おとぎ話の結末

咲房

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運命のつがい

激高

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 これから大学に向かい、高村さんに僕との運命の鎖が切れたことを報告に行くことにした。彼女さんもいることだし、喜んでくれるにきまってる。早く教えてあげなくっちゃ。
 この時間なら、高村さんは大学内のカフェテラスにいるだろう。李玖りく先輩と一緒に行ってみたら、テーブルで女の人たちとのんびりお喋りをしていた。

「高村さん」

 僕が声を掛けると、彼はしまったという顔をした。

「よう。お前、ヒート無事終わったみたいだな。行けなくて悪かったよ。いやあ、佳苗ちゃんが急にヒートに入っちゃって、俺も参ったよ。ま、お互い無事乗り切れてヨカッタヨカッタ」

 早口でまくし立てて僕の背中をパンパンと叩いた。

「ほんとですね。無事に終われてホッとしてます。それでですね、僕達、運命のつがいじゃなくなったんですよ。李玖先輩が運命の鎖を断ち切ってくれたんです。今日はその報告に来ました」

 そう言うと、彼はポカンとした顔になった。

「は?何言ってんだお前。運命がそんな簡単に変えられるわけないだろ。なんだよ、俺が相手しなかったから脅かしてんの?いいよ、そんな嘘つかなくても今度はちゃんと行くよ」
「いえ、そうではなくて本当に」
「なに、藤代さんに助けてもらったの? "李玖先輩" だなんて、随分仲良くなったな。おい、まさか寝たんじゃないだろうな。んな訳ねえか。運命のΩ お  ま  え は 相手のα お れ  以外は受け付けないもんな」
「え、ええと、その……」

 "寝た" の言葉に顔が赤らむ。

「は?何その反応。まるでホントにヤッたみたいじゃん。藤代ふじしろさんも何か言ってくださいよ。コイツ頭おかしくなったの?」

 それまで僕の後ろで事の成り行きを見守っていた先輩が口を開いた。

「高村くん、晶馬くんはもう僕のつがいなんだ。彼を貶めるようなことは言わないでもらおうか」
「はあ?藤代さんまで何言ってるんすか、こいつは俺のモノ。望もうと望むまいと運命でそう決まってるんすよ。だから俺もしょうがなく抱いてるの。変なこと言わないでくださいよ」
「だったら良かったじゃないか。僕が君たちの鎖を断ち切ったから、もう君は自由だ。好きな彼女と添い遂げたらいいよ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。おい、お前も何とか言え!ちょっとこっち来い」
「わわっ」

 パンッ

 引っ張られてよろけると、先輩は高村さんの手を叩き落として僕を後ろに引いた。その勢いで先輩に抱き込まれる形になる。大きな体が僕をすっぽりと覆い、長くて引き締まった腕が僕を囲う。密着した体に頬が熱くなった。

「お前!何だよその顔は!それに……何でお前の匂いがしてこないんだよ!俺以外を咥えこんだのかよ、この淫乱!いいからこっちに来いって言ってんだよ!!」
「え?え、ええ?」

 鎖が切れた事を高村さんは喜ぶと思っていたから、彼の激高げきこうに戸惑った。怖い。

「晶馬くん」

 後ろから先輩が僕を呼んだ。声に振り仰ぐと、優しい声と同様の優しい目が、不思議な光を湛えて僕を捉えた。

「彼は突然の事で混乱してるみたいだから、私が彼に説明するよ。君は少し休んでなさい」
「でも……」
「ヒート明けで寝不足だろ?大丈夫、少しゆっくり寝てなさい。いいね、後は
 全部 私に 任せて 何も 考えなくて いいんだ。分かったかい?」

 黒い筈の瞳がゆらゆらと光を反射している。何処かで見た光……そうだ、あの時もこんな……金……色……

「……ハイ、お願い、します。少し……休む、よ……」

 センパイ 二   マカセテ。ユックリ  スル──
 急に眠気が襲ってきて、体が重くなった。

「先輩……凭れ掛かって……いい?」
「おや、可愛い。ふふ、いいよ。しばらく寝ていなさい」
「重いでしょ、ごめんね。……李玖先輩……りくさん、好き……」
「僕もだよ」
「あんた!!今そいつに何をした!俺のモンを勝手にいじるな!日野!こっちに来い!」
「高村」

 ビクッ

 名を呼ばれただけなのに、高村の背をツゥ……と冷たいものが走った。
 なんだ、この威圧感……

「私は、お前が私の伴侶を呼ぶことを許さないよ」

 すうっと眠りに落ちた晶馬を確認し、藤代は空気をも凍らす冷徹な声で高村の動きを封じ込めた。
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