【完結】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

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【第一章】悪の尋問令嬢、″捨てられ王子″の妻になる。

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やっっっっと、普通の日々が戻ってきましたわ~~~~~~~!!!!!!

 

そう叫び出したい衝動を、私はぐっと腹の底に押し込んだ。
何しろ今の私は、“侯爵令嬢”ではなく、“尋問担当官”でございますもの。
礼儀? 品位? そんなものは牢の外に置いてきましたわ~~~!??

「では、お話はここから。あなたが“聖域”に足を踏み入れようとした理由、教えてくださいまし?」

囁くような声で問いかければ、目の前の男は真っ青になって首を振った。

「ち、違う、俺はただ……! ついっ……!」
「つい、で禁足地に踏み込むなんて、随分と軽い足取りですこと」

私がペンチをくるくると指先で回して見せれば、男の顔面はみるみる蒼白に変わっていく。
あら~~~、良い子ですわね~~~~。
涙腺が緩いタイプ、わたくし、大好きですわ。

パチン、と軽くペンチの音を響かせて笑みを見せれば、ああもう、素敵な絶叫が響き渡った。

 


……ふう。

その後、男は無事に情報を吐き、涙と鼻水でべっしょべしょになって床に崩れ落ちた。
素直な尋問者は大好き。
でも、引っかかるのは──

「また“教会関係”ですのね……」

私は洗いたての手袋をはめ直し、書類を持って自室へと戻った。

 

執務室の机には、最近私のもとに回されてきた“厄介者”たちの尋問記録がずらりと並んでいる。

最初の男は宝石商だったはずなのに、何故か“聖域”に侵入していた。

次の男は信仰深い田舎の小役人。
だが、尋問の最中に「セラフィーナ様……聖女様………」などと口走りはじめ、理性がぽんっと飛んだ。

そしてその次の女。
「足りないんです……あの輝きが……どうしても欲しくて……!」
──と、正気を削るような目で呟いていた。

 

(あの聖女、くっっっそ怪しいですわ~~~!?!??)

というか。
あの女に関わる人間、どいつもこいつも“理性”のしつけができてないにも程がありますわ。
うちの拷問室より教会の方がよっぽど人の心に悪影響を与えてますわよ。なんなの? 催淫香でも焚いてるの?

 

──とはいえ。

(確証がありませんのよね)

証拠がなければ、ただの妄言となんらかわりない。
あくまで冷静に、理性的に、品位と知性で殴るのがバルツァローナ家のお家芸。

「……記録には矛盾点がいくつかありますわね。宝石商の男、あの供述……」

書類の山を前に、私は小さく唸った。
もう、ここ一週間、ずっと気になって夜しか眠れない。

というのに、気づけばまた書類の端を噛んでしまいそうになる。
そういう悪癖はやめなさいって、父に散々注意されたのに。

 

扉の向こうから、かすかにノックの音がした。

「レティシア。午後の約束の時間だよ」

 

その声に、はっと顔を上げる。

午後の約束──そう、私たち夫婦が“仲睦まじく過ごしている”という演出のための、昼下がりの同席時間である。
……ええ、分かっておりますわ。
でも今は、この記録の分析が…。


「レティシア?」
「……ええ、業務は後にしますわ。」

まったく、この男、毒で死にかけたくせに回復が早すぎますわ。

私は書類をとりあえずまとめ、ペンを置いて席を立った。





***





「……身体は、もうよろしいんですの?」

私の問いに、ユリウス殿下は微笑んだ。
少しだけ、目の下に疲れの色を残してはいるけれど、あのときのような危うさはもうないみたい。

「うん。まだ少し辛いけれど、それより――君といたいんだ」

 

…………。

………。

…………は?

「…………貴方、そんな素直な人でしたかしら」

「失礼だね。僕はいつも素直だよ」

 

にっこり。

なんなんですのその笑顔。心臓に悪い。
毒は抜けたけど、色男の過剰供給でまた別の病気にかかりそうですわ。

「…………やめてくださらない?」
「何を?」
「そういう……甘い、歯の浮くようなことを言うのは」
「でも、事実だよ?」
「その顔で言わないでくださいまし!!」

私が顔を赤らめて突っぱねれば、彼はますます楽しげに微笑んでくる。
くっ……この顔面偏差値詐欺師め……!

 

「それよりも――それ、」

不意に、ユリウスの視線が私の手元に落ちた。

机の端に置かれていた尋問記録。
つい癖で手元に残していた書類を、彼は目ざとく見つける。

「……また、教会関係?」
「……少し、考え事をしてましたの。ご安心なさって。不敬なことではありませんわ」

目を合わせるのが怖くて、私はつい視線を逸らした。
なぜならその書類には、“聖女に惹かれ、理性を失った者たち”の記録がぎっしりと並んでいるのだから。

私はまだ、自分の中の確信が固まっていない。
なのに、王家の第二王子にそれを明かすのは、あまりに軽率だ。

「そう……」

ユリウスは、それ以上は追及しなかった。
が──その代わりに。

彼の手に引かれ、その腕に抱き抱えられる。
人のいない密室で距離なく密着して、頭上から甘い声が落ちてきた。


「……君に、今夜、話したいことがあるんだ」

「ひぇっ」

思わず情けない声が漏れた。

何ですの、その、“意味深”な口調。

もしかして。
まさか。
ついに…″白い結婚″を破ろうとなさっていますの…!??
ちょ、ちょっと待って、私にも心の準備というものが――!

「変なこと想像してる?」
「し、してませんわよ!?」
「うん、絶対してる顔だね」
「してないと言っているでしょう!??」

彼がくすくすと笑い、私は顔を真っ赤にして机に拳を突いた。

まったく、この男、少し元気になったらすぐこれですわ!

でも、でも……。

 

(……無理をしていないなら、それでいいですわ)

一瞬だけ、さっき見せた少し影を落とした表情を思い出し、私はほんの少しだけ目を細めた。

この“昼下がりの夫婦時間”は、私たちの関係がどれだけ欺瞞に満ちていても、
ほんの少しだけ、優しい時間であることに変わりはない。
 

「……それで、“話したいこと”って、なんですの?」

私が問うと、ユリウスは小さく微笑んで答えた。

「夜までのお楽しみだよ」

 

くっ……この男……やっぱりタチが悪い……!

そして私は今日もまた、腹黒顔面偏差値詐欺王子に振り回されるのだった。




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