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第一章
20 対策
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月光が言わなくても、錬には月光と同じ学校に通ってもらう予定だった。[ルール]もそのつもりで書いたものだ。
頼まれた訳でもなく学校が再び同じになれば、幾ら鈍い月光でも違和感を覚えるかもしれない。どうしようかと考えていた美颯にとって、錬と一緒がいいという月光の申し出はすごく有難かった。…実際に通わせるかはまだ決めていないが。
「錬が一緒じゃなかったら高校通わない?」
「いえ、通いたいです。最終学歴が中卒って、将来、働く場所限られてくるから」
──数ヶ月で辞めさせるから卒業はできないよ。
月光を仕事に就かせる予定はないから中卒で十分だ。
「……そんなの気にしなくていいのに」
今警戒されるのは嫌なので、月光の将来は美颯と翔の為だけに生きる生活だけだ、なんて教えてあげられない。
「翔は美颯の助手をするんですよね?ぼくは翔ほど頭良くないから手伝えないので、ほかの場所で働いて美颯に恩返しします!」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
はい、と無邪気な笑顔で月光が返事をする。
「休憩終了ー!僕部屋に行くから月光もおいで」
「はい。……勉強?」
「うん。少し論文読むだけだけどね。お昼前には終わるから一緒にいてくれる?」
「……はい」
何故か悲しそうな顔で月光が呟いた。
☆
勉強中の美颯といるのはすごく暇だが、美颯がそうしてほしいなら断れない。
──居候って気を使うな……。
そう思いながらも、月光は美颯の部屋に入った。美颯の部屋は、最奥にあった。月光と翔の部屋を並べたくらいの広さだ。
「わぁ、広いですね!」
部屋なのにさらにドアがある。
「このドア、奥にも部屋があるんですか?」
開けて見ると、狭い通路だった。
「奥にトイレがあって、左のドアはお風呂だよ」
うっかり許可を得る前に開けてしまったが、美颯は怒るどころか笑顔で説明してくれた。
「じゃあこっちは?」
「ウォークインクローゼット」
ダンボールが置かれているだけで何も収納されていない。入ろうとしたが、美颯に腕を引っ張られた。
「僕勉強したいから後にしてくれる?」
「あ、ごめんなさい」
月光は、机に置かれたパソコンで何かを見始めた美颯の膝に座った。
美颯の左手が月光のお腹の辺りをシートベルトのように固定していて、月光は何も面白い事のない英文の書かれた画面をぼんやりと見る。何が書かれているか全く分からなくて、窓に目を向けるが、動かないで、と注意されて月光は再び画面を眺める。
アパートにいた時も、美颯が勉強をしている間はとても暇だった。引っ越してもこの時間はあるのかと思うと、思わずため息が溢れた。
「美颯、卵がなくなりそうだから今度買ってきてくれ」
眠気が頂点に差し掛かかり、寝てしまおうと目を閉じていると、錬が部屋に入ってきた。
「あー、うん、覚えてたら買ってくる。……あ、もうすぐ12時じゃん。月光起きてる?」
「はい。あの、ぼく、リビングで待ってていいですか?」
「いいよ。錬、子守りお願い。しっかり観てて」
「分かった」
「美颯さんっ、ぼくと錬同級生だから!!」
美颯から降りてぎぃっと伸びをしながら反論するが、美颯は楽しそうに頭を撫でてくるだけで訂正しない。
「飯、12時には出来るから自分で来いよ」
「はいはい」
再びパソコンに目を落とした美颯をおいて、錬と月光は部屋を出た。
何もすることがない。
錬は昼食を作っていてかまってくれないし手伝いもさせてくれない。
美颯の部屋に行っても膝に乗せられて身動き取れない状態で時計の針が動く音を聞いていることしか出来ない。…それならここにいるほうが幾らかマシだ。
ソファに座ってぼんやりとバルコニーのほうを見ていると、思い出した。
──まだ外、見てない。
見よう!
