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元同期の天才魔術師と悪運強い魔術師が、しあわせなハッピーエンドを迎える話。
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しおりを挟むアイニスは必死で走った。
自分が死んでまで貫く信念ってなんなの。
馬鹿じゃないの。馬鹿だよ。
ねえ知ってるよサーシャ。サーシャって別に一人でも魔術使えるんでしょ。
世話焼きで誰かが寂しい顔してるとほっとけなくて、自分だって怖いくせに″大丈夫″って周りを鼓舞して。
彼女の名前を叫んで、逃げてと言った。
けどサーシャは襲いかかろうとしてる魔獣を前に、足が地面に張り付いたみたいに一歩も動かなくて、顔を青くする周りの同期にまた″大丈夫よ″って口にした。
演唱を続けて。それだけが、私達に出来ることだから。と。
———ふざけるな‼︎
信念が自分を殺すなら、誰かへの優しさのために身を捨てれるなら、そんなの全部捨ててしまえ。
なんで自分の命を危険に晒してまで、動いているのかなんて自分でも分からなかった。
視界の奥で先輩もこちらに走っていて、こちらに伸ばす手が青色の見たことない閃光を溜めているのが見える。
「アイ、ニス——」
魔獣と彼女の間に割って入った瞬間、背後からサーシャの間の抜けた声が聞こえた。
その瞬間、パンッと軽快な音が聞こえてサーシャに襲い掛かろうときた猿魔獣が花火のように破裂して粉細工みたいに崩れ落ちた。
「——ぇ」
「っひ、……ぃ……‼︎」
「ま、魔獣…ッ魔獣が…‼︎」
ざわめく同期達は周りを魔術に取り囲まれていることに今更気付いたようで動揺して演唱の手が止まっていた。
しかし先導した魔獣が粉になったのに一切魔獣達が動かないことに不信感をもって視界を上げると、それらは魔獣の形をしたまま既に核を破壊されて粉になっており、風に攫われてさらさらと形を崩していた。
「へ、あ……」
へたりとサーシャが座り込んで、演唱が完全に止まった。
周りの同期たちも腰を抜かしたようにその場に崩れる。
何が起こっているか分からないアイニスは周りを見て、視界の奥でベルが倒れていることに気がついた。
「……先輩…?」
既に周囲に魔獣の気配はなく、騎士兵達でさえ相対していた魔獣が急に砂のように崩れて動揺していた。
その間を掻い潜り、地面の上に倒れるベルのところへ急いだ。
——脈はある。
でも、なにかおかしい。
さっきの青い光はなに?
身体に外傷は見当たらないのに、ベルから感じる魔力が異常にか細く歪なのも不自然だった。応急処置で魔力を分けようとして、その身体の中が高威力の魔術で焼かれたようにボロボロなことに気がつく。
なにより、魔術回路が深刻なダメージを負っていた。
「——先輩‼︎ベル先輩‼︎」
必死に声をかけても目を開けるところか反応さえ返ってこない。助けないと。でも、こんな状態どうにか出来る人なんて、
いや、そんなのどうでもいい。今はただ、出来ることを精一杯に———
——————
サーシャは、目の前で何が起こっているか分からなかった。
(……たすけられた…?)
魔獣が視界いっぱいに飛び込んできた瞬間、もう何もすることはないと思ってしまった。数秒後にその牙に自分の肉を食い破られて、陣の中心で無惨な死体になって死ぬのか容易に想像できた。
自分が動けば、陣が魔力暴走する。
それに、統率をなくしたみんなが散り散りになってしまったら、それこそ魔獣の格好の獲物だ。
——大丈夫、陣の発現はもうすぐそこ。私が死んでも、その前に陣を完成させたらみんなは守ることが出来る。だから、
そう、心を決めたはずなのに。
生きていると知覚して、ぼろぼろと勝手に涙が溢れた。
本当はこわかった、本当は逃げたかった。
でもそうしたらいけないから、ワタクシは不安になってはいけないと自分に言い聞かせて立ち続けた。
私を救ったのは、アイニスでも運でもなかった。
人の列から離れた場所で、内臓を焦がして倒れている女性を見る。
彼女の手から放たれたのは自分が憧れたハイド魔術長と同じ魔力で、一瞬にして広範囲の魔獣の核を焼け焦がすように破壊した。
ずっと、憧れていたから、知ってる。
他の誰にも扱えない、天才の魔術長だけに流れる魔力。
「……どうして、……」
ワタクシなんか、見捨てたらよかったのに…。
お父様とお母様に捨てられたあのとき、ワタクシは全てを諦めたのです。
だってお母様が言いました。ワタクシのような人を思いやれない人間は娘じゃないと。
お父様が言いました。ワタクシのような半端者の魔力持ちなんて誰にも愛されないと。
お姉様たちが言いました。魔獣の囮になるくらいしか能がないくせに、良い気になった罰よ。と。
これはワタクシの罰なのです。
人を思いやれない半端者のワタクシは囮になるくらいしか使い道なんてないのです。
人を思い遣る人間になろうとしました。
誰も寂しい思いをしないように、誰も悲しい思いをしないように。
でもこの世界はどこまでも理不尽で、討伐魔術隊に来る子達はどこまでも人間を恨んでいました。
圧倒的な魔術師の才能にも憧れました。
せめてワタクシに優秀な魔術回路が備わっていれば、お父様とお母様に捨てられることはなかった。
ワタクシが欲しかったものを全部手にしているハイド様が、絵本の王子様みたいにこの手を引いてどこか知らない世界に連れ去ってくれるのを夢見たりもしました。
だから、貴方に『才能がない』と言われたときは本当に辛かった。
あの人に選ばれたこの女性を、理不尽にも恨んでおりました。
こんなだから、ワタクシは家族にもアイニスにも捨てられたのでしょう。
そんなの分かってる。でもどうしようもないの。
愛して欲しくて、手を引いて欲しくて、助けて欲しくて、
誰かが羨ましくて、正しくあろうとするのは苦しくて、
ワタクシは、どうしようもない人間なの。
「ねぇ、サーシャ。手を貸してよ」
「……え?」
「先輩を死なせたりなんて絶対にしない。街に戻るまで、先輩に魔力を流し続ける」
「魔力…」
「回路が焼けて、魔力も不安定だから。誰かが魔力を与えないといけないの。でも、私だけじゃ足りない」
「協力して、サーシャ。」
真っ直ぐこちらを見るアイニスの空のような目が、こんなに真剣な色をしているのを見たのは初めて。
答えなんて、決まっていた。
彼女の手を持ち、そこに魔力を流す。
それは血液のように身体を循環させるだけで、治癒できるわけでもなければ痛みを取り除くことも出来ないけれど。
けれど、こんな致命傷であっても、きっと彼女を助けることが出来る人をワタクシは一人だけ知っている。
街に戻るまでの間、ワタクシたちはか細い息をする先輩の呼吸を途切れさせないよう、ひたすらに魔力を注ぎ続けた。
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