5 / 12
第五章
しおりを挟む
夜のニュース番組が始まった、今日の山中のニュースが流れるはずだ。いくら黙っててくれと言っても医者が事件性ありと感じたら通報する義務がある。
政治のニュースが流れた後に始まった、不動産会社の社長代理が誘拐され発見される、と言う見出しだった。昼食に拐われ夕方に見つかった事、気が狂っている事、縛ってあった両手足が壊死している事が順に流れる。証拠が何一つ残されてない事からプロの犯行だと司会者が言っている、そして不動産会社は表向きの顔で実はヤクザが経営している事からヤクザ同士の潰し合いの可能性が高いとも言っている、島村組の様子も中継で流れた、玄関先に島村茂が出てきてうちは関係ないとか帰れとか怒鳴っていた、やはり写真と同じで普通のどこにでもいる老人にしか見えなかった。他の殺人事件にニュースが変わったのでテレビを消した。
「これがあなたの今日やった事なの?」
「ああ、そうだ」
「プロの犯行になってたわ、あなたこういう事に慣れてるの?」
「いや、ここまでしたのは初めてだ」
「やっぱり素質があるのよ」
「緋村から教わっていたからな、拷問は緋村から教わった事をアレンジしたが」
「緋村は拷問にも詳しかったの?」
「ああ、そうだ。恐らく自分でするのが嫌だったから俺にやらせようと教えてきたんだろうが、本当にやる羽目になるとは思わなかったよ」
「緋村は荒っぽい事は苦手そうだったわ」
「前にも言ったかも知れないが、頭脳派の俺と肉体派のお前が組めば最強じゃないか、があいつの口癖だった」
「私もそう思うわ」
「だがあいつはもういない、俺一人に託された、今後どうするかはわからないがこの事件だけは俺が終わらせる。緋村の代行だ」
「この事件が終わったら二人でのんびり過ごしましょ、探偵を続けて自分から危険な事に飛び込まなくてもいいわ。遊んで暮らせる、それだけのお金はあるわ」
「それもいいかもしれないな」
タバコに火を付けた、由香里はキッチンから豆乳を運んできてくれた。
「豆乳はいちいち買いに行くと重いから、定期購入にしたわ、どんどん飲んでいいわよ」
「すまんな」
「ちょっと暗い雰囲気になっちゃったわね、明るく行きましょ」」
「そうだな、話題を変えるか」
「それがいいわ」
「その前に豆乳を定期購入って事は配達員が持ってくるのか?」
「そうよ玄関先まで届けてくれるわ」
緋村のカバンを引っ張り出し、中の書類を探った。江口の書類を取り出す。
「こいつの顔をしっかり覚えておいてくれ、見かけたらとにかく逃げろ、こいつが緋村と親父さんを殺した男だ、拳銃を持っている」
「わかったわ」
「配達員に扮して来る可能性も十分あり得るからな、事件が片付くまで由香里がドアを開ける事は禁止だ全て俺が出る」
「わかった、顔も覚えたわ。暗いオーラの男ね」
「それは殺気が溢れ出してるせいだ、本物の殺しのプロは直前まで殺気は出さないがこいつは常に出ているどういう事かわかるか?」
「わからないわ」
「こいつがプロの殺し屋じゃない証拠さ、単に殺しが好きなヤクザだって事だ」
「なるほどね、わかったわ」
「話はこれで終わりだ」
カバンを片付け豆乳を飲む。
「さっきのスタミナ定食がまだ効いてる、体が暑い」
「わたしもよ」
「ちょっと出掛けてくる、すぐに戻る」
「どこへ行くの?」
「ジムで長井と話をするだけさ」
「じゃあ家で待ってるわ」
シャツを着替え下に降りて歩いてジムに行った、思った通り長井はまだいた。休憩中なのかボーっとしている。
「長井、ちょっといいか? 聞きたい事がある」
「何でも聞いてくれ、暇だったんだ」
