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第一章
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会社に辞表を出した。
十年勤めた整備工場を辞めたのだ。
理由はこれと言ってないが、十年一区切りのつもりと、親友の緋村孝雄の死も関係あるのかもしれない。
緋村は探偵で、ある事件を調査中に背後から拳銃で撃たれ、妻の沙知代と一人息子の孝文を残して逝ってしまった。
俺の心にもぽっかりと穴が空いてしまった気分だ、出来るなら復讐してやりたい、そんな気持ちもあった。
俺は特に事情聴取もされなかった。
マンションに戻ると、仕事で使っていた参考本や書類を捨てたが工具箱だけは捨てきれずにいた。
貯金は多いのか少ないのかわからないが、あまり派手な遊びはしなかったので退職金を合わせて一千二百万円あった、暫く働かなくとも食って行けるだろう。
緋村から探偵のいろはは教わっていたが、俺には向いていない気がして整備士を続けていたのだ。
緋村の口癖だったのは。
「頭脳派の俺と肉体派のお前が組めば最強じゃないか」
だった。
俺は学生時代いろいろな格闘技を習っていた、どれも広く浅くだったが強さには自信があった。緋村は興味なさ気に帰宅部だった。
残された沙知代と孝文は保険金で何とかやっていけるだろう。
翌日、緋村の家に行き線香をあげた。
「俊輔さん、ありがとう」
沙知代はやつれていた、孝文もお父さんはもういないって事を理解しているようだ。
「そうそう、俊輔さん主人から俺が死んだら荒木に渡してくれって、預かり物がありますの」
カバンが一つ渡された、その場で開け中身を確認したが、緋村の調査中の書類のようだった。
「警察には渡さなかったんですか?」
「ええ、隠しておくようにと言われておりましたから」
とりあえず中身を戻し家に持ち帰った。
家で中身を細かく見る、難しい書類ばかりでさっぱり分からなかったが、俺宛に手紙が一通入っていた。
「荒木、これをお前が読んでいるって事は俺は死んだんだな、俺に変わって事件を解決して欲しい、依頼主は姫野徹って男だ、盗まれた物を回収して欲しい、簡単な事件のようだがヤクザが絡んでいる、頼んだ」
これだけじゃ全然内容がわからないし、ヤクザが絡んでいるなら御免被りたい。
しかし、死んだ緋村の遺言だ、何とかしてやりたい気分もある。
姫野徹の会社や住所や電話番号の書いたメモもあった。不動産を経営しているようだ。
三日ほど考えた、三日目の夜のニュースで姫野徹が殺害された事を知った。
どんな男だったのか見るため葬儀に行ったが、大豪邸で結構人は多かった。受け付けで名前を書き葬儀の列に入る。頑固そうな五十代程の男の写真が飾られている。
帰ろうとしたら女性から声を掛けられた。
「もしかして荒木さんかしら」
「ああ、俺が荒木だがあんたは?」
「申し遅れました、姫野由香里といいます」
かなり疲れた表情をしている。
「何で俺を知っている?」
「私は緋村の従兄弟です、写真を見た事があったのですぐにわかりました」
「で、用事は何かな」
「はい、緋村が今回の依頼で俺が失敗したら荒木が何とかしてくれると言ってました」
「俺は探偵じゃないし、警察に頼んだ方がいいんじゃないか?」
「警察にも言いましたが、父の殺害の捜査で忙しいみたいで話も聞いてくれません」
父と言うことは娘か、整った顔立ちをしている。
「俺が緋村の依頼を受け継ぐとでも思っているんだったら、申し訳ないが断るよ」
手を挙げ家に帰った、断ったものの緋村を殺した奴は許せなかった、例え相手がヤクザであってもだ。
翌日の朝、由香里がマンションまで来た。
仕方ないので家に入れてやりコーヒーを出す。
改めて名刺を出された。副社長と書いてある。
「あんた母親はいないのか?」
「はい、肝臓病で数年前に亡くなりました」
「って事は今度はあんたが社長か?」
「そういう事になります、改めて昨日の続きを話したくて来ました」
「俺は探偵じゃないぞ、元整備士だ」
「元、って事は今はお辞めになったと言う事でしょうか?」
「そうだ、仕事に飽きたんでな」
「では、是非昨日の件引き受けてくれませんか? 報酬は出します」
「受ける受けないに関係なく、俺は緋村の仇を打ちたい」
「それは引き受けてくれるって言ってる事と同じですわ」
「俺は俺なりにやるだけだ、それでもいいなら引き受けよう」
初めて由香里が笑顔を見せた、笑顔の似合う美人だ。
「緋村のカバンは預かっているが訳がわからない、一体どういう事件なのか教えてくれ」
「では、今夜お食事でもご一緒しません?」
「それは構わないが、事件の事を教えて貰えるんだろうな」
「ええ、私の知っている事は全部お話致します」
「わかった、ところであんた独り身か? 旦那や彼氏は?」
「独り身です、旦那も恋人もいませんわ、だからお誘いしたのですが、荒木さんは? もしいらっしゃるようならご迷惑かしら?」
「俺もいない、お互い独り身なら喜んで食事でも何でも大丈夫だな、店は任せる俺は食えれば何でもいい」
