おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

〈 side.藤代 〉運命の鎖~私の番

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〈 side.藤代 運命の鎖~私のつがい 〉

 仰向けに寝かせた彼をギュッと抱きしめ、顔中にキスをした。体を抱き込み、後頭部を撫でる。熱が高く朦朧としているようだが、熱い体で嬉しそうにクスクス笑っている。忍び笑いが可愛らしい。

「ふふふ。せんぱい、くすぐったい」
「ふふ。くすぐったいの?晶馬、可愛い」
「ぼくかわいくないよ。ぶさいくだよ。できそこないなんだって」

 出来損ない。
 彼の兄姉は美しいαとΩだと聞くが、家族仲は良好らしい。では恐らく幼少時代に彼らの取り巻きに言われた言葉であろう。彼らは、家族といえど自分より格下だと見做みなした者が大切にされていることに嫉妬したのだ。ただのやっかみに傷ついた幼少の彼を思うと心が痛んだ。

「せんぱいもきれいなひとがいい?ぼくいや?」
「晶馬は不細工じゃないよ。凄く可愛い。ああ、どうしてこんなに可愛いんだろう。僕の晶馬くんが一番可愛い。晶馬、僕の晶馬、可愛い。大好き。愛してる」

 そう言った時の彼の顔といったら!驚いた顔で瞳を輝かせて勢いこんで聞いてきた。

「せんぱいぼくのことすきなの?ほんと?ほんとにほんと?どのくらいすき?ちょびっとすき?いっぱいすき?」
「ふふふ。ビックリし過ぎてお目目が落ちそうだよ?好きだからつがいにしたいんだ。そうだね、晶馬くんが僕のこと好きなのよりいっぱい好き」
「ぼくのすきはすごくいっぱいだよ?それよりもいっぱいってすごくすごくいっぱいだよ」
「そんなにいっぱい僕のこと好きなの?ふふ、嬉しい。でも絶対晶馬くんの好きよりいっぱいだよ。僕は頑固なんだ、これだけは譲れないな」

 思いもかけず彼からの告白を受ける。好意は持ってくれていると思っていたが、かなり慕われていたようだ。こんなことなら成長を見守らず、高村くんに会う前につがいにしておけば良かった……苦い後悔が胸に広がる。

 さて、彼の体はどこまで僕を受け入れるだろうか。
 頭を撫でていた手をうなじを撫でながら肩甲骨を辿って背中に下ろすと、彼は軽くのけぞった。唇であごを食みながら下り、舌先で乳首をペロリとひと舐めすると、ブルリと彼が身震いした。

「?」

 違和感を感じたらしい。快感だといいのだが多分違う。
 彼の熱く張り詰めた陰茎をそっと握ってみる。

「きゃっ」

 驚いて手を払いのけられてしまった。羞恥からではない。やはり体が拒絶しているのだ。

「??」
「……。晶馬くん、この軟膏を使うね。痛みが治まる作用と筋肉が柔らかくなる作用の成分が入ってる。だから切れないとは思うけど、それでも体は拒絶反応が出てすごく痛いよ。ごめん」

 予め持ってきた薬のふたを開けて、中身を彼に見せた。それを人差し指と中指にたっぷりすくい、彼の分身と後ろの穴にたっぷりと塗り込めようとした。でもさっきまで欲しい欲しいと収縮を繰り返していた後ろはしっかりと閉じていて、まるで“おまえじゃない”と言わんばかりに緩まない。

「どうして?なんで?ぼくのからだへん。せんぱいぃ」

「泣かないで。君が悪いんじゃないよ。できるだけそっとするからね」

 そう言って襞の周りに優しく薬を塗っていた中指をツプリと差し入れた。

「うわあぁぁあ」

 軟膏を塗ったにも拘らず、強い締め付けを感じる。彼は体中に鳥肌を立て、ガタガタ震えてのけ反った。思ったよりも拒絶反応が酷い。手早く行ったほうがよさそうだ。
 そのままぐりぐりと中をかき回し、抜き差しを繰り返して中指も揃えて入れた。
 その頃には僕の胸を手で押し返し、違うと首を振るようになり、三本目が入るころにはパニックになっていて、違う、駄目、嫌を繰り返していた。
 三本をバラバラに動かして広げ、ある程度ほぐしてそっと抜くと、彼はホッとして力を抜いた。その瞬間を見計らって一気に剛直を突き入れた。

