遺言

小倉千尋

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第九章

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 駅前の土地に測量が入った、本格的に動くようだ、これが島村に伝わったらどうなるのかが気になった。島村が動くまで待機してる方がいいだろうが、被害が出てからでは駄目だ。やはり俺から動かなければいけないようだ、だがどうやって動けばいいのかで悩んでいる。いまや組と言っても組長の島村と江口だけだ。資金源も絶たれている。放っておいても潰れるのは時間の問題だが、緋村の仇を取っておかねばならない。

「何を難しい顔をしているの?」
「駅前の土地が動き出した、島村と江口が何かしだす前に潰しておこうか考えてたんだ」
「そう、でももう二人しかいない組でしょ、勝手に潰れるかもしれないわ」
「潰れるのはわかっているが、緋村の仇を取っておきたい」
「そうね、あなたに託されたんですもの、でも一人は拳銃を持っているんでしょ? あなたが危ないわ」
「それをどうするかも考えていた」
「絶対に死なないで、約束よ」
「わかった、約束しよう。早速今日から動く事にする」
「わかったわ」

 豆乳を飲み干し、着替える。
 午前十時だ。
「出掛ける、夕方まで戻らないつもりだ。飯は一人で食べてくれ」
「わかった、いってらっしゃい」

 車に乗り込み暫く考えたが、江口を見張ることにした。江口の家に向かう、海の近くの住宅街だが路上駐車している車は意外と多かった、好都合だ、玄関の見える場所に停車して、雑誌を読むフリをして様子を窺う。
  
 十三時、まだ江口は動かない。江口の車は駐車場に停まっているので家にいるはずだ。家族はいるのだろうか? 気になり緋村のカバンから抜き出して来た資料を読み返す、三十四歳独身と書いてあるが女を囲っている可能性もある。
  
 十四時に玄関が開いた江口が出てくる、車に乗り島村の家の方向に走り去った。車を降りて家に近づくチャイムを押してみるが反応はない、やはり一人の様だ家をぐるっと周ってみる家の裏のドアは鍵が掛かっていない、それを確認すると素早く車に戻った。十七時少し前に江口が帰ってくるコンビニ弁当を持っていた。それを確認すると俺もマンションに帰った。
  
「ただいま」
「おかえりなさい」
「とりあえずトイレに行かせてくれ」

 ずっと我慢していたのだ、やっとスッキリした。
  
「大丈夫だったの?」
「家を見張っていただけさ」
「それならいいわ」
「明日も同じ様に見張る」
「わかったわ」
「疲れて帰ってくるだろうと思ってスタミナ丼を用意してあるわ」
「ありがたい、食べさせてくれ。慣れてない事をすると疲れるからな」

 すぐに出てきた、豚の生姜焼きも付いてくる。自分で思ってたよりも疲れているみたいだ、大きな丼ぶりのスタミナ丼もすぐに食べ終わった。
  
「疲れが癒されたよ、ごちそうさま」

 リビングに移動しコーヒーを豆乳を飲む、そう言えば昼前から飲まず食わずでいたのだった。豆乳をおかわりする。
  
 江口が出掛ける時案外ラフな服装だった拳銃は家に隠してるのだろうか? 拳銃さえどうにかできればいいのだが、タバコを吸いながら考える、とりあえず明日も見張ってから考えよう。
  
「また考え事?」
「ああそうだ、早く何とかしないといけないからな」
「そうね、事件が早く片付いてあなたとのんびり暮らしたいわ」
「もうすぐだ、もうすぐ終わる」

 素早く風呂を終わらせ早めにベッドへ入った。由香里も同じくベッドへ入ってくる。
  
「俺に合わせなくてもいいんだぞ」
「私がしたいだけなの気にしないで」

 すぐに眠気が襲ってくる、体力が落ちてるのかもしれない。
  
 アラームで目が覚める、スタミナ丼のお陰で疲れは取れた。由香里も起きてくる。
  
「元気が戻ったみたいね」
「スタミナ丼が効いてるみたいだ、うちのメニュー入り確定だな」
「今夜も作りましょうか? 簡単だしあなたが元気になるなら何時でも作るわ」
「今夜も頼むよ、スタミナ成分を三分の一にしたとこを二分の一まで戻してみてくれないか?」
「いいわよ、とりあえず朝食を食べましょ」