「わかりました、今からお仕事なので終わったら車で迎えに来ます」
と言うと由香里は立ち上がった、ここでの話は終わりということか。
玄関まで見送った。
事件の事は今夜わかるだろう、今は考えるだけ無駄だ、昼寝をして時間を潰した。
携帯の呼び出し音で目が覚めた、おそらく由香里だろう、確認もせず電話を取る。
「寝起きの声ですわね」
由香里は笑っていた。
「起きて悶々と考えていても埒が明かないんでな、緋村のカバンの書類もよくわからんからな」
「そう、緋村のカバンは荒木さんが持ってらしたのね、仕事が終わったので今からお迎えに行かせて戴くわ」
「わかった、準備しておくよ」
電話を切ると、服を着替え表に出てタバコを吸って待っていた数分でポルシェに乗った由香里がやって来た。車に乗り込む。
「どこへ連れて行って貰えるのかな?」
「もう予約入れてるのでそこへ」
「タバコを吸ってもいいかい?」
「いいわよ、父が喫煙者でしたから煙には慣れてます」
父を亡くしたのに陽気な感じだった。数分で豪華なレストランに到着した。
店内は落ち着いた感じで豪華なレストランだった。
「今夜は私の奢りよ、好きな物を好きなだけ頼んで頂戴」
メニュー表を見ながらステーキを注文し、ウイスキーも頼んだ。由香里はスパゲティとサラダを注文した。
「さっきから気になっていましたが、そのカバンは緋村のカバンかしら?」
「そうだ、念のため持って来たんだ、見てもらえるか?」
「拝見します」
と言い、カバンの中を見始めたが。
「この書類ではあまりわからないわね、この荒木さん宛の手紙も見ていいかしら?」
「ああ、構わんよ」
食事が運ばれてくる、分厚くて肉汁が滴った大きなステーキだった。同時に由香里も読み終えたらしくカバンに書類を戻した。何か言おうとしたが手で制し。
「重要な話は食ってからにしよう」
「わかったわ」
「ところであんたの親父さんが殺されて間もないのに、よく平然としているな」
「父とは仲が悪かったの、父はお金の為なら悪どい事も平然とやっていたわ、私はそんな事は反対したんだけど聞いても貰えなかったの。それに私はあんたじゃなく由香里って名前があるのよ」
「悪かった、おれは俊輔だ。三十歳だ」
「私は二十八よ、近いわね」
「由香里は美人の部類に入ると思うが、何で男を作らないんだ?」
「ありがとう。言い寄って来る男は結構いるわ、けどみんなお金か体が目当てだし普通過ぎて興味が湧かないのよ」
「金目当ての男は危ない、しかし普通でいいじゃないか、普通の何がいけないんだ?」
「説明しづらい質問ね、簡単に言うと刺激が足りないのよ」
「難しい女だ」
話してる間に二人共食事を終えた。
「さて食事も済んだ事だし、話を聞こうじゃないか」
タバコに火を付け、由香里の言葉を待つことにした。由香里は少し間を開けて話し始めた。
「駅近くのの大型のショッピングセンンターが閉店したのは知ってるわよね? あそこの土地を安くで買い上げたのが父なの、駅前だから高く売れるって言ってね、でも買い上げたうちの三分の一を地元のヤクザが奪って行ったの、うちには三分の二しか残らないの。それを奪い返す為に緋村を雇ったのよ、元々はうちの土地だし。だけど残り三分の二まで奪おうとヤクザの方も必死みたい、凄い金額で売れるから、奪い返そうとして調査をしてた緋村が殺され父も殺されて、残りは私だけ私が殺されれば残りの権利書もヤクザの手に渡るかもしれないわ」
黙って聞いていたが、話が終わったので灰皿でタバコを揉み消した。
「島村組か、あそこは経済ヤクザで荒っぽい事はしないと聞いていたが」
「よく知っているのね」
「小耳に挟んでただけさ、しかし島村組は荒っぽい事もやるんだな。で緋村と親父さんのなし得なかった事を俺に代わりをやれと、そう言う事だな?」
「ええ、そのカバンの中の緋村も代わりに頼むって書いてあったわ、お願い助けて」
さっきまで陽気だった由香里が初めて涙を見せた。
「緋村の仇を打ちたいと言う気持ちに揺らぎはない、どこまで出来るかやってみようじゃないか、由香里はサポートをしてくれ」
「サポート? うちの顧問弁護士くらいしか味方はいないわ」
「それでいい、俺が失敗したらどうしようもないけどな」
「俊輔さんが失敗したら、私も多分殺されるわ、私の命を捧げるわ」
「わかった、ただし俺は緋村に探偵のいろはは教わっているがプロじゃない、初めての探偵業だそれだけ肝に銘じておいてくれ」
「わかってるわ、何だか少しだけ安心した気分だわ」
由香里はもう泣いてはいなかった。
「一つだけ教えてくれ、島村組はどうやって三分の一の権利書を奪って持っているんだ? そこがわからない」
「あそこの土地は広いでしょ? 土地の権利も三つに分かれていたのよ、で最後の三分の一の契約の時にヤクザがうちの社員に扮して奪って行ったのよ」
「なるほどね、ようやく事件が見えて来た、簡単な様で難しい事件だな。今日はここまでにしておこう」
由香里も落ち着きを取り戻していた。
翌日目が覚めると、緋村のカバンをもう一度チェックする。昨夜の由香里の話も聞けたので、ある程度書類の内容がわかって来た。