連れて来られた時から気になっていたバルコニーに近づく。鍵は学校の窓と同じような作りだ。その鍵を開けて窓も開ける。
突然、ビイィィーーー、と大きなブザー音が辺りに響いた。
「え……ぁ、……」
大きな音は苦手だ。少しでも音が遠くなるように、月光は反射的に両耳を強く押さえて蹲った。
「月光、ドア閉めろ!」
錬の叫び声が聞こえるが、身体が動かないのでどうにもできない。
「ひっ……ぅ…、れ、ん……」
ちらりとキッチンを見ると、錬は手をタオルで拭きながら早足で月光のほうに来ていた。
錬が窓を閉じて鍵をかけると音が止んだ。
「月光、大丈夫か?」
問いかけながら隣に座って両腕で抱き寄せてくれた。
「……なに、……?おと……音が……」
身体が震える。そして、声も隠しようがないほど震えていた。
「もうあの音は鳴ってねぇから落ち着け」
そう言って錬が月光を抱きしめて背中を摩ってくれる。月光は錬の硬い胸板に顔を押し付けた。
ガチャっと音がして月光は顔をあげた。リビングに入ってきた美颯と目が合う。美颯は苛立ったような表情をしていて、月光はその顔を初めて見た。
「美颯、さん……?」
「錬、ちゃんと見とけって言ったよね?!」
「はい……」
錬が俯いて月光から両手を離した。
「錬……?」
何故か錬が怒られている。理由が分からないから月光は何も言えない。
「月光、来て」
肘の辺りを突然掴み上げられ、月光は転びそうになりながら美颯の後を追う。
どうやら月光も怒られているようだ。…理由は分からないが。
「美颯さん、いたっ……」
美颯は月光の部屋の前まで来ると、月光を持ち上げてベッドに投げた。
「ぇ、みはやさっ――」
美颯は何も言わずに部屋から出て行く。そして、外側についている鍵をかける音が聞こえた。
「っ、美颯さん!あけて!!」
突然の展開に頭が付いていかいないが、取り敢えず鍵を外してもらおうとドアを叩いた。とにかく怖い。このまま開けてもらえなかったらどうしよう…と考えると涙が溢れてきた。
「美颯さん!おねがい、開けて!悪いことしたなら謝るから!」
ドアを壊す勢いで何度も叩く。月光の力ではおそらく壊れないが、それでも大きな音が出ているので、壊されないようにと開けてくれるかもしれない。
頼まれた訳でもなく学校が再び同じになれば、幾ら鈍い月光でも違和感を覚えるかもしれない。どうしようかと考えていた美颯にとって、錬と一緒がいいという月光の申し出はすごく有難かった。…実際に通わせるかはまだ決めていないが。
「錬が一緒じゃなかったら高校通わない?」
「いえ、通いたいです。最終学歴が中卒って、将来、働く場所限られてくるから」
──数ヶ月で辞めさせるから卒業はできないよ。
月光を仕事に就かせる予定はないから中卒で十分だ。
「……そんなの気にしなくていいのに」
今警戒されるのは嫌なので、月光の将来は美颯と翔の為だけに生きる生活だけだ、なんて教えてあげられない。
「翔は美颯の助手をするんですよね?ぼくは翔ほど頭良くないから手伝えないので、ほかの場所で働いて美颯に恩返しします!」
「ふふっ、楽しみにしてるね」
はい、と無邪気な笑顔で月光が返事をする。
「休憩終了ー!僕部屋に行くから月光もおいで」
「はい。……勉強?」
「うん。少し論文読むだけだけどね。お昼前には終わるから一緒にいてくれる?」
「……はい」
何故か悲しそうな顔で月光が呟いた。
☆
勉強中の美颯といるのはすごく暇だが、美颯がそうしてほしいなら断れない。
──居候って気を使うな……。
そう思いながらも、月光は美颯の部屋に入った。美颯の部屋は、最奥にあった。月光と翔の部屋を並べたくらいの広さだ。
「わぁ、広いですね!」
部屋なのにさらにドアがある。
「このドア、奥にも部屋があるんですか?」
開けて見ると、狭い通路だった。
「奥にトイレがあって、左のドアはお風呂だよ」
うっかり許可を得る前に開けてしまったが、美颯は怒るどころか笑顔で説明してくれた。
「じゃあこっちは?」
「ウォークインクローゼット」
ダンボールが置かれているだけで何も収納されていない。入ろうとしたが、美颯に腕を引っ張られた。