 俺も一緒にキッチンへ行き豆乳を飲んだ。
  
 食事を終えるとリビングに行き十時過ぎまで雑誌を読んで過ごした。
  
 十一前に昨日と同じところに車を停める。
  
 毎日同じパターンなら今日忍び込もうかを考えた。やはり人の出入りはない。
  
 また十四時に江口が一人で出てきて車で出て行った。俺はすぐに車から降りて家の裏に周ったやはり鍵は開いている、指紋が残らないように薄い手袋をはめてドアを開けて中へ入る、帰ってくれば車の音で気付くだろう、拳銃を探し始める。手当たり次第調べるが見つからない諦めかけて俺ならどうするか考えた、俺なら枕の下に隠す。江口の寝室に入りベッドを調べるが出てこなかった腹が立って枕を殴ると違和感があった枕のチャックを開き中に手を入れる、固いものに触れたそっと抜き出した、小型の拳銃が出てきた。勘が当たった事に喜びを感じ拳銃を調べる、オートマの拳銃だった、仕組みがわからないので苦戦してやっとカートリッジを抜き出す拳銃の銃弾を一つ取り出し調べてみるが良くわからないので銃弾を全て取り出しキッチンで水をかけて湿らせた、緋村が言ってたことだが銃弾が濡れてると拳銃は撃っても役に立たないらしい、念のため工具箱から持って来たパテを拳銃の穴に詰めておいた金属用のパテだから大丈夫だろう。時間がないので素早くもとに戻した、他に拳銃はないはずだ。証拠を残してないかを確認して裏口から家を抜け出した。車まで戻ると手袋を外し、時計を見る十七時になるところだった。ちょうど江口の車も戻ってくる、危ないとこだった。ため息をつき車を出しマンションに帰った。
  
 家に帰るとすぐにトイレに駆け込んだ、用を足し、ようやくただいまと言った。
  
「あなた昨日よりも疲れた顔をしているわ」
「ああ、かなり気を使ったからな、飲み物をくれないか」

 出された豆乳を飲みタバコを吸っているとやっと落ち着いてきた。
  
「もう食事にする?」
「ああ、食べさせてもらうよ」
「今日はちょっとアレンジしてみたの」

 出されたスタミナ丼は茶色いご飯だった、それととんかつが出てきた。
  
 とんかつはいい肉を使ってるのか柔らかく食べやすい。丼ぶりにも手を付ける、チャーハンだった。
  
「どう?白いご飯をチャーハンにしてとろろは抜いて唐辛子を復活させてみたの」
「めちゃくちゃ美味いじゃないか、唐辛子もいい感じだし癖になりそうだ」
「よかったわ」
「このとんかつもいい肉なんだろ?」
「そうよ、やっぱりお肉は高いほど柔らかくて美味しいですもの」
「今日も美味かった疲れがぶっ飛ぶよ、ごちそうさま」

 リビングに移動してタバコに火を付ける。
  
「明日も監視をしに行くの?」
「いや、江口の監視は終わったが、島村か江口のどちらかを潰しにかかるかもしれん」
「拳銃が出てきたら危ないわ」
「拳銃はもう使い物にならないはずだ」
「どういう事?」

 俺は今日の事を話してやった。
  
「凄いじゃない、すぐに事件が終わりそうな気がするわ」
「簡単にいけばいいがな」
「相手が素手ならあなたに敵わないわよ」
「上には上がいる、どんな相手かわからないからな、気を付けて行動しないと痛い目に合うのはこっちだ」
「確かにそうだけど、私はあなたが勝つ方に賭けるわ」
「じゃあ江口から片付ける事にするよ」

 とは言ったもののどこへどうやって呼び寄せるかが問題だ。唯一の接点は山中の携帯だけだ。山中の携帯を取り出し電源を入れてみる、良かったバッテリーはまだ五十パーセントも残っている、江口と島村の携帯番号が入っているか確認する、二人共載っていた。携帯が解約されてないかも確認する、大丈夫だ時報に掛けたが繋がった。電源を切ってしまっておいた。
  