権利書を奪いに行ったのは山中と言う男らしい、写真も付いていた四十歳と記載されていた。島村組は小さな組だ、経済ヤクザだからなのかこう言う事には慣れているようだった、書類によると同じ様な手口でいろんな会社の権利や株を保有しているみたいだ。
他にも写真付きの書類がたくさんあった。組長は島村茂六十三歳、写真で見る限りどこにでもいそうなただの老人だ。他の写真にも目を通しておく、覚えておかなければただの社会人にしか見えない組員達だ。ただ一人だけヤクザっぽい男がいる、詳細を見ると緋村の字で唯一荒っぽい事が得意、要注意人物と書かれていた、名前は江口隆。
恐らく緋村と由香里の父の徹を殺したのはこいつだろうと直感的にわかった。
今日は山中を探る事にした、俺は緋村の様に頭脳派ではないので荒っぽい事をしてしまうかもしれないが、俺には失うものがない、暴れるだけ暴れてやると言う気分だった。
車に乗り込み島村組の事務所が入っているビルまで行き、ビル近くに車を停め見張る事にした。俺は顔は割れていないので堂々としていた。ビルの一階には島村組ではなく島村不動産と言う看板が出ていた。
土地転がしで儲けているに違いない。十二時になると事務員達が交互に食事に出ている様だ、写真の男も交互に出入りしていた。十三時になると山中が出てきた、ひ弱そうなやさ男だった、近所の人にへこへこ挨拶をしている、とてもヤクザとは思えない行動だ、三十分で戻って来た、十九時の閉店まで粘ったが、組長の茂と江口は姿を現さなかった。
皆が一斉に出てきて帰宅し始めた、駐車場の国産車に乗り込んだ山中の後を尾行した。十分程走るとマンションの駐車場に車を停め中に入っていった。俺もマンションに入り郵便受けで二百二号室に山中の名前を見つけると帰宅した。
翌日も同じく島村不動産を見張る、昼食時は昨日と同じだったが、十七時にベンツが事務所前に止まった、運転していたのは江口だった暗いオーラを身にまとい後部座席を開けると島村茂が降りてきた。三十分程で二人は出てきて車に乗り込んだ、すかさず後を付ける、緋村に教わった尾行術が役に立ったのか昨日も今日も勘付かれる気配は無かった。二十分程走り海沿いの大きな一軒家で車が止まった。島村だけ車を降り家に入っていった、江口は車を再び走らせると五分程で駐車場に車を入れ二階建ての小さな一軒家に入った。暫く様子を見ていたが出て来る気配もないので自宅に戻った。
二日ぶりに由香里に連絡を入れる。
「俺だ」
「俊輔さん、昨日連絡が無かったから心配してたのよ、マンションに行っても留守だし、何か調査中だといけないから連絡も取りづらかったの」
「連絡くらい何時でもしてきていいぞ、危ない時はマナーモードにしてるからな、しかしその言い草恋人みたいじゃないか」
俺は笑ったが、由香里は真剣な声で。
「気になる人だからしょうがないじゃない」
二人の間に沈黙があった。
「それは俺に惚れたっていうのと同じだぞ」
「私にもまだわからないわ、ただ気になるのよ、父の葬儀で初めて出会った時もドキドキしたわ、緊張なのか恋心かわからないのよ」
「まあ、恋心なら光栄だな。普通の人には興味無いんじゃなかったか?」
「そうだけど、なんだろうこの気持ち」
「時間が経てばわかるさ」
「そうね、話は変わるけど昨日と今日何してたの?」
島村組と会社を見張ってただけだが、かなりの収穫があった、権利書を奪って行ったやつも見当が付いたし家もわかった、そして由香里の親父さんや緋村を殺した奴も多分だがわかった、そいつと組長の家もわかったよ」
「凄いじゃない、緋村に教わったからか俊輔さんに素質があるのかどっちかね」
「俺は推理の出来るような男じゃない、緋村とは正反対の性格だからな。緋村に教わったのが役に立ったんだろう。ところでそっちに被害が無いのかが心配でな」
「父が殺されてから何の進展もないわ、嵐の前の静けさかしら?」
「その嵐を遠ざけてやろうじゃないか、ところで食事か飲みにでも行かないか? ちょうど腹が減ってきたところなんだ」
「いいわよ、私もさっき帰って来たところなの」
「じゃあ二十時に迎えに行く、家はどこか教えてもらえるか?」
「あら知らなかったの? 駅前のマンションよ」
「親父さんと一緒に住んでなかったのか?」
「それも知らなかったの? 父は頑固だから反りが合わなくてもう何年も前に家を飛び出して一人暮らしよ」
「じゃあ二十時じゃなく今からすぐに駅前に行くよ、駅前で落ち合おう」
「わかったわ」
電話を切ると車ではなく自転車で駅前に向かった、車だと飲酒運転は危険だし自転車ならどこかに駐輪して帰ればいい。
自転車で五分くらいだろうか、すぐに駅前に着いたが由香里はもう待っていた。
「すまない、待ったか?」
「私も今降りて来たとこよ、あのマンションの八百八号室よ」
ここのマンションは賃貸じゃなく分譲マンションのはずだ、駅前で一番の高級マンションのはずだった。
「マンションに駐輪場あるか? あったら停めさせて欲しいんだが」
「いいわよ、付いて来て」
地下駐車場兼駐輪場に自転車を停め駅前に戻る。
「今夜はそこのハニーズってレストランにしよう」
