おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

私の番

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 夢を見ていた。
 暗く深い水の底に沈んでいく夢だ。浮き上がりたいのに足に鎖が絡まって重い。取ろうとしても取れず、それどころか引っ張られて沈んでいく。

「だれか……」

 ゴポポポ……

 助けを呼ぶ声は気泡となり遥か上方へと昇っていった。焦ってもがいても水面《みなも》は穏やかに揺れるばかりだった。

「だれか助けて……先輩……先輩……」

 ゴポポ……ゴポポポ……

……ってこい……

 ふいに何か聞こえた。あれは……先輩の声だ……

……が……呼んでいるぞ……

晶馬……つがいの私を……逝くことは許さない……

 先輩が僕を呼んでる。
 先輩が。僕の番が、呼んでいる。
 帰らなくては!

 バキッ
 バキ、バキバキバキン……

 急に鎖が外れ、体が軽くなって浮上していった。水面みなもが光り輝いて眩しい。その向こうに、夜の月のような金色に光る輝きが見えた。あれは僕の大好きな人の───

 水面から顔を出し、大きく呼吸したところで、意識が戻った。



「あ……先輩……」

 最初に見えたのは上から覗き込む、すこし汗をかいた先輩の顔だった。

「おはよう」
「おはよう、ございます……」

 あれ?僕何してたっけ?
 え?
 何で先輩がいるの?うわっ、なんで僕、裸?え?なんで先輩も裸?
 え?え?ちょっと待って、なにこれどうなってんの?

 僕が訳が分からずアワアワしていたら、先輩がドサッと隣に寝転んだ。

「疲れた。慣れないことはするもんじゃないね」
「え?」
「命令なんて柄じゃないんだ」
「?」
「ふふ。日野くんがつがいになってくれて良かったなって話」
「えっ!?」

つがい?つがいって、番?お嫁さんの事?僕がってそれどういうこと!?

「覚えてないの?僕、日野くんに番になってってお願いしたよ。大事にするから首噛ませてって」

先輩が悲しそうな顔で言った。

 え!?何?
 待って、思い出すからちょっと待って!
 えっと、僕ヒートが始まってしまって苦しくて先輩を呼んで……そうだ、呼んでしまったんだ……で、出せない苦しいって言ったら先輩が抱いてくれるってことになっ、だ、だいっ、だいっ、わー!!

 なんてことを!!!

 思い出した僕は先輩をまともに見れなくなり、横を向いて手で顔を隠した。

 そ、それからどうしたんだっけ、えっと、えっと、先輩じゃなきゃ嫌だと言って、先輩だけの僕って言って、首噛んでって言って、先輩の番になりたいって、番にしてって、つがいに、って……
 言ってるー!!!言ってるよ、僕なに言ってくれちゃってんのー!!!

 いやいやまさか。あれって夢でしょ、そんな都合の良いこと先輩が言う訳ないじゃん。
 ふわふわして夢を見てたんだよ。そうだ、夢と現実がごっちゃになってるだけだよ。そうだよそう

「ねえ、晶馬」

だよ、って……え?先輩が 僕を "晶馬" って呼んだ……

「腰、大丈夫?無理やりこじ開けたから痛くない?」

 ギ、ギギギ……

 油の切れたロボットの動きで、先輩を振り返る。

 イマ、ナント オッシャイマシタ?
 アレハ ユメデショ、ソウデショ?

 先輩は更ににっこり笑って、

「あ、子種ももったいないけど出しとこうか。まだするけどお腹タプタプになったら大変だものね」

 いやあぁぁぁぁ夢じゃないー!しかも何か怖いこと言ったー!!

「プーッ、あーっはっはっは。可愛い、晶馬くん。ほんっと可愛いー!」

 先輩はいきなり僕をぎゅうぅっと抱きしめてきて、僕は涙目で揺さぶられる。

「ちゃんと憶えてるみたいだね、良かった。痛かっただろう?ごめんね」
「そんな、とんでもない。僕なんかの相手をしてくれてありがとうございます。でもまさか首を噛むなんて」
「こら、僕なんかって言っちゃ駄目。いくら君自身でも、僕の大事な人を貶める言い方は許さないよ。君は僕の宝物なんだから」
「僕が先輩の宝物?」
「そうだよ。僕の大切な宝物、大好きな番《つがい》だよ。マイスイートハニー。愛してる」

 うわ、気障《きざ》だ!甘い言葉なんて掛けられたことがない僕はいっぺんで真っ赤になった。先輩の蕩けるような甘い顔はインパクトが強すぎる。まともに見れないのに抱きしめられてて逃げ場がなかったので、先輩の懐に飛び込んだ。それでも心臓がバクバク言ってるのはきっとバレているだろう。
 先輩は隠れたつもりで懐で丸くなった僕の頭頂にチュッとキスをした。


「あ……先輩、でも僕は……」
「高村くんのこと?彼との縁は切れたよ。繋がってた運命の番の鎖を切ったんだ。君も自由になれたけど、彼ももう運命に振り回されなくていいんだ。彼ももう好きな女の子を選べるんだよ。良かったね」
「えっ、運命の番って解消できるの!?知らなかった……。でも、そうか、そうなんだ。僕、運命の相手が僕で高村さんに悪かったなってずっと思ってたんです。そっか、良かった。先輩、切ってくださってありがとうございました」
「ううん、頑張ったのは晶馬くんだよ。よく耐えたね。そして僕を呼んでくれてありがとう。僕は君の番になれて嬉しい」
「先輩……先輩、先輩、」

 ぐわっといきなり感情が高まって、言葉が続かなかった。
 先輩が助けてくれなかったら僕はまだ苦しんでいた。あんなに苦しかったのが嘘みたいに楽になっている。そのう え更に僕を番にしてくれて、宝物だって言ってもらって。
今、僕は先輩の与えてくれる大きな愛に包まれている。こんなに幸せなことがあっていいのだろうか。凄く感謝している。でも感謝だけじゃ足りない。好きでも尊敬でも全然足りない。
 僕は、僕は、僕は……。

「ぼく、」

 決壊が壊れたように思いが溢れだして、

「ぼく、好きです、先輩。あなたが大好きです。好きなんです。好きすぎて、どうにかなりそう。だからもう一度ちゃんと言いたい。お願いします、僕をあなたの番《つがい》にして下さい」

 また告白をしてしまった。
 それを聞いた先輩がポカンてなってる。うわわ、そうだよね。僕は何を言ってるんだ。もう番になったっていうのに。穴があったら入りたい!でも先輩はポカンのあと、すっごく嬉しそうな顔になった。

「嬉しい。ちゃんと自分の意志で言ってくれるんだ。本当に僕のこと思ってくれてるんだね」
「当たり前ですよ。ずっと大好きだったんです。もう隠しません」
「ああ!晶馬くん、ほんと?本当に好き?嬉しい!ほんとに僕のつがいになってくれるんだ!」
「っ、はい、よろしくお願いします……」
「嬉しい……」

 恥ずかしかったけど、こんなに喜んでくれるなら言ってよかった。

「ねえ、晶馬って呼んでいい?僕のことは李玖りくって呼んで」
「ええっ、無理です、そんな恐れ多い……」
「よ、ん、で。お願い、晶馬」
「ううっ」

このパターン知ってる。呼ばないと許してもらえないやつだ。

「り、李玖…………先輩っ」
「ええーっ」
「やっぱ無理っ」
「あははは。ま、お互い徐々にね」

何この羞恥プレイ……
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