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第四章
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午後はまったりと過ごしたが、長井に聞きたい事があったので一人で出掛ける。
「あら、お出かけ?」
「さっきの長井にちょっと聞きたい事があるだけさ、すぐに戻る」
「わかったわ」
ジムまで歩いていった、中を覗くと長井は黙々とシャドーボクシングをしている、終わるのを待っていると目が合った。
「荒木さんじゃないか、忘れ物かい?」
「いや、さっきの話の続きだが、俺はフックの方が得意なんだが、もっと上達するにはどうすればいいか聞きに来た」
「じゃあそこのサンドバックを打って見てくれないか」
言われた通りにする、サンドバックに右フックを打ち込む、パンッといい音がした。
「いいパンチだ、だが力任せに打っているだけだ、それでも十分倒せるだろうが、コツを会長に内緒で教えよう。ステップを踏んで向かって行った時に右足が前に来る、左足から右足を踏み込む時に体のねじりを利用し、脇をしっかり締めて打つ、力は入れない。わかるかい?」
もう一度言われたことを守って力を抜き、ねじりを入れ脇をしっかり締めて打った、サンドバックが軋む音を出しながら大きく揺れた。
「飲み込みが早いね、それでいい。力を入れなくてもさっきの倍以上の威力だ、あんたのパンチ力じゃ素人相手なら相手が数メートルぶっ飛ぶぞ、内臓破裂するかもしれないから気を付けてな」
「他のパンチも同じ要領なのか?」
「そうだ、力を入れるとこっちの体力が奪われる、全部体のねじりを使うのさ、力は要らない、体力も使わず倍の威力のパンチが打てる様になる、さっきの足運びとねじりが身につけば、俺より強くなるだろう。俺も負けないようにトレーニングしておく」
「助かったよ、ありがとう」
「後は靴も大事だ、踏ん張りが効かない靴じゃ駄目だ地面をしっかりグリップする靴の方がいい、それだけでもかなり変わる。テレビとかでも試合中キュッキュッて音が鳴ってるだろ? しっかりグリップしている証拠だ」
会長がやって来た。
「さっきのパンチ荒木さんのパンチか? サンドバックがあんなに揺れるなんて凄いじゃないか。喧嘩相手に打たない方がいい、殺しかねない。長井が教えたのか?」
「いや、荒木さんが元々持ってるパンチだ」
「そう言えば仕事で必要って言ってたが、荒っぽい仕事なのか?」
「探偵をしている、そのせいでヤクザが絡んでくる事が多いんでな」
「なるほど、だからか。しかしあんた相手に勝てるヤクザがいるとは思えんがな、拳銃相手ならわからんが」
「今のところ無敗だが、上には上がいるかもしれないからな。今度こそ本当に帰るよ、ありがとう」
手を挙げジムを後にした。
「ただいま」
「本当に早かったのね」
「今から靴とかを買いに行くが、由香里も一緒に来るか?」
「うん、一緒に行くわ」
近くの大型のショッピングセンターに行った、ここはホームセンターから電気店まで入っている大型の施設だ。まず靴を選びに行った。何個か試履をしてグリップ力を確かめたその中から軽い靴を三足買った、次にスポーツ用品店に行き、ボクサーパンツを二枚購入した。
「俺の用事はこれだけだ、行きたいところはあるか?」
「ないわ、あなたと一緒に買物に来れただけで十分よ」
まっすぐ家に帰った。靴を取り出し早速靴紐を通しぴったりフィットするように縛り、玄関先で履こうとした時に由香里に咎められた。
「靴は朝下ろす物よ」
「お前、意外と古風なんだな。わかったよ」
「早いけど晩ご飯が出来たわ、食べましょ」
食事を取りながら他愛ない話をする、日課になっていた。
食い終わるとリビングに行く、タバコに火を付けた。コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