「いいわね、ハンバーグが美味しいレストランよ」
「ああ、ハンバーグが食べたくなるとここに来てる」
中に入る、一応高級レストランだ、チェーン店ではないので学生が少ないから大抵いい席に座れるとこも気に入っている、と言っても流行ってないわけじゃなく客がファミリーレストランみたいにごちゃごちゃしてないだけである。
俺がチーズハンバーグ、由香里は和風ハンバーグを注文する
食事が運ばれるまで二人で緋村の昔話をした、中学高校で何度か同じクラスで一番仲の良かった親友だ。しかし驚いた事に由香里も同じ学校だった、二つしか歳が離れていないので、俺が三年生の時に由香里は一年生だったのだ、緋村は隠していたのか単に言わなかっただけかわからないが、先輩後輩の仲だった、由香里も驚いていた。
食事が届いた、お互い美味しそうだったので、半分ずつ交換して食べた。
やはりここのハンバーグは美味しい
食べ終えると、俺はウイスキー由香里はカクテルを注文した。
「ところで電話で話してた事なんだが、今でも俺を前にしてドキドキしてるのか?」
「ええ、ずっとしてるわ。多分恋煩いかもしれないわ、男の人を好きになるって事はもう何年もしてないからよくわからないけど、俊輔さんは私に何か感じてるのかしら?」
「俺も同じさ、数年ぶりに好きになったかもしれないがよくわからない」
恥ずかしくなって二人共酒を何杯も飲んでいた。
「とりあえず今のところ由香里は安全そうだな、被害が行く前に何とかするよ」
ろれつが回ってなかった。
「俊輔さん相当酔ってるわね」
と言った由香里もろれつが回っていない。
「とりあえず、うちに来て頂戴そのままじゃ自転車で帰るのも無理そうだわ、酔い覚ましに水やコーヒーを入れるわ」
まだ由香里の方が酔いは軽そうだ。
「すまない、酔いが落ち着くまで頼む」
立ち上がったが足もふらついていた。
「今日は俺が出すよ」
会計を済ませ、店を出る。由香里のマンションはすぐそこなのになかなか辿り着かないことに苛立ってきた。
ようやくたどり着くとペットボトルのミネラルウォーターを一気飲みし、由香里が作ってくれたコーヒーを飲んだ。コンビニによく置いてある酔い覚ましも何本か飲み、様子を見ていたが少しだけマシにはなったものの悪酔いしたのか頭痛が酷くなっていた、由香里にコーヒーをおかわりし頭痛薬も貰って飲んだ。
「一時間程、寝てみたらどうかしら、まだ二十二時よ、二十三時になったら起こすわ」
すまないと言ってソファーで横になった、すぐに眠りについた。
目が覚めた、右手に由香里の手が絡み付いていた。床に座りながら俺に寄りかかり俺の手に腕を絡ませている、整った顔をしているモテない筈がない。掛け布団まで掛けてくれてるが、このままでは由香里が風邪でも引いたら大変だ、気持ちよく寝てるが肩を揺さぶって起こす。なかなか起きない近くの時計を見ると午前三時真夜中だ。
ようやく目を覚ました由香里は俺の手を握っている事に気付きサッと手を引っ込めた。
「私まで寝ちゃってたのね、ごめんなさい」
「謝る事はないさ、それより真夜中の三時になってる、酔いも覚めた帰らなきゃな」
「こんな時間に帰るの? もういっその事朝まで一緒に過ごしましょ」
正直こんな時間に帰るよりはいいだろう。
「わかったよ、だがこのままじゃ由香里が風邪を引いてしまう」
「ちょっと待ってて」
と言い、もう一枚掛け布団を持って来た。
何をする気だソファーには俺一人でいっぱいいっぱいだ、由香里がソファー横のレバーを引くとソファーの背もたれがリクライニング式になっていて、ペタンと平になった。
「どう? 初めて使う機能なんだけど大丈夫かしら」
と言い背もたれの方に横になった。
目は完全に覚めていた、しかもこの状況で寝れるはずがない。
「おいおい、これじゃ俺に襲われても知らんぞ」
「どうぞご自由に」
くすくすと笑っている、俺はガバッと由香里に馬乗りになり唇を奪った、服を剥ぎ取り抱いた。抱いた後。
「こんな手口で何人の男達をたぶらかして来たんだ?」
「初めてよ、二十歳からここに移り住んで八年間、部屋に男の人を入れたのも初めて」
声の様子から本当の事だと思った。
「それは、悪いことをしたな出会ったばかりなのに」
「謝らないで、私やっぱり俊輔さんの事が好きだと実感したわ」
「俺もだ、でなきゃ起きた時点で帰っているとこだ」
「ありがとう」
と言い抱き付いてくるロングの髪を撫でてやり朝まで過ごした。
七時のアラームが鳴る、由香里の起きる時間なんだろう。
「こんな事なら私の寝室に誘ってた方が良かったかもね」
「それは直球過ぎるだろう」
「そうね、朝はパン派? 和食派? 」
「どちらでも構わない」
「今朝はパンにしましょ」
トーストだけかと思ったらスクランブルエッグとベーコンも付いてきた。二人でテーブルを囲み、頂きますと言って食べ始める。
「ところで今度は由香里が狙われると予想しているんだが、対策はあるのか? 俺も出来るだけ早く事件を片付けるつもりではいるんだが」
「そうね、対策とは違うけど緋村も父も夜中に人通りのない場所で殺されているわ、日中は大丈夫じゃないかしら? 仕事もさっさと終わらせて、日のある時間帯に家に帰る様にするわ」