「ボクシングを長く続けているとパンチドランカーになるってよく聞くが、どうなるか詳しく知りたい」
「簡単に言うと殴り合いをしすぎて、脳が揺れっぱなしになるんだ、物事が正しく判断できなくなったり、ろれつが回らなくなったりする。酷くなると精神に異常が出て来る、気が狂ってしまうんだ、廃人になるって事だ」
「じゃあ顎にパンチを数時間打ち続けたらどうなる?」
「軽いパンチでも数時間続けたら精神が崩壊するだろうな。もしかしてさっきテレビで流れてた地元のヤクザが誘拐されて気が狂ったニュースはあんたがやったのか?」
「さあな」
「誰にも言わねえよ」
「俺がやった」
「やはりな、ニュースを見た時ピンと来たんだ、会長とあんたがやったんじゃないかって話をしてたんだ」
「身動きを取れなくして目隠しをして、顎に軽いパンチを入れ続けた。三十分で泣き始めて、次の三十分で失禁し、次の三十分で血の涙を流し始めた、その頃にはもう半分気が狂っていたが最後に一時間打ち続けてたら鼻血が吹き出したから止めたんだ」
「酷い話だ、相手がヤクザだから構わないが鼻血が出たとこで止めたのは正解だったな。それ以上続けてたら鼻血じゃなく脳みそが出て来て死んでたぜ。あんたが人殺しにならなくてよかったよ」
「危ないとこだったんだな」
「ああ、もうそのヤクザは元に戻れない、一生気が狂ったままだ。素人相手ならその三分の一で十分だ失禁するか血の涙を流したらストップだ、効果は十分にある、怖い男だ」
「これも仕事の一つさ」
「探偵ってみんなそうなのか?」
「いや、こんな事をするのは俺くらいだ」
「そうか」
「話はこれで終わりだ、邪魔したな」
「もう帰るのか?」
「ああ、今日はこの事件で疲れたんでな」
「牛肉とにんにくと生卵をたくさん食べればいい、疲れが吹き飛ぶぜ、自然薯でもいい」
「もうたらふく食ったよ」
「今夜は奥さんを寝かさないつもりだな」
「そんな気分じゃないよ」
とは言ったものの俺は興奮しっぱなしだった。
じゃあ、と手を挙げジムから出てまっすぐ家に帰った。
「早かったのね」
「すぐに戻るって約束したからな。牛肉とにんにくと生卵ととろろは正解だった様だ、長井が言ってた」
「調べたかいがあったわ、お風呂沸いたの入りましょ」
脱衣所で服を脱いだ時に由香里が聞いてくる。
「何に興奮してるの? 大きくなってるわ」
「スタミナ定食を食ってからずっと収まらないんだ」
「私だけかと思ってたわ」
「由香里もなのか」
「うん、流石スタミナ丼ってところね」
「長井にも、奥さんを寝かさないつもりだなってからかわれたよ」
風呂でイチャイチャし、風呂から上がるとさっと拭いて裸のまま由香里をベッドに誘い朝まで何度も抱いたし何度も求められた、いろいろ教えてやった。朝には収まった。
二人共肩で息をしていた。
由香里が脱衣所から服を取ってきて、二人で笑いながら服を着た。
「今度作る時は具材を三分の一くらいにしてみるわ、あなたに抱かれるのは嬉しいけど、これじゃ私の身がもたないわ」
「俺もだ」
朝は軽くパンにしたが、まだスタミナ丼が効いているのか寝てないのに活力がみなぎっていた。
山中がどう言う結末を迎えたのか確認しておこうと考えた。
パソコンで地図を開き現場から一番近い救急病院を調べる。すぐ近くに一軒大きな病院がある、恐らくここだろうと目星を付けた。
由香里に出掛けると伝える。
「今日はどこなの? 三日間お休みじゃなかったの?」
「島村不動産がどうなったのかを見て、山中の様子も見てくる」
「まだマスコミがいるかもしれないわ」
「その時は大人しく帰ってくるさ」
「わかったわ」
