【R18】悪役令嬢は婚約者に囲われる。 (婚約者×悪役令嬢 R18短編集)

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【第三章】アラン×ブランシュ編

引き篭もりの子豚令嬢、麗しの侯爵に婚約破棄を告げる。





私の婚約者は、とても美しい方でした。

長い藤色の髪は艶々して癖がなく白い肌は陶器のよう。
背が高く彫刻像のような容姿だから離れた場所から見たら彼が居るところだけ世界から切り離された絵画のように感じます。
女性的な美しさと男性的な逞しさに惹かれて彼を慕う人はとても多いです。


そんな彼の婚約者が、どうして私なんだろう。

私は背が低く彼の半分ほどの身長しかありません。醜く肥えた″子豚令嬢″と後ろ指を指されてきました。
婚約が結ばれたのは10歳の頃。成長期になっても子どもの頃から変化がない私は彼に相応しくないと社交界でのけ者にされました。
親にも相談出来ず、次第に社交場どころか人と会うのも恐ろしくなり部屋に引き篭もるようになりました。
ご飯を食べている時だけは何も考えなくてよかったから、不安を掻き消すために暴食を続けました。
鏡に映った自分を見て思うのです、なんて醜いんだろう。こんな私が婚約者でアラン様が可哀想と。


いっそのこと、婚約を破棄できたらいいのに…。





「は?婚約を破棄したい?」

学園の隅の庭園、私はスカーレット公爵令嬢に相談することにしました。
小さなお口をあんぐりと開けてスカーレット様は大きく息を吐かれます、まるで信じられないといった顔です。


「アラン様の何が不満なの?正直、貴女には勿体無い相手だと思うわよ?」
「…だからこそ、です」


スカーレット様の仰る通りアラン様は私には過ぎたお相手です。解放出来るのなら解放させてあげるのがせめてもの償いになるのではないでしょうか。


「…貴女、アラン様のこと嫌いなの?」
「…‼︎、滅相もありません‼︎わた、わたしは、こんな私にも優しくしてくれるアラン様を心からお慕いしております…」
「なら、どうして?婚約者であることは好都合じゃない。なんでわざわざ手離すようなことをするの?理解が出来ないわ」
「…だって、私は…この通り醜いですし…」
「だから?」


ケロリとした顔で返されて、思わず言葉が詰まってしまった。
スカーレット様は猫のような大きな瞳をパチクリさせて真っ直ぐ私を見る。


「自分に自信がないなら痩せたらいいじゃない。努力しないと美しくなれないなんて当然のことよ?アラン様がどう思っていようが、私が貴女だったら、好きになってくれるまでアタックするけれど。」


身体の奥を貫かれたような気持ちでした。
曇りのない目で真っ直ぐ見つめられ、スカーレット様の芯の強さを感じました。
私が、痩せて、美しくなろうと努力するなんて、きっとみんなが笑うでしょう。子豚が痩せても美しくはなれないと。
けれど。スカーレット様はきっと笑わない。
アラン様も、きっと応援してくださる。

そうだわ、私これまで何の努力もしたことがないじゃない。
愛される努力も、美しくなる努力もせずに逃げて引き篭もって、ならせめて努力をしてから諦めたい。
痩せて、私が出来る限り努力をして、その上でやっぱり相応しくないと身を引きたい。
だってこんな私のままアラン様とお別れしたく無いから。


「そもそも私たちの婚約って王様からの勅命だから解消できるかなんて分からないけれど…ちょっと、聞いてるの?」


スカーレットは反応が無くなったブランシュの前で手を振るが彼女は何かに集中してるようで上の空のまま返事をしていた。

…まあ、彼女が変わるキッカケになったなら良いわ。
周りに蹴落とされて引き篭もってるこの子のことは気に入らなかったけど、愛される努力をする子は好きよ。
同じ境遇にある勅命婚約の連中は、婚約者を裏切って浮気したり、研究にしか関心がない狂人だったり碌な連中がいないんだもの。


「化粧に興味が沸いたら手紙をよこしなさい、私の使いの者をそちらに行かせてあげる」
「…へ?」
「なによ、私が親切にしたらいけない?」


まさか社交界で悪名高いスカーレットからそんな提案をされると思っていなかったブランシュは、ポカンと口を開けていた。
リスのようなあほヅラに思わず笑ってしまう。
最近のスカーレット様は丸くなったというか、角がなくなった感じがしていたけれどまさか自分を気に掛けてくれるなんて。
涙が滲むブランシュに、スカーレットは慌ててハンカチを差し出す。その行為にブランシュの涙腺は決壊し借りたハンカチを涙で濡らした。


「……スカーレット、またご令嬢を泣かしているのか」


背後から、地を這うような冷たい声が聞こえて思わず息を呑んだ。驚いて涙も止まり顔を上げるとスカーレットは青い顔をして眉を下げ口を震わせていた。


「ちが、違いますのよクリス。ご、誤解ですわ」
「…クリス、様?」
「…ご令嬢、婚約者が申し訳ない。俺の不行き届きだ。」


後ろを見ると銀の髪に冷たい青い瞳をした美しい殿方が私に頭を下げていた。慌ててふるふると頭を振り弁明する。
スカーレット様は自分の相談にのってくれたこと。
親切にされたことに驚いて思わず泣いてしまったこと。
クリス様は初めは疑いの目で私とスカーレット様を今後に見ていたけれど、私が手に持つハンカチを見て納得してくれたようだった。

このかたが、クリス様なのね…。
スカーレット様が長年想いを募らせてきたお相手。
噂ではスカーレット様のことを嫌っていると耳にしたけれど、婚約者と呼ぶくらいだし案外社交界で流れてる噂とは違うのかしら。
それにスカーレット様は青い顔をして俯いていて、噂で聞いていた姿とは随分違うわ。
クリス様に執着して四六時中追い回している、クリス様に関わったらスカーレット様から報復されるなんて恐ろしい噂だったけれど、やっぱり社交界の噂はあてにしてはいけないのね。
だってスカーレット様は私に気を遣ってくれる優しい人だもの。


「早とちりをしてすまなかった、スカーレットに友人が出来たようで嬉しいよ」
「いいえ‼︎と、とんでもないです。わ、私なんかが…」
「ぶ、ブランシュ、またお話ししましょう。今日は私、もう帰るわね」
「あ、スカーレット様!あの、本当にありがとうございました」


クリスとブランシュの話しを遮ったスカーレットは丁寧にカテーシーをしたブランシュに手で挨拶を返すと足早に去っていった。その後ろをクリスが着いていき誰もいなくなった庭園でブランシュは静かにダイエットの決意を固めた。







『なんで俺の目につかない場所に行った?友人なんて、お前に要らないだろ』
『違う、違うのクリス。ごめんなさい…、ブランシュとは何もないから、何もしないで…』



ー…2人で並んで帰るなんて、スカーレット様とクリス様は仲睦まじくて羨ましいな。
そんなことを思っていたブランシュは知らない。
スカーレットが青い顔をしていた理由も、クリスが直ぐに駆けつけた理由も。
震える口を噤んでスカーレットが懇願していたことも。









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