「それがいいだろう」
十年勤めた整備工場を辞めたのだ。
理由はこれと言ってないが、十年一区切りのつもりと、親友の緋村孝雄の死も関係あるのかもしれない。
緋村は探偵で、ある事件を調査中に背後から拳銃で撃たれ、妻の沙知代と一人息子の孝文を残して逝ってしまった。
俺の心にもぽっかりと穴が空いてしまった気分だ、出来るなら復讐してやりたい、そんな気持ちもあった。
俺は特に事情聴取もされなかった。
マンションに戻ると、仕事で使っていた参考本や書類を捨てたが工具箱だけは捨てきれずにいた。
貯金は多いのか少ないのかわからないが、あまり派手な遊びはしなかったので退職金を合わせて一千二百万円あった、暫く働かなくとも食って行けるだろう。
緋村から探偵のいろはは教わっていたが、俺には向いていない気がして整備士を続けていたのだ。
緋村の口癖だったのは。
「頭脳派の俺と肉体派のお前が組めば最強じゃないか」
だった。
俺は学生時代いろいろな格闘技を習っていた、どれも広く浅くだったが強さには自信があった。緋村は興味なさ気に帰宅部だった。
残された沙知代と孝文は保険金で何とかやっていけるだろう。
翌日、緋村の家に行き線香をあげた。
「俊輔さん、ありがとう」
沙知代はやつれていた、孝文もお父さんはもういないって事を理解しているようだ。
「そうそう、俊輔さん主人から俺が死んだら荒木に渡してくれって、預かり物がありますの」
カバンが一つ渡された、その場で開け中身を確認したが、緋村の調査中の書類のようだった。
「警察には渡さなかったんですか?」
「ええ、隠しておくようにと言われておりましたから」
とりあえず中身を戻し家に持ち帰った。
家で中身を細かく見る、難しい書類ばかりでさっぱり分からなかったが、俺宛に手紙が一通入っていた。
「荒木、これをお前が読んでいるって事は俺は死んだんだな、俺に変わって事件を解決して欲しい、依頼主は姫野徹って男だ、盗まれた物を回収して欲しい、簡単な事件のようだがヤクザが絡んでいる、頼んだ」
これだけじゃ全然内容がわからないし、ヤクザが絡んでいるなら御免被りたい。
しかし、死んだ緋村の遺言だ、何とかしてやりたい気分もある。
姫野徹の会社や住所や電話番号の書いたメモもあった。不動産を経営しているようだ。
三日ほど考えた、三日目の夜のニュースで姫野徹が殺害された事を知った。
どんな男だったのか見るため葬儀に行ったが、大豪邸で結構人は多かった。受け付けで名前を書き葬儀の列に入る。頑固そうな五十代程の男の写真が飾られている。
帰ろうとしたら女性から声を掛けられた。
「もしかして荒木さんかしら」
「ああ、俺が荒木だがあんたは?」
「申し遅れました、姫野由香里といいます」
かなり疲れた表情をしている。
「何で俺を知っている?」
「私は緋村の従兄弟です、写真を見た事があったのですぐにわかりました」
「で、用事は何かな」
「はい、緋村が今回の依頼で俺が失敗したら荒木が何とかしてくれると言ってました」
「俺は探偵じゃないし、警察に頼んだ方がいいんじゃないか?」
「警察にも言いましたが、父の殺害の捜査で忙しいみたいで話も聞いてくれません」
父と言うことは娘か、整った顔立ちをしている。
「俺が緋村の依頼を受け継ぐとでも思っているんだったら、申し訳ないが断るよ」
手を挙げ家に帰った、断ったものの緋村を殺した奴は許せなかった、例え相手がヤクザであってもだ。
翌日の朝、由香里がマンションまで来た。
仕方ないので家に入れてやりコーヒーを出す。
改めて名刺を出された。副社長と書いてある。
「あんた母親はいないのか?」
「はい、肝臓病で数年前に亡くなりました」
「って事は今度はあんたが社長か?」
「そういう事になります、改めて昨日の続きを話したくて来ました」
「俺は探偵じゃないぞ、元整備士だ」
「元、って事は今はお辞めになったと言う事でしょうか?」
「そうだ、仕事に飽きたんでな」
「では、是非昨日の件引き受けてくれませんか? 報酬は出します」
「受ける受けないに関係なく、俺は緋村の仇を打ちたい」
「それは引き受けてくれるって言ってる事と同じですわ」
「俺は俺なりにやるだけだ、それでもいいなら引き受けよう」
初めて由香里が笑顔を見せた、笑顔の似合う美人だ。
「緋村のカバンは預かっているが訳がわからない、一体どういう事件なのか教えてくれ」
「では、今夜お食事でもご一緒しません?」
「それは構わないが、事件の事を教えて貰えるんだろうな」
「ええ、私の知っている事は全部お話致します」
「わかった、ところであんた独り身か? 旦那や彼氏は?」
「独り身です、旦那も恋人もいませんわ、だからお誘いしたのですが、荒木さんは? もしいらっしゃるようならご迷惑かしら?」
「俺もいない、お互い独り身なら喜んで食事でも何でも大丈夫だな、店は任せる俺は食えれば何でもいい」
「わかりました、今からお仕事なので終わったら車で迎えに来ます」
と言うと由香里は立ち上がった、ここでの話は終わりということか。
玄関まで見送った。
