おとぎ話の結末

咲房

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りぃ

〈番外編〉晶馬くん、初めてのバレンタイン

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 とある二月の中旬。大学の校舎で、僕、日野晶馬は友達の田中君と安永くんに聞いてみた。

「ねえ、今週の金曜日って何かあったっけ」
「明後日か。何で?」
「李玖先輩が金曜が楽しみってニコニコしてるんだ」
「金曜って、ちょ、おま、十四日だろ、バレンタインじゃねーか」
「えっ」
「ええ、忘れてたの?藤代さんと恋人になって初めてのバレンタインでしょ」
「だって今まであげたことも貰ったこともなかったから関係ないと思ってて……あげるの?僕が?先輩に?」
「日野があげなくて誰がやるんだよ」
「取り巻きのΩさん達とその他一般のファンの人達じゃない?」
「うっ」

 そうだ、去年も袋いっぱいに貰ってた。

「でも藤代さんは ‟今年は” 楽しみって言ったんだろ?」
「恋人がくれるから楽しみって事でしょ。良かったじゃない。愛されてるね」
「え、それってまさか手作り……」
「当たり前だろ」
「えー!ぼくお菓子なんて作ったことないよ。無理だよ」
「ばっか、チョコなんて温めて型に流し込むだけでいいんだよ。生チョコにしたいなら温める時に生クリームをぶち込めばいいし、オシャレにしたいならナッツを乗せたりデコペンでチョコの文字書いたり。思ってるより簡単に作れていろいろ遊べるから楽しいぜ」
「そうなの?じゃあ頑張ってみようかな」
「おう。失敗しても骨は拾ってやるぜ」
「やめてよ、変なフラグが立ちそう」


 ということで、早速材料を買い揃えたのでチョコ作りを始めます。田中君が教えてくれた生チョコを作るよ。
 内緒で作りたかったけど僕の部屋には調理道具が揃ってないから、先輩のお家のキッチンをお借りしてます。アイランドキッチンでシンクも作業スペースも広いんだ。そういえば先輩が「一緒に住んだら料理は二人で並んで作ろうね」って言ってたな。へへっ、想像したら照れちゃう。
 さて、まず小鍋に割りチョコを入れて火にかけて、温まったら生クリームを入れる。これだけでホントに美味しいのかな?コクを出すためにバターも入れてみる。……ん?油が分離してる?気のせい?よくかき混ぜておこう。グルグル。そしてピスタチオを砕いて投入。かき混ぜ……うわっ、早いよ、もうチョコがぼこぼこ沸騰してきた!
 え、これいつまで火に掛けとくの?あっなんかドロドロしてない?焦げてない?ちょっと待って、分かんない!
 慌てて水を入れてサラサラに薄めようとしたら、水とも分離した。なんで?変なマーブル模様になってる……なんか、香ばしいを通り越して焦げ臭いような……。冷やしたら少しは落ち着くかな。一縷の望みをかけて火を止め、用意していた型に流し込む。
 粗熱を取って冷蔵庫で一時間。冷えて固まるのをドキドキしながら待った。充分冷やしてから型から外したら……

(何だこれ!)

 すじ状に白い線が張り巡らされていて、肉なら絶対高級品だとひと目で分かるサシが入っている。黒い霜降り牛にしか見えないけど、でも残念、チョコなんだ。……なんて怪しい物体だ。

(気持ちわる……)

 おそるおそる食べてみると、多少焦げ臭いけれど思ったより焦げてない。白いサシみたいな脂身の線は分離した生クリームとバターらしい。ま、まあ、食べれないことは、ない……うん、滑らかな口溶け……ゴリッ

(ゴリッ?)

 舌で溶かしながら食べていたら、生チョコなのに固い粒が舌の上に残った。ゴロゴロする。なにこの固いの。奥歯でかみ砕いてみたけどチョコが強くて味が分からない。

(何コレ……はっ、ピスタチオ!)

 アクセントどころか、ただの邪魔……。完全に失敗だ。簡単だと言われたチョコ作りでここまで酷いのを作れたことにビックリだよ。これはフラグを立てた田中くんと安永くんに食べてもらおう。こんな不味いのよく作れたなってきっと笑われちゃうな。死なば諸共、罰ゲームだよ!

