【R18】悪役令嬢は婚約者に囲われる。 (婚約者×悪役令嬢 R18短編集)

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【第五章】ヴァン×ルーシィ編

治安の悪い婚約者に捕まったら。

女神様に選ばれた者を聖女という。
聖女は愛されるほど神聖力を高める能力を持ち、
彼女が愛され幸せになることで国が豊かになる。

聖女と心を通わす相手を”攻略対象”といい、
彼らが過ちを犯さないよう”勅命婚約”は結ばれる。
勅命を受けた令嬢たちには3つの決め事がある。


一つ、聖女が出逢い愛を深める運命にある人物達と婚約を結び、彼らが聖女以外に現を抜かさないようお目付け役となること。
二つ、婚約者に愛されてはいけないということ。
三つ、このことは勅命婚約の女性側と女神教大司教と国王だけに共有される秘密であり、彼らの運命が定まっていることは決して明らかとしないこと。






ーーーーーーー


治安の悪い婚約者に捕まったら。
(ヴァン×ルーシィ)


ーーーーーーー










ー…私の婚約者は、浮気性だ。
それに関して何も意見したことはない。
私は痩せぎすでドレスも地味、目は細く吊り上がって狐のような顔立ちはキツい印象を持たせる。
反面、婚約者は濡れた鴉のような髪に彫刻のような顔立ち、鍛えられた肉体をもつ色男だ。
声をかけなくても女は寄ってくるし酷い捨て方をしてもやばい男だと噂されても全てがあいつの妙な色香をより濃くするだけで、沼にハマる女は尽きなかった。

ルーシィ•フェルマーは″変わり者″として社交界では知らない者がいない。流行の一つも取り入れない見窄らしい古いドレスを着て、簡素な化粧で愛想もない。
社交界は社交をするための場だというのに見るからに渋々会に現れては誰とも話をしない。

研究が出来れば、それでいい。
人間付き合いなんて、ただ面倒なだけだ。
あの女も馬鹿だな、あんなクソ男に引っかかって。胸もデカい、肉付きもいい身体、小動物のように大きな瞳をしていて顔だって悪くないだろう。
あんな男に引っ掛からなかったら、婚姻話も引く手数多だっただろうに。

婚約者が浮気性なことは、ルーシィにとって都合が良かった。
性欲も食欲も睡眠欲も、人間の三大欲求が全て知識欲で塗りつぶされたルーシィにとって、婚約者が外で″発散″して、そして自分に何の興味も持たないまま聖女と出逢い″運命″を迎えてくれることが一番楽で確実な″ルート″だった。




その日も、つまらない舞踏会に無理矢理引っ張り出されルーシィは壁の花になっていた。むしろ周りの令嬢を見て比べれば自分など花にも及ばない雑草じゃないかと卑下しながら時間が過ぎるのをひたすら待っていた。
しかしその日は、ルーシィに話しかけてきた男がいた。


「こんばんはお嬢さん、一曲いかがかな?」


そう話しかけてきた男の手を振り払い、鋭い眼光で男を睨みつける。手を払われた男は眼を丸くして″ははは″と薄く笑った。


「驚いた、想像以上だな。まるで野狐だ」
「…わざわざ、口喧嘩をしにきたのかしら」
「まさか。今夜のお相手に捨てられてね、一緒に酒を飲む相手を探しているんだ。」
「…だからって私に絡まないで。″ロードリー侯爵子息″」
「そんなに堅苦しい呼び方しなくてもいいじゃないか、婚約者なんだから。ヴァンと呼んでくれ」


″ふふ″と何が面白いのか眼を細めて笑うこの男がルーシィは苦手だった。自分よりも大きな背丈で見下ろされ、笑っているのに鋭い眼光に晒されると身体が硬直して上手く動けなくなる。
昔からそうだ、だから婚約者と話すときはなるべく眼を合わせないようにして研究資料を持ち歩くようにしていた。
しかしそれが今はない。
あからさまに目線が泳ぐ、まさか舞踏会で婚約者の方から自分に近づいてくるとは思ってもいなかった。自分たちの婚約は王家からの打診で組まれたもので簡単に解消できるようなものではなく、親もヴァン自身も社交界で婚約者に関してこれまで話をすることはなかった。
だから、こんな女がロードリー侯爵家に嫁ぐことを恥じているのだろうと考えてきた。


