こちら、事務所と言う名の何でも屋です。

なーちゃん

文字の大きさ
2 / 2

青色の彼は大人しい

しおりを挟む
鳥の囀りと、眩しい日差しに目が覚めた。
顔を上げればオレンジの光が目に入って眩しい。

「今、何時だ?」

回らない頭をなんとか回転させて、つくえの上に置いてあった時計を取り、時間を確認する。
時計の針は、十一と五を指していた。

「もう五時か~っ。」

時間を確認すると椅子をギギギッと鳴らせながら毛伸びをする。

「よしっ、仕事するかー。」

椅子から降りると再度毛伸びをし、パソコンや資料が多くある場所へと行く。
資料は基本的に新聞。
事件がある度に集めている。
その他にも事件のことが取り上げられている雑誌などが本棚に綺麗に置いてある。

「今の時代、新聞や資料なんて必要ないかもな~。」

呟きながらも、まだまだ新品の椅子に座る。
キュッと音が鳴ったのは気のせい。
パソコンを起ち上げ、カタカタと音フェチの俺にはたまらない音を部屋に響かせながら黙々と検索していく。

なんとなく、これだろうと思ったページを開く。

「強盗犯、青木 雄、商店街のあらゆる店からあらゆる物を盗み逃走。今も尚捕まっては居らず、盗みも続けている。歳は20歳...20歳!?」

マジカ、俺より歳下じゃねえか、あっ、ちなみに俺は24だ。
まだまだ、若いからな!
おじさんじゃねえからな!

「てか、ここまで情報があるんなら捕まえられると思うんだけどな~。
どれだけ、無能なんだか。」

椅子から立ち上がり、愚痴を溢すとサラリーマンみたいな真っ黒のスーツに着替えルビーのついてるピアスをつけた。

「さて、そろそろ行こうかな~」

今は、7時。
まさか、調べるだけで2時間も使うとは...。
俺でもびっくりだ。


玄関の扉を開けると熱風がバーゲンセールが始まったときの主婦並みの勢いで部屋に入ってくる。
日もくれ初め、昼間よりかはだいぶ涼しくなっていた。

お世辞にも上手いとは言えないセミの合唱を聞きながら、夕日に背を向けて歩き出す。

夕飯の時間帯だ、少しは商店街も静かなんじゃねえのかな。

そう思いながら商店街へとたどり着くと、やはり、予想していたとおり人気は少なかったがチラホラといる感じだ。

「まずは、事情聴取だよなー」

花屋、小物屋、家具屋、服屋、焼き鳥屋などなど、とにかく、今開いてる店からどんどん、事情聴取していった。

聞いたところによると、そいつ、青木 雄は青い髪に、右耳だけピアスをつけていて、だいたい色んな色が混じったTシャツに、ジーンズってらしい。

「ったく、ここまでわかってるくせしてなんで捕まえられねえんだよ~。」

数分前と同じセリフを言いながら、トボトボ商店街を歩いていく。

その時、パッと目についた店から出てきた男に近づいていく。
髪の色は青、Tシャツは違うがジーンズもピアスも身につけている。

「すみませーん、お兄さん」

後ろから男に話しかけると、驚いたのか、少し肩をビクッと震わせてこっちに向く。

「なんですか?」

俺よりも少し背は高く、タレ目で優しい雰囲気の男性、盗みをしているとは思えないが、ズボンのポケットを見ると、膨らんでいた。
それに、リュックも背負っていたから、少し怪しい。

「実はココらへんで最近、強盗が相次いでましてね、その調査を任されまして、少しお話いいですか?」

茶色の目が少し小さくなった気がした。

「すみませんが、急いでいるので。」

そう言い逃れしようとしていた男の腕を掴む。

「まあまあ、すぐに終わりますから、それに貴方はその強盗犯によく似ていましてね...。ほんと、すぐに終わりますのd((..うわっ!」

俺が言い終わる前に男は俺の腕を振りほどいて一目散に走っていった。
まあ、追いかけるんだけどさ...

「足速っ!?」

そう、男は思った以上に足が速い。
まるで、ひき逃げした車みたいだった。
...例えが悪すぎか。
いや、これこそバーゲンセールが始まったときの主婦じゃん!

きっと、追いつくのは無理だろうが付いていくことはできる。
元陸上部の意地舐めんなよ!
大会にはそんなに出てないけど!
ベスト8入れるか微妙な奴だったけど!!

諦めたと思わせて付いていくことくらい無能な俺にも出来る。
走るスピードを緩め近くの路地裏へとまわる。
ここら一体の道くらい、昔、無理矢理にでも覚えさせられたのでなんとなく行ったであろう道を歩く。

路地裏を抜けると古びたアパートがあった。
その二階の部屋に入ろうと鍵を探している男の姿があった。

ふふふっ、甘いな。
腕を掴んだときに鍵は盗んでおいたぞ。
リュックに丸裸の鍵をつけておくなんて、まだまだ、だな。

ドアノブをガチャガチャ動かしたり、リュックを必死に漁る男の姿が実に滑稽だった。

「鍵をお探しで?」

男の近くまで移動すると、鍵を男の前で見せびらかす。

「な、なんで...」

男は唖然としていた。
まさか鍵をこんな奴に盗まれるとは思ってなかったのか?

「貴方がやっていることと、なんら変わりはないですよ?」

「諦めて、リュックの中身でも見せてください?」

もう、俺の中では確信していた、コイツが犯人だと。

「....わかりました。」

潔く諦めた男は俺にリュックを渡した。

小さいポケットには、何もなかった。
チャックを開けると、大量のお菓子、食品、コップや食器も入っていた。

「全て買ったんですか?」

「いいえ。」

あっ、案外、素直。

「盗んだんですね?」

「..はい。」

あっさりと認めてくれて、コッチとしてはとてもありがたい。

「逮捕...してください。」

男は、両手をくっつけて俺の方に向けてきた。

「え?」

「...え?」

間抜けな声が2つ、聞こえた。

「いや、俺警察じゃないよ?」

「え、じゃあ、何なんですか?」

しばらく沈黙が続く。

「何でも屋?」






結果、逮捕されるか、事務員になるか聞いてみたら、直ぐに事務員になる、と返ってきた。
商品は全部お店に返して、1つ1つの店の店長と、一緒に謝ってきた。
まあ、こっぴどく怒られてたけどね。

「そういえば名前は?」

「青木 雄です。」

「雄ね、ヨロシク!」

「よろしくお願いします!」

案外大人しい人でよかった。

綺麗な光が夜空に輝く中、男二人は、まるで初めて話してみたら意気投合しちゃった、中学生のように、話しながら、闇へと消えていった。






「はい、これ。」

「なんですか?これ。」

俺の手の中には、綺麗に輝く、青色があった。

「見ればわかるでしょ!ピアス!」

「え、穴開けてないですよ?」

「じゃあ、開けに行くよ!」

「えぇ!?」

闇に消えていったのは気のせい。
赤と青が慌ただしく、静まり返った街を走り抜けるのは、また、別の別の別のお話...。




「事務員、俺だけなんですね...。」

「あっ、今、馬鹿にしただろ!」

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...