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元同期の天才魔術師と悪運強い魔術師が、しあわせなハッピーエンドを迎える話。
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しおりを挟む全身が、焼けるように痛い。
なんで?私、なんかしたっけ。
あぁ、そうだ。あの子たちに食いかかる魔獣を殺そうとして、無我夢中で魔力をぶっ放したんだ。
私の魔力なんてたかが知れていて、増幅しても魔術回路を焼き切るような量になんてならないはずなのに。
なのになんで、全身バッキバキになってんだろ。
———ま、細かいことはいっか。
魔獣は殺せたみたいだし。みんなは無事か、それだけが心配だけど。騎士兵もいるし自分が捨てられずここに居るということは切り捨てられる程の状況にはならなかったということだろう。
意外と私の総魔力量、捨てたもんじゃなかったんじゃない?
まさか自分の魔力で死にかけるとは思わなかったけど。
そんなことを考えているとコンコン、と病室の扉がノックされて返事も待たずにガラリと扉が開かれた。
入ってきた少女たちと目が合い、二人とも目を大きく見開いて固まった。
ベルはアイニスとサーシャに『しー』と静かにするよう手で合図すると、二人は数秒言葉を飲み込んだ後にそろそろとベルのベッド横に腰掛けた。
「…あの、……目を覚まされたんですね、先輩。」
「ごめん、心配かけちゃったね。あの後、怪我はなかった?」
「…助けていただいて、ありがとうございました。その…すみません、ワタクシの勝手な行動で、先輩に…」
「…無事ならいいよ。何をしたらいけないかは、また戻ったら教えるからさ。あんまり落ち込まないでよ、せっかく無事に帰れたんだからさ」
「……ありがとう、ございます…」
あのとき不意に湧き出た魔力はなんだったんだろう。
サーシャの顔は浮かなかったけれど、命あっての物種。これも経験と思って戦い方を見つけてくれたらいい。
命の危機に直面して、魔術師が動けない状態で固まることがどれほど危ないことか、流石にあの子たちも目が覚めただろう。
「みんなを守るのはいいけどさ、それで自分を捨てたら駄目だよ」
なんとなしに言った言葉は、周りのために身動きが取れなかった彼女に言ったのか。それとも過去の死んでいった同期たちに向けた言葉なのか分からなかった。
ぼたりと涙がシーツに落ちて、涙を流す少女の背中をアイニスが撫でる。
「ありがとう、ございました…っ、ほんとうに……」
可愛い顔をくしゃ、と歪ませてしゃくりあげて少女は泣いた。
この子、こんな泣き方する子だったんだ。ってそのとき初めて知った。
いつも後輩達の中心にいて、誰かの世話をやいて駆け回っていて、泣いてる姿なんて想像もできない子だったから。
アイニスが彼女の背を押して、病室を後にする。
残された花と果物は甘酸っぱい香りがした。
「……いい先輩、してんだね」
「…聞いてたんだ」
二人が出ていってすぐハイドが顔を上げて嫌な笑い方をした。
突っついてやりたいくらい腹立つ顔だけど、その目の下には隈が出来てて彼の疲れの深さを知る。
珍しく力がない青い瞳も、ボサボサの髪の毛も。
私のせいで彼が弱ったんだと分かると、胸の奥が苦しくなった。
「……身体、具合はどう?」
「めちゃくちゃ痛い」
「だろうね。内臓がぐちゃぐちゃに焼けてたから」
うえ、そんなグロい言い方しなくても。
顔を顰めるベルの前でハイドは至極真面目な顔で尋ねた。
「思い当たること、あるよね?」
…もちろん。ないと言えば嘘になる。
魔力測定で何故か魔力が多いと測定されたこと。
その状態で構わず遠征に出て魔術を使い続けたこと。
挙句に自分の魔力で自分の身体を焼くくらい加減も知らずに魔力をぶっ放したこと。
「……変だと思ったんだ。前に、ベルが俺の魔力操作破ったとき」
ハイドは疲れた顔に手を当てて、苦しそうに言葉を続ける。
「覚えてる?ベルちゃんが俺から離れようとして、俺が気絶させようとしたの」
「忘れるわけないよね。さらっと言ってるけど魔力操作も軟禁も立派な犯罪だからね?ねえ分かってる?」
「…分かってるよ。でもあのとき、本当に閉じ込めときゃ良かったって心底後悔した……」
くしゃりと顔を潰すハイドの声は本気だった。
背中にゾッと寒気が走って、いやいやいやいやと笑い流す。
けれど、
「………なに、死にかけてんだよ……」
あまりに真剣な顔で苦しそうにそう言うものだから、
ベルは言葉を失って居心地悪そうに視線を泳がせた。
「……、…ごめん……」
——そんな顔、しなくてもいいじゃん。
無事に帰って来られたんだし。魔力が増えたのだってラッキーじゃん?
なんて、おふざけでも言えない空気がこの場を支配していた。
今思えば、私程度の魔力でハイドの魔力操作を打ち破れる筈がない。
あの時は必死で、意識を途切れさせないよう思考を巡らせていたから気が付かなかったけれど、今考えれば彼の魔力操作を破ったのは毎日のように抱かれていた後の日のことだった。
その後しばらく離れて、ハイドが自分を迎えにきた時。
馬車の前で不意に身体が動かなくなって彼に抱き止められた時は、魔力操作の解術の影も見えないほど圧倒的な力に身を流されて手足は動かないし意識も強制的に遮断させられた。
散々注ぎ込まれた、ハイドの魔力。
そういえば、喧嘩してめちゃくちゃに抱かれたあの時も、彼の魔力を注がれてから動かないはずの手が動いて、彼を抱きしめたことを思い出した。
「心配させて、ごめんね」
苦しそうな彼の頭を、包帯でぐるぐる巻きの固い手で抱き寄せた。
ハイドのことだからきっと本当はめちゃくちゃ文句を言いたいんだろう。
今私が元気でここがいつもの酒場なら夜が明けても終わらないくらい説教と愚痴を聞かされてたに違いない。
でもハイドは顔を歪めて言葉を飲み込むだけで、言いたかったはずの気持ちには蓋をした。
「……おかえり。」
「…うん、ただいま。」
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