飲みながら考え事をした。明日山中をどうにかしよう、下見もバッチリだ。そろそろ動かないとただ待っているだけではいけないと思ったからだ。
由香里にそれを伝える。不安そうな顔をしている。
「心配しなくてもいい。ほぼ確実にあいつは拳銃は持っていない、ちょっと脅して話をするだけだ」
「安心してていいのね?」
「ああ、大丈夫だ」
「でもヤクザの事務所でしょ?」
「そう言えば言ってなかったな、島村組は経済ヤクザだ、事務所じゃなく会社だ、しかもお前のとこと同じ不動産屋を経営している。島村不動産って会社だ」
「島村不動産なら知っているわ、あそこは業界内でも凄く評判が悪いのよ」
「そうだったのか、その内会社ごと潰しておくよ。ところでテレビを付けてもいいか?」
「二人の家よ確認取らなくてもいいわよ」
テレビを付けた、ニュース番組の始まる頃だ、今日のチンピラがニュースになっているかを確認したかった。
天気予報の後、今日の事件が取り上げられていた。チンピラの仲間割れと言う事になっていた、俺の事は話さなかった様だ。
「由香里、見たか? 所詮チンピラなんてこの程度の扱いだ」
「そうね、目撃者が居なくてよかったわ」
テレビを消し一緒に風呂に入った。
風呂から上がると、コップに残っていた豆乳を飲み干した。
「もう一杯飲む?」
「ああ、頼む」
タバコに火を付け、ちょっとずつ豆乳を飲んだ。
「あなた、そんなにチビチビ飲まなくても買い置きはたくさんあるからおかわりしたらいいわ」
「わかった、ありがとよ」
一気に飲み干しおかわりをした。
暫く明日の行動をイメージトレーニングしたが、所詮イメージだ、どうなるかはわからない。時間は早いが寝ることにした。
「先に休むよ」
「いいわよ、お休みなさい」
浅い眠りに着いた、こう言う睡眠がたまにある。ドア越しに由香里が食器を片付ける音が聞える、調子外れの鼻歌もかすかに聞えて来る、同時に夢も見ている山中を殺す夢だった。暫くすると由香里がそっと寝室に入ってくる。目は開けなかった。熟睡してるように見えるだろう、頬にキスをされた。
いつの間にか深い眠りに落ちていった。
アラームで目が覚める、疲れは残っていない、いい感じだ。
由香里のロングヘアーを撫でる、ようやく目を覚ました。抱き付いて来るので抱き締め返した。
今朝はパンだった、ベーコンエッグと一緒に食べた。
「何時に出掛けるの?」
「十一時前かな、帰りはわからんからこの前みたいに待たずに昼飯食えよ」
「わかったわ」
「疲れて帰るかもしれないから、スタミナのつく晩飯を頼むよ」
「任せてちょうだい」
時間まで暇だったので、由香里の本棚から数冊の小説を取り出した。読み始めたが恋愛物ばかりだった、苦手な分野だ数ページ読み元に戻した。
そうこうしてる間に時間が過ぎていく、着替えて持っていく物を確認した。
「そろそろ行ってくる」
「気を付けてね、いってらっしゃい」
車に乗り込み島村不動産へ向かった。またいい場所に駐車出来た、中の様子を探る山中の姿も見て取れた。緊張はしていないが俺がやりすぎないようにしないといけない、殺人は駄目だ。
十二時、昼休憩に入りいつも通り女性事務員から昼食に出て行く。
十三時、山中は一人で出て来る、俺もすぐに車を降りぴったりと後を付ける。路地に入ったところで一気に間を詰め腰のひねりを入れた肘鉄を後頭部に叩き込んだ、倒れる前に両脇に手を入れ廃ビルに引き釣り込む。折りたたみ式のパイブ椅子に座らせ目隠しをし、両手を力任せに縛り上げたすぐに土気色に変わって行く、両足も縛り上げ椅子に固定させた倒れないように壁際に持っていく。体を探る、胸には社長代理山中とプレートをぶら下げていた。胸ポケットから携帯が出てきた、電源を切って没収する、小さなナイフも出てきた、右足にはベルトで固定した中型のナイフが出てきた。中型のナイフはテーブルに置いた。
