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第六章
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暫くの間黙って寄り添っていた、本当の俺はこういう事に憧れていたのかもしれない。
テーブルの豆乳を取る。
「聞いてもいい?」
「何をだ?」
「普通の人ならそれだけのお金が手に入れば人格が変わって遊びに使ったりして最後には痛い目に合うわ、でもあなたは違う逆に汗水流して働いてそのお金で生活していたわ、それがわからないの」
「うちは元々資産家だった、親類が金に目を奪われ破滅して行く姿を何度も見てきたからな、だから俺はコツコツ働かなきゃ駄目だと思い、親の金には手を付けず働いた」
「そう、破滅する人達を見てきたからなのね理解したわ」
「まだ売却してない土地もたくさんある、どうすればいいのかわからなかったしな」
「まだ持ってるのね、売るならうちで買い取らせて貰うわよ」
「あんなのが売れるのかな?」
「どこなの?」
由香里の手を引き立ち上がった、北側の窓辺に行く。
「あれだ」
指を刺した。
「あれじゃ、わからないわ」
「あそこに見えてる山二つだ」
「まあ、凄いじゃない宝の持ち腐れよ」
「そうなのか? 俺には興味がない好きにしてくれ」
「いいのね、権利書は持ってるの?」
俺は工具箱を開け二重底の蓋を開け、二枚の書類を取り出し由香里に手渡した。
「街の景観が崩れるかもしれないけど、ここを欲しがる人は多いわ、本当にどう扱ってもいいのね?」
「構わんよ、多少の小遣い稼ぎになれば十分だ」
「あなた、ここの価値がわかってないわね、小遣いどころの話じゃないわよ、うちの事務所に連れて行ってちょうだい」
「わかった」
服を着替え用意する、由香里も慌てて準備している。
すぐに出発した、事務所に着くと二人で中に入る。
山本が笑顔で出迎えてくれた。
「噂は聞いてますよ、前回来られた日から同棲しているらしいじゃないですか」
周りからも、祝福の声が挙がる。
「山本さんみんなもありがとう、でも今日はそれどころじゃないの。山本さんこれ見て頂戴」
手渡した書類に目を通している間に山本が険しい表情に変わって行く、手が震えてるのが見て取れる。
「社長、これをどうやって手に入れたんですか、お宝物件じゃないですか」
声も若干震えている。
「所有者名を見て」
「荒木さん、あなたがこれを所有してたのですか?」
「ああ、どう扱えばいいかわからなかったしね、売れるのかい? 好きに扱ってくれて構わない、多少の小遣いになればいい」
「小遣いどころの話じゃありませんよ、社長に聞かなかったのですか? 一攫千金の話ですよ」
「どれくらい凄いのか俺にはわからないんでね」
「上手く売れればいくらになるのか、私も想像付きませんが、社長の預金額に負けないほどの価値があります、任せて貰えますか」
「ああ、構わないが話が大袈裟過ぎじゃないか?」
「いいえ、売ればとんでもない金額が動きます。大切に預からせていただきます。社長、これは例の金庫に入れましょう」
「それがいいわね」
成り行きを見ていたが駅前の土地の契約書と同じ金庫に入れられた。
手続きはややこしいのか由香里が全て代筆してくれている。
「社長、売却値ですが」
「いくらでも構わないわ、どの道一生遊んで使っても、使い切れない程の金額になりそうですもの」
「では独断で決めさせて頂きます、ここなら国が大金で買い取ってくれそうです」
「いいわ、早いとこ売り払って頂戴、あの人あの土地の重要性に気付いていないみたいだから、早くわからせてあげて」
「わかりました、早速明日から動きます」
「売れたらボーナスをかなり上乗せするわ、とりあえずこれでいいわね、今日は帰るわ」
「お疲れ様でした」
車に乗り込み家路についた。
