【R18】笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?

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笑顔が柔らかい勇者から逃げた元魔王軍女幹部ですが、なぜ私に執着なさってますの?

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リーゼロッテと勇者レイズは、
パーティを組むにあたって、三つの約束をした。

一つ、人に害を為さないこと。
二つ、魔物だということが人にバレないこと。
三つ、隠し事はしないこと。

それさえ順守すれば魔物であろうとも彼女の安全を保証して、対等なパーティとして私が暮らすに困らない環境を用意すると勇者は言い、
勿論、彼の監視下であり同居生活があるうえでの条件ではあるけれど。金銭に困らない″勇者″に保護され暮らすのは、
少しの閉塞感を代償に、案外楽しい日々を彼女に与えた。






——————





(変な人ね)

人が良くて、常に温和な雰囲気をしていて、困っている人を見過ごせない心優しい勇者様。
戦闘能力も人徳もあって人に慕われていて誰もが彼を褒め称え彼にとって都合が良いことをしてあげようと動くのに、
……この人は、欲がないのかしら。

貴族伯を与えられているのに豪邸を放置して仮住まいで暮らして、飯を用意する彼の手元を見て驚愕した。火で直接焼いて塩をまぶしただけの肉と保存食用かと見紛う程固いパン。
彼が勇者として魔王討伐の旅をしていた時ならば、旅路で調理器具を持ち歩く余裕なんてないだろうと理解できるけど、
まさかそんな食の楽しみを捨て去ったような食事をこれまで続けてきたのかと目を剥いて彼を制止した。

『少し待ってくれればもう少しマシな食事を用意して差し上げますわ』と言った私に、デカい図体をした男がきょとんと子どもみたいに目を丸くしてた光景はきっとしばらく忘れられないだろう。

トマトを潰してコンソメを混ぜスープにしてバターを添える。肉の横に揚げた芋を添えてニンニクを潰して簡単なアイオリソースをかけてパンと一緒に食べられるようにした。
それなら固いパンをスープに浸して食べても美味しいし、
ジャンキーにソースをつけて食べても食べ応えがあるだろうと思う。
そんなデカい図体をして、沢山動いて、まだまだ食べ盛りの男性なんですから、それくらいは食べて当然ですわ。

勇者はしばらく呆然として、ソースが絡んだ芋をゆっくり口に運んだ。
そのまま感想も何も言わず固まる彼に、『お口に合わなければ無理に食べなくてもよろしくてよ』と言おうとしたら、
くしゃりと顔をつぶして『とても、美味しいです』と泣きそうな声で言うものだから返ってこちらが驚いた。


(人の手料理が初めてというのだから、……親はいないのでしょうね)

魔物に親を殺された孤児だったのかもしれない。
だとしたら彼が勇者となり魔物を蹂躙したのは世の摂理なのだろう。

『……これからは、私が食事の用意をしますわ』
『え』
『…勘違いなさらないで。貴方に住む場所を提供してもらっているのだから、私も何かしないと″対等な関係″とは言えないでしょう?…それだけよ』
『……それは、……とても、嬉しいな』


…魔物に食事を用意させなくても、彼なら有名なシェフでも可愛らしい人間の相手でも喜んで毎食美味しいフルコースを用意してくれるだろうに。
私なんかの作った料理で頬を染めて心底幸せそうに笑う勇者が、少し可哀想に思えた。




世界を救った勇者なのに、
恋人も作らず生き残った魔物を律儀に監視して、
そのくせ魔物が悪さをしない限りは安全を保証するなんて、
人間にも魔物にも慈悲深い、変な人。
金はあるのに冒険者をして、
困っている人を見過ごせないから依頼をこなして、
人間の三代欲求である睡眠欲も食欲も制欲も忘れてしまったみたいな可哀想な人。

(きっと、勇者になるために人でなくなるしかなかったのね)

彼の旅がどれほど過酷なものだったか、
想像すれば喉の奥が掠れるような心地になった。





——————



「見てくださいリーゼさん。この店なんてどうでしょうか?」
「…貴方、冒険者のための″加護のアクセサリー″を買うと言っておりましたわよね」
「はい」
「貴方の目には、この高級店のどこが″冒険者″が入る店構えに見えておりますの?」

勇者に連れてこられた宝石店はあからさまに″貴族御用達″と一目で分かる出立ちをしていた。
高価な宝石とドレスが並ぶショーウィンドウに、騎士兵かと見紛う程整列された警備の数。市の近くではなく馬車が停まれる大通り沿いに堂々と鎮座する大きな店舗を前にリーゼロッテは引き返そうと勇者の腕を引こうとする。
が、その手を勇者はエスコートと勘違いしたのか、リーゼロッテの手を曲げた肘に乗せたままにっこりと微笑んで建物に入店した。


「ちょ、っと…!」
「おや、なんと珍しいお客様か。勇者殿ではありませんか」

止めようとしたのも束の間、既に店内の視線は金髪に青い目をした勇者に集中していて店主らしい男が靴音もたてずに勇者の前に駆けつけていた。
流石貴族に物を売る店。店内は目に痛いほどビカビカと輝いてやたらと凝った装飾と照明がアクセサリーを見る前から別世界に来たような錯覚をさせてくれる。
あの石膏に掛けられたネックレスの金額は一体何桁になるのかしら。
身体にものが触れることが怖くて、思わず身を小さくして勇者の後ろに隠れた。

「…こんにちは。…お騒がせしてしまってすみません、彼女にプレゼントを贈りたくて」
「お騒がせだなんてとんでもない。レイズ様の功績は存じておりますから、またお会いできて光栄です。なにか私にお手伝いできることはありますか?」
「……いいえ、今日は少し…ゆっくり見て、僕が選びたいんです」