気が付くまでタバコを吸った、証拠を残さないようにポケット灰皿に灰を落とす、身動ぎを始めたのでタバコを揉み消しポケットに仕舞う。
山中はキョロキョロして手足が動かない事に焦っている。
「誰かいるのか、助けてくれ」
「助けを呼んでも外には聞こえんよ」
「あんたは誰だ? どうしてこんな真似をするんだ?」
ひねりを入れた右フックを叩き込むと椅子ごと数メートルぶっ飛んだ、長井の言う通り力は要らなかった。椅子を起こし部屋のカドに引きずって行くこれなら簡単に倒れないだろう、山中はえづいている。落ち着くのを待った。
山中が脂汗を流し。
「どこの組の者だ? 俺が島村組の組員ってわかってるんだろうな?」
「わかっているさ、緋村って者だ」
唾を飲み込む音が聞こえた。
「緋村って探偵の緋村か? 死んだはずじゃなかったのか?」
「化けて仕返しに帰ってきた」
「どうするつもりだ」
「奪った契約書を返して貰おう」
「あれは組長が金庫に隠している、俺にはどうすることも出来ない」
顎を狙ってパンチを繰り返す三十分程続けた、かなり脳が揺れたはずだ。
靴下などに砂を入れ殴り続けると傷も残らない拷問が出来る、嘘がつけなくなり、更に続けると心が壊れ精神に異常をきたし気が狂い発狂する。緋村が言っていた事だ。パンチでもいいだろうと思った。
「止めてくれ、吐きそうだ」
今は殴っていない、殴られてる感触が残っているのだろう。
「殴らないでくれ、気がおかしくなりそうだ頼む」
「お前らはいつもあんな手口で契約書を手に入れるのか?」
「美味しそうな物件はたまにする」
また殴り始める、右手が疲れて来たので、左手で軽いジャブを顎に入れ続ける。泣き始めたが止めない、三十分殴り続け止める。
「契約書を返せ」
「姫野不動産に雇われたのか?」
「いや、緋村の仇を取ってるだけだ」
「本当に組長が持ってる、金庫の番号は知らない。本当だ悪かった許してくれ」
「緋村を殺したことに変わりはない」
「俺達、島村不動産は関わっていない」
「江口が殺ったのか?」
「そうだ、もう許しいてくれこの事は誰にも言わないからお願いだ」
右手でまた顎にパンチを入れだす、三十分程で山中が失禁した体が痙攣している。奇妙な叫び声を上げたと思ったらニヤけ出した。
「うへへ、俺は今宙に浮いてるのか? どっちが上かわからなくなった、ハハハ」
心が壊れだした、こいつはただの使い走りだ、これ以上情報は聞けないだろう。
「拳銃は何丁持っている?」
「へへ、お金がたくさん儲かった、へへ」
完全に壊れたみたいだ。そろそろ手首も足も限界なはずだ、確認した、手は倍程膨れ上がり、紫色に変色している。もう手遅れだ足も革靴が破れる程パンパンにふくれている、両手足が壊死している、もう病院に行っても切断されるだろう。
仕上げにパンチを顎に打ち続ける、血の涙を流し始めた、それでも止めないで打ち続けると一時間程で鼻血が吹き出した、汚れるのが嫌なので打つのを止めた。
声を掛けたが反応はない、息はしている死んではいない、外が暗くなり始めている。証拠を残さないように気を付け廃ビルを後にした、事務所の前で男が一人携帯を耳に当て困惑していた。素通りし車に乗り込み家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
飛びついてくる。
「心配してたのよ」
「大丈夫だ、かなり疲れたがな」
「リクエストの精の付くもの用意してあるわよ、すぐに食べる?」
「先に何か飲ましてくれ、喉が乾いて仕方ない」
リビングのソファーに腰を下ろし、タバコを吸った。
豆乳が出てきた一口で飲み干すと更に注がれる。今度は少しずつ飲んだ。
やっと気分が落ち着いた、両方の拳を見るが傷一つない。
「今日の仕上げに入る、物音を立てずにじっとしておいてくれ」
