13 / 48
【第三章】アラン×ブランシュ編
引き篭もりの子豚令嬢、麗しの侯爵に婚約破棄を告げる。
私の婚約者は、とても美しい方でした。
長い藤色の髪は艶々して癖がなく白い肌は陶器のよう。
背が高く彫刻像のような容姿だから離れた場所から見たら彼が居るところだけ世界から切り離された絵画のように感じます。
女性的な美しさと男性的な逞しさに惹かれて彼を慕う人はとても多いです。
そんな彼の婚約者が、どうして私なんだろう。
私は背が低く彼の半分ほどの身長しかありません。醜く肥えた″子豚令嬢″と後ろ指を指されてきました。
婚約が結ばれたのは10歳の頃。成長期になっても子どもの頃から変化がない私は彼に相応しくないと社交界でのけ者にされました。
親にも相談出来ず、次第に社交場どころか人と会うのも恐ろしくなり部屋に引き篭もるようになりました。
ご飯を食べている時だけは何も考えなくてよかったから、不安を掻き消すために暴食を続けました。
鏡に映った自分を見て思うのです、なんて醜いんだろう。こんな私が婚約者でアラン様が可哀想と。
いっそのこと、婚約を破棄できたらいいのに…。
「は?婚約を破棄したい?」
学園の隅の庭園、私はスカーレット公爵令嬢に相談することにしました。
小さなお口をあんぐりと開けてスカーレット様は大きく息を吐かれます、まるで信じられないといった顔です。
「アラン様の何が不満なの?正直、貴女には勿体無い相手だと思うわよ?」
「…だからこそ、です」
スカーレット様の仰る通りアラン様は私には過ぎたお相手です。解放出来るのなら解放させてあげるのがせめてもの償いになるのではないでしょうか。
「…貴女、アラン様のこと嫌いなの?」
「…‼︎、滅相もありません‼︎わた、わたしは、こんな私にも優しくしてくれるアラン様を心からお慕いしております…」
「なら、どうして?婚約者であることは好都合じゃない。なんでわざわざ手離すようなことをするの?理解が出来ないわ」
「…だって、私は…この通り醜いですし…」
「だから?」
ケロリとした顔で返されて、思わず言葉が詰まってしまった。
スカーレット様は猫のような大きな瞳をパチクリさせて真っ直ぐ私を見る。
「自分に自信がないなら痩せたらいいじゃない。努力しないと美しくなれないなんて当然のことよ?アラン様がどう思っていようが、私が貴女だったら、好きになってくれるまでアタックするけれど。」
身体の奥を貫かれたような気持ちでした。
曇りのない目で真っ直ぐ見つめられ、スカーレット様の芯の強さを感じました。
私が、痩せて、美しくなろうと努力するなんて、きっとみんなが笑うでしょう。子豚が痩せても美しくはなれないと。
けれど。スカーレット様はきっと笑わない。
アラン様も、きっと応援してくださる。
そうだわ、私これまで何の努力もしたことがないじゃない。
愛される努力も、美しくなる努力もせずに逃げて引き篭もって、ならせめて努力をしてから諦めたい。
痩せて、私が出来る限り努力をして、その上でやっぱり相応しくないと身を引きたい。
だってこんな私のままアラン様とお別れしたく無いから。
「そもそも私たちの婚約って王様からの勅命だから解消できるかなんて分からないけれど…ちょっと、聞いてるの?」
スカーレットは反応が無くなったブランシュの前で手を振るが彼女は何かに集中してるようで上の空のまま返事をしていた。
…まあ、彼女が変わるキッカケになったなら良いわ。
周りに蹴落とされて引き篭もってるこの子のことは気に入らなかったけど、愛される努力をする子は好きよ。
同じ境遇にある勅命婚約の連中は、婚約者を裏切って浮気したり、研究にしか関心がない狂人だったり碌な連中がいないんだもの。
「化粧に興味が沸いたら手紙をよこしなさい、私の使いの者をそちらに行かせてあげる」
「…へ?」
「なによ、私が親切にしたらいけない?」
まさか社交界で悪名高いスカーレットからそんな提案をされると思っていなかったブランシュは、ポカンと口を開けていた。
リスのようなあほヅラに思わず笑ってしまう。
最近のスカーレット様は丸くなったというか、角がなくなった感じがしていたけれどまさか自分を気に掛けてくれるなんて。
涙が滲むブランシュに、スカーレットは慌ててハンカチを差し出す。その行為にブランシュの涙腺は決壊し借りたハンカチを涙で濡らした。
「……スカーレット、またご令嬢を泣かしているのか」
背後から、地を這うような冷たい声が聞こえて思わず息を呑んだ。驚いて涙も止まり顔を上げるとスカーレットは青い顔をして眉を下げ口を震わせていた。
「ちが、違いますのよクリス。ご、誤解ですわ」
「…クリス、様?」
「…ご令嬢、婚約者が申し訳ない。俺の不行き届きだ。」
後ろを見ると銀の髪に冷たい青い瞳をした美しい殿方が私に頭を下げていた。慌ててふるふると頭を振り弁明する。
スカーレット様は自分の相談にのってくれたこと。
親切にされたことに驚いて思わず泣いてしまったこと。
クリス様は初めは疑いの目で私とスカーレット様を今後に見ていたけれど、私が手に持つハンカチを見て納得してくれたようだった。
このかたが、クリス様なのね…。
スカーレット様が長年想いを募らせてきたお相手。
噂ではスカーレット様のことを嫌っていると耳にしたけれど、婚約者と呼ぶくらいだし案外社交界で流れてる噂とは違うのかしら。
それにスカーレット様は青い顔をして俯いていて、噂で聞いていた姿とは随分違うわ。
クリス様に執着して四六時中追い回している、クリス様に関わったらスカーレット様から報復されるなんて恐ろしい噂だったけれど、やっぱり社交界の噂はあてにしてはいけないのね。
だってスカーレット様は私に気を遣ってくれる優しい人だもの。
「早とちりをしてすまなかった、スカーレットに友人が出来たようで嬉しいよ」
「いいえ‼︎と、とんでもないです。わ、私なんかが…」
「ぶ、ブランシュ、またお話ししましょう。今日は私、もう帰るわね」
「あ、スカーレット様!あの、本当にありがとうございました」
クリスとブランシュの話しを遮ったスカーレットは丁寧にカテーシーをしたブランシュに手で挨拶を返すと足早に去っていった。その後ろをクリスが着いていき誰もいなくなった庭園でブランシュは静かにダイエットの決意を固めた。
『なんで俺の目につかない場所に行った?友人なんて、お前に要らないだろ』
『違う、違うのクリス。ごめんなさい…、ブランシュとは何もないから、何もしないで…』
ー…2人で並んで帰るなんて、スカーレット様とクリス様は仲睦まじくて羨ましいな。
そんなことを思っていたブランシュは知らない。
スカーレットが青い顔をしていた理由も、クリスが直ぐに駆けつけた理由も。
震える口を噤んでスカーレットが懇願していたことも。
あなたにおすすめの小説
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!