念のためスーツを着る、やはり俺にはスーツは合わない窮屈な感じに襲われる。
「あなた、スーツ姿凄く似合ってるわ」
「俺には合わないな、普通のサラリーマンは出来そうにない」
そう言って出掛けた。
島村不動産の近くに車を止める、中の様子を探る、山中がいないと駄目なのか、ヤクザとバレたのかわからないが、社員達は事務所の整理を始めている、ゴミ袋に書類の束を入れ表のゴミ置き場に捨てて行っている。大事な書類ははダンボールに入れて車に詰め込んでいた。斎藤一人がデスクに座り何かの作業を黙々と続けていた。マスコミが来るとドアのロックをしブラインドを全て下ろした。
俺は興味を無くし病院に向かった、病院内に入る、マスコミは一切遮断されているのか見当たらなかった、見た感じ警察もいないようだったが私服警官には気を付けた。精神病棟に入る、一階は受け付けだが素通りしても何も言われなかった上から探していく三階に山中の名前を見つけた、周りを見渡すが誰もいないようだ、そっとドアを開けてみる自殺防止の鉄格子の窓が印象的なだった、山中はベッドに腰を掛けうつむいてブツブツ話している、顔を覗き込んだ瞳孔は開き焦点が合っていない、よだれも垂らしていた。
「止めてくれ、もう止めてくれ」
その言葉を繰り返している。試しに耳元で囁く。
「俺だ」
その途端汗が吹き出し焦点の合っていない目でキョロキョロ周りを見渡す、俺の姿は見えていないようだ、突然奇声を上げて叫びベッドの角へ逃げようともがいているが手首と足首から先が無いので上手く動けていない。
俺はこいつは一生このままなのだと確信し部屋を出た、ちょうど妻らしい女性がやって来た。
「あら、会社の方?」
「いえ、昔の後輩です」
と言っておいた、泣きはらした顔に疲れが見える。
「山中さん、治らないんですか?」
「ええ、お医者様が言うには一生このままらしいです、運が良ければ家族の顔くらいは思い出すかもしれないと言ってました」
「どうなさるおつもりですか?」
「私には耐えきれません、施設に預けて実家に帰る予定です、マスコミも子どもたちを狙ってますし、あの人がヤクザだったなんて今でも信じれませんわ」
「そうですか、すいません長話をしてしまって、仕事があるので帰ります」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
ドアの中に女性は消えていった。俺もエレベーターで下に降りてそのまま家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい、どうだったの?」
会社は倒産、山中も再起不能で嫁にも逃げられるみたいだ」
「そう、あなたはどう感じたの」
「複雑な心境だが、当然の結果だと思っているよ」
「それでいいわ、反省してるとか言ったら私が活を入れようと思ってたの」
「そうか、大丈夫だ。それよりやはり俺にはスーツは合わない、窮屈だ」
その場で全部脱いで、部屋着に着替えた。
リビングに行くとタバコを吸った。豆乳とコーヒーが運ばれて来るチョコレートも添えられていた。チョコを一口食べ豆乳を飲む、やっと生き返った感じがする。全部俺のやった事だ後悔はしてはいない。気分も晴れてきた。
「あなた、お昼どうする?」
「スタミナ丼」
「昼間から激しいのは駄目よ」
「いや、体じゃなく心が求めてる」
「じゃあレストランに行きましょ、普通のスタミナ丼がどんなのか知りたわ」
すぐに出掛けた、あのレストランにスタミナ丼があるのかはわからないが外食したい気分だった。
「いらっしゃいませ、大分お疲れのようですね」
「ああ、スタミナ定食みたいなメニューあるかな?」