 という訳で作り直しです。
 余計なものは入れずに基本に忠実に作ろう。そしてネットで検索したらチョコは沸騰させちゃダメなんだって。生チョコの見栄えと食感にはココアパウダーを振りかければ良かったんだね。

「出来た……」

 型から外した長方形のチョコに縦横に包丁を入れ、ふるいでココアパウダーを振りかけるお化粧をして完成。お店で売ってる石畳風の生チョコのつもり。
 それをラッピングして帰ってきた先輩に渡した。

「手作りチョコだ……嬉しい!晶馬くんありがとう」

 僕とハグしてキスしていそいそと包みを解いて、ピックを刺してパクリ。

 ドキドキ……

「美味しい!なめらかな口溶けでココアパウダーのほろ苦さがアクセント。チョコらしいチョコだね。シンプルイズベスト、僕、こんなに美味しいチョコ初めてだよ」

 甘い!先輩の褒め言葉が甘すぎる!チョコより甘いよ、僕につける点数甘すぎるよ!

「ホントだよ?晶馬くんが愛情込めて作ってくれた事が一番の隠し味だね」

 はいアーン、とピックでチョコを差し出された。パクッ。

「あれ、味見した時より美味しいかも」
「ね。二人で食べてるから余計に美味しいんだよ」

 プシュー。頭から湯気出ちゃう。よくそんな甘い事を平気で……

「美味しかった。ごちそうさま。チョコ作るの初めてって言ってたけど上手だったね。驚いたよ」
「実はこれの前に失敗してるんです。だから作り直しました。失敗作は明日田中くんたちに見せてネタにして3人で食べます」
「頂戴」
「は?」
「その最初のやつも頂戴」
「え?」

 ニコニコと手を差し出す李玖先輩。

「……だ、ダメダメ!絶対ダメ!」
「どうして?だってそれ僕の為に作ってくれたんでしょ、僕のものじゃない」
「だから失敗したんですってば」
「初めて作ったんだから失敗もするよ。晶馬くんが努力してくれたんだもの、失敗も成功も全部欲しい。ねえ、お願い。晶馬くんの初めてを僕にちょうだい」
「いかがわしい言い回しをしないでください。ほんとに酷いんですよ、ダメ、ぜったい無理っ」
「僕、今年は晶馬くんのチョコが貰えるから他の子たちのチョコは全部断ったよ。なのに晶馬くんは僕以外の人にもチョコをあげちゃうの?」
「いやいや笑いのネタなんですってば!友チョコなの!本命チョコとは違うから!」
「だって晶馬くんが生まれて初めて作った記念のチョコだよ?そんな大事なものを他人ひとにあげちゃうの?やだ、僕にちょうだい。二人には僕からの友チョコを渡しとくから。ね、お願い」

 今度は上目遣いでおねだりされた。

「僕のためのチョコでしょ。ちょうだい?」

 にこにこ。にこにこ。
 ぐぬ、ぐぬぬ……。

「さあ」

 負けた。僕は観念して冷蔵庫に入れてたタッパーを手渡した。

「うわあ、大理石みたいに素敵な模様だね。なるほど、この線の部分はバターか。コクを出すための工夫をしてくれたんだね。そして全体的に香る香ばしさ。さらに滑らかな舌触りだけじゃなく、ナッツをカリッと砕き二つの触感を楽しむことが出来る斬新さ。いいね。新しい発想だよ。美味しいよ晶馬くん」

 グハッ

 やめて……無理やり褒めないで……本気で言ってるの?その目は本気なんだね。田中君の「藤代さん晶馬バカだからなー」って台詞が頭にこだましてる。ぼくのライフはもうゼロだよ……ふふ……(白目)


 次の日──

「なあ日野、なんで藤代さんが俺らにチョコレートくれてんの?しかもコレすっごい高級品じゃん」
「あれじゃない?日野くんにアドバイスしたから感謝されたんでしょ。もしくは『うちの嫁がいつもお世話になってます』的な旦那目線の義理チョコ」
「旦那か~。じゃあ喜んでもらえたんだな。よかったな!」

 安永くん生温かい微笑みやめて……。田中君、肩痛いよ。バンバンやめて……

「ありがとう……」

 ははは……僕は力なくお礼を言った。

 こうして李玖先輩と過ごした初めてのバレンタインは一生忘れられない思い出になりました。(白目)

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