「僕勉強したいから後にしてくれる?」
「あ、ごめんなさい」
月光は、机に置かれたパソコンで何かを見始めた美颯の膝に座った。
美颯の左手が月光のお腹の辺りをシートベルトのように固定していて、月光は何も面白い事のない英文の書かれた画面をぼんやりと見る。何が書かれているか全く分からなくて、窓に目を向けるが、動かないで、と注意されて月光は再び画面を眺める。
アパートにいた時も、美颯が勉強をしている間はとても暇だった。引っ越してもこの時間はあるのかと思うと、思わずため息が溢れた。
「美颯、卵がなくなりそうだから今度買ってきてくれ」
眠気が頂点に差し掛かかり、寝てしまおうと目を閉じていると、錬が部屋に入ってきた。
「あー、うん、覚えてたら買ってくる。……あ、もうすぐ12時じゃん。月光起きてる?」
「はい。あの、ぼく、リビングで待ってていいですか?」
「いいよ。錬、子守りお願い。しっかり観てて」
「分かった」
「美颯さんっ、ぼくと錬同級生だから!!」
美颯から降りてぎぃっと伸びをしながら反論するが、美颯は楽しそうに頭を撫でてくるだけで訂正しない。
「飯、12時には出来るから自分で来いよ」
「はいはい」
再びパソコンに目を落とした美颯をおいて、錬と月光は部屋を出た。
何もすることがない。
錬は昼食を作っていてかまってくれないし手伝いもさせてくれない。
美颯の部屋に行っても膝に乗せられて身動き取れない状態で時計の針が動く音を聞いていることしか出来ない。…それならここにいるほうが幾らかマシだ。
ソファに座ってぼんやりとバルコニーのほうを見ていると、思い出した。
──まだ外、見てない。
見よう!
連れて来られた時から気になっていたバルコニーに近づく。鍵は学校の窓と同じような作りだ。その鍵を開けて窓も開ける。
突然、ビイィィーーー、と大きなブザー音が辺りに響いた。
「え……ぁ、……」
大きな音は苦手だ。少しでも音が遠くなるように、月光は反射的に両耳を強く押さえて蹲った。
「月光、ドア閉めろ!」
錬の叫び声が聞こえるが、身体が動かないのでどうにもできない。
「ひっ……ぅ…、れ、ん……」
ちらりとキッチンを見ると、錬は手をタオルで拭きながら早足で月光のほうに来ていた。
錬が窓を閉じて鍵をかけると音が止んだ。
「月光、大丈夫か?」
問いかけながら隣に座って両腕で抱き寄せてくれた。
「……なに、……?おと……音が……」
身体が震える。そして、声も隠しようがないほど震えていた。
「もうあの音は鳴ってねぇから落ち着け」
そう言って錬が月光を抱きしめて背中を摩ってくれる。月光は錬の硬い胸板に顔を押し付けた。
ガチャっと音がして月光は顔をあげた。リビングに入ってきた美颯と目が合う。美颯は苛立ったような表情をしていて、月光はその顔を初めて見た。
「美颯、さん……?」
「錬、ちゃんと見とけって言ったよね?!」
「はい……」
錬が俯いて月光から両手を離した。
「錬……?」
何故か錬が怒られている。理由が分からないから月光は何も言えない。
「月光、来て」
肘の辺りを突然掴み上げられ、月光は転びそうになりながら美颯の後を追う。
どうやら月光も怒られているようだ。…理由は分からないが。
「美颯さん、いたっ……」
美颯は月光の部屋の前まで来ると、月光を持ち上げてベッドに投げた。
「ぇ、みはやさっ――」
美颯は何も言わずに部屋から出て行く。そして、外側についている鍵をかける音が聞こえた。
「っ、美颯さん!あけて!!」
突然の展開に頭が付いていかいないが、取り敢えず鍵を外してもらおうとドアを叩いた。とにかく怖い。このまま開けてもらえなかったらどうしよう…と考えると涙が溢れてきた。
「美颯さん!おねがい、開けて!悪いことしたなら謝るから!」
ドアを壊す勢いで何度も叩く。月光の力ではおそらく壊れないが、それでも大きな音が出ているので、壊されないようにと開けてくれるかもしれない。
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