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「試練と衝突」
しおりを挟む地下広場の奥、油と火薬の匂いが漂う部屋に、簡素な地図が貼られていた。
ユエンはそれを指し示しながら、低く言った。
「俺たちは“火薬門”を破るための情報を探している。
市内に残っている帝国軍の補給倉庫、その正確な配置図と護衛の動向。……手に入れてこい」
リィナは地図を見つめた。
目的地は王都中央図書院――かつて彼女自身が過ごした場所だった。
「情報は、書庫の地下にあると睨んでいる。侵入して、写しを持ち帰れ。衛兵に見つかれば即死だ」
「わかった」
そう答えたとき、自分がこんな任務を“引き受けられる”ようになっていることに、リィナ自身が驚いた。
夜半、彼女はひとりで旧市街を抜け、王立書院跡へ向かった。
かつての王族の学び舎は、今や帝国の監視施設として転用されている。
その中庭で、彼女は“それ”と出会った。
黒ずくめの鎧、無機質な仮面。
異様に長い腕に、光を吸い込む双剣。
――〈狩猟執行官〉。
帝国が反乱分子の討伐に送り出す、無慈悲な処刑者。人間ではない、動き。
リィナは身を隠そうとしたが、空気がわずかに動いたその瞬間、“それ”は動いた。
「……視認、対象確認。帝国指定反逆者:アゼレイド系統……処理開始」
その声は、金属音にも似た音階で、感情の欠片もなかった。
逃げる間もなく、斬撃が空を裂く。
リィナは咄嗟に魔導書を開き、ページに触れる。
――「障壁術式・《銀環の守り》!」
光が弾け、斬撃を受け止める。だが足元が崩れ、リィナの身体が後方に吹き飛ぶ。
「くっ……っ!」
呼吸が苦しい。傷だらけの手で壁を掴み、立ち上がる。
そのとき、背後に“火”が走った。
爆裂術の閃光。
“それ”の動きが止まる。火と煙の中に立っていたのは――
「遅いぞ、リィナ」
ユエンだった。
黒翼の部隊が、路地裏から一斉に襲撃をかけていた。
「何を――」
「試すためだ。お前が本当に“前に出る”意思を持ってるのか、見極めたかった」
「そんな……命を賭けて?」
「それが革命だ」
ユエンの瞳は、かつての優しい少年のそれではなかった。
だが――同じ空を見ていたことだけは、確かだった。
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