「わかったわ」
ポケットから山中の携帯を取り出し、電源を入れる入った瞬間に着信音が鳴り響く、通話ボタンを押して耳に当てる。
「山中さん? やっと繋がった、どこにいるんです? 探し回りましたよ」
俺は沈黙を続けた。
「山中さん? もしもし? あんた山中さんじゃないな」
「気付くのが遅いな、斎藤。事務所の前で電話してたろ?」
「何で俺の名を? あんた山中さんをどうした? どこへやった? 殺したのか?」
「まだかろうじて生きている、手足の先は切断しなきゃいけないがな」
「島村組を舐めると痛い目に合うぞ」
「聞き飽きた陳腐な脅しだな、実際痛い目に合ってるのはどちらかな?」
「とりあえず山中さんの居場所を教えてくれないか? 話は今度だ」
「ヒントだ、いつもの定食屋、廃ビル」
斎藤が何か喋っていたが一方的に電話を切って電源を落とした。
「由香里、もう大丈夫だ飯を食わせてくれ」
「すぐに用意するわ、テーブルで待ってて」
まずおろしにんにくで表面が見えない程のステーキが運ばれて来る、次にまたにんにくやいろんな食材の入った丼飯が出てきた、生卵も二つ入っている。
「安心して無臭にんにくよ、匂いは残らないわ」
ステーキから食べる、俺好みの超レアだ、にんにくも残さず食べた。次に丼ぶりに手を付ける。複雑な味だが不味くはない、体が火照ってくる。唐辛子やしょうがにとろろもたっぷり入っているようだ。
完食した。栄養ドリンクでは味わえない様な体の底から力がみなぎるような感覚に襲われる。
「どう?」
「何か力が溢れ出す感覚だ」
「私も少し食べたけどまだ体が火照っているわ、今なら何でも出来そうな感じよ」
「俺も同じだ、我が家の特製スタミナ定食だな、また今度頼む」
「メニューを覚えておくわ」
リビングに移った、コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
テレビを付けたがまだニュースにはなっていないみたいだ。テレビを消した、そろそろいい頃合いだろう。
由香里に静かにと言うジェスチャーを送り山中の携帯の電源を入れた。すぐに着信音が鳴る。
「俺だ」
「あんた何をしたんだ、何をどうすればあんなに狂ってしまうんだ、外傷はなかったが」
斎藤は泣いていた。
「どんな様子だ?」
「手首と足首から先は壊死していて切断を余儀なくされた、それと精神が崩壊してしまっている、家族の顔もわからないし、ブツブツ呟いていたかと思えば急に笑いだしたり奇声を上げたりしている、医者は死ぬほどの恐怖を味わったんだろう、もう一生元に戻る事はないと言っていた」
「次はお前がそうなる番だ、斎藤」
「俺が何をしたって言うんだ、何でもするから助けてくれ、あんな姿にはなりたくない、お願いだ」
「助かる方法が一つだけある」
「何だ、金以外なら何でも言ってくれ。俺にも大事な家族がいるんだ三人目の子供も生まれたばかりなんだ」
「知ったこっちゃない」
「助かる方法を言ってくれ」
「山中が盗んだ駅前の土地の契約書を返して貰おう、組長の家から取って来い」
「そんな無茶な事を、それしか助かる方法はないのか?」
「ああ、それが唯一助かる方法だ、二日待ってやる」
「三日にしてくれれば何とかなるかもしれない、三日待ってくれ」
「わかった、三日後に連絡する。それまで電源は入れないからな」
「あんた名前は?」
「緋村だ」
「死んだはずじゃ……」
「切るぞ」
電話を切って電源を落とした
「由香里、もう大丈夫だ」
「こっちが緊張したわ」
「後は今電話で話した斎藤が勝手に動いてくれる、それまで待とうじゃないか」
「あら、お出かけ?」
「さっきの長井にちょっと聞きたい事があるだけさ、すぐに戻る」
「わかったわ」
ジムまで歩いていった、中を覗くと長井は黙々とシャドーボクシングをしている、終わるのを待っていると目が合った。
「荒木さんじゃないか、忘れ物かい?」