「ございます、お二人ともそれでよろしいですか?」
「構わないよ」
「ではお席へどうぞ」
暫く待った
「どんなのが出てくるのかしら楽しみだわ」
「由香里が作ったスタミナ定食程じゃないだろう」
料理が運ばれて来る、ガーリックライスとステーキだった、最後に何かわからないベースト状の物が添えられた。
「こちら、特製の栄養ダレでございます、ライスとステーキに塗ってお食べ下さい」
臭ってみたがかすかににんにくのにおいがするだけでよくわからなかった。ステーキに塗り込み残りはガーリックライスにかけて混ぜた。二人で頂きますと言い食べ始める。
味は普通に美味しかった。
「やっぱりこんな物よね」
「そうだな、だが美味いな」
俺達は甘く見ていた様だ、食べ終えると汗が吹き出し、体が火照ってくる。
「昨日のスタミナ丼の再来かもしれないわ」
「俺も同じ事を考えていたよ」
会計を済まし家に帰る。
由香里は顔を赤らめながら。
「やだー、興奮してきたわ欲しくなっちゃったわ、あなたはどう?」
「俺もだ」
「とりあえず、汗を流しましょ」
「そうだなシャワーだけでも浴びるか」
二人でシャワーを浴びてると由香里が俺のを咥えてきた、すぐに果てた。昨日教えた事だった。
だが不思議とそれで落ち着いた。俺も由香里を指で果てさせた、由香里も落ち着いたようだ。
「一過性の物だったみたいだな」
「そうね、落ち着いたわ」
「だが元気は取り戻せたな」
「ええ、私も体が軽いわ」
シャワーを終えると、コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
「一時はどうなるか怖かったわ」
「俺もだ、あの料理何が入っていたかわかるか?」
「とりあえずおろしにんにくととろろに唐辛子と卵はわかったわ、他にも何か入っていたようだったけどわからなかったわ」
「昨日のスタミナ丼とほぼ同じ食材か」
「昨日のは入れすぎたみたいね、次は分量を三分の一に抑えてみるわ」
「それくらいがいいかもな、それにしてもこの爽快感は癖になりそうだ」
「その気持ちわかるわ」
「話は変わるが昨日お前が言ってたように、事件が解決したらこうやって毎日をのんびり過ごすのもいいかもしれないと思えてきた」
「それがいいわ、言葉は交わさなくても心が通じる相手と怒ったり笑ったりしながら過ごし、赤ちゃんが出来たら二人で一緒に育てるの、普通の家庭では出来ない暮らし方よ。一緒の趣味を見つけるのもいいし、別々の趣味に走るのもいいと思うわ。どちらにせよ私はあまり一人で出歩くのは難しそうだしね」
「そうだな、お前は犯罪者から見れば格好の獲物なんだ独り歩きは危険だ、まだ預金は増えるのか?」
「ええ、私が社長をしてる限りお金は増え続けるわ、あなたに諭されてわかったの私は普通の人とは違うことが」
「ちゃんと理解したみたいで良かったよ」
「事件が終われば会社を誰かに譲るのも選択肢に入っているわ」
「それはお前が決める事だ、とにかくお金の重要さを理解しただけでも大きな進歩だ」
「あなたの側にいられるだけでいいわ」
「俺もさお前に金があろうがなかろうが、ずっと一緒にいたい、それだけさ」
「ありがとう、あなたが欲の塊じゃなくてよかったわ」
「俺が変わってるのかもしれないな」
「どこを探してもあなたの様な人は見つからないわ、ところであなたのご両親は?」
「二人共、俺が十代後半に病気と事故で死んだよ」
「ごめんなさい悪い事を聞いちゃったわね」
「構わない、一つだけ打ち明けるよ」
「何か隠し事?」
「隠していた訳じゃない、言いそびれただけだ。両親の保険金やら相続金が併せて五億円以上ある」