 明日、江口をどこかへ呼び出そう、そう決めた。



 いつも通りの朝を迎え、いつもの様に二人で朝食を食べる。

「今日は何時に出掛けるの?」

 暫く考えた。

「食べたらすぐに出掛ける、夕方までには帰るつもりだがわからない」
「今日は一日お祈りしておくわ」

 それには答えず着替えて出掛ける準備をした、山中の携帯も忘れずポケットに入れる。
  
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃい、くれぐれも気を付けてね」
「わかった」

 港のコンテナの山に車を隠す、山中の携帯を取り出し江口に掛ける、数コールで江口が出た。

「誰だ? 何故山中の携帯を持っている?」
 低い声だった
「俺が山中をやったんだ」
「ほう、興味深い。どうやったらあんな風になるんだ?」
「お前にも同じ様になってもらう」
「理由は何だ? 金か?」
「お前が殺した緋村の復讐だ」
「誰だそいつは」
「探偵の緋村だ」
「ああ、何となく覚えている」
「お前今まで何人殺してきた?」
「覚えちゃいないね、単なる趣味さ」
「今すぐ港のコンテナ置き場に来い、緋村の仇を打つ」

 江口は大声で笑いだした。
  
「俺に勝てるつもりか、面白い一瞬で海に沈めてやろう。ビビって逃げるなよ」

 電話が切れた。
 一瞬でということはやはり拳銃を持って来るに違いない、それも俺が小細工したことにも気付いていないようだ。
  
 五分とかからず江口の車がやって来る。
 少し手前で停車しエンジンは切らずに降りてくる。短髪の陰気な男がドス黒い殺気が吹き出している。
  
「来てやったぞ、楽しませてくれよ」

 こちらに向かいながら中型のナイフを出してくる。ナイフの構え方に注意した、ナイフの扱いは上手くなさそうだ。切りつけて来るのをすれすれで躱す二回三回と切りつけて来るがノロい。ジャブとストレートを叩き込むが倒れなかったがナイフは手から落ちた。江口も構えるが素人丸出しだ、ステップを踏んでひねりを入れた右フックを腹に入れる、決まった。四つん這いになり腹を抱え嘔吐している。顎にローキックを入れる白目を向いて気を失ったがすぐに気がつく、だが脳が揺れているのか立ち上がってもよろけている。

「さっきまでの威勢はどこに行ったんだ? 楽しむんじゃなかったのか?」
「ぶっ殺してやる」

 大声で叫び、腰の後ろから例の拳銃を出して来た。

「ビビって逃げるなよ」
「聞き飽きたセリフだな、撃ってみろ」

 銃口をこちらに向ける俺は逆に近づいていった。江口が引き金を引く、カチッ銃弾は出ない続けて引き金を引く、カチッカチッ焦った江口はカートリッジを入れ替えた、まだ持っていたのかヤバい、パテが固まっている事に賭けた。引き金を引く、ボンッと音がして拳銃と江口の右手が砕け散った。

「うわあ、痛え何でだ畜生」

 俺は更に近付き容赦ないアッパーを打ち込んだ。崩れ落ち完全に気を失った。見てみると拳銃の暴発とともに砕けた右手は半分消えていた骨まで見える。

 江口の襟首を引きずりコンテナの陰に引きずっていき、体を調べる他に武器は持ってないようだ携帯は没収する。山中の時のように目隠しをし、手首と足首を縛り上げる。気がつくまで海の近くに行き、タバコを吸った。
  
「うう、痛え」

 気が付いたみたいだ、吸い殻をポケット灰皿で揉み消し江口の側へしゃがみ込んだ。

「おい、近くにいるんだろ? 俺の右手が半分吹き飛んだのは気のせいか?」

 目隠しをずらしてやり後ろ手に縛った腕を引っ張り見せてやった。

「畜生、もう使い物にならねえじゃないか」
「まだまだ威勢がいいようだな、俺が拳銃に小細工したのを気付かなかったようだな」
「いつ何をした」
「さあな、山中と同じ目に合って貰おう」
「いや待ってくれ、助けてくれ。どうせもうナイフも拳銃ももう使えねえ」
「お前は助けてくれと言われた相手を助けた事があるのか? 無いだろ」