「あなたの方がお金持ちになるかもしれないわ」
俺はまだ半信半疑だった、実感がない。
「とりあえず、売れるまでは金の話は止めないか?」
「そう言うと思ったわ、いいわ」
「俺はまだ事件が半分残っている」
「そっちも重要ね」
「腹が減った」
「バタバタしてて何も用意してないわ、お昼も行ったけどレストランにしましょ」
「ああ、いいぞ」
マンションの駐車場に車を止め、歩いて行く、散歩にはちょうどいい距離だ。
レストランのドアを開ける。
ウエイターがおやっと言う顔をしている。
「また来たよ」
「ありがとうございます、何かの記念日ですか?」
「記念日ってほどじゃないが、いい事があったんだ」
「ではこちらへどうぞ、メニューはお決まりでしょうか?」
「昼間と同じものを」
由香里がクスクスと笑いだした。
「またなの? 私も同じでいいわ」
「かしこまりました」
「結婚の前に妊娠しても知らないわよ」
「今度は耐えて見せるさ」
料理が運ばれて来る、昼間と同じ要領で食べ始める。
「あそこの山どうなるのかしら?」
「更地にして何か建つんじゃないか?」
「新幹線が通るかもしれないわ」
「まあこれで俺もあの山と親族からの柵から抜け出せる。お前に任せてよかったよ」
「あなたの気が済むならいいわ」
「体が熱くなってきた」
「私の分の残りも食べて頂戴」
「もういいのか? 貰うぞ」
「いいわよ、私はおかしくなる前にセーブしておくわ」
食事を終え、家に帰る。
「今日はいろいろあったわね、有意義な一日だったわ」
コーヒーを飲みながら話をする。
「セーブしたのに体が暑いわ」
「俺もだ、お前の分まで食べたからかもしれない」
「私は我慢出来るけどあなたは無理そうね、じっとしてて」
また咥えられた、五分程で果てる。
「すまない、やっと収まった様だ。お前はいいのか?」
「ええ、大丈夫よ」
「我慢するって言ったのに破ってしまった」
「気にすることないわ、私まだ下手だわ」
「そんな事ないさ、良かったよ」
「ありがと、もっと練習しなきゃ」
「そんな事別に上手くなる必要はない」
「でもこれも一つの愛の証よ」
「わかったよ、この話は今日はお終いだ」
「そうね、こうして一緒にお茶するだけでも幸せだもの」
「ところで俺達が出会ってから何日目だ?」
「急に聞かれてもわからないわ、出会ったのは父の葬儀の日でしょ、父が亡くなった日は覚えてるけど、それから何日後に葬儀をしたのかが思い出せないの」
「じゃあ同棲記念日は何時だった?」
「あなたと初めて一緒に事務所に行った日だったわよね? 浮かれててこれも思い出せないけど今日で十日から二週間の間のはずよ」
「記念日なのに二人共、覚えて無いのか。俺も仕事を辞めてから曜日感覚がゼロだ」
由香里が携帯を取り出す、どこかに掛け始めた。
「もしもし、遅くまでお疲れ様です。今手は空いてるかしら? 父の葬儀の日と私と俊輔さんと初めて一緒に事務所に行った日は覚えてるかしら? はい、はい、ええそうなの」
由香里がメモにペンを走らせる。
「ええ、ありがとう何時でもいいわ、じゃあお疲れ様でした、助かったわ」
電話を切った。
「由香里が携帯で話してる姿を初めて見た、でわかったのか?」
「山本さんの手帳に書いてあったみたい、葬儀が十日で事務所に行った日が十三日ですって」
カレンダーを見た、同棲してからちょうど二週間だった。
パソコンのカレンダーに同棲記念日と書いておいた。
斎藤に三日待つと言ったが山中の携帯を取り出し電源を入れてみる。いつもの様にすぐ着信はなかった、後二日待てばいいんだ。電源を切った。
「後二日で何とかなるのかしら?」
「斎藤は何とかなるかもしれないと言ったんだ、一応信じてやるつもりだ。かなり俺に恐怖を覚えたみたいだしな。明日にでも進展を聞いてみるつもりだ」
「ところで、あなたの土地が凄い金額で売れたらどうするつもり?」