「いや、さっきの話の続きだが、俺はフックの方が得意なんだが、もっと上達するにはどうすればいいか聞きに来た」
「じゃあそこのサンドバックを打って見てくれないか」
言われた通りにする、サンドバックに右フックを打ち込む、パンッといい音がした。
「いいパンチだ、だが力任せに打っているだけだ、それでも十分倒せるだろうが、コツを会長に内緒で教えよう。ステップを踏んで向かって行った時に右足が前に来る、左足から右足を踏み込む時に体のねじりを利用し、脇をしっかり締めて打つ、力は入れない。わかるかい?」
もう一度言われたことを守って力を抜き、ねじりを入れ脇をしっかり締めて打った、サンドバックが軋む音を出しながら大きく揺れた。
「飲み込みが早いね、それでいい。力を入れなくてもさっきの倍以上の威力だ、あんたのパンチ力じゃ素人相手なら相手が数メートルぶっ飛ぶぞ、内臓破裂するかもしれないから気を付けてな」
「他のパンチも同じ要領なのか?」
「そうだ、力を入れるとこっちの体力が奪われる、全部体のねじりを使うのさ、力は要らない、体力も使わず倍の威力のパンチが打てる様になる、さっきの足運びとねじりが身につけば、俺より強くなるだろう。俺も負けないようにトレーニングしておく」
「助かったよ、ありがとう」
「後は靴も大事だ、踏ん張りが効かない靴じゃ駄目だ地面をしっかりグリップする靴の方がいい、それだけでもかなり変わる。テレビとかでも試合中キュッキュッて音が鳴ってるだろ? しっかりグリップしている証拠だ」
会長がやって来た。
「さっきのパンチ荒木さんのパンチか? サンドバックがあんなに揺れるなんて凄いじゃないか。喧嘩相手に打たない方がいい、殺しかねない。長井が教えたのか?」
「いや、荒木さんが元々持ってるパンチだ」
「そう言えば仕事で必要って言ってたが、荒っぽい仕事なのか?」
「探偵をしている、そのせいでヤクザが絡んでくる事が多いんでな」
「なるほど、だからか。しかしあんた相手に勝てるヤクザがいるとは思えんがな、拳銃相手ならわからんが」
「今のところ無敗だが、上には上がいるかもしれないからな。今度こそ本当に帰るよ、ありがとう」
手を挙げジムを後にした。
「ただいま」
「本当に早かったのね」
「今から靴とかを買いに行くが、由香里も一緒に来るか?」
「うん、一緒に行くわ」
近くの大型のショッピングセンターに行った、ここはホームセンターから電気店まで入っている大型の施設だ。まず靴を選びに行った。何個か試履をしてグリップ力を確かめたその中から軽い靴を三足買った、次にスポーツ用品店に行き、ボクサーパンツを二枚購入した。
「俺の用事はこれだけだ、行きたいところはあるか?」
「ないわ、あなたと一緒に買物に来れただけで十分よ」
まっすぐ家に帰った。靴を取り出し早速靴紐を通しぴったりフィットするように縛り、玄関先で履こうとした時に由香里に咎められた。
「靴は朝下ろす物よ」
「お前、意外と古風なんだな。わかったよ」
「早いけど晩ご飯が出来たわ、食べましょ」
食事を取りながら他愛ない話をする、日課になっていた。
食い終わるとリビングに行く、タバコに火を付けた。コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
飲みながら考え事をした。明日山中をどうにかしよう、下見もバッチリだ。そろそろ動かないとただ待っているだけではいけないと思ったからだ。
由香里にそれを伝える。不安そうな顔をしている。
「心配しなくてもいい。ほぼ確実にあいつは拳銃は持っていない、ちょっと脅して話をするだけだ」
「安心してていいのね?」
「ああ、大丈夫だ」
「でもヤクザの事務所でしょ?」
「そう言えば言ってなかったな、島村組は経済ヤクザだ、事務所じゃなく会社だ、しかもお前のとこと同じ不動産屋を経営している。島村不動産って会社だ」
