9 / 48
【第二章】クリス×スカーレット編
2
ここ最近のスカーレットは特に荒れていた。
勅命婚約をしたアルファード王子の婚約者、ヴァイオレット。
いけすかない女。婚約者に愛されることを放棄した女。それなのに周りから褒められ淑女の鑑だなんだと騒がれている女。
それが突然アルファード王子に愛されるようになり状況が変わってきたから。
私たち勅命婚約をした5人の令嬢には、
教会から言い渡されている秘密がある。
『婚約者に愛されてはいけない』
私たちの婚約者は聖女に出逢い彼女を幸せにすることを預言されている。聖女が幸せであれば国は繁栄し、不幸になれば国に災いが訪れると言われている。
だから彼らが他の女に目を移さないよう婚約者として繋ぎ止めておきながら聖女が現れれば差し出すのが私たちの役目なのだという。
いの一番に手を挙げたのはヴァイオレットだった。
『国のため生きるのが貴族の役目ですもの、お引き受けしますわ』
貴族の役目、そう言われても私は何故一生を共にする婚約者をそう簡単に諦められるのか理解が出来なかった。
『流石は公爵令嬢』と大司祭が賛辞を送る。
ヴァイオレットに続くように手を挙げたのはノワール、
『お姉様がそう言うなら、私も同意します』
ノワールのところは辺境同士近隣の領地で婚約前から顔見知りだと以前言っていた。なのにそんな簡単に手放す?将来現れる聖女だという知らない女に明け渡せるの?
後は緊張感で震える女に、別にどうとも思ってないような顔をした女、そして私。
大司祭様が同意を確認すると2人はこくりと頷いた。
ただ1人私だけが拒否をしてその場を立ち去った。
『よろしいんですの?彼女、婚約者に執着しておいでのようですけれど』
『ええヴァイオレット様、スカーレット様は良いのですよ、あれで。預言の通り、キチンと役目を果たしてくださいますから』
『まあ、…報われないことね』
そんな会話があったことなんて知らずに。
聖女リラ、スカーレットが最も嫌いな人間。
ヴァイオレット公爵令嬢、スカーレットが2番目に嫌いな人間。
ノワール辺境伯令嬢、スカーレットが3番目に嫌いな人間。
リラはこれまでクリスに近付いてきた女達とは違った。
明るく天真爛漫で常識知らずなところがある平民上がりの男爵令嬢。聖女?あれが?厚顔無恥甚だしいわ!
スカーレットには分かる、リラは計算を持って男に近付いていることを。クリスから離そうと裏工作をしても聖女がもつ″真実の水晶″とやらのせいで見通されて失敗ばかり。
ヴァイオレットとノワールは8年前に役目を受け入れてから裏では女ばかりのハーレムを作るようになった。″婚約者に愛されてはいけないのだから傷の舐め合いですわ″と2人は言うがスカーレットからすれば婚約者への裏切りに他ならない。
そんな嫌いな3人が幸せを掴もうとしている。
リラはクリスと仲を深め、
ヴァイオレットはアルファード王子から囲われるようになり、
ノワールは婚約者と領地に戻ってから1週間も連絡がない。
焦ったスカーレットは闇市に赴き怪しげな薬を購入した。『恋の妙薬』と書かれたそれは好きな相手に飲ませれば愛を深められると説明されたが簡潔に言えば媚薬だった。
さすがに何が入っているかも分からないものをクリスに飲ませるのは憚られ、スカーレットはその薬を3本買うと試しに1本を飲みくだした。
1人の自室、小さなビンの中身を空にしたまでは記憶がある。
身体が熱く、処置の方法も知らないので風邪をひいたときのようにベッドに横たわり、そこで意識が途切れた。
次に目を開けたとき、スカーレットは奇妙な感覚に襲われた。
自分の部屋なのに、まるで舞台セットを見ているような
ここでない自分の部屋を知っているような感覚。
数日間既視感のようなその不可思議な感覚を過ごしているうちに記憶が鮮明になっていった。
思い出したのは煉瓦造りとは似ても似つかないコンクリートと鉄筋、ガラスと無骨な機械に埋め尽くされた現代の生活。
そこで生きていたとき趣味にしていた乙女ゲームの記憶。
スカーレットには、スカーレットとして生きてきた確かな実感がある。レヴィアタン家の娘として育てられ一流の家庭教師に教えられてきた。
栄華を歩んでいると思っていた。
しかし″私″は知っている、この先の運命を。
ゲームのスカーレットはこの小瓶、『恋の妙薬』をクリスに盛り、迫るが寸前のところでリラとアルファード王子が助けに入る。結果的にリラがクリスを介抱し2人の仲を深めクリスの女性恐怖症はリラ限定で平気になる。
最後にはリラを暗殺しようとして失敗し聖女を害した罪で斬首刑に処されるのが、このスカーレットの運命だ。
思わず首に手を触れる。
繋がったままの首がドクンドクンと手に脈を伝え、スカーレットは決心した。
(このままでは、いけないわ)
考えを改める時期がきたのだ、そう考えよう。
クリスへの愛に溺れるように生きてきた、けれど結果はどう?