「っぎ、いああぁぁぁあ!!!」

 激痛から上に逃げようとしたので体をがっちりと抑えこんだ。そのままめりめりと侵入させる。

「いた、いたいぃぃ。だめ、ちがう、だめなの、たすけて、だれかぁ」

 腕を突っ張り、かかとを蹴り、足をばたつかせて抵抗されるけど、さらに深く押し入った。彼は泣きじゃくって抵抗している。体を捻り、逃げの体勢をとって必死に助けを求めている。

「いや、いや!だめ!いたい!だれか、だれかぁ!たすけて、たすけて!!」

こちらに背を向けて逃げようとするのを、覆いかぶさって拘束し、耳元に口をつける。

「誰を呼んでいる?」

 すべての階級を支配する圧倒的支配者、稀少種の声で問う。

「晶馬、誰に助けて欲しい?お前が求める者は誰だ」

 さあ答えよ!
 お前が真に求める者は誰だ、お前自身がお前の番と認める者は一体誰だ!

「……んぱい、せんぱい、せんぱい!たすけてせんぱい!せんぱい!!」
「晶馬、こっちを見なさい」

 あごを掴んで背けていた顔を振り向かせた。

「あ…」
「君を抱いてるのは私だよ」
「あ……せんぱい……せんぱい」
「君のつがいは私だ。私を受け入れなさい」

 彼はパニックをおこして誰に何をされているのか分からなくなっていたのだ。抱いているのが私だと分かると、心底安心した顔になった。
 この顔が答えだ。晶馬は私を求めた。そして私を番だと認めたのだ。
 私と彼は、番の鎖で繋がれた!

「もうお前は私のものだよ。誰にも渡さない。たとえそれが運命であろうと」

 私はそのまま数度揺さぶり最後にグッと腰を推し進め、深いところで吐精した。そして、互いの興奮の余波を感じながら、うなじに血が出るほど深く噛みついた。

「ぎぃあぁぁぁぁ!」

 その瞬間、彼は大きく痙攣し、そのまま糸の切れた人形のように脱力して、

 絶命した───



 やはり。
 彼の体は番《つがい》でない者の精子を異物としてとらえ、アナフィラキシーショックを起こしたのだ。運命はどうしてもこの子を手放したくないらしい。
 だがこれは私の伴侶だ。お前の獲物ではない。
 胎内から自身を取り出し、すぐに心臓マッサージを始めた。

「晶馬、戻ってこい。お前のつがいが呼んでいるぞ」

 ヒエラルキーの最上位種である稀少種の命令だ。聞かないわけにはいくまい?

「晶馬、私をおいて逝くことは許さない」

 グッ、グッと胸を押し、鼻を塞いで口から息を吹き込む。
 お前の胎内にあるソレは異物ではない。お前の番の子種だ。お前が産む私の子供の種、愛された証だ。
 今、彼の中では奈落の底に引き込もうとする運命の鎖と、上に引き上げようとする番の鎖で綱引きが行われている。だが稀少種の私との絆の方が、運命の鎖よりも堅固で強い。

「運命ごときが私に逆らうな!さあ、晶馬、戻ってこい!」

 パキーン……

 晶馬の口に何度目かの人工呼吸を行った時、ふいに脳裏に鎖が切れたイメージが広がった。晶馬のまぶたがピクリと動き、大きく息を吐きだした。文字通り、息を吹き返したのだ。

「あ……先輩……」

 おかえり、晶馬。私のつがい
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