人形として

White Rose

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第一章

34 折り紙

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  今日の日付が分からない。時間も、知る手段がない。

  明日甘いものを食べさせてあげると言われた日から一日は経っているはずなのに、結局何ももらっていない…。
  忘れられているのだろうが、自分からは怖くて言い出せずにいる。


  時間が止まったような部屋で、月光は折り紙を折っていた。折り紙なんて小学生のときに授業でしてから一度もしていなかったが、何となくで鶴の折り方は覚えていたので、より多くの時間が潰せるようていねいにていねいに鶴を折っていく。

  この折り紙は昨日美颯がくれた。毎日暇でしょ?と気遣ってくれたが、暇だと分かっているならバイトくらいさせてほしい。…当然言えないが。何もないよりマシだからお礼はちゃんと言った。
  美颯は、月光がベッドから出ずに大人しくしていれば全く怒らない。むしろすごく優しい。
  怒らせたくなくて、月光は極力自分のしたいことを口にしないよう気をつけているが、本当は外に出たいし、それが無理ならせめて家の中でだけでもいいから自由に行動したい。

  頼みたくても頼めないので月光の不満は溜まる一方だ。


  ゆっくりと作っていたが、とうとう完成してしまった。もう一つ折ろうかと考えたが、折り紙は柄付きで十枚入りの高そうな紙だからもったいない。それに、一日に二枚も折れば五日でなくなってしまう。なくなれば一日の大半を占める暇な時間にできることがなくなる。
  どうしようかとしばらく考えて、もう一度折り直すことに決めた。
  正方形の元の形に戻そうと指を動かしたところで、リビング側のドアを開ける音が聞こえてきて、月光は手を止める。
  そしてすぐに月光の部屋のドアから美颯が食べ物を持って入ってきた。

「月光、体調どう?」

  食べ物をテーブルに置いて、尋ねながら額に触れてくる美颯に、健康です、と答えた。健康だから外に出してください、と言葉では言わないが目線をちらちらと窓に向けて伝える。

「熱はないね。咳も出てないし……。お腹とか頭、痛くない?」
「はい」
「良かった。この調子なら明後日、静奈のところ行かせてあげられそう」
「ほんと?ありがとうございます!」

  明後日が土曜日だと知れた。静奈の家に行くと言っていた日から、すでに二週間ほど経っているように感じていた月光には嬉しい情報だ。


「ねえ、ここは?まだ大丈夫?」

  そう言って美颯が月光の足の付け根あたりに手を置いた。足を曲げて少し嫌がる素振りを見せると、美颯はごめんねと手を離して謝ってくれた。
  最近、お風呂での辛い行為がない分、少し触れただけで体の中心に血が集まってくるような感じがする。だがまだ耐えられないほどではないので、大丈夫です、と月光は答えた。

「ほんとに?……まあいいけど。何してたの?」

  ベッドの側にある椅子に腰掛けて美颯が尋ねてくる。

「鶴、折ってました」

  先程折った鶴を美颯に渡すと、きれいに折れたね、と褒めてくれた。

「翔が帰ってきたら見せるといいよ」
「はい」

  翔は月光の行動を知りたがる。それは両親が生きていた頃からのことで、月光が何をしていたか、ほぼ毎日欠かさずに尋ねてくる。昔は特に何とも思っていなかったが、最近は聞かれても困る。何もしていないから何と答えれば良いかが分からないのだ。
  今日は言えることが一つできたので有り難い。







  苦しくなるまでは射精しなくて良いと言った日から四日が経った。特に何も変化はなく、暇つぶしにと昨日渡した折り紙で遊んでいる。
  何もせずに約三週間も過ごしていた月光にとっては、折り紙が貰えただけでも嬉しいらしく、外を気にする素振りはあるが外出をせがまれる事はなくなった。

「ご飯持ってきたから食べよう?」
「はい」

  ベッドに座っている月光を抱っこしてテーブルの前の椅子へ移動させた。
  最近の月光の返事は、[はい]ばかりだ。美颯を怒らせないようにと気にしているのだろう。

「月光いい子になったね」
「……美颯さん、一つだけ、お願いしていいですか?」
「いいよ。どうしたの?」

  月光髪を撫でながらそう言うと、月光は一度深呼吸してから口を開いた。

「あの、……ぼく、……頑張っていい子になるから、……えっと……週に一回くらいは、外、出たいです」

  月光がちらちらと美颯の表情を伺い見てくる。
  もう言わないと思っていたことを言われ、美颯は思わず動きを止めて月光を凝視した。

「……だめ?」
「……危ないからダメって僕言ってたと思うけど」
「でも、……少しだけ――」
「ダメだよ。はい、もうこの話は終わり。早くご飯食べて」
「……だめ、なの……?」
「何?何か問題ある?」

  いい子に出来ないなら殴るよ、と右手で拳を作って月光の頬にあてると、月光は涙を溢れさせ、俯いて首を左右に小さく振った。

「悪い子になったら静奈に会わせないから」

  そう冷たく言い放つと、ごめんなさいと謝る声がかすかに聞こえた。
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