「まず、車を買い替えるよ。今のクラウンはお下がりでもらった車で、ちょうど車検も近いしな。お前のポルシェみたいに外車を買おうか迷ってる。自分で整備したいから整備し易いスポーツカーに憧れがあるな」
「あの土地が売れれば、何でも買えるわ、車の話をしてる時あなた目が輝いていたわ。よっぽど車が好きなのね」
「ああ、だから整備士の仕事を選んだくらいだしな」
「何か会社を立ち上げて商売をしたり経営する気はないの?」
「今のところ考えてないな」
「そう、やっぱりのんびり二人で過ごしましょ、買い替えた車で毎日ドライブするのも悪くないわね」
「お前はポルシェを持ってるがあまり運転したがらないな、あんないい車なのに」
「自分で運転するのが苦手なのよ」
「ポルシェは癖が少ない上にスピードも出るから楽しいと思うがな、俺はポルシェは好きだぞ、整備も楽だしな」
「ベンツはどう?」
「ベンツは興味ないな、ありふれてるし。成金やヤクザと思われるのも嫌だしな」
「確かにベンツはありきたりよね」
「やっぱり土地が売れるまで考えないことにするよ、もししょぼかったら虚しいだけだしな」
「大丈夫よ、必ず高値で売れるわ私が保証するわ。山本さんも凄いって言ってたでしょ」
風呂の沸いたメロディーが流れた。
二人で入り疲れを癒やした。
由香里が体を洗い出したので、俺も体を洗う、髪を洗おうとしたら由香里が洗わせてと言うのでシャンプーをしてもらった、散髪屋にいるような感じがした。
風呂からあがると散髪をしたくなった。
「由香里、散髪をしたいんだが短くしてもいいか?」
「いいんじゃない? 男性は短髪の方が私は好きだわ。飽きてもすぐに伸ばせるでしょ?「一度思いっきり切ってみるのもいいかもしれないわ、あなたは似合うはずよ」
「わかった、いい散髪屋は近くにあるか?」
「私の通ってる美容院に行ってみる?」
「上手く切ってくれればどこでも構わない」
「私も毛先を少し切りたいから、明日行ってみましょ」
「ああ、美容院は初めてだ一緒に行ってくれると心強い」
「まだ開いてるから予約を入れておくわ」
由香里は電話を入れた。
「こんばんは、姫野です二人分の予約をお願いするわ、もう一人は男性よ。えっ、ちょっと待ってもらえる?」
由香里が俺に尋ねる。
「あなた、パーマじゃなかったら今空いてるらしいけどどうする?」
「よし、今から行こう」
由香里は携帯を耳に当て。
「じゃあ今から行きます。姫野と荒木です」
「早速行きましょ、待たせたら悪いわ」
素早く着替え急いで歩いて行く。
「いらっしゃいませ、あら姫野さん早かったわね。こちらがお連れの荒木様ですね」
二人並んで座らされた。
「私はいつもよりもう十センチ程短くして頂戴、あの人は思い切ってばっさり短くしてくれていいわ、そうね横と後ろは刈り上げて上はワックスで遊ばせる感じでお願いするわ」
「本当にいいのですか?」
「ああ、構わない思いっきりやってくれ」
バリカンで横と後ろを刈り上げていく、上はハサミで容赦なく切られて行く、向かいの鏡の俺は丸坊主に近い状態だ、十分程で出来上がった短くしすぎたかなと思ったが自分から言いだしたことだ、後悔はしていない、髪を洗い乾かすとスポーツ刈りに近い短さになっていた。乾かすと終わりだった。
「ワックスで遊ばせる感じと聞いたがどうやるんだい?」
「実際にワックス付けてみましょうか?」
「ああ、一回見ておきたい」
「この長さだとこうやって立たせるか、こうやって流すか二種類出来ます」
「いいね、気に入ったこれから暫くこの髪型にするよ」
「記録を残しておいたので次回からは前回と一緒と言ってもらえば結構です。今はワックス落としておきましょうか?」
「頼むよ、風呂上がりなんでね」
「あなた、似合ってるわよ」
「姫野さんが男の人を連れてくるのって初めてじゃないですか?」
「初めての彼氏よ、一緒に住んでるのよ」
「おめでとうございます、じゃあ結婚する予定ですか?
