【R18】悪役令嬢は婚約者に囲われる。 (婚約者×悪役令嬢 R18短編集)

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【第二章】クリス×スカーレット編

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ここ最近のスカーレットは特に荒れていた。
勅命婚約をしたアルファード王子の婚約者、ヴァイオレット。
いけすかない女。婚約者に愛されることを放棄した女。それなのに周りから褒められ淑女の鑑だなんだと騒がれている女。
それが突然アルファード王子に愛されるようになり状況が変わってきたから。

私たち勅命婚約をした5人の令嬢には、
教会から言い渡されている秘密がある。
『婚約者に愛されてはいけない』
私たちの婚約者は聖女に出逢い彼女を幸せにすることを預言されている。聖女が幸せであれば国は繁栄し、不幸になれば国に災いが訪れると言われている。
だから彼らが他の女に目を移さないよう婚約者として繋ぎ止めておきながら聖女が現れれば差し出すのが私たちの役目なのだという。


いの一番に手を挙げたのはヴァイオレットだった。
『国のため生きるのが貴族の役目ですもの、お引き受けしますわ』

貴族の役目、そう言われても私は何故一生を共にする婚約者をそう簡単に諦められるのか理解が出来なかった。
『流石は公爵令嬢』と大司祭が賛辞を送る。
ヴァイオレットに続くように手を挙げたのはノワール、

『お姉様がそう言うなら、私も同意します』

ノワールのところは辺境同士近隣の領地で婚約前から顔見知りだと以前言っていた。なのにそんな簡単に手放す?将来現れる聖女だという知らない女に明け渡せるの?

後は緊張感で震える女に、別にどうとも思ってないような顔をした女、そして私。
大司祭様が同意を確認すると2人はこくりと頷いた。
ただ1人私だけが拒否をしてその場を立ち去った。


『よろしいんですの?彼女、婚約者に執着しておいでのようですけれど』
『ええヴァイオレット様、スカーレット様は良いのですよ、あれで。預言の通り、キチンと役目を果たしてくださいますから』
『まあ、…報われないことね』


そんな会話があったことなんて知らずに。








聖女リラ、スカーレットが最も嫌いな人間。
ヴァイオレット公爵令嬢、スカーレットが2番目に嫌いな人間。
ノワール辺境伯令嬢、スカーレットが3番目に嫌いな人間。

リラはこれまでクリスに近付いてきた女達とは違った。
明るく天真爛漫で常識知らずなところがある平民上がりの男爵令嬢。聖女?あれが?厚顔無恥甚だしいわ!
スカーレットには分かる、リラは計算を持って男に近付いていることを。クリスから離そうと裏工作をしても聖女がもつ″真実の水晶″とやらのせいで見通されて失敗ばかり。
ヴァイオレットとノワールは8年前に役目を受け入れてから裏では女ばかりのハーレムを作るようになった。″婚約者に愛されてはいけないのだから傷の舐め合いですわ″と2人は言うがスカーレットからすれば婚約者への裏切りに他ならない。
そんな嫌いな3人が幸せを掴もうとしている。
リラはクリスと仲を深め、
ヴァイオレットはアルファード王子から囲われるようになり、
ノワールは婚約者と領地に戻ってから1週間も連絡がない。


焦ったスカーレットは闇市に赴き怪しげな薬を購入した。『恋の妙薬』と書かれたそれは好きな相手に飲ませれば愛を深められると説明されたが簡潔に言えば媚薬だった。
さすがに何が入っているかも分からないものをクリスに飲ませるのは憚られ、スカーレットはその薬を3本買うと試しに1本を飲みくだした。
1人の自室、小さなビンの中身を空にしたまでは記憶がある。
身体が熱く、処置の方法も知らないので風邪をひいたときのようにベッドに横たわり、そこで意識が途切れた。


次に目を開けたとき、スカーレットは奇妙な感覚に襲われた。
自分の部屋なのに、まるで舞台セットを見ているような
ここでない自分の部屋を知っているような感覚。
数日間既視感のようなその不可思議な感覚を過ごしているうちに記憶が鮮明になっていった。