「あなたもこっち側の人間じゃない」
「そういう事になるな、他に隠し事はない」
「話してくれてありがとう」
政治のニュースが流れた後に始まった、不動産会社の社長代理が誘拐され発見される、と言う見出しだった。昼食に拐われ夕方に見つかった事、気が狂っている事、縛ってあった両手足が壊死している事が順に流れる。証拠が何一つ残されてない事からプロの犯行だと司会者が言っている、そして不動産会社は表向きの顔で実はヤクザが経営している事からヤクザ同士の潰し合いの可能性が高いとも言っている、島村組の様子も中継で流れた、玄関先に島村茂が出てきてうちは関係ないとか帰れとか怒鳴っていた、やはり写真と同じで普通のどこにでもいる老人にしか見えなかった。他の殺人事件にニュースが変わったのでテレビを消した。
「これがあなたの今日やった事なの?」
「ああ、そうだ」
「プロの犯行になってたわ、あなたこういう事に慣れてるの?」
「いや、ここまでしたのは初めてだ」
「やっぱり素質があるのよ」
「緋村から教わっていたからな、拷問は緋村から教わった事をアレンジしたが」
「緋村は拷問にも詳しかったの?」
「ああ、そうだ。恐らく自分でするのが嫌だったから俺にやらせようと教えてきたんだろうが、本当にやる羽目になるとは思わなかったよ」
「緋村は荒っぽい事は苦手そうだったわ」
「前にも言ったかも知れないが、頭脳派の俺と肉体派のお前が組めば最強じゃないか、があいつの口癖だった」
「私もそう思うわ」
「だがあいつはもういない、俺一人に託された、今後どうするかはわからないがこの事件だけは俺が終わらせる。緋村の代行だ」
「この事件が終わったら二人でのんびり過ごしましょ、探偵を続けて自分から危険な事に飛び込まなくてもいいわ。遊んで暮らせる、それだけのお金はあるわ」
「それもいいかもしれないな」
タバコに火を付けた、由香里はキッチンから豆乳を運んできてくれた。
「豆乳はいちいち買いに行くと重いから、定期購入にしたわ、どんどん飲んでいいわよ」
「すまんな」
「ちょっと暗い雰囲気になっちゃったわね、明るく行きましょ」」
「そうだな、話題を変えるか」
「それがいいわ」
「その前に豆乳を定期購入って事は配達員が持ってくるのか?」
「そうよ玄関先まで届けてくれるわ」
緋村のカバンを引っ張り出し、中の書類を探った。江口の書類を取り出す。
「こいつの顔をしっかり覚えておいてくれ、見かけたらとにかく逃げろ、こいつが緋村と親父さんを殺した男だ、拳銃を持っている」
「わかったわ」
「配達員に扮して来る可能性も十分あり得るからな、事件が片付くまで由香里がドアを開ける事は禁止だ全て俺が出る」
「わかった、顔も覚えたわ。暗いオーラの男ね」
「それは殺気が溢れ出してるせいだ、本物の殺しのプロは直前まで殺気は出さないがこいつは常に出ているどういう事かわかるか?」
「わからないわ」
「こいつがプロの殺し屋じゃない証拠さ、単に殺しが好きなヤクザだって事だ」
「なるほどね、わかったわ」
「話はこれで終わりだ」
カバンを片付け豆乳を飲む。
「さっきのスタミナ定食がまだ効いてる、体が暑い」
「わたしもよ」
「ちょっと出掛けてくる、すぐに戻る」
「どこへ行くの?」
「ジムで長井と話をするだけさ」
「じゃあ家で待ってるわ」
シャツを着替え下に降りて歩いてジムに行った、思った通り長井はまだいた。休憩中なのかボーっとしている。
「長井、ちょっといいか? 聞きたい事がある」
「何でも聞いてくれ、暇だったんだ」
「ボクシングを長く続けているとパンチドランカーになるってよく聞くが、どうなるか詳しく知りたい」