「そのつもりでお付き合いしてるのよ」
俺は二度目の洗髪を終え席を離れた。由香里も終わったようだ。
料金は由香里が払ってしまっていた。
「お待たせしました、ありがとうございました」
店を出た
「ありがとう、次は俺が出すよ」
「わかったわ、で頭どう?」
「頭が軽くなったし、気に入った」
「さっきまでの髪型よりこっちの方が断然いいわよ、ワックス買って帰りましょ」
途中のコンビニで硬めのワックスを購入した。
帰ってまたコーヒーを飲んだ。
「お前も結構切ったな」
「本当は肩くらいまで切りたいんだけど、勇気がないの」
「ロングもいいが似合うと思うぞ」
「今度挑戦してみるわ」
「ポニーテールが似合う長さにしてくれないか?」
「ポニーテールが好きなの?」
「ああ、好きだ」
「わかったわ、覚えておくわ」
大きな欠伸が出た
「早めに寝ましょうか」
「そうしよう、眠くなってきた」
よく考えればここ二日ほどあまり寝てない気がする、いつ何があるかわからない、寝れる時に寝ておいた方がいいだろう。ベッドに潜り込むとすぐに眠りに落ちた。
アラームの鳴る前に目が覚めた、ぐっすり寝れたみたいだ気分がスッキリしている。
由香里を起こさないよう静かにベッドから抜け出す、冷蔵庫から豆乳を取り出しコップに注いでリビングに持っていく。
タバコを吸いながら清々しい朝日を拝む。
今日か明日には斎藤が動くだろう、失敗したら俺が痛めつける、成功すればいずれ島村に気付かれ江口に襲われる事になる。どちらにせよ痛い目にあうのは火を見るよりも明らかだ。
部屋を見渡す、そう言えばこの家にはエアコンが付いてないのにいつも快適だ、天井に会社とかでよく見かける空調が付いている、流石豪華な一流マンションだ。
由香里が慌てた感じで寝室から飛び出してくる、俺を見て落ち着いたようだ。
「目が覚めたらあなたがいなくて。出ていったのかと思って心配したわ」
「俺の帰る場所はここだけだと言っただろ、黙って出ていったりしないから安心しろ」
俺の隣に座り手を握ってくる、握り返す。
「きっと変な夢を見たせいね、あなたがお前には飽きたって言って他の女と一緒に出て行く夢よ」
「あり得ないな、だが逆のパターンもあるかもしれないと俺は心配だがな」
「それこそあり得ないわ」
「それなら俺は安心だ」
「私も少し安心したわ」
「今朝はカルボナーラが食べたい」
「わかったわ、ちょっと待ってて」
由香里はまだしょげているようだ、食べ終わる頃には戻っているだろう。豆乳を飲み干した。
「出来たわこっちへ来て」
テーブルに向かい合って座る。
フォークに巻きつけて食べる。由香里はまだ手を付けない。
「食わないと元気も出ないぞ」
やっと食べ始めた。
俺は先に食い終えたが由香里はまだ食べている。
「今朝気付いたんだがエアコンが付いて無いんだな」
「そうよ、各部屋に空調が着いてるから快適でしょ」
「一流のマンションは金がかかってるなと感心してたんだ」
「私はエアコンが苦手なの、だからここに決めたのよ交通の便もいいからね」
ようやく由香里の笑顔が戻ってきた。
テーブルの豆乳を取る。
「聞いてもいい?」
「何をだ?」
「普通の人ならそれだけのお金が手に入れば人格が変わって遊びに使ったりして最後には痛い目に合うわ、でもあなたは違う逆に汗水流して働いてそのお金で生活していたわ、それがわからないの」
「うちは元々資産家だった、親類が金に目を奪われ破滅して行く姿を何度も見てきたからな、だから俺はコツコツ働かなきゃ駄目だと思い、親の金には手を付けず働いた」
「そう、破滅する人達を見てきたからなのね理解したわ」
