゃん、美希ちゃん」じゃホントに重たい気がするし。
それに、今朝のうちに美希ちゃんにラインで「今日は独りで学校に行く」って伝えておいたけど………返事はまだ来てないや。
まだ見てないのかな。
俺は独りそう考えると、やがて教室に向かった。でも、
「…あ、」
しばらくしてようやく教室に到着した時、一番乗りだと思っていたそこには、もう既に他の生徒が登校していた。
…持田くんだ。
持田くんは他には誰もいない教室で本を読んでいたけど、俺の微かな声でふと顔を上げる。
…よりによって、先に来てるのが持田くんなんて。
出来れば今は、こうやって会いたくなかったな。
俺は内心そう思いながらも、下手くそな笑顔で言った。
「よ…よっ、持田くん。早いんだね、」
そう言って、自分の席である持田くんの真後ろに座ると、持田くんが本に目を戻して言う。
「そうですか?いつも通りですが」
「そ、そう」
「それより、大野くんこそ早いですね。今日は何かあるんですか?」
持田くんはそう言うと、嫌な緊張を覚える俺の返事を待って…。
…今、聞いてしまおうか…
俺がそう思って口を開くと、その前に持田くんが言葉を続けて言った。
「…珍しく、菅谷さんの姿も見えないですね」
「!」
そんな言葉とともに、本のページを捲る音が聞こえてくる。
…“菅谷さん”…
…い、今だ。きっと、聞くなら今しかない。
そう思うとますます緊張するけれど、こんなの美希ちゃんへの告白を考えたらまだたいしたことないし。
俺は自身の制服の裾をぎゅっと掴むと、目の前の後ろ姿に問いかけた。
「あ、あのっ…持田くん!」
「…?」
俺がそう呼ぶと、持田くんが顔を上げてこっちを振り向く。
「何ですか?」ってそう言う声と表情に、俺はもっと緊張しながらもはっきりと言った。
「きっ昨日…昨日の放課後、生徒玄関で、美希ちゃんと手繋いでたよね!!?」
「!!」
俺がそう言うと、次の瞬間持田くんはほんの少しだけ目を見開いた。
う、わ…言った。
言ってしまった。
もう後戻りは出来ない、どうしようっ…。
しかも俺がそう思っている一方で、持田くんは何故か固まったままなかなか返事をしてくれない…。
「………あの…持田くん?」
「!」
持田くんがあまりにも固まっているからやがて俺がそう呼び掛ければ、持田くんは我に返ったようにやっと返事をした。
「あ、ああっ…はい、」
「…」
「……そう、ですね。繋いでました、手」
「!!」
持田くんはそう言うと、自身の頭を少しだけ掻く。
…やっぱり見間違いじゃなかったんだ。
俺がそう思って、「…そう」と沈んだ声で相槌を打ったらまた持田くんが言った。
「っ…ですが、大野くんが不安がっているようなことは、絶対にありません!」
「……え?」
その言葉に俺が持田くんを見遣ると、持田くんが言葉を続ける。
「手を繋いでいたのは、決して菅谷さんと良い雰囲気だったとかではなくて、菅谷さんが真っ暗な廊下を怖がるからっ…」
「!」
「せめて手を繋いであげたら、まだマシかもと思ってやったんです、すみません」
持田くんはそう言うと、「だから、大丈夫ですよ」と必死に俺にそう伝える。
…持田くんは俺の美希ちゃんへの気持ちを知らないはずなのに、まるでその様子は知ってるような雰囲気。
…あ、っていうか、普通「手を繋いでた」とか聞かれたら誰だって予想くらいつくか。
俺はそう思いながらも、持田くんに言った。
「ほ、ほんと?本当に何もない?」
「はい、ほんとです。大丈夫ですよ」
「っ…でも、暗闇で手を繋いでたらちょっとくらいドキドキするんじゃっ…!」
しかし俺がいつまでもそう不安でいると、次の瞬間持田くんがはっきりと言う。
「それはあり得ません」
「!」
「大野くんだって知ってるでしょう。俺は…“アイツ”以外興味ありませんから」
持田くんはそう言うと、俺に背を向けてまた読書を再開させてしまう。
………あ、
「…そ、だよね。ごめんね」
「…」
…そうだった。つい、忘れかけていた。
持田くんが言った“アイツ”の存在。
持田くんには、もう5年くらい片思いをしている相手がいる。
だから…最初から、不安がることなんてなかったんだ。
それに、美希ちゃんだってまだ…春夜のことが好きだと思うし。
俺はそう思ってまだ少しだけモヤモヤしている心をし舞い込むと、やがて持田くんの後ろでスマホを取り出した。
…あ、美希ちゃんからラインの返事が来てる。
そのことに気がついて慌ててラインを開いてみると、そこには美希ちゃんにしてはらしくない文章が…。
“えーっ、何で!?一緒に行こうよ!”