「簡単に言うと殴り合いをしすぎて、脳が揺れっぱなしになるんだ、物事が正しく判断できなくなったり、ろれつが回らなくなったりする。酷くなると精神に異常が出て来る、気が狂ってしまうんだ、廃人になるって事だ」
「じゃあ顎にパンチを数時間打ち続けたらどうなる?」
「軽いパンチでも数時間続けたら精神が崩壊するだろうな。もしかしてさっきテレビで流れてた地元のヤクザが誘拐されて気が狂ったニュースはあんたがやったのか?」
「さあな」
「誰にも言わねえよ」
「俺がやった」
「やはりな、ニュースを見た時ピンと来たんだ、会長とあんたがやったんじゃないかって話をしてたんだ」
「身動きを取れなくして目隠しをして、顎に軽いパンチを入れ続けた。三十分で泣き始めて、次の三十分で失禁し、次の三十分で血の涙を流し始めた、その頃にはもう半分気が狂っていたが最後に一時間打ち続けてたら鼻血が吹き出したから止めたんだ」
「酷い話だ、相手がヤクザだから構わないが鼻血が出たとこで止めたのは正解だったな。それ以上続けてたら鼻血じゃなく脳みそが出て来て死んでたぜ。あんたが人殺しにならなくてよかったよ」
「危ないとこだったんだな」
「ああ、もうそのヤクザは元に戻れない、一生気が狂ったままだ。素人相手ならその三分の一で十分だ失禁するか血の涙を流したらストップだ、効果は十分にある、怖い男だ」
「これも仕事の一つさ」
「探偵ってみんなそうなのか?」
「いや、こんな事をするのは俺くらいだ」
「そうか」
「話はこれで終わりだ、邪魔したな」
「もう帰るのか?」
「ああ、今日はこの事件で疲れたんでな」
「牛肉とにんにくと生卵をたくさん食べればいい、疲れが吹き飛ぶぜ、自然薯でもいい」
「もうたらふく食ったよ」
「今夜は奥さんを寝かさないつもりだな」
「そんな気分じゃないよ」
とは言ったものの俺は興奮しっぱなしだった。
じゃあ、と手を挙げジムから出てまっすぐ家に帰った。
「早かったのね」
「すぐに戻るって約束したからな。牛肉とにんにくと生卵ととろろは正解だった様だ、長井が言ってた」
「調べたかいがあったわ、お風呂沸いたの入りましょ」
脱衣所で服を脱いだ時に由香里が聞いてくる。
「何に興奮してるの? 大きくなってるわ」
「スタミナ定食を食ってからずっと収まらないんだ」
「私だけかと思ってたわ」
「由香里もなのか」
「うん、流石スタミナ丼ってところね」
「長井にも、奥さんを寝かさないつもりだなってからかわれたよ」
風呂でイチャイチャし、風呂から上がるとさっと拭いて裸のまま由香里をベッドに誘い朝まで何度も抱いたし何度も求められた、いろいろ教えてやった。朝には収まった。
二人共肩で息をしていた。
由香里が脱衣所から服を取ってきて、二人で笑いながら服を着た。
「今度作る時は具材を三分の一くらいにしてみるわ、あなたに抱かれるのは嬉しいけど、これじゃ私の身がもたないわ」
「俺もだ」
朝は軽くパンにしたが、まだスタミナ丼が効いているのか寝てないのに活力がみなぎっていた。
山中がどう言う結末を迎えたのか確認しておこうと考えた。
パソコンで地図を開き現場から一番近い救急病院を調べる。すぐ近くに一軒大きな病院がある、恐らくここだろうと目星を付けた。
由香里に出掛けると伝える。
「今日はどこなの? 三日間お休みじゃなかったの?」
「島村不動産がどうなったのかを見て、山中の様子も見てくる」
「まだマスコミがいるかもしれないわ」
「その時は大人しく帰ってくるさ」
「わかったわ」
念のためスーツを着る、やはり俺にはスーツは合わない窮屈な感じに襲われる。
