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元同期の天才魔術師と悪運強い魔術師が、しあわせなハッピーエンドを迎える話。
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しおりを挟む「…道が悪いわね」
「…今回は、森の中でしょうか。……視界が悪い場所だと厄介ですね」
先導する騎士兵たちが開いた獣道を小枝を踏みながら列は進む。背後にも護衛の騎士兵はいるが、ベルにとって″森″は魔獣を相手にするには最も厄介で気が抜けない環境だった。
視界が悪くどこから現れるか分からない。
前後に守りがいたとしても、魔獣にとって最も上質に見える餌は″魔力がある人間″、つまり魔術師だ。
非力で力も弱く魔力も蓄えている極上の餌を前に真っ直ぐ飛びかかってくるならまだマシ。知能をつけた魔獣は特に厄介で魔術師の無防備な状態を狙って襲撃してくることを知っていた。
そして、そういう知能をつけた魔獣ほど、好んで森を生息域にする。
そこが最適な″狩場″だと学習してしまっているから。
「アイニス、戦闘になったらもし魔獣の姿が見えなくても足を止めないでね。あいつらはこっちが疲れるのを狙って攻撃してくるから」
「…ずっと走らなきゃダメってことですか?」
「生きていたいならね」
「………はぁい。」
パキリと小枝が割れる音がする。
ガサガサと草を分ける音がする。
でも、不自然なくらいにそれ以外の音がしていない。
鳥の声も、動物の声も、森が揺れる音も。
風に葉が揺れる音だけが私達を包んでいて、″狩場″に着いたことを察知したベルは周囲を警戒した。
やがて、″それら″が姿を現した。
猿のような体躯をした魔獣は、一匹二匹じゃない。何十という数で木々にぶら下がりこちらへと向かってきた。
その一匹一匹が明確な知能をつけている。
魔獣がこんなふうに隊を成して動くのは見たことがない。
元々群れて生きていた動物が高濃度の魔力に汚染されて魔獣に堕ちたのか、考察するのは今じゃない。未熟な魔術師たちが本能的に悲鳴を上げてしまい、あいつらに目をつけられた。
″餌がまとまってやってきたぞ。″
そう言っているような、咆吼だった。
「魔獣だ!応戦しろ!」
騎士兵が一斉に剣を抜き魔獣と相対する。その後ろで何人かの魔術師は演唱を始めさらに後方でアイニス以外の後輩たちは陣を組みいつものように大規模な演唱を始めていた。
「馬鹿!固まってたらあいつらに狙われる!」
声を荒げても少年少女には届かない。
恐怖で身体を硬直させながら、一刻も早く魔術を発現させようと目を閉じ必死に演唱を紡いでいた。
出来ることは、少しでもアイツらの数を減らして魔獣の手があの子たちまで届かないように善戦すること。
「——先輩!あいつらには言っても意味ないです!」
既に列から離れ演唱していたアイニスが叫ぶ。
陣の中央にいた少女は泣きそうな顔で周りの子たちに″大丈夫″と繰り返し鼓舞していた。
走りながら演唱出来るようになれと何度も言ってきた。
それでもあの子たちは陣をやめない。
それはきっと、あの子たちがみんな″排除された側″の人間だからなのだろう。
私だってそうだ。お金がないから両親に軍に売られた。
あの陣を通してあの子たちは繋がっていて、そこから出ることを極端に恐れてる。——だから、そこから出たアイニスは迷うことなく走り出したんだろう。
気持ちはわかるよ。
でもそれで命を危険に晒してたら意味がない。
「……、分かった……」
きっとあの子たちを救うのは手を引いてくれる他人じゃなくて、一度は繋がった仲間の存在なんだ。
アイニスの活躍が、いつかはあの子たちの心を変えるかもしれない。
なら私はそれまであの子たちが潰れてしまわないように、戦わないと。
「は、……はは、……魔獣のくせにっ、良い趣味してんね」
知能がある魔獣が束になるとこれほど厄介なのか。