事件の事は今夜わかるだろう、今は考えるだけ無駄だ、昼寝をして時間を潰した。
携帯の呼び出し音で目が覚めた、おそらく由香里だろう、確認もせず電話を取る。
「寝起きの声ですわね」
由香里は笑っていた。
「起きて悶々と考えていても埒が明かないんでな、緋村のカバンの書類もよくわからんからな」
「そう、緋村のカバンは荒木さんが持ってらしたのね、仕事が終わったので今からお迎えに行かせて戴くわ」
「わかった、準備しておくよ」
電話を切ると、服を着替え表に出てタバコを吸って待っていた数分でポルシェに乗った由香里がやって来た。車に乗り込む。
「どこへ連れて行って貰えるのかな?」
「もう予約入れてるのでそこへ」
「タバコを吸ってもいいかい?」
「いいわよ、父が喫煙者でしたから煙には慣れてます」
父を亡くしたのに陽気な感じだった。数分で豪華なレストランに到着した。
店内は落ち着いた感じで豪華なレストランだった。
「今夜は私の奢りよ、好きな物を好きなだけ頼んで頂戴」
メニュー表を見ながらステーキを注文し、ウイスキーも頼んだ。由香里はスパゲティとサラダを注文した。
「さっきから気になっていましたが、そのカバンは緋村のカバンかしら?」
「そうだ、念のため持って来たんだ、見てもらえるか?」
「拝見します」
と言い、カバンの中を見始めたが。
「この書類ではあまりわからないわね、この荒木さん宛の手紙も見ていいかしら?」
「ああ、構わんよ」
食事が運ばれてくる、分厚くて肉汁が滴った大きなステーキだった。同時に由香里も読み終えたらしくカバンに書類を戻した。何か言おうとしたが手で制し。
「重要な話は食ってからにしよう」
「わかったわ」
「ところであんたの親父さんが殺されて間もないのに、よく平然としているな」
「父とは仲が悪かったの、父はお金の為なら悪どい事も平然とやっていたわ、私はそんな事は反対したんだけど聞いても貰えなかったの。それに私はあんたじゃなく由香里って名前があるのよ」
「悪かった、おれは俊輔だ。三十歳だ」
「私は二十八よ、近いわね」
「由香里は美人の部類に入ると思うが、何で男を作らないんだ?」
「ありがとう。言い寄って来る男は結構いるわ、けどみんなお金か体が目当てだし普通過ぎて興味が湧かないのよ」
「金目当ての男は危ない、しかし普通でいいじゃないか、普通の何がいけないんだ?」
「説明しづらい質問ね、簡単に言うと刺激が足りないのよ」
「難しい女だ」
話してる間に二人共食事を終えた。
「さて食事も済んだ事だし、話を聞こうじゃないか」
タバコに火を付け、由香里の言葉を待つことにした。由香里は少し間を開けて話し始めた。
「駅近くのの大型のショッピングセンンターが閉店したのは知ってるわよね? あそこの土地を安くで買い上げたのが父なの、駅前だから高く売れるって言ってね、でも買い上げたうちの三分の一を地元のヤクザが奪って行ったの、うちには三分の二しか残らないの。それを奪い返す為に緋村を雇ったのよ、元々はうちの土地だし。だけど残り三分の二まで奪おうとヤクザの方も必死みたい、凄い金額で売れるから、奪い返そうとして調査をしてた緋村が殺され父も殺されて、残りは私だけ私が殺されれば残りの権利書もヤクザの手に渡るかもしれないわ」
黙って聞いていたが、話が終わったので灰皿でタバコを揉み消した。
「島村組か、あそこは経済ヤクザで荒っぽい事はしないと聞いていたが」
「よく知っているのね」
「小耳に挟んでただけさ、しかし島村組は荒っぽい事もやるんだな。で緋村と親父さんのなし得なかった事を俺に代わりをやれと、そう言う事だな?」
「ええ、そのカバンの中の緋村も代わりに頼むって書いてあったわ、お願い助けて」
さっきまで陽気だった由香里が初めて涙を見せた。
「緋村の仇を打ちたいと言う気持ちに揺らぎはない、どこまで出来るかやってみようじゃないか、由香里はサポートをしてくれ」
「サポート? うちの顧問弁護士くらいしか味方はいないわ」
「それでいい、俺が失敗したらどうしようもないけどな」
「俊輔さんが失敗したら、私も多分殺されるわ、私の命を捧げるわ」
「わかった、ただし俺は緋村に探偵のいろはは教わっているがプロじゃない、初めての探偵業だそれだけ肝に銘じておいてくれ」
「わかってるわ、何だか少しだけ安心した気分だわ」
由香里はもう泣いてはいなかった。
「一つだけ教えてくれ、島村組はどうやって三分の一の権利書を奪って持っているんだ? そこがわからない」
「あそこの土地は広いでしょ? 土地の権利も三つに分かれていたのよ、で最後の三分の一の契約の時にヤクザがうちの社員に扮して奪って行ったのよ」
「なるほどね、ようやく事件が見えて来た、簡単な様で難しい事件だな。今日はここまでにしておこう」
由香里も落ち着きを取り戻していた。
翌日目が覚めると、緋村のカバンをもう一度チェックする。昨夜の由香里の話も聞けたので、ある程度書類の内容がわかって来た。
権利書を奪いに行ったのは山中と言う男らしい、写真も付いていた四十歳と記載されていた。島村組は小さな組だ、経済ヤクザだからなのかこう言う事には慣れているようだった、書類によると同じ様な手口でいろんな会社の権利や株を保有しているみたいだ。
