おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

変化した匂い

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「ねえ、晶馬くん、もう体は辛くないよね。頭痛や吐き気も大丈夫?」

 そういえば、あれ程酷かった吐き気も発熱もなくなっていた。思考も霧が晴れてさっぱりしている。強いて言えば漁火のような微かな熱が、体の奥にくすぶってるかな。この熱は先輩の……わわ、だめだ、考えちゃダメ!

「だ、大丈夫です。先輩にもらったお陰で良くなりました!」
「ん?晶馬くん、僕、君に何かあげたかなあ。教えて。一体何をあげたって?」

 何って、ナニだよ……だから……いま僕の中にあるこの熱……あれだよ……

「なになにー」

 僕は真っ赤になった。
 いやだー、この人無理やり言わせようとしてる!エロおやじだ!!

「あはははは。なんでそんなに可愛いの。僕、ドSに目覚めそうだよ」

 熟したトマトのように赤くなった顔に、キスの嵐が降ってきた。からかわれてる……
 先輩は僕をゆるく抱きしめて息を大きく吸い込んだ。

「晶馬くん、君の匂いが変わったよ。今までと違う。僕と出逢った頃の爽やかな匂いに、甘い果実の匂いが混じったような……とてもいい匂いがする……ずっと嗅いでいたい……」
「そうなんですか?」

 そう言われて腕の匂いを嗅いでみたけど自分では分からなかった。でも先輩の匂いは分かる。凄くいい匂いがしてる。
 李玖先輩が僕を囲って上から髪に顔を埋めているので、身動きの取れない僕は、目の前にある胸元の匂いを大きく吸い込む。
 ああ、いい匂い……うっとりする……

「……ねえ、もう一度抱いていい?今度はちゃんと抱きたい。たまらない。凄く抱きたい」

 しばらくお互いの匂いに酔いしれていると、耳のすぐそばで甘い声が聞こえ、背筋にゾクゾクと痺れが走った。

「……っ、はい。……抱いてください」

 恥ずかしかったけど、僕も凄くたまらない気持ちになっていた。
 体も、心も高ぶっている。これがフェロモンなのかぁ。高村さんのはねっとりと絡みつくように濃厚で、あまりの甘ったるさにすぐに酔って朦朧となったので分からなかったな。

 先輩は僕にそっと唇を合わせるだけのキスをして、すぐに離して僕の様子をうかがうように目を合わせた。キス……先輩とのキスだ……夢みたい。
 僕がうっとりとしていると、先輩が蕩けるように笑った。

「先輩……」

 甘えるような声が出たら顔が近づいてきてまた唇が重なった。先輩の唇は柔らかいのに弾力があった。唇が唇で食まれる。挟まれ、引っ張られ、舌が唇のあわいを開いて内側の粘膜を舐める。キスに慣れてない僕は、そのたびに先輩の腕のなかでびく、びくっと身じろぎした。先輩は、不慣れな僕に合わせてゆっくりと、丁寧に事を進めてくれた。
 舌が歯そっと列を割り、舌が捕らえられる。先輩の舌は弾力があって力強かった。歯の裏を撫で、上顎をくすぐって僕の舌と絡ませる。

「んぅ、ん……」

 大きな掌が後頭部に添えられ。角度を変えながら深く貪られる。そうしてしばらくして、ようやく糸を引いて口から出て行った。僕はキスだけで息が上がってクラクラしていた。
 繋がった唾液の糸を舌で舐め取る先輩の色気と、おあずけされてる獲物を狙う、獰猛な眼差しにコク、と唾を飲み込む。
 先輩の唇は耳朶を甘噛みし、そのまま噛み跡のあるうなじを舐め、喰み、吸った。

「痛くない?首、結構強く噛んじゃったけど」
「ひゃっ、……あっ、い、痛く、ないです、そこ駄目、ひゃ、」

 
こそばゆいような電気が走ったような感じがして、ビクッ、ビクッと背がのけ反った。

「ふふ。晶馬くん、敏感」

 ベッドに仰向けに押し倒され、上から先輩が覆いかぶさってきた。影になった先輩の瞳が、どこかで見た輝きに似ている。綺麗な金色に手を伸ばそうとして、はたと思い出した。

「あ、あの、先輩、僕汚れてるからお風呂入りたい」
「まだ言うかい?全部舐めて綺麗にしてあげるってば」

 それを聞いて先輩が来た時のことを思い出す。

「ち、違、いや違わないけどそうじゃなくって、本当に、ヒャッ」
「往生際が悪い。後で一緒に入るから今は抱かせて」
「ぅわっ!」
 
首の真ん中あたりを吸われて大きな声が出た。そのまま鎖骨を下り、胸の頂を舐められる。感電したかのように、そこからじん……と痺れが広がった。

「うわっ、わ、わ」
「…晶馬くん、胸も初めて?キスも初めてって言ってたし、お尻の穴以外は全部されたことないの?」
「う......はい。高村さんは男は専門外らしくて、下のモノを握るのも嫌って」
「そうなんだ。愛撫は何でも初体験か。じゃあ頑張らなくっちゃ」
「えっ!もう充分です、お手柔らかにお願いします」

 焦ってお願いしたのに笑って流されてしまった。えええ。
 先輩は指で左胸を捏ね、右胸を唇で舐め、甘噛みを繰り返した。

「っ、……っ、んんっ」

 胸が尖った感じがして、腰が甘く痺れた。先輩がいつの間にか緩くきざしていた僕の下をそっと握った。

「……っ、」

 ビクッとなり、思わず先輩の手を押さえていた。無意識の行動に自分自身が驚いた。

「…………」
「…………嫌?」

 先輩が顔を覗き込んできたけど、何と答えていいか分からず、視線が合わせられない。

「怖いの?」
「…………」

 怖いのだろうか。今更?あれだけ何度もヒートを経験してきたのに。
 初めてもたらされる感覚が怖い?それもあるけど、少し違う気がする。
 快楽に溺れるのが怖い?体も気持ちも制御できなくなるから?そうなのかな。でもそのこと自体じゃなく、本当に怖いのは......
 分かった。快楽そのものじゃなくて、それで嬌態を演じ、先輩に軽蔑された目を向けられるのが怖いんだ。

 高村さんの時みたいに──

「三回目」

 急に降ってきた冷ややかな声にハッとして上を向くと、先輩が感情の読めない瞳で僕を見ていた。
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