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3 サンタクロースの報酬
しおりを挟む「うっ……あぁ……」
うめき声を漏らしながらどさりと床に崩れ落ちる2人。
痙攣しているその体からは、液体が流れだしてきている。
……が。
「……馬鹿が。お前ら如きに実弾なんか使うかよ。こりゃ玩具だ」
小便を漏らして床に延びている二人を蹴り飛ばし、男は少女の前にしゃがみ込む。
「よう……合言葉を言ってみな」
「…サンタクロース!」
そう言って少女は男に抱きつき、声を上げて泣きじゃくり始めた。無理もない。今まで懸命に耐えていたのだろう。
男は優しくそんな少女の頭を撫でる。
「よく、頑張ったな」
「……おじさんが、サンタさんだったの?」
「……すまんな。赤い服はクリーニング中だったんでな。お嬢ちゃん、ここに居てもお前に先はない。わかるな?」
「……うん。わかる」
「いい子だ」
男はそう言うと、少女を抱きしめながら、いつの間にか現れたもう1人の男に話しかけた。
「なあ『記憶屋』。あとを頼んでいいか?こいつの記憶を買い取ってくれ。……俺のことも含めて、な」
「承知しました。あの2人の事も全てお任せを。どうかご心配なく」
「……任せる」
背後にいたもう一人のモノクルをかけた男性は、同行している女性二人に指示を出す。女の子にはふわりと暖かなコートが着せられた。
「お嬢ちゃん、お前はこの人と一緒に行くんだ。今までの嫌な記憶をさっぱり洗い流して、生まれ変わるんだ。あとの事も全部上手くやってくれる。心配するな」
「……私、サンタさん忘れちゃうの?」
不安そうな眼差しをする少女に男は小指を出し、「指切りげんまん」をする。
「いい子にしてたら、また会える。それがサンタクロースだろう?」
「……うん。ありがとう、サンタさん。私いい子にしてるよ!だから必ずまた来てね!」
「……合言葉は忘れるなよ?」
「もちろん!」
「あ、そうだ」
部屋の外に出た少女は、思い出したかのようゴソゴソとポケットに手を突っ込んで探し始めた。
「これあげるね。大切にとっといたの」
少女はポケットから取り出したものを男に渡すと、「記憶屋」に連れられてイルミネーションが輝く街の灯りの中に消えていった。
静かに音もなく舞い降りる雪の中、見送った男は自分の掌を開く。
そこには、女の子が御礼として渡した包みがしわくちゃな、小さな飴玉が一つだけ乗っていた。
「ったく……柄じゃねぇ」
男は煙草に火をつけようとしたがポケットにそれをねじ込み、代わりに飴玉を口に放り入れた。深めに被った帽子で男の表情は見えない。が、その口元は微かに笑っている様に見えた。
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