「また、痩せたかな?」
「私の体躯なんてどうだっていいでしょ」
「良くないさ、支援は届いていないのかな?君が好きに研究出来るように金は積んだはずなのだけどね」


私の研究資金の大元はロードリー侯爵家だ。
王家から打診された勅命に近い無理矢理な婚約だというのにこの男は婚姻準備金だとかなにかに理由をつけては金を送ってくる。自身の婚約者がこんな見窄らしい女なのが耐えられないのだろう。
どうせ、あの五月蝿い両親の懐に入るだけなのにご丁寧なことだ。
ネックレスだの服だの送られてきたときは少しは金で身なりを整えろという意味だと流石に理解したが全て無視して使用人にくれてやった。
この男が選んだものなんて何一つ身に付けたくない。


「相手なら、ほら、あっちで惚けてる女でも連れて行ったらいいじゃない」


少し顔を上げれば″何でヴァンがあんな女と話ししているんだ″とこちらを睨みつけている視線がいくつもあることに気がついた。相手ならごまんといる。
さっさと散ってくれという気持ちで目線も合わせないままルーシィはパタパタと手で追い払う仕草を見せた。


「…君は、私が誰と今夜を共にしても何も思わないのかい?」
「っは、思うわけないじゃない。ただの婚約者なのに」
「………………そう。」
 

頭上から降り注ぐ言葉を鼻で笑い視線を流した瞬間、頬を掴まれた。
片手で両頬が抑えられ力づくで顔を上げられる。
まずいと気がつくには、遅すぎた。
婚約者の顔にはいつものニヤニヤした薄気味悪い笑みはなく、冷たい眼光で私を見下ろしている。

「私が馬鹿だったよ。
君が研究だけに生きたいというから、支援して恋人関係は面倒だというから他でやり過ごしてきたのに。
いつかは君も他のことに関心をもったり、少しは私のことも見てくれるようになるかと思っていたのだけどね。
…本当に、がっかりだ。」
「は、……」

黒い、どろりとした瞳が私を映す。
以前にも、こんな光景を見た気がする。
背中がヒヤリとタイルに冷やされ、逃げ道もないのに爪で壁を引っ掻いた。

「僕が送ったドレスはどうしたのかな?
アクセサリーは?
私と同じ服の色になるように誂えたんだけどな。
今回だって、用意していただろう?
駄目じゃないか、婚約者なのに、まるで自由人みたいな服装していたら」

ヴァンの爪が開いた胸の装飾を引っ掻く、こんな薄い布、簡単な裂かれそうな恐怖と降り注ぐ圧に身を強張らせた。
フラッシュバックのように頭に過ぎる既視感の正体も分からないままルーシィは震える声で″ごめんなさい″と口にした。
途端にヴァンは小さく息を吐くと急にニコリと和かに微笑み頬を離した。


「分かってくれて嬉しいよ、ルーシィ。次はないからね。」


″ふふ″と何が面白いのかわからない笑みをして、笑う婚約者をルーシィは奥歯を震わせながら見上げていた。





ーーーーーーー




「嫌よっ、今日は、嫌、参加しない!しないと言っているでしょう!!?私に触らないで!服を持ってこないで!放っておいてちょうだいっ」


暴れ狂う娘を両親は今回も無理矢理連れ出そうとしていたが、今回ばかりは抵抗が凄まじく使用人たちはなす術がなかった。
いつものように送られてきたロードリー家からの荷物を見た瞬間ルーシィは顔を真っ青にし部屋に引きこもり大好きな研究室にさえ出てこなくなった。
母は怒りを露わにし淑女の役目も果たせないなら研究室を燃やしてやると叫んだがルーシィはそれでも構わないと言う始末。


「散々子供の時に放ってきたくせに今更都合が良いのよクソ野郎!私の研究が金になるって分かった瞬間目の色変えて擦り寄ってきやがって気色悪い!ロードリー家からの金をくすねてんのも知ってるんだからね!放っておいて!私のことは放っておいてよ!」


やがて母と父は諦めたようで扉の向こうは静かになり、使用人達が離れていく足音が聞こえる。
いつもは今度はどんな装飾品を貰えるのだろうと眼をギラつかせていた使用人達も何故か今回は送られてきた服を着せようと躍起になっていた。
まるで先日のヴァンの言葉を知っているように。


コンコン


静かになった部屋にノックの音が響く。


「何よ、私はこんなの着ないし、行かないわよ。あんな男の婚約者って自分で公然するようなもんじゃないこんな服。焼却炉にぶち込んでおいて」


ガチャ


鍵は開けていないはずなのに、扉を開く音がした。
″え?″と振り向いた先に居たのは、



「残念だよルーシィ、約束を破るなんて、悪い子だ。」


















「ロードリー侯爵子息がわざわざエスコートに来てくださったのに支度もしていない娘を出すなんて、恥ずかしくて仕方がないですわ」
「仕方ないだろう、あの娘に言うことを聞かせられるのはヴァン殿だけなのだから」












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