列から離れ囮を引き受けながら戦う自分は″狩りやすい″と判断されたんだろう。意図的に列から離され分断された。
アイニスは無事だろうか。騎士兵達はなんとか前線で食い止めているけれど数が多すぎて押されている。
何より弱った魔獣の核を魔術師が破壊する前に次の魔獣が襲撃するせいで、一向に数を減らせない。
「クソみたいな知能つけやがって、一匹一匹はクソ雑魚のくせしてさぁ」
こちらの言葉を理解しているのか、魔獣が一瞬動きを止め『ピキ』『クキキ』と唸り声のような声を洩らす。
この猿魔獣、一体一体はさして強くなかった。
力は強いけれど骨が折れる程の力はない。俊敏性もあるけれど目で追えないほど早いわけでもなければ兎のようにちょこまか動き回るわけでもない。
「群れになったら良い気になりやがって、
お前らみたいなしょうもない奴ら、こっちは散々相手にしてきたんだよ。」
核を狙って放った火矢は魔獣の胸に刺さり『ぎゃう』と声を上げて粉になった。
それを見て一瞬先頭の魔獣が足を後ろに下げるけれど躊躇することを許さないとばかりに後ろにいた猿に押され、そいつは鋭利な歯を剥き出しにしてこちらに向き直った。
「自分が殺されるって分かってても、向かってくるんだ?
仲間のために?
下がることも許してもらえないのに?
……それってさ、仲間に殺されてるようなもんじゃん」
人間の肉を切り裂く歯だけがコイツらの明確な武器なんだろう。魔獣のくせして目から涙を流して集団で襲いかかってくる様はもはや気持ちが悪かった。
数の暴力で殺せるほど、私、弱くないよ。
高威力の魔術は出せないけどさ、数をこなすことと、命中させることは得意なの。
「ぎゃあぁうッッッ」
「……魔獣のくせに、泣かないでよ」
人間みたいに群れてそんなふうに泣かれたら、こっちが悪者みたいじゃん。
粉になって消えている魔獣の中、服についた粉を払い落とす。早くあちらに戻らないと。
———そういえば、なんでこいつらは私を分断した?
始めは一人でいる私が狩りやすい餌と認識して、まんまと釣れたと思っていた。
けれどそれならこいつらは、私に力で及ばないと分かった瞬間、これは″餌″ではないと認識して逃げ出したはずだ。
恐怖で身をすくませて、後退しようとした先ほどの猿魔獣の姿を思い出す。
……後退を、許されてない。
それは、ずっと昔のクソみたいな記憶。
討伐魔術隊で候補生として生きていたとき、お偉いさん貴族が逃げるための時間稼ぎとして後退を禁止され魔獣の前で演唱していた子どもたちの姿と重なる。
目的が、自分じゃない。
こいつらは、あの猿魔獣の軍団が狩りを成功させるための部隊の一つで死ぬために用意された″特攻役″だ。
ならアイツらの目的は他にある。
私をわざわざ分断させて列から遠ざけたのは目的を果たしやすくするため。
アイツらの狩りで最も収穫が多くて、最も狩りやすいもの。
それは———
「サーシャ‼︎‼︎」
木々の奥から空気を割くようなアイリスの声が聞こえてきて、反射的に魔術を演唱した。
視界の奥に見えるのは騎士兵達に護られ安心しているのか大人数で陣を組む魔術師達と、それを木の上から狙っている大量の猿魔獣達。
狙われたのは、陣の中央にいた少女だった。
日に光る金の髪を揺らして、怯える心に蓋をして必死に周りを鼓舞していた少女。
その子の頭上に猿魔獣が牙を剥いて襲い掛かろうとしていた。
どうしよう
あの子は逃げられない
演唱途中に人が欠けたら、魔術暴走を起こすから。
それに、あの子は周りの恐怖を一身に受け止めてるから
たぶん、逃げ出そうとさえ、しない。
必死だった。
私は魔力が少ないから、瞬間的に高威力にするために沢山の魔力を使う練習はいままで散々してきた。
魔術回路が飛ぶギリギリまで、ありったけの魔力を増幅させる。
少女の前にアイニスが飛び出した瞬間、
パンッ
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