すきま時間にShort Love Storyを。

辻堂安古市

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My heart will always be with you.

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 高校の時に付き合ってた彼女・カナ。お互いに地元の大学へ進学しようとしていたけど、受験で思いもよらない点数を取ってしまった。このまま二次を受けてもまず通らない点数だった。考える余裕は、あまりなかったけれど、それでも「つぎ」を考えなきゃいけない。僕は県外の大学を受験することに決め、カナは浪人覚悟で地元大学を受けることにした。


 その結果、僕は合格し、カナは不合格。


 「夏休みに帰って来るよ」
 「浮気しないでね」


 出発前日に僕たちはそんな約束をしたけれど、結局それは夏本番を迎える前の梅雨時に送られてきた、カナからの1通の手紙で消えてしまった。


 「あの人は、私の傍にいてくれるの」
 「あの人は、私を生きたいところに連れて行ってくれるの」




 そりゃないよ。

 僕は傍にいない。
 できない事を言われても、僕にはどうしようもない。
 ついでに言えば、その「あの人」は僕の友達だったヤツだ。




 僕は初めてタバコを吸い、ボトルキープをした。カウンターの灰皿から立ち昇る紫の煙の向こうにブランデーの瓶が霞んで見えた記憶と、胸の奥に絡みつく想いを胸に持って、僕はその秋を過ごし、冬を迎えた。





 カナと別れてから初めてのお正月も明け、実家から大学へ戻るために在来線から新幹線に乗り換えようとしたとき、偶然予備校帰りのカナに会った。

 時間も夕方だし、もしかしたら・・・と思ってたけど、本当に会えるとは思ってなかった。仕事帰りの人たちが行き交う中、高校時代とは違う雰囲気の服を着たカナと目が合う。声をかけるべきか迷っていたら、カナの方から屈託ない笑顔で声をかけてきた。


「あ、おーい!」
「…ひさしぶり。今帰り?」
「そうだよ。そっちも大学に戻るの?」
「明日から始まる講義があるから、どうしても戻らないといけなくて。また成人式には戻ってくるから、正直メンドー」
「そっか、大変だね」

 まさかこんな風に話せるとは思っていなかったのと、あまりに何事もなかったかのように笑顔で話しかけてきたカナに正直複雑な心境になるけど、頑張って表情に出さないようにする。


「そっちももうすぐ受験だろ?」
「今年は大丈夫だと思うけど、去年みたいな思いはしたくないから、もう少し頑張る」
「無理しないようにね」
「ありがと。そっちも風邪ひかないようにね」
「じゃあ行くよ」


 あまり長く話していると、逆に辛くなる。
 もう切り上げてこの場を離れないと。


「待って」



 カナがこちらに手を伸ばす。
 手を伸ばした先は、僕の手首の腕時計。

「ちゃんとつけないと」

 カナの指が僕の腕時計のバンドを直す。

「じゃね」

 カナは1度も振り向かず足早に、雑踏の中に消えていった。



 ほんの数秒。
 少しだけ、昔に戻ったような感覚。
 でも、それは勘違いでしかない。
 そんな事は痛いほどわかっている。

 それでも何か心に絡んでいた重い鎖がほどけたような、そんな感覚に、僕は胸に手をあてたまま、カナが歩いて行った先を見る。今すぐカナを追いかけたい気持ちを飲み込んで、僕は新幹線のホームに向かった。





 部屋に帰り着いてすぐに荷物を放り投げ、僕はボトルキープをしている店に向かった。あの時「持ち金全部つぎ込んじまえ」と、自棄になってキープしたVSOPのボトルを出してもらう。

 グラスに琥珀色のブランデーをワンフィンガー、注ぐ。

 ゆっくり、一口だけ口に含む。
 初めて匂いと味を感じた気がした。



 まだ吹っ切れたわけじゃない。
 それでも。


 グラスを持つ腕には、カナが直してくれた腕時計。
 まだほんの少しだけ、カナの指が触っていた時の感触が残っている。
 嬉しいけど、ちょっと残酷だ。

 僕は、少しだけ満たされた想いと、
 未だに胸の奥に残る、カナへの想いとともに、
 グラスに残ったブランデーを飲み干した。

 タバコはもう吸わなかった。
 僕は僕の目標のために、ここに来る事を選んだのだから。



 **************


 あれから、カナは無事志望校に合格した。
 でも、その年の夏には長々とした手紙が2通に分けて届いた。

「ふられた」「いまでもあの人のことを愛している」
「あなたなら聞いてくれると思って手紙を書いた」

「……いや、しんどいって!なんでこんなの送ってくるかなあ?まだこっちは引きずってるんですけど!?」

 なんて思いつつ、話を長々と聞いたりした。こういうのを「惚れた弱味」とでも言うのだろうか。


 カナは大学を卒業後、大学院へ進み、中学校の理科の先生になった。時々ぐちや悩みを書いた手紙が届くようになった。けれど、いろいろあったらしく、しばらくして休職した。
 数年後、いろんなところへ旅をして少しずつ気持ちが回復し、今では小学校に勤務している。

 今では年1回、少しだけ近況報告するくらい。
 毎年、旅行に行っているようで、相変わらずアクティブだ。
 写真の笑顔を見るたびに、相変わらずだなあ、と思う。
 最近は忙しくても安定しているのだろう、お悩み相談は聞かなくなった。

 でも、いくつになっても、いつでも、
 カナが「助けて」といえば、
 僕は彼女を助けるために動くだろう。

 あの時から相当の年月が流れてしまった。
 もう、直接伝えることは叶わないけれど、それでも。
 彼女に伝えたい想いがある。
 それをここに記しておこう。



 カナへ

 いまでも いつまでも
 あなたは私にとって誰にもかえがたい、
「大切な人」です。
 あなたの行く末に幸多からんことを、心より願っています。

 My heart will always be with you,Kana. 



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