思い出したのは煉瓦造りとは似ても似つかないコンクリートと鉄筋、ガラスと無骨な機械に埋め尽くされた現代の生活。
そこで生きていたとき趣味にしていた乙女ゲームの記憶。

スカーレットには、スカーレットとして生きてきた確かな実感がある。レヴィアタン家の娘として育てられ一流の家庭教師に教えられてきた。
栄華を歩んでいると思っていた。
しかし″私″は知っている、この先の運命を。


ゲームのスカーレットはこの小瓶、『恋の妙薬』をクリスに盛り、迫るが寸前のところでリラとアルファード王子が助けに入る。結果的にリラがクリスを介抱し2人の仲を深めクリスの女性恐怖症はリラ限定で平気になる。
最後にはリラを暗殺しようとして失敗し聖女を害した罪で斬首刑に処されるのが、このスカーレットの運命だ。


思わず首に手を触れる。
繋がったままの首がドクンドクンと手に脈を伝え、スカーレットは決心した。



(このままでは、いけないわ)


考えを改める時期がきたのだ、そう考えよう。
クリスへの愛に溺れるように生きてきた、けれど結果はどう?
ゲームと同じようにリラとクリスの仲は進んでいて
教会から言い渡された通り私はクリスから″愛されていない″。
そもそも愛されるはずがないのよ、だってクリスはヒロインのために存在しているキャラクターなのだから。

幸せになりたいのなら
愛が欲しいのなら
全てを捨てなくては。


だけどクリス、
私本当にあなたのことが好きだったの
本当に、大好きだったの、クリス。
あなたに愛されたくて仕方がないの。
でも、ダメなのよ。
クリスを愛しているなら、
離れることが彼にとって一番の幸せなの。
私ではクリスを幸せに出来ないのだから。



クリス、


クリス、


クリス、


クリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリスクリス、


愛してる


あなたの空のように青い瞳が好き。
雪のように白い髪も美しい容姿も、
血の滲むような努力を重なるストイックなところも、
結果のためなら重ねた努力も諦める合理的なところも。

あなたが近衛騎士になるために努力してきたところを見てきた、
家族に認められるために学園で常に学年成績上位を維持してきたことも知ってる。
あなたの全てが私にとって宝石のように眩しかった。
あなたの未来を見る真っ直ぐな瞳が大好きだった
たとえ私に向けられていなくても、
あなたが好きだった。



さようなら。






その日から私は生まれ変わった。
まずは両親にこれまでのことを告白し、正式な謝罪に赴くことにした。
父と母は顔を青ざめさせ、なんて馬鹿なことをしたんだと口にした。両親がスカーレットを批判するのは初めてのことだった。
スカーレットはひたすらに謝り2度と愚かなことはしないと誓った。
″私″は、スカーレットの性格は苛烈であったが、両親にまともな良心があったことに感謝した。

クリスに関わることもキッパリと止めた。
遠目からでも様子を見たいと思うが、罪深い自分がしていいことではないだろうと自分を戒めた。
聖女に害を与えることをやめるよう手下達にも言い含み嘘のように平和な生活が訪れた。

手元に残った小瓶が2つ
捨てることも出来ないまま、スカーレットは悩んでいた。

国の勅命なので流石に婚約の解消は出来ない。
けれどそれで本当にクリスは幸せになれるのだろうか。
ゲームのクリスルートではスカーレットが死んだあとヒロインとクリスは結婚をしてハッピーエンドを迎える。
どうにかして私がクリスから離れなければヒロインとの結婚は出来ない。それとも私の役目が終われば教会は婚約解消を受け入れるつもりかしら?しかしそれは貴族院が納得しないだろう。

(…一つだけ確実にクリスを自由に出来る方法がある。)
(私が、クリス以外の男のこどもを孕むこと…)

それならば確実に貴族院はこの婚約を解消させる。私の名誉は地に落ちるし両親にはまた悲しい顔をさせることになる、勘当されるかもしれない。
それでも、それでも、

私は、クリスに幸せになってもらいたい。
これまで私が酷いことをしてきた分まで、どうか。











小瓶を2本小鞄に入れて、スカーレットは決意を固めた。














『真実の水晶でスカーレットさまを見たい?』
『今度は何を企んでいるのか、どうせ碌なことじゃないから先に知っておきたいんだ』





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