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第一章
28 豹変
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美颯に殴られた。
外に行きたいかと尋ねられ、威圧に負けた月光は美颯が望んでいるであろう言葉を発した。
今の状況では学校に行きたいなんて到底頼めない。
「月光いい子だね。ごめんね、怖かった?」
そう言ってベッドに腰掛けた美颯の上に座らされ、溢れる涙を舌で拭われた。そんな事をされるのは初めてで、気持ち悪いと思ったが怖くて言えなかった。
「……ごめんね」
何も反応しない月光を抱きしめて、美颯が背中を撫でてくれる。
それすら怖く感じていたが、しばらくすれば落ち着いてきた。強ばっていた身体から少しずつ力が抜け、月光は美颯に両腕を巻き付けた。
「今日は僕もここでご飯食べるね。酷いことしちゃったからお詫び」
最近は毎日一人で食べていて寂しさを感じていたので、普段なら嬉しく思う言葉だが、今日は出来れば美颯と二人でいたくない。
「……翔も、一緒に……」
「ねえ、さっき注意されたこともう忘れた?」
「うっ……」
背中を撫でていた美颯の手が、勢いよく月光の背中を殴った。肺の空気が全て出て行き、一瞬息ができなくなる。
──こわい……。
美颯が再び背中を撫でてくれて、すぐに空気が入ってきた。それでも、また殴られるのではと美颯が怖くなってしまって月光は泣いた。
翔はいつ帰って来るのだろう…。
「これくらいのことで泣いちゃだめだよ、月光。男の子でしょ?」
「……ごめん、なさぃ……」
「ちゃんと謝れるのはいいことだね」
可愛い~と美颯はいつものように抱きしめてくれた。
そのあとはいつもの美颯と何も変わらなかった。優しく撫でられ、月光はその手に自分の頬を押し当てると、美颯はいつも通り嬉しそうに微笑んだ。
美颯は何かすることがあるらしく月光をベッドに寝かせて部屋から出て行き、月光は安堵からか眠気に襲われて眠りついた。
ドアを開ける音で目が覚めた。
「月兄、ただいま」
美颯かもしれないと思い、寝ているふりをしたが声は翔のものだったので、月光は起き上がった。
「……しょう……」
なぜか涙が溢れてきて翔が驚いたように駆け寄ってくる。
「月兄!?」
どこか痛いか?と翔が月光を抱き起こして膝に乗せた。
しばらくして月光が泣き止むと、どうした?と尋ねられた。
☆
月光がわがまま過ぎるから注意した、というのは授業中に美颯からメッセージが届いていたので知っていた。だが、今日は帰りの迎えが美颯ではなく錬だったので、まだ詳しくは聞けていない。
「どうした?」
持ってきていた水を飲ませて尋ねる。月光は話すか少し迷ったようだが、ベッドに腰をかけて根気よく待っていると小さな声で答えが帰ってきた。
「……みはやさ、に……殴られた……」
「美颯に?」
いつも月光が寝たあと愛おしそうに月光を撫でる美颯からは想像できない。
おそらく、軽く叩かれた程度だろうと翔は思った。月光は喧嘩なんてほとんどしないからちょっとした暴力でも怖がってしまうのだ。
「月兄が何かしたんじゃないのか?」
「……」
思い当たることがあるのか、一瞬はっとした表情で見上げてきたが、言いたくないようですぐに翔の胸部に顔をうずめた。
「……ちがう……しんじて……」
「……月兄、悪いことしたら怒られるのは当然だろ?」
「……ぼくは何も……」
「月兄がわがまま言って美颯を困らせたんだろ?後で謝れ。一緒にいてやるから」
顔を上げさせて目を合わせて言ったが、月光は目を逸らしてまた言い訳をしようとする。
「……みはやさんが……」
「月兄が悪いだろ。美颯だって忙しいんだから困らせるな」
「…………」
「美颯も俺も月兄のために言ってるんだ。反抗しないでくれ」
「…………」
肯定の返事をしばらく待ったが月光は何も話さなくなったので、寝転ばせてリビングへ戻った。
しばらく錬と二人で夕飯を作っていると美颯が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。美颯、ちょっと聞きたいことがある」
「何ー?あ、月光のこと?」
「ああ」
「ちょっと待って。かばん置いてくるから」
自室に荷物を置きに行った美颯は数分で戻ってきてソファに座った。
錬の手伝いをやめ、今日何があったのかと美颯に尋ねると、やはり悪いのは月光のほうだった。
月光がわがままばかり言うので、美颯が少し注意した程度らしい。殴られたと言って月光が泣いていたことを伝えると、外出したいと暴れる月光を止めるために美颯は腰の辺りを一度叩いただけらしい。
「叩いた後も月光怯えてて僕謝ったんだけど……やっぱりまだ怖がってたんだ……もう一回謝ってくるね」
「いや、月兄が悪かったんだから美颯が謝る必要ない。月兄に謝らせる」
「泣かせちゃったんだから僕が悪いよ」
