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第2章
第9話 飛行訓練
しおりを挟む此処を拠点にしてから一体何日経ったのだろう。
「ふぁ~あぁ。」
目をこすりながら桃林を1つ食べて種を並べる。使える種を何個か尻ポケットに入れて外に出る。
今日も微動だにしない太陽を見上げて体を目一杯伸ばす。
「あ~今日もいい天気だな。」
「キィーーー」
「おいトト!朝からそれは無いだろ。折角爽やかな朝って感じ出てたのに!」
低い姿勢に尻尾をプリプリさせながら、舌をチョロチョロさせておまけにキュルキュルおメメときたか…
「仕方ないなぁ。」
尻ポケに手を突っ込んでヒョイとそこらに投げる。
「ギキャーー!」
あいつ絶対分かってないなぁ。
「トト~、それ食べたらいつものだからな~。」
肺いっぱいに空気を入れて吐き出す。
「よしッ!今日こそは成功させるぞ!いや、出来る!出来る気がする!!」
ツタを強く握りしめて内股に力を込める。
「フゥー、フゥー、」
トトも体や頭を揺らしてやる気満々といったところ。
「落ち着け、トト。まだだ。まだだぞ。」
口に咥えたツタを揺さぶって急かしてくる。
「まだだ。」
トトは明らかに不機嫌な目でこちらを一目すると、グッとお尻を持ち上げた。
「わ!?ちょットト!!」
体は前屈みになり、視界が空から森の木々や地面になり、嫌でも高さが分かる。
「まてまてまてストッぷぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そのままの角度で一気に下へ落下、実際は2メートル程だったろうが、体感は物凄く長く感じた。
翼が開かれ空へ。
森の木々が見下ろせる程の上空までくると、トトは羽搏きをやめて翼で風を掴んだ。
「トト!!ちゃんと指示に従え!落ちて死ぬかと思ったぞ!」
完全に無視。
これでも加減して飛んだんだといった感じか。
だが、ずっと同じところを旋回している。
「いいぞトト!このまま南の森の井戸まで行って見ようぜ!」
右首を手で軽く叩いて合図する。
「キィ!」
緩やかに右旋回して南へと航路を取った。
今日はとてもいい感じだ!このまま井戸まで行って帰ってこられたらライセンス獲得の出来だ!
思えばこの数日間色んな事があったな…困難や苦労の連続だった。
* * *
「よし!飛行訓練だ!」
このシェルターを拠点に据えた次の朝、この計画は始まった。
「トト!飛行訓練するぞ!」
「キュイ?」
まずはトトの上に跨がる。それが案外大変だった。
「コラ!暴れるな!」
「シャーーー!!」
最初トトは背中に乗られるのを嫌ったため、餌に気を引かせてその間にならせる事にした。
次の問題は、
「これ、一体どこに座ればいいんだ?」
だった。
色々な位置に座っては威嚇され、座っては払い落されの連続で、結局肩甲骨の上に座り、首の左右から足を下ろす形になった。
次の課題は俺の耐久力。
こればかりは鍛えるしか無かった。しかしいくら筋トレをしても一向に力が強くならない。
どうやらプレイヤーの筋力や体力は一定にされているようだ。確かに今までかなり過酷な旅路を難なく乗り越えてこられた。これはプレイヤーのステータスが普通の人間よりも高く設定されているからだろう。
仕方なく蔵を付けるなどで補おうとしたが、トトが頑として受け付けず、お蔵入りになった。
何とか乗り込むまでは成功したが、肝心の指示はどうするのか…
俺は頭を抱えながら歩いていると、トトが美味しそうに桃林を木から千切って食べている。
「いいなぁ、お前は何も考えなくてすんで。」
『ねぇーねぇー早く!』
『そんなに急いで危ないわよ!お兄ちゃんを見習いなさい。』
『でも早くしないと席無くなっちゃう!』
『大丈夫よ、女の子なんだからもっとお上品にできないの?』
『見て見てお兄ちゃん!イルカさん飛んだよ!』
『あぁ、凄いジャンプ力だな。』
『どうやって教えてるのかな?みんな息ピッタリに飛んでるよ?』
『あれは、トレーナーが手で合図をして、出来たらご褒美をあげてるんだよ。イルカじゃなくてトレーナーが凄いんだ。』
『でもでも指示を見て動くのはイルカさんでしょ?イルカさんの方が凄いよ!ちゃーんとトレーナーさん達や他のイルカさん達、それに私達の事まで分かってるんだね!!』
『はぁ?そんな訳ないだろ。餌ほしさに芸してるだけだって。ほんと は時々変な事言うよな~。』
『ふん!分かってないのはお兄ちゃん達だもんね!』
「キュイ?キュイ?」
「あぁ、大丈夫だトトごめんな驚かせて。」
今回はイルカショーか。
桃林が1つ転がって足に当たって止まった。
拾い上げると、
「キィ!キィ!」
トトがはしゃいでいる。
「欲しいのか?」
投げてやると綺麗に口でキャッチした。
そうか!