「……」
…やっぱり、寂しいのかな?
慎也、俺には幼なじみ離れなんて無理だよ。
………………
それから、数時間後。
昼休みになってまたスマホを開いてみると、そこには今度は慎也からラインが届いていた。
…ん、あれ?珍しい。
そう思って早速開こうとするけど……何だか嫌な予感。
美希ちゃんへの告白のことを書いてあったりとか…?
そう思いながら恐る恐るラインを開くと、そこには絵文字顔文字一切なしでこう表示されてあった。
“ハル!昨日の話、今週の日曜日な!
美希ちゃんもちゃんと誘って、告白がんばれよ!”
「!」
…うわ、やっぱり。
だから、俺には無理だって。
俺は慎也のラインにため息をつくと、頭を抱えて返信を打つ。
“告白とか、ほんとに無理ですお願いしますやめてください”
そしてそれだけを打って、すぐに送信。
だけど、その後返ってきたラインには…
“じゃあ美希ちゃん、他の男にとられてもいいんだな?”
…なんて、またそんな意地悪な言葉が並んでいた。
もー、そんなこと言わないでってばぁー。
“それはやだ”
“だったら告れ”
“無理”
“じゃあ美希ちゃんは俺がもらうー”
「!!」
……はっ!?
そして何回かラインのやりとりをしていくうちに、弱虫な俺のところに最後に届いたのは目を疑いたくなるようなそんな言葉。
え…し、慎也が美希ちゃんを…?
うわ、でもコレ実際にありそう!
絶対やだ!
「~っ、慎也のバカヤロー」
そして、そんな慎也に俺が夢中になって返信を打っていると…
「ちょっと、ハル!」
「!?」
そこで突然、俺は美希ちゃんに声をかけられた。
ってか、その声…もしや怒ってる?
「な、ななな何!?」
そんな美希ちゃんの声に俺がビックリしてそこを見ると、美希ちゃんが俺の腕を掴んで言った。
「!」
「何じゃないよ、今から生徒会活動!相談に乗ってほしいって生徒が今日も来てるんだから!」
「!!あっ」
「もー、ハルがいなきゃ落ち着かないじゃーん」
美希ちゃんはそう言うと、俺の腕を掴んだままぐいぐいと引っ張って生徒会室に向かって行く。
あれ、何これ。この頼られてる感じ。
何かすっごく嬉しい!
俺は美希ちゃんの言葉にそう思いながら、
「そ…そんなに俺が必要?」
すごくドキドキしながらそう聞くと、美希ちゃんが言った。
「当たり前」
「!」
「相談の時、あたしを抑えられんのはハルだけだもん。あたしすぐ熱くなっちゃうし、なかなか自分でも抑えきれないから」
美希ちゃんはそう言うと、「だから今日もよろしくね」って言葉を続ける。
わ…なんか嬉しい。
それ、凄い幸せ!
何、その俺にしか出来ない感じ!
俺はそんな美希ちゃんからの言葉を貰うと、思わずドキドキしちゃったままその後ろ姿を見つめる。
そしてふいに、さっきのラインでの慎也とのやりとりが頭の中に浮かぶ。
…告白は、無理…かもしれないけど…
だけど学校以外でも、美希ちゃんに会いたいから…。
俺は生徒会室に入る直前で、思い切って美希ちゃんに言った。
「あ、あの、美希ちゃん!」
「…なに?」
「こ、今度、遊園地とか行きたいと思わない!?」
俺がそう言うと、美希ちゃんはふと俺の方を振り向いて「…何トツゼン」って呟く。
でも、ここまで言えたんだし。
「俺の友達もいるんだけど…美希ちゃんも行こうよ!遊園地!」
そして俺が勇気をだしてそう言ったら、美希ちゃんは少し考えたあと笑顔で頷いてくれた。
「…うん、じゃー行く」
「!!」
「楽しみにしてるね」
そう言って屈託のない笑顔で笑った美希ちゃんが、俺には天使に見えた。
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