他にも写真付きの書類がたくさんあった。組長は島村茂六十三歳、写真で見る限りどこにでもいそうなただの老人だ。他の写真にも目を通しておく、覚えておかなければただの社会人にしか見えない組員達だ。ただ一人だけヤクザっぽい男がいる、詳細を見ると緋村の字で唯一荒っぽい事が得意、要注意人物と書かれていた、名前は江口隆。
恐らく緋村と由香里の父の徹を殺したのはこいつだろうと直感的にわかった。
今日は山中を探る事にした、俺は緋村の様に頭脳派ではないので荒っぽい事をしてしまうかもしれないが、俺には失うものがない、暴れるだけ暴れてやると言う気分だった。
車に乗り込み島村組の事務所が入っているビルまで行き、ビル近くに車を停め見張る事にした。俺は顔は割れていないので堂々としていた。ビルの一階には島村組ではなく島村不動産と言う看板が出ていた。
土地転がしで儲けているに違いない。十二時になると事務員達が交互に食事に出ている様だ、写真の男も交互に出入りしていた。十三時になると山中が出てきた、ひ弱そうなやさ男だった、近所の人にへこへこ挨拶をしている、とてもヤクザとは思えない行動だ、三十分で戻って来た、十九時の閉店まで粘ったが、組長の茂と江口は姿を現さなかった。
皆が一斉に出てきて帰宅し始めた、駐車場の国産車に乗り込んだ山中の後を尾行した。十分程走るとマンションの駐車場に車を停め中に入っていった。俺もマンションに入り郵便受けで二百二号室に山中の名前を見つけると帰宅した。
翌日も同じく島村不動産を見張る、昼食時は昨日と同じだったが、十七時にベンツが事務所前に止まった、運転していたのは江口だった暗いオーラを身にまとい後部座席を開けると島村茂が降りてきた。三十分程で二人は出てきて車に乗り込んだ、すかさず後を付ける、緋村に教わった尾行術が役に立ったのか昨日も今日も勘付かれる気配は無かった。二十分程走り海沿いの大きな一軒家で車が止まった。島村だけ車を降り家に入っていった、江口は車を再び走らせると五分程で駐車場に車を入れ二階建ての小さな一軒家に入った。暫く様子を見ていたが出て来る気配もないので自宅に戻った。
二日ぶりに由香里に連絡を入れる。
「俺だ」
「俊輔さん、昨日連絡が無かったから心配してたのよ、マンションに行っても留守だし、何か調査中だといけないから連絡も取りづらかったの」
「連絡くらい何時でもしてきていいぞ、危ない時はマナーモードにしてるからな、しかしその言い草恋人みたいじゃないか」
俺は笑ったが、由香里は真剣な声で。
「気になる人だからしょうがないじゃない」
二人の間に沈黙があった。
「それは俺に惚れたっていうのと同じだぞ」
「私にもまだわからないわ、ただ気になるのよ、父の葬儀で初めて出会った時もドキドキしたわ、緊張なのか恋心かわからないのよ」
「まあ、恋心なら光栄だな。普通の人には興味無いんじゃなかったか?」
「そうだけど、なんだろうこの気持ち」
「時間が経てばわかるさ」
「そうね、話は変わるけど昨日と今日何してたの?」
島村組と会社を見張ってただけだが、かなりの収穫があった、権利書を奪って行ったやつも見当が付いたし家もわかった、そして由香里の親父さんや緋村を殺した奴も多分だがわかった、そいつと組長の家もわかったよ」
「凄いじゃない、緋村に教わったからか俊輔さんに素質があるのかどっちかね」
「俺は推理の出来るような男じゃない、緋村とは正反対の性格だからな。緋村に教わったのが役に立ったんだろう。ところでそっちに被害が無いのかが心配でな」
「父が殺されてから何の進展もないわ、嵐の前の静けさかしら?」
「その嵐を遠ざけてやろうじゃないか、ところで食事か飲みにでも行かないか? ちょうど腹が減ってきたところなんだ」
「いいわよ、私もさっき帰って来たところなの」
「じゃあ二十時に迎えに行く、家はどこか教えてもらえるか?」
「あら知らなかったの? 駅前のマンションよ」
「親父さんと一緒に住んでなかったのか?」
「それも知らなかったの? 父は頑固だから反りが合わなくてもう何年も前に家を飛び出して一人暮らしよ」
「じゃあ二十時じゃなく今からすぐに駅前に行くよ、駅前で落ち合おう」
「わかったわ」
電話を切ると車ではなく自転車で駅前に向かった、車だと飲酒運転は危険だし自転車ならどこかに駐輪して帰ればいい。
自転車で五分くらいだろうか、すぐに駅前に着いたが由香里はもう待っていた。
「すまない、待ったか?」
「私も今降りて来たとこよ、あのマンションの八百八号室よ」
ここのマンションは賃貸じゃなく分譲マンションのはずだ、駅前で一番の高級マンションのはずだった。
「マンションに駐輪場あるか? あったら停めさせて欲しいんだが」
「いいわよ、付いて来て」
地下駐車場兼駐輪場に自転車を停め駅前に戻る。
「今夜はそこのハニーズってレストランにしよう」
「いいわね、ハンバーグが美味しいレストランよ」
「ああ、ハンバーグが食べたくなるとここに来てる」
