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籠の外2
しおりを挟む扉の向こうに見えたのは狼やドラゴン、ましてや兎でも無い・・・人であった。
「おや、見たところ揃って腰を抜かされているようですが、どうされたのでしょうか?私めに何か粗相がございましたでしょうか?」
扉の外で男は高級そうな漆黒のスーツの袖や裾を見ると、シミ一つない純白の手袋を付けた手で胸ポケットから手鏡を取り出すと、真っ赤なネクタイや細いチェーンで繋がったフレームの細いメガネ、髪一本乱れる事無くきっちり整えられた七三の黒髪と順に乱れが無いか確認し終わると、最後に汚れ一つ無くピカピカに磨かれた靴を少し傾けて、こちらに向き直り一歩部屋の中へと踏み進んだ。
男は部屋に入ると美しい所作で一礼をした。それを見て何故か居た堪れなくない気持ちになって、隣で未だに警戒しているシュガーの頭共々下げた。
姿勢を戻した男を見ると、とても身長が高い事に気づいた。
(オッサンも結構デカかったけど、この人はそれ以上かもしれない)
そんな事を考えていると、男が徐ろに口を開いた。
「Clearおめでとうございます。お疲れの事とは思いますが、皆様お待ちでございます。ご案内させて頂きますので、ホールまでご移動お願い致します。」
男は銀色の懐中時計を確認しカチリと音を立てて閉じるとそれを懐に仕舞い、行先の方向を腕を広げて指し示した。
俺とシュガーは向かい合うと目と目で会話が出来るような一体感を感じた。
(コウジ、油断するな。オイラはまだコイツを信用できねー)
(分かるがここに居ても始まらない。取り敢えずついて行ってみよう)
「分かった、ついて行くよ」
貴重な人間に会えたんだ、この機会を出来るだけ有効に使いたい。言葉が通じるというだけでどれ程の好機かという事を今まで痛いくらい学んできたんだ。必ずものにする!!
男の少し離れた後ろをついて俺とシュガーは歩いた。部屋を出ると長い廊下をひたすら歩いた。灰色のレンガ造りの廊下には窓一つ無く、等間隔で両サイドに蝋燭が灯され、天井からシャンデリアが吊るされており、それらの明かりが暗い廊下をぼんやりと照らしだす。床の真ん中に轢かれた真っ赤なカーペットを踏んで俺達はひたすらに歩いた――。
※ ※ ※
あれからどれ程歩いただろうか・・・
歩いても歩いても同じ廊下が続くばかり。
よく考えたら窓やドアが一つもない無い廊下などおかしいのではないか?
この男も優しそうな笑顔をしているが、貼り付けた仮面のように全く表情が変化しない。この建物も男も品はあるが何処か薄っぺらい。
何だか胡散臭いな、隙など無いがここは距離をとって離れた方がいいかもしれない。
そう思った時だった、男が急に足を止めたのは。
余りの急な停止に俺は危うく男の背にぶつかりかけた。
「うわあ!すまねー、オイラよそ見してた」
どうやらシュガーは止まり損ねたようだ。男の足にぶつかった頭を罰が悪そうにかいている。
すると男は変わらずあの表情で微笑みかけ、シュガーの乱れた毛並みを撫で整えた。
「いいえ、声をお掛けしなかった私めの不手際です。申し訳ございませんシュガー様」
「えっ、何で」
「何故シュガーの名前を知っている!シュガー離れろ!コイツ何か変だ!」
俺の声を聞いてシュガーは床を蹴ると、ひとっ飛びで男の手の下から俺の居る後方へ距離をとった。
すると男は、逆上するとも動揺するでも無く、空いた右手を寂しそうに懐へ持っていくと懐中時計を開いた。
「丁度お時間のようですね、ではどうぞ」
懐中時計を閉じる音と同時に男の隣に大きな扉が現れた。男がエスコートするように頭を下げて扉の中へ入るよう促すと、木製の細かな装飾で彩られた大きな扉の真ん中にすっと光のラインが走った。それはどんどん広がる。あっという間に両の扉はいっぱいまで開かれ、辺り一面が真っ白になった。俺は余りの眩しさに両手をかざしたが、それでも目が開けない程の光で、俺は只その場でシュガーの名を叫ぶ他何も出来なかった。
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