「まだ売却してない土地もたくさんある、どうすればいいのかわからなかったしな」
「まだ持ってるのね、売るならうちで買い取らせて貰うわよ」
「あんなのが売れるのかな?」
「どこなの?」
由香里の手を引き立ち上がった、北側の窓辺に行く。
「あれだ」
指を刺した。
「あれじゃ、わからないわ」
「あそこに見えてる山二つだ」
「まあ、凄いじゃない宝の持ち腐れよ」
「そうなのか? 俺には興味がない好きにしてくれ」
「いいのね、権利書は持ってるの?」
俺は工具箱を開け二重底の蓋を開け、二枚の書類を取り出し由香里に手渡した。
「街の景観が崩れるかもしれないけど、ここを欲しがる人は多いわ、本当にどう扱ってもいいのね?」
「構わんよ、多少の小遣い稼ぎになれば十分だ」
「あなた、ここの価値がわかってないわね、小遣いどころの話じゃないわよ、うちの事務所に連れて行ってちょうだい」
「わかった」
服を着替え用意する、由香里も慌てて準備している。
すぐに出発した、事務所に着くと二人で中に入る。
山本が笑顔で出迎えてくれた。
「噂は聞いてますよ、前回来られた日から同棲しているらしいじゃないですか」
周りからも、祝福の声が挙がる。
「山本さんみんなもありがとう、でも今日はそれどころじゃないの。山本さんこれ見て頂戴」
手渡した書類に目を通している間に山本が険しい表情に変わって行く、手が震えてるのが見て取れる。
「社長、これをどうやって手に入れたんですか、お宝物件じゃないですか」
声も若干震えている。
「所有者名を見て」
「荒木さん、あなたがこれを所有してたのですか?」
「ああ、どう扱えばいいかわからなかったしね、売れるのかい? 好きに扱ってくれて構わない、多少の小遣いになればいい」
「小遣いどころの話じゃありませんよ、社長に聞かなかったのですか? 一攫千金の話ですよ」
「どれくらい凄いのか俺にはわからないんでね」
「上手く売れればいくらになるのか、私も想像付きませんが、社長の預金額に負けないほどの価値があります、任せて貰えますか」
「ああ、構わないが話が大袈裟過ぎじゃないか?」
「いいえ、売ればとんでもない金額が動きます。大切に預からせていただきます。社長、これは例の金庫に入れましょう」
「それがいいわね」
成り行きを見ていたが駅前の土地の契約書と同じ金庫に入れられた。
手続きはややこしいのか由香里が全て代筆してくれている。
「社長、売却値ですが」
「いくらでも構わないわ、どの道一生遊んで使っても、使い切れない程の金額になりそうですもの」
「では独断で決めさせて頂きます、ここなら国が大金で買い取ってくれそうです」
「いいわ、早いとこ売り払って頂戴、あの人あの土地の重要性に気付いていないみたいだから、早くわからせてあげて」
「わかりました、早速明日から動きます」
「売れたらボーナスをかなり上乗せするわ、とりあえずこれでいいわね、今日は帰るわ」
「お疲れ様でした」
車に乗り込み家路についた。
「あなたの方がお金持ちになるかもしれないわ」
俺はまだ半信半疑だった、実感がない。
「とりあえず、売れるまでは金の話は止めないか?」
「そう言うと思ったわ、いいわ」
「俺はまだ事件が半分残っている」
「そっちも重要ね」
「腹が減った」
「バタバタしてて何も用意してないわ、お昼も行ったけどレストランにしましょ」
「ああ、いいぞ」
マンションの駐車場に車を止め、歩いて行く、散歩にはちょうどいい距離だ。
レストランのドアを開ける。
ウエイターがおやっと言う顔をしている。
「また来たよ」