「あなた、スーツ姿凄く似合ってるわ」
「俺には合わないな、普通のサラリーマンは出来そうにない」
そう言って出掛けた。
島村不動産の近くに車を止める、中の様子を探る、山中がいないと駄目なのか、ヤクザとバレたのかわからないが、社員達は事務所の整理を始めている、ゴミ袋に書類の束を入れ表のゴミ置き場に捨てて行っている。大事な書類ははダンボールに入れて車に詰め込んでいた。斎藤一人がデスクに座り何かの作業を黙々と続けていた。マスコミが来るとドアのロックをしブラインドを全て下ろした。
俺は興味を無くし病院に向かった、病院内に入る、マスコミは一切遮断されているのか見当たらなかった、見た感じ警察もいないようだったが私服警官には気を付けた。精神病棟に入る、一階は受け付けだが素通りしても何も言われなかった上から探していく三階に山中の名前を見つけた、周りを見渡すが誰もいないようだ、そっとドアを開けてみる自殺防止の鉄格子の窓が印象的なだった、山中はベッドに腰を掛けうつむいてブツブツ話している、顔を覗き込んだ瞳孔は開き焦点が合っていない、よだれも垂らしていた。
「止めてくれ、もう止めてくれ」
その言葉を繰り返している。試しに耳元で囁く。
「俺だ」
その途端汗が吹き出し焦点の合っていない目でキョロキョロ周りを見渡す、俺の姿は見えていないようだ、突然奇声を上げて叫びベッドの角へ逃げようともがいているが手首と足首から先が無いので上手く動けていない。
俺はこいつは一生このままなのだと確信し部屋を出た、ちょうど妻らしい女性がやって来た。
「あら、会社の方?」
「いえ、昔の後輩です」
と言っておいた、泣きはらした顔に疲れが見える。
「山中さん、治らないんですか?」
「ええ、お医者様が言うには一生このままらしいです、運が良ければ家族の顔くらいは思い出すかもしれないと言ってました」
「どうなさるおつもりですか?」
「私には耐えきれません、施設に預けて実家に帰る予定です、マスコミも子どもたちを狙ってますし、あの人がヤクザだったなんて今でも信じれませんわ」
「そうですか、すいません長話をしてしまって、仕事があるので帰ります」
「いえ、こちらこそありがとうございます」
ドアの中に女性は消えていった。俺もエレベーターで下に降りてそのまま家に帰った。
「ただいま」
「おかえりなさい、どうだったの?」
会社は倒産、山中も再起不能で嫁にも逃げられるみたいだ」
「そう、あなたはどう感じたの」
「複雑な心境だが、当然の結果だと思っているよ」
「それでいいわ、反省してるとか言ったら私が活を入れようと思ってたの」
「そうか、大丈夫だ。それよりやはり俺にはスーツは合わない、窮屈だ」
その場で全部脱いで、部屋着に着替えた。
リビングに行くとタバコを吸った。豆乳とコーヒーが運ばれて来るチョコレートも添えられていた。チョコを一口食べ豆乳を飲む、やっと生き返った感じがする。全部俺のやった事だ後悔はしてはいない。気分も晴れてきた。
「あなた、お昼どうする?」
「スタミナ丼」
「昼間から激しいのは駄目よ」
「いや、体じゃなく心が求めてる」
「じゃあレストランに行きましょ、普通のスタミナ丼がどんなのか知りたわ」
すぐに出掛けた、あのレストランにスタミナ丼があるのかはわからないが外食したい気分だった。
「いらっしゃいませ、大分お疲れのようですね」
「ああ、スタミナ定食みたいなメニューあるかな?」
「ございます、お二人ともそれでよろしいですか?」
「構わないよ」
「ではお席へどうぞ」
暫く待った
「どんなのが出てくるのかしら楽しみだわ」