ゲームと同じようにリラとクリスの仲は進んでいて
教会から言い渡された通り私はクリスから″愛されていない″。
そもそも愛されるはずがないのよ、だってクリスはヒロインのために存在しているキャラクターなのだから。
幸せになりたいのなら
愛が欲しいのなら
全てを捨てなくては。
だけどクリス、
私本当にあなたのことが好きだったの
本当に、大好きだったの、クリス。
あなたに愛されたくて仕方がないの。
でも、ダメなのよ。
クリスを愛しているなら、
離れることが彼にとって一番の幸せなの。
私ではクリスを幸せに出来ないのだから。
クリス、
クリス、
クリス、
クリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリス、
愛してる
あなたの空のように青い瞳が好き。
雪のように白い髪も美しい容姿も、
血の滲むような努力を重なるストイックなところも、
結果のためなら重ねた努力も諦める合理的なところも。
あなたが近衛騎士になるために努力してきたところを見てきた、
家族に認められるために学園で常に学年成績上位を維持してきたことも知ってる。
あなたの全てが私にとって宝石のように眩しかった。
あなたの未来を見る真っ直ぐな瞳が大好きだった
たとえ私に向けられていなくても、
あなたが好きだった。
さようなら。
その日から私は生まれ変わった。
まずは両親にこれまでのことを告白し、正式な謝罪に赴くことにした。
父と母は顔を青ざめさせ、なんて馬鹿なことをしたんだと口にした。両親がスカーレットを批判するのは初めてのことだった。
スカーレットはひたすらに謝り2度と愚かなことはしないと誓った。
″私″は、スカーレットの性格は苛烈であったが、両親にまともな良心があったことに感謝した。
クリスに関わることもキッパリと止めた。
遠目からでも様子を見たいと思うが、罪深い自分がしていいことではないだろうと自分を戒めた。
聖女に害を与えることをやめるよう手下達にも言い含み嘘のように平和な生活が訪れた。
手元に残った小瓶が2つ
捨てることも出来ないまま、スカーレットは悩んでいた。
国の勅命なので流石に婚約の解消は出来ない。
けれどそれで本当にクリスは幸せになれるのだろうか。
ゲームのクリスルートではスカーレットが死んだあとヒロインとクリスは結婚をしてハッピーエンドを迎える。
どうにかして私がクリスから離れなければヒロインとの結婚は出来ない。それとも私の役目が終われば教会は婚約解消を受け入れるつもりかしら?しかしそれは貴族院が納得しないだろう。
(…一つだけ確実にクリスを自由に出来る方法がある。)
(私が、クリス以外の男のこどもを孕むこと…)
それならば確実に貴族院はこの婚約を解消させる。私の名誉は地に落ちるし両親にはまた悲しい顔をさせることになる、勘当されるかもしれない。
それでも、それでも、
私は、クリスに幸せになってもらいたい。
これまで私が酷いことをしてきた分まで、どうか。
小瓶を2本小鞄に入れて、スカーレットは決意を固めた。
『真実の水晶でスカーレットさまを見たい?』
『今度は何を企んでいるのか、どうせ碌なことじゃないから先に知っておきたいんだ』
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。