【R18. 1/29完結】元同期の天才魔術師に″処女は抱かない″と言われたので処女を捨てたらキレられました。

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元同期の天才魔術師と悪運強い魔術師が、しあわせなハッピーエンドを迎える話。

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遠征の日の朝、ベルは恒例の魔力測定の列に並んでいた。
後輩のアイニスは既に検査を終えたようで待機列から出ていそいそとコートを羽織っている。彼女と仲が良かったらはずの同期の子達はアイニスから離れた場所で固まっていて、それを横目に見ながらベルは検査に呼ばれた。

「……魔力量が…増えてる…」
「え?」

検査技師が魔力を測定する玉を凝視しながら言った言葉に、そんなはずないだろうと周りの検査技師まで一瞬目を剥いた。
人間の総魔力は、産まれた時から決まっている。
多少は強化できたとしても、それは修練だとかでどうにか出来るものではなく、だからこそ魔術師の中で才能というのは埋めようのない堀なのだ。

(魔力量がそんな劇的に増えるわけないじゃん)

あるとすればこれまで測定されていた魔力が、総量じゃなかったとか?
この二日、ハイドは約束通り身が溶けるくらい甘やかした週末を過ごさせてくれた。疲れた身体を解されて風呂に入って侍女の手で磨かれて、美味しいご飯を食べてぐーたら寝る。
そんな贅沢、これまでしたことがなかったから普段は遠征までに魔力が回復しきってなかったのかもしれない。
それに、魔力量が増えたと言っても私のこれまでのものと比較してという話だ。
人並みの魔力しかない私の魔力が増えたところで、出来ることなんてたかが知れてる。

「おはようアイニス。しっかり休めた?」
「ベル先輩、おはようございます。…騒がしかったですけど、何かあったんですか?」

アイニスは同期から距離を置かれていることなんて気にも留めてない顔をしてた。
その様子に、少しだけホッとする。

「なんか魔力が増えた?とか。そんなわけないのにね」
「……測定玉も故障とかするんですかね」
「どうだろ」
「…ま、先輩は魔力が少なくてもいいとは思いますけど」
「あるに越したことはないんだよ?」

横に並ぶ後輩の彼女の横顔は以前の遠征のときとは明らかに違って見えた。
この一週間、魔獣から襲われることを想定して魔術を扱えるようになったのが彼女の中で自信にもなったんだろう。
視線は同期たちの方を向いているけれど、凛とした瞳を前にベルはわざわざ踏み込んだ会話は選ばなかった。

「そろそろ測定終わるみたいだし、行こっか」
「…そうですね」

遠征に出る前にはハイドから『いってらっしゃい』と言われたし。今回もいつもみたいに『ただいま』って言わないといけないからさ。
自分を慕ってくれる可愛い後輩に並んで、ベルは討伐魔術隊のコートを羽織り待機列へと移動していった。










——————





(なんで、アイニスはあの女と一緒にいるのよ…っ)

サーシャという少女は、思い込みが激しい性格をしていた。
討伐魔術隊の同期の男女たちの中心に立ち、面倒見が良く人の世話もよく焼いてくれる。以前は隣室でもあるアイニスと一番に仲が良く魔術を扱う能力は高いものの日常生活にはまるで無頓着な彼女の世話をしてあげたりもしていた。
彼女を同期のグループの中に招き入れたのもサーシャだった。
魔術師個人では大きな魔術は扱えないけれど、みんなで演唱を重ねればそれだけ高威力の魔力で魔獣を焼くことが出来る。
私たちの前線には兵士がいるんだから、わざわざ苦労して沢山の魔術を発現させるより、一度に高威力で片付けた方が魔術師の負担もないだろうと。アイニスも乗り気の筈だった。

——なのに、

あの日、突然アイニスはサーシャの部屋を訪れてこう言った。
『わたしは抜けるから、じゃあね。』と。
友達だと思ってたのに、仲間だと思ってたのに、
あまりにあっさりした物言いに直ぐには言葉が出てこなくて、何を言われたのかさえ飲み込むのに時間がかかった。

でも、それからアイニスは一人で魔獣討伐依頼をこなし始めて、気がつく。
ああ、あの子はワタクシを捨てたのね。
アイニスの魔術師としての能力が陣から抜けることは惜しいけど、それ以上に裏切られた衝撃と物言えぬ苛立ちが腹の中に立ち込めていた。
どうして、アイニス。
ワタクシ、良くしてあげたじゃない。
一緒にごはんを食べて、あなたの服を洗ってあげて、
ベッドから起きないあなたの手を引いて街を歩いたわ。
ねえ、あなたにとってワタクシは何だったの?
友達だと思ってた。仲間だと思ってたのに。
どうして、


よりにもよって、その女と一緒にいるのよ。






サーシャ。
本名を、サーシャ・イディオット。
討伐魔術隊の人間の中で唯一、苗字がある少女だった。

彼女は家格の高い侯爵家の三女として産まれた。
魔力量が多い彼女が産まれたことを両親は手放しで喜び、上の姉二人と比べると随分甘く何を言っても怒られないのが当たり前の幼少期を過ごした。
そんな子供時代を生きていたせいか、彼女は人との距離を測るのが大の苦手だった。
甘やかしてくれるのは相手が自分を愛してくれている証で、わがままも癇癪も全て愛を請うためのコミュニケーション。
それがどれほど周囲の人間を疲弊させるかなんて知らず、彼女は求めるままに振る舞っていった。

「婚約者?こんな男ワタクシは嫌よ。ハイド様のような方と結婚したいわ」

家格が上の貴族を前にフンと鼻を鳴らして嘲笑った少女を、今更誰が叱れただろう。
両親は顔を青くして額に脂汗をかいて相手方に媚び諂っていた。
姉二人は『お前のような女が見向きされるわけない』と少女を見て嘲笑っていた。
怒られることも教えられることもなかった少女はただ、何故みんなが自分に同調して賛同しないのかが不思議でならなかった。

「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさかこれほど常識知らずだとは思わなかった」
「魔力があるとは言ってもあの様相では引き取り手なんていませんわ」
「魔術回路はそれほど優秀ではないようだし、魔力がある女性は他にも沢山いますもの」
「魔獣が街中に入ってくるわけでもありませんし。今の時代は″能力″より愛嬌ですわ。殿方を敬って謙虚に即する女でなければ」
「………はあ、残念だ。恩を仇で返されたな」

どうして自分が貶められているのか、サーシャは理解できなかった。
親の愛情に対価なんていらないと言ったのはお母様なのに
ワタクシを誇らしいと言ってくれたのはお父様なのに
どうしてお姉様たちに同調するの。ねえ、お母様、お父様、やめて。お姉様たちと話さないで。
だってお姉様たちは——、

「あんな子が家にいたらイディオット家の名が汚されちゃうわ。ねぇお父様、わたくしたちの婚約に傷がつかないうちに″対処″してほしいの」

「そうよお父様。ずっとわたくしたちは我慢してきたわ。あの子ばかりに良いドレスを買ってお父様もお母様もわたくしたちを愛してないかもしれないけれど、わたくしたちはお父様とお母様に恩を返したいの」

「ええそうよ。だからお父様、お母様。」

「「あの子を捨てて」」









「ああ、そうだな。
 お前たちにはずっと我慢を強いて悪かった。
 私達も貴族として、″正しい判断″をしよう。」








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