 また目隠しをし、顎にパンチを打ち込み始める。一時間続けた、体が痙攣し顔が真っ青になっていた。

「山中もこうやったのか? やめてくれ、もう悪事は働かないから」

 まだまだのようだ、またパンチを打っていく、一時間で一旦止める。パンチを入れてないのに顎が前後に振れている。涙を流して失禁している。突然奇声を上げた。

「俺は海に捨てられたのか? 体が浮いた感覚だ」

 またパンチを打っていく今度も一時間、途中で血の涙を流し始めたが止めない、きっちり一時間で止める何か言っている。近づく。
  
「パン、パン、あはは死んじゃった。パン、パン、こいつも死んじゃった楽しいな、あはは」

 やっと精神状態がおかしくなった、心が壊れたのだ。

 またパンチを入れ始める、今度は三十分で鼻血が吹き出した。「ストップだ」長井の声が聞こえた気がしてストップした。証拠を残さないように気を付けて離れる。周りを見渡すが誰もいない、それを確認すると自分の車に戻りゆっくりと港から車で帰った。

 打たれ強い奴だった三時間半もかかった。
  十三時にマンションに帰り着いた。

「ただいま」
「おかえりなさい」

 由香里が抱き付いてくる。

「あなた怪我は?」
「かすり傷一つ無い」
「拳銃は持ってたの?」
「ああ、だが俺の小細工が役に立った、暴発して奴の右手も吹き飛んだ」
「安心したわ、お昼まだでしょ?」
「何も食ってない、腹ペコだ」
「昨日と同じだけどいい?」
「ああ、あれを楽しみにして帰ってきた」

 昨日と同じメニューが並ぶとんかつには手を付けず、スタミナ丼から食べるがやはり美味いすぐに食べ終えると、とんかつを食べ始めた。この食感と味がたまらなかった。

 ごちそうさま、といいリビングに腰を下ろす。コーヒーと豆乳が運ばれて来る。

 由香里も側に座る。

「後は組長の島村だけだったかしら?」
「ああ、そうだな」
「どうするの?」
「相手の出方次第だな、老人だから無茶は出来そうにない」
「それは向こうが? それともあなたが?」
「両方だ、歯向かって来るようなら少し痛い目をみてもらう」
「もう緋村の仇は討てたんじゃないの?」
「緋村を直接手にかけた奴はやっつけたが、指示した島村にはまだ何も出来ていない」
「とことんやるのね」
「ヤクザ相手に中途半端に終わらせると返り討ちが怖いからな。そろそろ島村から連絡が来る頃だ」

 江口の携帯を取り出す。
 十四時になった、電話が鳴り始めるので無言で電話に出る。

「今まで寝ておったのか、何度も注意したのにまだわからんのか、おい聞いてるのか?」
「聞こえてるよ、島村茂」

 一瞬沈黙があった、低い声に変わり。

「お前は誰だ、江口をどうした?」
「俺は緋村だ」
「死んだんじゃなかったのか?」
「死んださ、化けて仕返しに戻ってきた」
「江口をどうした、殺したのか?」
「いや、生きてるが廃人になってもらった」
「お前が山中をあんな風にした奴なのか?」
「そうだ、江口にも同じ事をした」
「江口の家か?」
「いや、港のコンテナ置き場においてきた、助けに行かなくてもいいのか?」
「お前をぶっ殺す、覚えておけよ。後で掛け直す」

 電話が切れた。

「どうなったの?」
「島村が俺をぶっ殺すそうだ。痛い目に遭わせないといけないようだな」

 一時間ほどで江口の携帯が鳴った。

「俺だ」
「よくあんな酷い事が出来るな、誰に雇われた?」
「緋村に雇われたと言うかあいつの相棒だ」
「プロの殺し屋じゃないのか?」
「ただの探偵だ」
「お前一人のせいで組が潰れた、だがもうすぐ大金が入る、殺し屋を雇ってお前を殺してやる」
「駅前の土地を売って金を稼ぐのか」
「何で知っている」
「残念だったな土地は全部売れた、金庫に大事にしまっている契約書をよく見てみろ」

 電話を切った。
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