買い物の最中だろう豪奢なドレスを着た貴婦人達は口元を扇で覆いながら横目で此方を見ている。
勇者が連れた女に抱く感情なんて一つしかないんだろう。
悪意をこれでもかと感じる刺さるような視線の束に、リーゼロッテは戦闘能力がなさそうな人間もこれほど殺気を出せるのねと考えていた。

「ねえ、…場違いよ、私たち。店を変えましょう」
「…何も遠慮することはありませんよ。ほら皆さん気にしていないようですから」

そう言った勇者の言葉に、近くにいた老紳士がにこりと頷く。
そりゃ、貴方相手にはそうでしょうね。
憧れの勇者様にわざわざ邪魔だなんて言う奇特な人、いるわけないじゃない。

「服装を見て分かりませんの?こういうお店には適切なお客様だけが入れるようにドレスコードというものが定められていますのよ。こんな討伐帰りの服なんかで来ていい場所ではございませんの…!」
「…うーん、なら…ついでに服も見繕いましょうか。それならリーゼさんも文句ないですよね?」
「そういうことを言ってんじゃありませんのよ…っ!」

思わず大きな声が出て、慌てて口を塞ぐ。
周りの客からの浴びるような視線に『すみません…』と蚊が鳴くような声で謝罪し、服まで選ぼうとする勇者の腕を引いて買い物客の邪魔にならないよう店の隅に移動した。

「あなた、金銭の感覚が狂っておいでですわ」
「ん?…そう、かな?」
「そうですわ。そうでしかありえませんわ。前々からどこかズレてるとは感じておりましたが、まさかこんなに非常識な方だなんて、わたくし本当に驚きました」
「えっと…、なにか、怒ってますか…?」

怒ってる?別に私が怒ることなんて何もないですわ?
貴方に高級品を買ってもらって冒険者の手が届かない宝石を身につけられるなんて私には得しかありませんもの。


「……こんな、高級品は……、仲間といえど他人に贈るようなものではありませんわ」

恋人でもない相手に贈るなんて、勘違いされたらどうするの。
私だから咎めるだけで済んでいるけれど、
これが他の女性なら″既成事実″として周囲に受け取られて外堀から埋められてお仕舞いよ?


「この店はしっかりとした加護石を扱っているので…、適切かと思ったんですが…」
「品質が良いことは私の素人目でも分かりますわ。でも貴方、少し天然すぎるというか…、この金額のものを女性に贈るのは″特別な気持ち″があると勘違いされても仕方ありませんのよ。」

勇者は分かったような分かっていないような顔をして、うーんと間が開く。
これほど噛み砕いて説明しても伝わりませんの…?
と彼の鈍感さに頭を抱えたくなった。
 

「………私は、勘違いなんて致しませんけど。年長者からの忠告と思って心に留めておいてくださいませ」
「……そう、ですか…。リーゼさんは勘違いしないんですか…?」
「まあ。貴方みたいに鈍感な方の一挙手一投足に振り回させる小娘に、私が見えます?」
「…見え、ませんが………。」
「そうですわよね?分かったなら少し一人にしてくださいます?…貴方とお話ししたい方々の視線が沢山で、少しばかり不愉快ですの」
「え…………」
「折角ですもの。お話をしてらしていかが?少しは女性の扱いを学べると思いますわよ。」


『僕が居るのは、邪魔ですか』と眉を下げて言う彼に少し驚きながらも、リーゼロッテは彼の背中を押した。
離れていれば女性の方から彼に集まるだろう。


「貴方は女性にもおモテになるのだから、もう少し常識を持たないとそのうち痛い目を見ますわ。悪いタラシ男にならないように気をつけたほうがよろしいのではなくて?」

「タラシ…、鈍感………」




まさか自分がそうである自覚をお持ちでないのかしら?
ないのよね。あったらこんな反応しないものね。

私に言われた言葉を反芻しながら呆然とする勇者に、それ以上なんと言えばいいのか分からなかった。
けれど、貴方は自覚すべきですわ。
パーティを組んでいるとはいえ毎日のように茶菓子を用意してわざわざ茶を淹れて話に誘ったり、
なんてことのない日常でも当たり前にレディーファーストをしてきたり、
扉を開けるのも椅子に座るのもさりげなく介助するスマートさは十分人たらしに値すると思うの。

私の髪型を少し変えただけで気がついてくれたり、
服を褒めたり、手料理を美味しいと完食してくれたり、
貴方はただのコミュニケーションのつもりかもしれませんけど、仮に相手が私じゃなかったら何回か事故を起こしていると思いますわよ?


(これほどモテるくせに……。本気になった女性の怖さを、この人はまだ見たことがないのね、可哀想に…)


ずっと魔王討伐の旅を一人でしていたんだから、当然といえば当然か。
親もいない、恋人と呼べる相手もいない。
勇者として役目を完遂して、漸く人らしい人生を歩めるようになったのだものね…。


(……貴方と暮らして、それなりに楽しい思いもさせてもらっていますもの。)

(せめてものお礼に、貴方がなるべく自由に生きられるように、私が教えられることは教えて差し上げても過干渉にはなりませんわよね……?)












——————




僕は、貴女がいればそれで良いのに。
ああ、邪魔だなぁ、この人たち。
香水くさい。花の匂いに鼻が曲がりそうだ。
君の話に興味はないよ。宝石にも、服にも興味はないよ。
邪魔だなぁ、邪魔だなぁ。
…………でも、今彼女のそばに行くと嫌がられるかもしれないから。
リーゼさんが言うように、この女性たちと話をした方がリーゼさんは僕を肯定的に見てくれるんだろうなぁ。





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