「島村不動産なら知っているわ、あそこは業界内でも凄く評判が悪いのよ」
「そうだったのか、その内会社ごと潰しておくよ。ところでテレビを付けてもいいか?」
「二人の家よ確認取らなくてもいいわよ」
テレビを付けた、ニュース番組の始まる頃だ、今日のチンピラがニュースになっているかを確認したかった。
天気予報の後、今日の事件が取り上げられていた。チンピラの仲間割れと言う事になっていた、俺の事は話さなかった様だ。
「由香里、見たか? 所詮チンピラなんてこの程度の扱いだ」
「そうね、目撃者が居なくてよかったわ」
テレビを消し一緒に風呂に入った。
風呂から上がると、コップに残っていた豆乳を飲み干した。
「もう一杯飲む?」
「ああ、頼む」
タバコに火を付け、ちょっとずつ豆乳を飲んだ。
「あなた、そんなにチビチビ飲まなくても買い置きはたくさんあるからおかわりしたらいいわ」
「わかった、ありがとよ」
一気に飲み干しおかわりをした。
暫く明日の行動をイメージトレーニングしたが、所詮イメージだ、どうなるかはわからない。時間は早いが寝ることにした。
「先に休むよ」
「いいわよ、お休みなさい」
浅い眠りに着いた、こう言う睡眠がたまにある。ドア越しに由香里が食器を片付ける音が聞える、調子外れの鼻歌もかすかに聞えて来る、同時に夢も見ている山中を殺す夢だった。暫くすると由香里がそっと寝室に入ってくる。目は開けなかった。熟睡してるように見えるだろう、頬にキスをされた。
いつの間にか深い眠りに落ちていった。
アラームで目が覚める、疲れは残っていない、いい感じだ。
由香里のロングヘアーを撫でる、ようやく目を覚ました。抱き付いて来るので抱き締め返した。
今朝はパンだった、ベーコンエッグと一緒に食べた。
「何時に出掛けるの?」
「十一時前かな、帰りはわからんからこの前みたいに待たずに昼飯食えよ」
「わかったわ」
「疲れて帰るかもしれないから、スタミナのつく晩飯を頼むよ」
「任せてちょうだい」
時間まで暇だったので、由香里の本棚から数冊の小説を取り出した。読み始めたが恋愛物ばかりだった、苦手な分野だ数ページ読み元に戻した。
そうこうしてる間に時間が過ぎていく、着替えて持っていく物を確認した。
「そろそろ行ってくる」
「気を付けてね、いってらっしゃい」
車に乗り込み島村不動産へ向かった。またいい場所に駐車出来た、中の様子を探る山中の姿も見て取れた。緊張はしていないが俺がやりすぎないようにしないといけない、殺人は駄目だ。
十二時、昼休憩に入りいつも通り女性事務員から昼食に出て行く。
十三時、山中は一人で出て来る、俺もすぐに車を降りぴったりと後を付ける。路地に入ったところで一気に間を詰め腰のひねりを入れた肘鉄を後頭部に叩き込んだ、倒れる前に両脇に手を入れ廃ビルに引き釣り込む。折りたたみ式のパイブ椅子に座らせ目隠しをし、両手を力任せに縛り上げたすぐに土気色に変わって行く、両足も縛り上げ椅子に固定させた倒れないように壁際に持っていく。体を探る、胸には社長代理山中とプレートをぶら下げていた。胸ポケットから携帯が出てきた、電源を切って没収する、小さなナイフも出てきた、右足にはベルトで固定した中型のナイフが出てきた。中型のナイフはテーブルに置いた。
気が付くまでタバコを吸った、証拠を残さないようにポケット灰皿に灰を落とす、身動ぎを始めたのでタバコを揉み消しポケットに仕舞う。
山中はキョロキョロして手足が動かない事に焦っている。
「誰かいるのか、助けてくれ」
「助けを呼んでも外には聞こえんよ」
「あんたは誰だ? どうしてこんな真似をするんだ?」
ひねりを入れた右フックを叩き込むと椅子ごと数メートルぶっ飛んだ、長井の言う通り力は要らなかった。椅子を起こし部屋のカドに引きずって行くこれなら簡単に倒れないだろう、山中はえづいている。落ち着くのを待った。