「ありがとうございます、何かの記念日ですか?」
「記念日ってほどじゃないが、いい事があったんだ」
「ではこちらへどうぞ、メニューはお決まりでしょうか?」
「昼間と同じものを」
由香里がクスクスと笑いだした。
「またなの? 私も同じでいいわ」
「かしこまりました」
「結婚の前に妊娠しても知らないわよ」
「今度は耐えて見せるさ」
料理が運ばれて来る、昼間と同じ要領で食べ始める。
「あそこの山どうなるのかしら?」
「更地にして何か建つんじゃないか?」
「新幹線が通るかもしれないわ」
「まあこれで俺もあの山と親族からの柵から抜け出せる。お前に任せてよかったよ」
「あなたの気が済むならいいわ」
「体が熱くなってきた」
「私の分の残りも食べて頂戴」
「もういいのか? 貰うぞ」
「いいわよ、私はおかしくなる前にセーブしておくわ」
食事を終え、家に帰る。
「今日はいろいろあったわね、有意義な一日だったわ」
コーヒーを飲みながら話をする。
「セーブしたのに体が暑いわ」
「俺もだ、お前の分まで食べたからかもしれない」
「私は我慢出来るけどあなたは無理そうね、じっとしてて」
また咥えられた、五分程で果てる。
「すまない、やっと収まった様だ。お前はいいのか?」
「ええ、大丈夫よ」
「我慢するって言ったのに破ってしまった」
「気にすることないわ、私まだ下手だわ」
「そんな事ないさ、良かったよ」
「ありがと、もっと練習しなきゃ」
「そんな事別に上手くなる必要はない」
「でもこれも一つの愛の証よ」
「わかったよ、この話は今日はお終いだ」
「そうね、こうして一緒にお茶するだけでも幸せだもの」
「ところで俺達が出会ってから何日目だ?」
「急に聞かれてもわからないわ、出会ったのは父の葬儀の日でしょ、父が亡くなった日は覚えてるけど、それから何日後に葬儀をしたのかが思い出せないの」
「じゃあ同棲記念日は何時だった?」
「あなたと初めて一緒に事務所に行った日だったわよね? 浮かれててこれも思い出せないけど今日で十日から二週間の間のはずよ」
「記念日なのに二人共、覚えて無いのか。俺も仕事を辞めてから曜日感覚がゼロだ」
由香里が携帯を取り出す、どこかに掛け始めた。
「もしもし、遅くまでお疲れ様です。今手は空いてるかしら? 父の葬儀の日と私と俊輔さんと初めて一緒に事務所に行った日は覚えてるかしら? はい、はい、ええそうなの」
由香里がメモにペンを走らせる。
「ええ、ありがとう何時でもいいわ、じゃあお疲れ様でした、助かったわ」
電話を切った。
「由香里が携帯で話してる姿を初めて見た、でわかったのか?」
「山本さんの手帳に書いてあったみたい、葬儀が十日で事務所に行った日が十三日ですって」
カレンダーを見た、同棲してからちょうど二週間だった。
パソコンのカレンダーに同棲記念日と書いておいた。
斎藤に三日待つと言ったが山中の携帯を取り出し電源を入れてみる。いつもの様にすぐ着信はなかった、後二日待てばいいんだ。電源を切った。
「後二日で何とかなるのかしら?」
「斎藤は何とかなるかもしれないと言ったんだ、一応信じてやるつもりだ。かなり俺に恐怖を覚えたみたいだしな。明日にでも進展を聞いてみるつもりだ」
「ところで、あなたの土地が凄い金額で売れたらどうするつもり?」
「まず、車を買い替えるよ。今のクラウンはお下がりでもらった車で、ちょうど車検も近いしな。お前のポルシェみたいに外車を買おうか迷ってる。自分で整備したいから整備し易いスポーツカーに憧れがあるな」
「あの土地が売れれば、何でも買えるわ、車の話をしてる時あなた目が輝いていたわ。よっぽど車が好きなのね」