中に入る、一応高級レストランだ、チェーン店ではないので学生が少ないから大抵いい席に座れるとこも気に入っている、と言っても流行ってないわけじゃなく客がファミリーレストランみたいにごちゃごちゃしてないだけである。
俺がチーズハンバーグ、由香里は和風ハンバーグを注文する
食事が運ばれるまで二人で緋村の昔話をした、中学高校で何度か同じクラスで一番仲の良かった親友だ。しかし驚いた事に由香里も同じ学校だった、二つしか歳が離れていないので、俺が三年生の時に由香里は一年生だったのだ、緋村は隠していたのか単に言わなかっただけかわからないが、先輩後輩の仲だった、由香里も驚いていた。
食事が届いた、お互い美味しそうだったので、半分ずつ交換して食べた。
やはりここのハンバーグは美味しい
食べ終えると、俺はウイスキー由香里はカクテルを注文した。
「ところで電話で話してた事なんだが、今でも俺を前にしてドキドキしてるのか?」
「ええ、ずっとしてるわ。多分恋煩いかもしれないわ、男の人を好きになるって事はもう何年もしてないからよくわからないけど、俊輔さんは私に何か感じてるのかしら?」
「俺も同じさ、数年ぶりに好きになったかもしれないがよくわからない」
恥ずかしくなって二人共酒を何杯も飲んでいた。
「とりあえず今のところ由香里は安全そうだな、被害が行く前に何とかするよ」
ろれつが回ってなかった。
「俊輔さん相当酔ってるわね」
と言った由香里もろれつが回っていない。
「とりあえず、うちに来て頂戴そのままじゃ自転車で帰るのも無理そうだわ、酔い覚ましに水やコーヒーを入れるわ」
まだ由香里の方が酔いは軽そうだ。
「すまない、酔いが落ち着くまで頼む」
立ち上がったが足もふらついていた。
「今日は俺が出すよ」
会計を済ませ、店を出る。由香里のマンションはすぐそこなのになかなか辿り着かないことに苛立ってきた。
ようやくたどり着くとペットボトルのミネラルウォーターを一気飲みし、由香里が作ってくれたコーヒーを飲んだ。コンビニによく置いてある酔い覚ましも何本か飲み、様子を見ていたが少しだけマシにはなったものの悪酔いしたのか頭痛が酷くなっていた、由香里にコーヒーをおかわりし頭痛薬も貰って飲んだ。
「一時間程、寝てみたらどうかしら、まだ二十二時よ、二十三時になったら起こすわ」
すまないと言ってソファーで横になった、すぐに眠りについた。
目が覚めた、右手に由香里の手が絡み付いていた。床に座りながら俺に寄りかかり俺の手に腕を絡ませている、整った顔をしているモテない筈がない。掛け布団まで掛けてくれてるが、このままでは由香里が風邪でも引いたら大変だ、気持ちよく寝てるが肩を揺さぶって起こす。なかなか起きない近くの時計を見ると午前三時真夜中だ。
ようやく目を覚ました由香里は俺の手を握っている事に気付きサッと手を引っ込めた。
「私まで寝ちゃってたのね、ごめんなさい」
「謝る事はないさ、それより真夜中の三時になってる、酔いも覚めた帰らなきゃな」
「こんな時間に帰るの? もういっその事朝まで一緒に過ごしましょ」
正直こんな時間に帰るよりはいいだろう。
「わかったよ、だがこのままじゃ由香里が風邪を引いてしまう」
「ちょっと待ってて」
と言い、もう一枚掛け布団を持って来た。
何をする気だソファーには俺一人でいっぱいいっぱいだ、由香里がソファー横のレバーを引くとソファーの背もたれがリクライニング式になっていて、ペタンと平になった。
「どう? 初めて使う機能なんだけど大丈夫かしら」
と言い背もたれの方に横になった。
目は完全に覚めていた、しかもこの状況で寝れるはずがない。
「おいおい、これじゃ俺に襲われても知らんぞ」
「どうぞご自由に」
くすくすと笑っている、俺はガバッと由香里に馬乗りになり唇を奪った、服を剥ぎ取り抱いた。抱いた後。
「こんな手口で何人の男達をたぶらかして来たんだ?」
「初めてよ、二十歳からここに移り住んで八年間、部屋に男の人を入れたのも初めて」
声の様子から本当の事だと思った。
「それは、悪いことをしたな出会ったばかりなのに」
「謝らないで、私やっぱり俊輔さんの事が好きだと実感したわ」
「俺もだ、でなきゃ起きた時点で帰っているとこだ」
「ありがとう」
と言い抱き付いてくるロングの髪を撫でてやり朝まで過ごした。
七時のアラームが鳴る、由香里の起きる時間なんだろう。
「こんな事なら私の寝室に誘ってた方が良かったかもね」
「それは直球過ぎるだろう」
「そうね、朝はパン派? 和食派? 」
「どちらでも構わない」
「今朝はパンにしましょ」
トーストだけかと思ったらスクランブルエッグとベーコンも付いてきた。二人でテーブルを囲み、頂きますと言って食べ始める。
「ところで今度は由香里が狙われると予想しているんだが、対策はあるのか? 俺も出来るだけ早く事件を片付けるつもりではいるんだが」
「そうね、対策とは違うけど緋村も父も夜中に人通りのない場所で殺されているわ、日中は大丈夫じゃないかしら? 仕事もさっさと終わらせて、日のある時間帯に家に帰る様にするわ」
「それがいいだろう」
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