「由香里が作ったスタミナ定食程じゃないだろう」
料理が運ばれて来る、ガーリックライスとステーキだった、最後に何かわからないベースト状の物が添えられた。
「こちら、特製の栄養ダレでございます、ライスとステーキに塗ってお食べ下さい」
臭ってみたがかすかににんにくのにおいがするだけでよくわからなかった。ステーキに塗り込み残りはガーリックライスにかけて混ぜた。二人で頂きますと言い食べ始める。
味は普通に美味しかった。
「やっぱりこんな物よね」
「そうだな、だが美味いな」
俺達は甘く見ていた様だ、食べ終えると汗が吹き出し、体が火照ってくる。
「昨日のスタミナ丼の再来かもしれないわ」
「俺も同じ事を考えていたよ」
会計を済まし家に帰る。
由香里は顔を赤らめながら。
「やだー、興奮してきたわ欲しくなっちゃったわ、あなたはどう?」
「俺もだ」
「とりあえず、汗を流しましょ」
「そうだなシャワーだけでも浴びるか」
二人でシャワーを浴びてると由香里が俺のを咥えてきた、すぐに果てた。昨日教えた事だった。
だが不思議とそれで落ち着いた。俺も由香里を指で果てさせた、由香里も落ち着いたようだ。
「一過性の物だったみたいだな」
「そうね、落ち着いたわ」
「だが元気は取り戻せたな」
「ええ、私も体が軽いわ」
シャワーを終えると、コーヒーと豆乳が運ばれて来る。
「一時はどうなるか怖かったわ」
「俺もだ、あの料理何が入っていたかわかるか?」
「とりあえずおろしにんにくととろろに唐辛子と卵はわかったわ、他にも何か入っていたようだったけどわからなかったわ」
「昨日のスタミナ丼とほぼ同じ食材か」
「昨日のは入れすぎたみたいね、次は分量を三分の一に抑えてみるわ」
「それくらいがいいかもな、それにしてもこの爽快感は癖になりそうだ」
「その気持ちわかるわ」
「話は変わるが昨日お前が言ってたように、事件が解決したらこうやって毎日をのんびり過ごすのもいいかもしれないと思えてきた」
「それがいいわ、言葉は交わさなくても心が通じる相手と怒ったり笑ったりしながら過ごし、赤ちゃんが出来たら二人で一緒に育てるの、普通の家庭では出来ない暮らし方よ。一緒の趣味を見つけるのもいいし、別々の趣味に走るのもいいと思うわ。どちらにせよ私はあまり一人で出歩くのは難しそうだしね」
「そうだな、お前は犯罪者から見れば格好の獲物なんだ独り歩きは危険だ、まだ預金は増えるのか?」
「ええ、私が社長をしてる限りお金は増え続けるわ、あなたに諭されてわかったの私は普通の人とは違うことが」
「ちゃんと理解したみたいで良かったよ」
「事件が終われば会社を誰かに譲るのも選択肢に入っているわ」
「それはお前が決める事だ、とにかくお金の重要さを理解しただけでも大きな進歩だ」
「あなたの側にいられるだけでいいわ」
「俺もさお前に金があろうがなかろうが、ずっと一緒にいたい、それだけさ」
「ありがとう、あなたが欲の塊じゃなくてよかったわ」
「俺が変わってるのかもしれないな」
「どこを探してもあなたの様な人は見つからないわ、ところであなたのご両親は?」
「二人共、俺が十代後半に病気と事故で死んだよ」
「ごめんなさい悪い事を聞いちゃったわね」
「構わない、一つだけ打ち明けるよ」
「何か隠し事?」
「隠していた訳じゃない、言いそびれただけだ。両親の保険金やら相続金が併せて五億円以上ある」
「あなたもこっち側の人間じゃない」
「そういう事になるな、他に隠し事はない」
「話してくれてありがとう」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる