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しおりを挟む討伐魔術隊第三番隊隊長アイニスという女性は、22歳という若さで魔術隊を取り纏める優秀な指揮官だ。
10年前から魔術隊に所属し、その能力の高さは折り紙つき。
魔術師は魔術の発現に集中するため足を止め演唱に時間をかけるものも多い中、魔獣に狙われやすい魔術師が足を止めることを極端に嫌い戦場を駆け回りながら高威力の魔術を飛ばす様から彼女は通称″氷雪の狩り人″と呼ばれた。
しかし、″狩り″をするのは魔獣に対してだけではなく…。
「アイニス隊長って本当に素敵だわ」
「私も早く手を出されてみたい。18を過ぎないと相手をしてくれないんだって」
「先輩の話だとアイニス隊長、すっごく″優しい″んですって。普段のあの感じからじゃあまり想像できないけど…」
「え~、でもこわい隊長もそれはそれで見たいよねぇ」
″見たい見たい″と盛り上がる年若い魔術師達の話を、キールは頭を抱える思いで聞いていた。
…こんな白昼堂々若い女の子がなんて話してんだよ。
まだ候補生だろうか、ほつれもないピカピカのコートを着た子達がきゃあきゃあとアイニスの話で盛り上がっていた。
「……お前、また後輩に手を出したのか…?」
「ん?…うーん…、流石にあの子達はまだ手出さないよ」
「まだってなんだよ。…後輩に手を出すのはやめとけよ。いい加減刺されるぞ」
「刺すようなのには手ぇ出してないよ」
この女の、何にそんなに惹かれるんだろう。眠たげな目をして少女達を横目に見る女をキールは見下ろしながら考えた。
背は高いけど中身は女遊びが激しいクソ野郎だし、
遊んだ女に対して″優しい″とはいうけど本気のやつは相手にさえしないし。そのくせ遊びとして線引きする相手に対しては甘々ですぐ依存されるし、相手が本気になった瞬間手放すあたり、碌な遊び人よりはるかにタチが悪いと思うんだが。
(まぁ、俺も人のこと言えないか…)
アイニスの女遊びが始まったのは2年ほど前、仲が良かった同期の女の人が魔術隊から婚姻を機に抜けたことが発端だった。
面倒くさがりのアイニスに手を焼く世話好きなやつで、二人は姉妹みたいに仲が良かった。だから、アイニスがそんな感情を彼女に持っていたことも俺は知らなかったし、彼女が居なくなってから初めて気持ちに気づいたみたいに、酒に酔ってぼろぼろと涙を流すコイツの泣き顔は俺には少し衝撃的だった。
(…穴埋めしか出来ないなら、どうせ満足出来るはずねぇのに)
幸か不運か、コイツは女によくモテた。
興味がないとあしらっていた好意が、あの時のコイツには自分を支えてくれる穴埋めに見えたんだろう。
後輩の女に手を出して、それからずるずると来るもの拒まず去るもの追わずな恋愛事情を繰り返している。
「いっそ、誰か一人にしたらどうだ」
「…それが出来たら苦労しないの。キールには分かんないでしょ」
「モテなくて悪かったな。逆になんでお前がそんなにモテるのかが不明だわ」
「…んなの、わたしも分からないよ」
——————
罰が当たったんだろう。
討伐魔術隊の総括を取り纏める師団長に呼び出されたアイニスは、部屋から出てくるなり死人のような顔をして俺を酒に誘った。珍しい様相の彼女になんと言えばいいか分からず『俺の奢りでいいよ』『悩みがあるならなんでも吐けよ』と同情の言葉をかけたのが運の尽きで、彼女から言われた言葉に逆に俺が酒を吐き出しそうになった。
「貞操観念が隊の亀裂を生みかねないから、控えろって言われた」
(…………………こいつの下事情、上層部にまで把握されてんのか…………。)
ショックを受けているのが″女遊びを禁止された″ことに対してなのか、″上層部に自分の女遊びを知られていた″ことに対してなのかは分からないが、アイニスは珍しく顔を白くして酒も進んでいない。
いや、さすがに軍の内部に自分の下事情を知られるのは可哀想とは思うよ?
でもお前に関しては割と自業自得というか。
立場柄外で遊びづらいのはあるにしても、後輩に手を出すのはやっぱまずいよなぁ。それも何人も。2桁くらいいってんじゃないか?
「どんだけ手を出したらそんなことになんだよ」
「……秘密を守れる子だけにしたつもりなんだけど」
「秘密守れてるならそもそもお前の下事情があの若手の子達に伝わってるわけないだろ」
「……………それもそうか………。」
こうして外で酒を飲んでいると、成人してすぐの時、こいつが失恋して飲みに誘ってきた日を思い出す。
どんな辛い任務でも泣くことなんてなかったやつがぼろぼろ子供みたいに泣いて酔ってわんわん喚いて、長い付き合いがあるとは言え″付き合いきれるか″と正直思った。
好きな女の失恋話を延々と聞かされて、挙句にこいつは女にしか興味がないことまで知らされて。
告白して距離を置かれるくらいなら、こうして男友達みたいな距離感でこいつの″帰る場所″でいれたらいいと思い知らされたあの日。
俺たちが知り合ったのは、お互いの年が12歳のときだった。
当時のこいつは栄養失調なのか可哀想なくらい痩せ細っていて、今からは考えつかないくらい小柄な少女だった。
ダボダボのコートを着て、髪は手入れもしてないのかボサついていて、任務の最中だというのに″面倒臭い″と言わんばかりの目つきをしている。
正直、初めの印象は最悪だった。
『動きながら魔術発現出来るようになれって言ったよね?』
『……はぁ』
『魔力持ちの人間が何人も固まってたら″餌″として魔獣に狙われる。だからアンタらに動きながら使えるように練習しとけって私、言ったはずなんだけど』
『でも今回も別に被害ないし』
『それは前線の兵士が食い止めたからでしょ?』
歳が離れた魔術師の先輩らしき人に彼女たちは戦闘時に後方で固まっていたことを怒られていた。
目の前では俺の先輩が彼女たちを庇って肩から血を流し看護兵に処置をされていた。その後ろで、
『いいじゃん、私らの前には兵士がいるんだから』
平然と、俺たち兵士を使い捨ての盾のように言ったその言葉に、頭が沸騰したことを今でも覚えている。
———それでも、付き合いが長いとだんだん人のなりが見えてくる。
生意気を言った先輩のことを嫌っていたのかと思ったらそうではなかったこと。
面倒臭いと宣うくせに任務は誰より真剣に取り組んでいること。
後方にいる魔術師を守るため、前線で盾になる俺たちを案外見ていること。
消耗品の様に人が減っていくことが受け入れられなくて、どうすれば前線の人間をカバーしながら魔術を使えるかなんてことを本気で悩んだりすること。
魔術の能力も高くてなんでも器用にこなすような顔をしてるくせに、本当は影で努力してること。
感情に関しては一際不器用で、俺の気持ちに気付くこともなければ自分の恋心さえ同期が居なくなるまで気づかなかったこと。
手遅れだって分かってるくせに、未練ったらしくその恋心を大事に抱えていること。
いっそ、そいつを捨てたらラクになれるのに。
「……別に、女を抱けなくてもいいんだよ。横で一緒に寝てくれる人が欲しい。できれば性欲は発散したいけどさぁ、それだけが全てじゃないんだよわたしだって。それをなんだよ人を色情魔みたいに言いやがって、ていうかなんで師団長が把握してんの。気まず過ぎて死ぬんだけど」
「おい待て待て待て、急に飲み過ぎだ。すみません、水ください」
「水なんていらないの。ていうかキールはどうなわけ?お互い夜間に外彷徨くとか中々出来ないじゃん。どうやって発散してんの?」
「やめろ俺に矛先を向けんな。あと発散とか言うな、女だろ。」
「女じゃないし王子様だし」
「お前が王子の国とか絶対女問題で滅ぶわ」
うだうだと酒を煽る彼女を見ながら、キールは頬杖をついた。
捨てたらいいのに、あの子への気持ちも、俺への信頼も。
そしたら俺も、諦めがつくのに。
酒で脳が茹だったような顔をしてへらへら笑うアイニスは、ずっと女相手にしか恋愛をしてこなかったからだろうか。自分が女であることを忘れたような話ぶりだった。
ケタケタと軽口を叩き、ぐいっと木杯を空にする。″おかわり″と掲げようとした杯を手で制止して、出来るだけ穏やかな口調で提案した。
「性欲処理したいだけならさ、俺でよくね?」
「ん……?、キールは、ダメっしょ……」
「なんで?お互い宿舎から出られないから外で出逢い探す必要はねえし、秘密は守るし、適任だと思うけど。」
「…ん、んー?……まあ、確かに……?」
「恋人になろうって話じゃないんだし、男同士の処理みたいに割り切っちまえばよくね?」
「……ん、……んー……、……うん……」
「キールなら、まぁ、いっかぁ。」
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