俺は桃林の実を何個か腰に巻いてトトに乗り込んだ。
まずは飛ばずに地面を歩く。
「GO」
で歩き出せば1つ。
「STOP」
で止まれば1つ。
右首を叩いて、右折で1つ。
左首を叩いて、左折で1つ。
桃林を与えた。完璧にできるまでにそうかからなかった。
「トト!お前は凄いぞ!賢いトカゲだ!!」
「キィ!」
首を撫でて褒めるととても嬉しそうだ。
あとは飛んだ際の耐久力か…
「キュイ?」
「ん?どうした?トト。おい!何してるんだ!待て!STOPだトト!STOP!」
トトは両翼を広げると、地面から一気に飛び上がった!
何度も声を上げたが、両翼の羽ばたく音にかき消され届かない。
一体どうしたというんだ!俺を乗せた状態で指示を無視する事は初めてだった。
俺は必死に首に手を回しでしがみついていたが、何の凹凸もない滑らかな首にしがみ付いているのは困難だ。
森の木々の背丈を超えたくらいで、俺の腕力は力尽き、空中へと放り出されてしまった。
気づくと俺は地面に寝転がっていた。
まさか死んだのか!?
飛び上がるようにして立ち上がると、何か重いものが背中にのし掛かってきた!
「キュ~イ!キュ~イ!」
トト?そうか、トトが受け止めてくれたのか。
ん?
足に何かが当たって下を見ると、俺の周囲一面が薄桃色になっている。
「トトがしたのか?」
「キィ!」
桃林の木は朝トトが全部食べたはず。
「掻き集めてきてくれたのか?」
「キィ!」
そういえば頭痛でうずくまった時、足下に桃林が転がってきた事があったっけ…
今回急に飛び上がったのは俺が悩んでいたのが通じたから?
後ろにいるトトと向き合うと顔に頭を擦り寄せてくる。
「そうか…ゴメンな。トトが出来ないんじゃないんだ。俺が出来ないからダメなんだよ。トトは何も心配しなくていいからな。」
「キュイ?」
「ん?」
トトは擦り寄るのをやめて、茂みの中へ入って行った。
出てくると、一本の頑丈なツタを咥えている。
それを徐ろに俺に渡してきた。
「キィ!」
「ん?乗れって言うのか?」
ツタを持ってトトの背中に乗ると、
ガブリッ!
トトはツタの丁度真ん中辺りを咥えると、そのまま翼を広げ、飛び上がった。
驚いたが、ツタが手綱のような働きをしてさっきよりもバランスが取りやすい!
俺の重心が安定しているからか、トトも飛びやすいようだ。
「凄いぞトト!」
さっきよりも高い高度まできた時、羽搏きをやめて大きく翼を広げ緩やかな旋回を始めた。
「凄い!凄いぞトト!!俺、間違ってた。俺だけじゃここまで来れなかった。トトのおかげだ、ありがとう。」
言葉が分からなかったからか、トトは何の反応も示さなかった。
ただ、真っ直ぐに前を見ていた。
何処までも何処までも続く大地と空。
それはとても美しくて、自分の事とか、鳥籠の事とか、憎しみや復讐の事なんかで頭が一杯だった筈の俺はその時、消えていた。
「ありがとう。ありがとうトト。」
明るく美しい世界がグニャリと曲がった。
すぐに手で拭おうとすると、
「キュイ!」
トトは一声鳴いて翼をたたむと、地面へ一気に急降下した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キューーーーーイ!!」
涙の雫だけ置いて俺達はピンクの絨毯にダイブした。
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