そう言ってリビングを出ていったので、翔も月光の部屋に行くことにした。
外に行きたいかと尋ねられ、威圧に負けた月光は美颯が望んでいるであろう言葉を発した。
今の状況では学校に行きたいなんて到底頼めない。
「月光いい子だね。ごめんね、怖かった?」
そう言ってベッドに腰掛けた美颯の上に座らされ、溢れる涙を舌で拭われた。そんな事をされるのは初めてで、気持ち悪いと思ったが怖くて言えなかった。
「……ごめんね」
何も反応しない月光を抱きしめて、美颯が背中を撫でてくれる。
それすら怖く感じていたが、しばらくすれば落ち着いてきた。強ばっていた身体から少しずつ力が抜け、月光は美颯に両腕を巻き付けた。
「今日は僕もここでご飯食べるね。酷いことしちゃったからお詫び」
最近は毎日一人で食べていて寂しさを感じていたので、普段なら嬉しく思う言葉だが、今日は出来れば美颯と二人でいたくない。
「……翔も、一緒に……」
「ねえ、さっき注意されたこともう忘れた?」
「うっ……」
背中を撫でていた美颯の手が、勢いよく月光の背中を殴った。肺の空気が全て出て行き、一瞬息ができなくなる。
──こわい……。
美颯が再び背中を撫でてくれて、すぐに空気が入ってきた。それでも、また殴られるのではと美颯が怖くなってしまって月光は泣いた。
翔はいつ帰って来るのだろう…。
「これくらいのことで泣いちゃだめだよ、月光。男の子でしょ?」
「……ごめん、なさぃ……」
「ちゃんと謝れるのはいいことだね」
可愛い~と美颯はいつものように抱きしめてくれた。
そのあとはいつもの美颯と何も変わらなかった。優しく撫でられ、月光はその手に自分の頬を押し当てると、美颯はいつも通り嬉しそうに微笑んだ。
美颯は何かすることがあるらしく月光をベッドに寝かせて部屋から出て行き、月光は安堵からか眠気に襲われて眠りついた。
ドアを開ける音で目が覚めた。
「月兄、ただいま」
美颯かもしれないと思い、寝ているふりをしたが声は翔のものだったので、月光は起き上がった。
「……しょう……」
なぜか涙が溢れてきて翔が驚いたように駆け寄ってくる。
「月兄!?」
どこか痛いか?と翔が月光を抱き起こして膝に乗せた。
しばらくして月光が泣き止むと、どうした?と尋ねられた。
☆
月光がわがまま過ぎるから注意した、というのは授業中に美颯からメッセージが届いていたので知っていた。だが、今日は帰りの迎えが美颯ではなく錬だったので、まだ詳しくは聞けていない。
「どうした?」
持ってきていた水を飲ませて尋ねる。月光は話すか少し迷ったようだが、ベッドに腰をかけて根気よく待っていると小さな声で答えが帰ってきた。
「……みはやさ、に……殴られた……」
「美颯に?」
いつも月光が寝たあと愛おしそうに月光を撫でる美颯からは想像できない。
おそらく、軽く叩かれた程度だろうと翔は思った。月光は喧嘩なんてほとんどしないからちょっとした暴力でも怖がってしまうのだ。
「月兄が何かしたんじゃないのか?」
「……」
思い当たることがあるのか、一瞬はっとした表情で見上げてきたが、言いたくないようですぐに翔の胸部に顔をうずめた。
「……ちがう……しんじて……」
「……月兄、悪いことしたら怒られるのは当然だろ?」
「……ぼくは何も……」
「月兄がわがまま言って美颯を困らせたんだろ?後で謝れ。一緒にいてやるから」
顔を上げさせて目を合わせて言ったが、月光は目を逸らしてまた言い訳をしようとする。
「……みはやさんが……」
「月兄が悪いだろ。美颯だって忙しいんだから困らせるな」
「…………」
「美颯も俺も月兄のために言ってるんだ。反抗しないでくれ」
「…………」
肯定の返事をしばらく待ったが月光は何も話さなくなったので、寝転ばせてリビングへ戻った。
しばらく錬と二人で夕飯を作っていると美颯が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり。美颯、ちょっと聞きたいことがある」
「何ー?あ、月光のこと?」
「ああ」
「ちょっと待って。かばん置いてくるから」
自室に荷物を置きに行った美颯は数分で戻ってきてソファに座った。
錬の手伝いをやめ、今日何があったのかと美颯に尋ねると、やはり悪いのは月光のほうだった。
月光がわがままばかり言うので、美颯が少し注意した程度らしい。殴られたと言って月光が泣いていたことを伝えると、外出したいと暴れる月光を止めるために美颯は腰の辺りを一度叩いただけらしい。
「叩いた後も月光怯えてて僕謝ったんだけど……やっぱりまだ怖がってたんだ……もう一回謝ってくるね」
「いや、月兄が悪かったんだから美颯が謝る必要ない。月兄に謝らせる」
「泣かせちゃったんだから僕が悪いよ」
そう言ってリビングを出ていったので、翔も月光の部屋に行くことにした。
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