おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

彼を好きになれるだろうか

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 大学の敷地内で何度か高村さんを見かけた。会うたびに綺麗な女の人といたけど、同じ人だったり違う人だったり。田中君の言うとおり恋多き男性らしい。
 僕自身は大したことではないと思っているのに、体は何故か胃の辺りから熱いものが込み上げてくる。見るなと言われてたのに凝視して、自覚はないが眉間に皺が寄っているらしい。まるで〈好き〉みたいな状態だ。
 高村さんも僕が見てる事に気付くと向こうも目が離せなくなるのかこっちを見てくるけど、その目は、邪魔だあっちにいけ、と語っている。一緒にいる女の人が

「あら、いいの?あなたの大事な人が睨んでるじゃないの」

と言ってフフンと笑うと、

「いいのいいの。俺はチカちゃんみたいにグラマーな美人が好きなの」

と頬にチュッとキスをした。



 そうは言っていたが、一旦僕の発情期ヒートが始まると、高村さんはいそいそと僕の部屋にやってきた。前回のあの快感が忘れられないらしい。そして、運命の相手が見つかった Ωオメガは体がその人しか受け付けなくなるから、僕も高村さんに相手をしてもらわないと困る。
 そうしてまたもや、僕の理性は快楽で溶けてしまった。また前と同じように噛んでと懇願して首をすりつけると、前回で懲りた高村さんは幅の広い丈夫な皮の首輪を僕に取り付けた。

「Ωの首噛み防止の首輪だ。ちょっとやそっとじゃ外れないぜ。これで気にせずヤレるな」
「嫌だぁ。外して、いやぁ、あぁ、いや、いや」

 僕は狂ったように首を振り、外そうとして喉を掻きむしった。でも専用の首輪とあって、丈夫で全く取れる気配がない。
 ヒートのあいだ何度も爪を立てていたから、正気に戻った時には爪がぼろぼろになっていた。何ヶ所も剥がれかけていて、赤く腫れた肉との割れ目からは血が流れている。
 誰もいなくなった部屋で救急箱を開いて手当をした。



「酷い。あんまりだ」
「いくらこっちがΩだからって、運命の相手なんだ。もっと大事にしろよ」

 友達の安永君と田中君が、僕の絆創膏だらけの指を見て憤慨した。本当は腕と首筋の方にも引っ掻き傷があったんだけど、ハイネックを着ているからそっちは見つかっていない。

「相手と出逢えるのは奇跡なんだよ、そのありがたみがなんであいつには分かんないんだ」
「 αアルファは他にいっぱいいるじゃねーか。何で、よりにもよってあんなサイテーな男が相手なんだよ、ちくしょう」
「心配してくれてありがとう。でも発情期ヒートのあいだは僕も頭が飛んでて言う事聞けなくなってるから、しょうがないんだ」
「またそうやってかばう!」
「お前が優し過ぎるからアイツがつけあがるんだ」

 安永くんは βベータで、田中くんはΩだ。その二人がヒエラルキーの上位者であるαに向かって酷い言葉を吐く。それだけ僕を心配してくれてるんだと思うと嬉しい。藤代先輩といい友達といい、僕の周りはみな優しくていい人ばっかりだ。
 しかし実際のところ、僕の方は〈運命の番〉に出会いたいと望んでいたが、高村さんは望んでいなかったのだ。いきなり会った全く好みじゃないやつ、それも男なんかを好きになれ、大事にしろという方がおかしい。彼は自分のペースを崩していないだけなんだ。
 じゃあ僕はどうなんだろう。僕は、彼を好きになれるだろうか……
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