山中が脂汗を流し。
「どこの組の者だ? 俺が島村組の組員ってわかってるんだろうな?」
「わかっているさ、緋村って者だ」
唾を飲み込む音が聞こえた。
「緋村って探偵の緋村か? 死んだはずじゃなかったのか?」
「化けて仕返しに帰ってきた」
「どうするつもりだ」
「奪った契約書を返して貰おう」
「あれは組長が金庫に隠している、俺にはどうすることも出来ない」
顎を狙ってパンチを繰り返す三十分程続けた、かなり脳が揺れたはずだ。
靴下などに砂を入れ殴り続けると傷も残らない拷問が出来る、嘘がつけなくなり、更に続けると心が壊れ精神に異常をきたし気が狂い発狂する。緋村が言っていた事だ。パンチでもいいだろうと思った。
「止めてくれ、吐きそうだ」
今は殴っていない、殴られてる感触が残っているのだろう。
「殴らないでくれ、気がおかしくなりそうだ頼む」
「お前らはいつもあんな手口で契約書を手に入れるのか?」
「美味しそうな物件はたまにする」
また殴り始める、右手が疲れて来たので、左手で軽いジャブを顎に入れ続ける。泣き始めたが止めない、三十分殴り続け止める。
「契約書を返せ」
「姫野不動産に雇われたのか?」
「いや、緋村の仇を取ってるだけだ」
「本当に組長が持ってる、金庫の番号は知らない。本当だ悪かった許してくれ」
「緋村を殺したことに変わりはない」
「俺達、島村不動産は関わっていない」
「江口が殺ったのか?」
「そうだ、もう許しいてくれこの事は誰にも言わないからお願いだ」
右手でまた顎にパンチを入れだす、三十分程で山中が失禁した体が痙攣している。奇妙な叫び声を上げたと思ったらニヤけ出した。
「うへへ、俺は今宙に浮いてるのか? どっちが上かわからなくなった、ハハハ」
心が壊れだした、こいつはただの使い走りだ、これ以上情報は聞けないだろう。
「拳銃は何丁持っている?」
「へへ、お金がたくさん儲かった、へへ」
完全に壊れたみたいだ。そろそろ手首も足も限界なはずだ、確認した、手は倍程膨れ上がり、紫色に変色している。もう手遅れだ足も革靴が破れる程パンパンにふくれている、両手足が壊死している、もう病院に行っても切断されるだろう。
仕上げにパンチを顎に打ち続ける、血の涙を流し始めた、それでも止めないで打ち続けると一時間程で鼻血が吹き出した、汚れるのが嫌なので打つのを止めた。
声を掛けたが反応はない、息はしている死んではいない、外が暗くなり始めている。証拠を残さないように気を付け廃ビルを後にした、事務所の前で男が一人携帯を耳に当て困惑していた。素通りし車に乗り込み家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
飛びついてくる。
「心配してたのよ」
「大丈夫だ、かなり疲れたがな」
「リクエストの精の付くもの用意してあるわよ、すぐに食べる?」
「先に何か飲ましてくれ、喉が乾いて仕方ない」
リビングのソファーに腰を下ろし、タバコを吸った。
豆乳が出てきた一口で飲み干すと更に注がれる。今度は少しずつ飲んだ。
やっと気分が落ち着いた、両方の拳を見るが傷一つない。
「今日の仕上げに入る、物音を立てずにじっとしておいてくれ」
「わかったわ」
ポケットから山中の携帯を取り出し、電源を入れる入った瞬間に着信音が鳴り響く、通話ボタンを押して耳に当てる。
「山中さん? やっと繋がった、どこにいるんです? 探し回りましたよ」
俺は沈黙を続けた。
「山中さん? もしもし? あんた山中さんじゃないな」
「気付くのが遅いな、斎藤。事務所の前で電話してたろ?」
「何で俺の名を? あんた山中さんをどうした? どこへやった? 殺したのか?」
「まだかろうじて生きている、手足の先は切断しなきゃいけないがな」
「島村組を舐めると痛い目に合うぞ」