「ああ、だから整備士の仕事を選んだくらいだしな」
「何か会社を立ち上げて商売をしたり経営する気はないの?」
「今のところ考えてないな」
「そう、やっぱりのんびり二人で過ごしましょ、買い替えた車で毎日ドライブするのも悪くないわね」
「お前はポルシェを持ってるがあまり運転したがらないな、あんないい車なのに」
「自分で運転するのが苦手なのよ」
「ポルシェは癖が少ない上にスピードも出るから楽しいと思うがな、俺はポルシェは好きだぞ、整備も楽だしな」
「ベンツはどう?」
「ベンツは興味ないな、ありふれてるし。成金やヤクザと思われるのも嫌だしな」
「確かにベンツはありきたりよね」
「やっぱり土地が売れるまで考えないことにするよ、もししょぼかったら虚しいだけだしな」
「大丈夫よ、必ず高値で売れるわ私が保証するわ。山本さんも凄いって言ってたでしょ」
風呂の沸いたメロディーが流れた。
二人で入り疲れを癒やした。
由香里が体を洗い出したので、俺も体を洗う、髪を洗おうとしたら由香里が洗わせてと言うのでシャンプーをしてもらった、散髪屋にいるような感じがした。
風呂からあがると散髪をしたくなった。
「由香里、散髪をしたいんだが短くしてもいいか?」
「いいんじゃない? 男性は短髪の方が私は好きだわ。飽きてもすぐに伸ばせるでしょ?「一度思いっきり切ってみるのもいいかもしれないわ、あなたは似合うはずよ」
「わかった、いい散髪屋は近くにあるか?」
「私の通ってる美容院に行ってみる?」
「上手く切ってくれればどこでも構わない」
「私も毛先を少し切りたいから、明日行ってみましょ」
「ああ、美容院は初めてだ一緒に行ってくれると心強い」
「まだ開いてるから予約を入れておくわ」
由香里は電話を入れた。
「こんばんは、姫野です二人分の予約をお願いするわ、もう一人は男性よ。えっ、ちょっと待ってもらえる?」
由香里が俺に尋ねる。
「あなた、パーマじゃなかったら今空いてるらしいけどどうする?」
「よし、今から行こう」
由香里は携帯を耳に当て。
「じゃあ今から行きます。姫野と荒木です」
「早速行きましょ、待たせたら悪いわ」
素早く着替え急いで歩いて行く。
「いらっしゃいませ、あら姫野さん早かったわね。こちらがお連れの荒木様ですね」
二人並んで座らされた。
「私はいつもよりもう十センチ程短くして頂戴、あの人は思い切ってばっさり短くしてくれていいわ、そうね横と後ろは刈り上げて上はワックスで遊ばせる感じでお願いするわ」
「本当にいいのですか?」
「ああ、構わない思いっきりやってくれ」
バリカンで横と後ろを刈り上げていく、上はハサミで容赦なく切られて行く、向かいの鏡の俺は丸坊主に近い状態だ、十分程で出来上がった短くしすぎたかなと思ったが自分から言いだしたことだ、後悔はしていない、髪を洗い乾かすとスポーツ刈りに近い短さになっていた。乾かすと終わりだった。
「ワックスで遊ばせる感じと聞いたがどうやるんだい?」
「実際にワックス付けてみましょうか?」
「ああ、一回見ておきたい」
「この長さだとこうやって立たせるか、こうやって流すか二種類出来ます」
「いいね、気に入ったこれから暫くこの髪型にするよ」
「記録を残しておいたので次回からは前回と一緒と言ってもらえば結構です。今はワックス落としておきましょうか?」
「頼むよ、風呂上がりなんでね」
「あなた、似合ってるわよ」
「姫野さんが男の人を連れてくるのって初めてじゃないですか?」
「初めての彼氏よ、一緒に住んでるのよ」
「おめでとうございます、じゃあ結婚する予定ですか?