「聞き飽きた陳腐な脅しだな、実際痛い目に合ってるのはどちらかな?」
「とりあえず山中さんの居場所を教えてくれないか? 話は今度だ」
「ヒントだ、いつもの定食屋、廃ビル」
斎藤が何か喋っていたが一方的に電話を切って電源を落とした。
「由香里、もう大丈夫だ飯を食わせてくれ」
「すぐに用意するわ、テーブルで待ってて」
まずおろしにんにくで表面が見えない程のステーキが運ばれて来る、次にまたにんにくやいろんな食材の入った丼飯が出てきた、生卵も二つ入っている。
「安心して無臭にんにくよ、匂いは残らないわ」
ステーキから食べる、俺好みの超レアだ、にんにくも残さず食べた。次に丼ぶりに手を付ける。複雑な味だが不味くはない、体が火照ってくる。唐辛子やしょうがにとろろもたっぷり入っているようだ。
完食した。栄養ドリンクでは味わえない様な体の底から力がみなぎるような感覚に襲われる。
「どう?」
「何か力が溢れ出す感覚だ」
「私も少し食べたけどまだ体が火照っているわ、今なら何でも出来そうな感じよ」
「俺も同じだ、我が家の特製スタミナ定食だな、また今度頼む」
「メニューを覚えておくわ」
リビングに移った、コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
テレビを付けたがまだニュースにはなっていないみたいだ。テレビを消した、そろそろいい頃合いだろう。
由香里に静かにと言うジェスチャーを送り山中の携帯の電源を入れた。すぐに着信音が鳴る。
「俺だ」
「あんた何をしたんだ、何をどうすればあんなに狂ってしまうんだ、外傷はなかったが」
斎藤は泣いていた。
「どんな様子だ?」
「手首と足首から先は壊死していて切断を余儀なくされた、それと精神が崩壊してしまっている、家族の顔もわからないし、ブツブツ呟いていたかと思えば急に笑いだしたり奇声を上げたりしている、医者は死ぬほどの恐怖を味わったんだろう、もう一生元に戻る事はないと言っていた」
「次はお前がそうなる番だ、斎藤」
「俺が何をしたって言うんだ、何でもするから助けてくれ、あんな姿にはなりたくない、お願いだ」
「助かる方法が一つだけある」
「何だ、金以外なら何でも言ってくれ。俺にも大事な家族がいるんだ三人目の子供も生まれたばかりなんだ」
「知ったこっちゃない」
「助かる方法を言ってくれ」
「山中が盗んだ駅前の土地の契約書を返して貰おう、組長の家から取って来い」
「そんな無茶な事を、それしか助かる方法はないのか?」
「ああ、それが唯一助かる方法だ、二日待ってやる」
「三日にしてくれれば何とかなるかもしれない、三日待ってくれ」
「わかった、三日後に連絡する。それまで電源は入れないからな」
「あんた名前は?」
「緋村だ」
「死んだはずじゃ……」
「切るぞ」
電話を切って電源を落とした
「由香里、もう大丈夫だ」
「こっちが緊張したわ」
「後は今電話で話した斎藤が勝手に動いてくれる、それまで待とうじゃないか」
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第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
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頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
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結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
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