「そのつもりでお付き合いしてるのよ」
俺は二度目の洗髪を終え席を離れた。由香里も終わったようだ。
料金は由香里が払ってしまっていた。
「お待たせしました、ありがとうございました」
店を出た
「ありがとう、次は俺が出すよ」
「わかったわ、で頭どう?」
「頭が軽くなったし、気に入った」
「さっきまでの髪型よりこっちの方が断然いいわよ、ワックス買って帰りましょ」
途中のコンビニで硬めのワックスを購入した。
帰ってまたコーヒーを飲んだ。
「お前も結構切ったな」
「本当は肩くらいまで切りたいんだけど、勇気がないの」
「ロングもいいが似合うと思うぞ」
「今度挑戦してみるわ」
「ポニーテールが似合う長さにしてくれないか?」
「ポニーテールが好きなの?」
「ああ、好きだ」
「わかったわ、覚えておくわ」
大きな欠伸が出た
「早めに寝ましょうか」
「そうしよう、眠くなってきた」
よく考えればここ二日ほどあまり寝てない気がする、いつ何があるかわからない、寝れる時に寝ておいた方がいいだろう。ベッドに潜り込むとすぐに眠りに落ちた。
アラームの鳴る前に目が覚めた、ぐっすり寝れたみたいだ気分がスッキリしている。
由香里を起こさないよう静かにベッドから抜け出す、冷蔵庫から豆乳を取り出しコップに注いでリビングに持っていく。
タバコを吸いながら清々しい朝日を拝む。
今日か明日には斎藤が動くだろう、失敗したら俺が痛めつける、成功すればいずれ島村に気付かれ江口に襲われる事になる。どちらにせよ痛い目にあうのは火を見るよりも明らかだ。
部屋を見渡す、そう言えばこの家にはエアコンが付いてないのにいつも快適だ、天井に会社とかでよく見かける空調が付いている、流石豪華な一流マンションだ。
由香里が慌てた感じで寝室から飛び出してくる、俺を見て落ち着いたようだ。
「目が覚めたらあなたがいなくて。出ていったのかと思って心配したわ」
「俺の帰る場所はここだけだと言っただろ、黙って出ていったりしないから安心しろ」
俺の隣に座り手を握ってくる、握り返す。
「きっと変な夢を見たせいね、あなたがお前には飽きたって言って他の女と一緒に出て行く夢よ」
「あり得ないな、だが逆のパターンもあるかもしれないと俺は心配だがな」
「それこそあり得ないわ」
「それなら俺は安心だ」
「私も少し安心したわ」
「今朝はカルボナーラが食べたい」
「わかったわ、ちょっと待ってて」
由香里はまだしょげているようだ、食べ終わる頃には戻っているだろう。豆乳を飲み干した。
「出来たわこっちへ来て」
テーブルに向かい合って座る。
フォークに巻きつけて食べる。由香里はまだ手を付けない。
「食わないと元気も出ないぞ」
やっと食べ始めた。
俺は先に食い終えたが由香里はまだ食べている。
「今朝気付いたんだがエアコンが付いて無いんだな」
「そうよ、各部屋に空調が着いてるから快適でしょ」
「一流のマンションは金がかかってるなと感心してたんだ」
「私はエアコンが苦手なの、だからここに決めたのよ交通の便もいいからね」
ようやく由香里の笑顔が戻ってきた。
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結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
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※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
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