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旅の終わり
旅の終わり
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今回また僕が傷だらけになったのは、高村さんのその後が気になって当時を思い出して寝ぼけたんだと思う。
というのも、僕は高村さんにきちんとお別れを言っていない。運命の番が解消されたと報告に行ったら、高村さんは僕が勝手なことをしたって凄く怒ってた。僕にはそのあとの記憶がなくて、あとで先輩から納得してくれたって話を聞いただけだった。
もともと高村さんは巨乳の女の人が好みで、男で痩せっぽちの僕は真逆だった。だから今度こそ本当に好きになった人と結ばれて幸せになれると思うんだけど、中途半端に別れたから罪悪感が拭えてないんだろう。
だからちゃんと会ってお別れを言いたい。
そしてもう一つ先輩にお願いをした。
「僕はもう十分だから、これを高村さんにあげたいんです」
ごめんなさい。でも、何故だか渡さなきゃいけない気がしてる。
そう先輩に説明すると、いいよって言ってくれた。その目が慈しみに満ちている。
きっと先輩は僕が知らない事情を知ってる。僕自身よりも、この形にならない感情を知っているんだろう。
僕を包み込む優しい瞳に背中を押されて、高村さんのいる場所へと向かった。
高村さんに会ってみると、意外なことに痩せてて威勢がなくなっていた。空気の抜けた風船のようにしなびれてる。女の子たちと楽しく遊び回っていると思っていたから驚いた。
「どうしたんですか?」
「……ミナヨに振られたんだよ」
知らない女性の名前が出た。彼女に振られてしょんぼりしていたのか。なんだ、相変わらずだった。
「あーあ、折角の爆乳が。あんな凄いチチ滅多にないんだぜ、ちくしょう。おい、笑うな馬鹿野郎」
「すみません」
最後に別れた時がアレだったから、会ったら何て言おう、気まずくならないかなって思ってたけど、案外普通に話せるもんだな。むしろ縛られてた関係がなくなってお互いさっぱりしたみたいだ。やっぱり無理に繋がれてたのがよくなかったんだ。
「で?今日はなに?怖い彼氏はどうしたよ」
あ、先輩やっぱり怖かったんだ。あらら。
「ちゃんとお礼とお別れが言いたくて。数ヶ月間だけだったけど、相手をしてもらってありがとうございました」
「お礼?お前はバカなの?あんなに酷いことされたのにお礼言っちゃうの?」
「傷は高村さんがしたんじゃないですよ、自分でやってたじゃないですか」
「ほんっとに馬鹿だな、おまえ……」
呆れられてしまった。
「それとこれ、もらって欲しくて」
僕は右手を差し出した。手のひらに乗っているのは水晶の子馬だ。
(幸運をもたらす魔法の子馬。水晶だから魔除けになるよ。悪いものを取り払って、馬の速い足で幸運を運んできてくれる)
そう言って先輩がくれた子馬。苦しい時は何度もこの子に願い、救ってもらった。
大事な子馬だけど、君にお願いする。
高村さんにも幸運を運んできて。
「魔法の子馬です。僕はいま幸せだから、次は高村さんに幸運を運んで欲しくて」
「ラッキーアイテムってか。これ何?水晶?高く売れるなら確かにハッピーになれるな」
「信じてませんね?ホントなんですよ、大事にしてあげてください」
「ふん、安物っぽいから売らねえよ。宝くじ買ってコイツに括っとくさ」
口が悪いのは相変わらずだ。でも少しは元気出たかな?
「じゃあ、もう行きますね。早く次の彼女さん見つけて下さい」
ぺこりと頭を下げて来た道を戻っていった。
「晶馬!」
途中で高村さんに呼ばれて振り返る。
「……元気で。旦那と仲良くやりな」
「はい!高村さんもお元気で」
同じ大学だからまた会うけど、学年も専攻も違うから接点はない。知り合いに少し毛が生えたくらいの関係に戻る。
高村さんは、いつか高村さんの傷を理解して心の隙間を埋めてくれる彼女さんと出会えるだろう。その日が早く来ることを願う。
宜しくね、子馬。今までありがとう。
僕は心の中で子馬にもバイバイを言った。
「晶馬くん、子馬あげちゃったね」
「ええ。彼に持っていて欲しいんだそうです」
遠く離れたところで私と牧之原さんは二人を見ていた。
「あの子馬は高村くんの番が消えゆく寸前まで握っていたものです。彼の幸せを願いながら消えていったので、いわば形見。高村くんが持つのが正しいでしょう」
「そうか」
「折角頂いたのにあげてしまってすみません」
「かまわないよ。晶馬くんは先輩からもらった宝物をホイホイあげるような子じゃないでしょ?子馬自身が行きたがったんだ。それがあの子馬の使命だからね。あの子馬はうちの家内も誰かに幸せを願われて渡された。その前の人も誰かから。ずっとそうやって人から人へと願いを託されて渡ってきたんだ」
今、子馬は高村の番の願いを乗せて彼の元へと走って行った。だが高村は子馬を次に渡せない。幸せを願いたい相手がもういなくなってしまったのだから。
ここが終着点。子馬の旅は今ようやく終わりを迎えたのだ。
(どうか、幸せになって──)
子馬よ、子馬、あの人の元へ。僕の願いを届けておくれ。
子馬は願いを乗せて彼の元へと駈けていった──
というのも、僕は高村さんにきちんとお別れを言っていない。運命の番が解消されたと報告に行ったら、高村さんは僕が勝手なことをしたって凄く怒ってた。僕にはそのあとの記憶がなくて、あとで先輩から納得してくれたって話を聞いただけだった。
もともと高村さんは巨乳の女の人が好みで、男で痩せっぽちの僕は真逆だった。だから今度こそ本当に好きになった人と結ばれて幸せになれると思うんだけど、中途半端に別れたから罪悪感が拭えてないんだろう。
だからちゃんと会ってお別れを言いたい。
そしてもう一つ先輩にお願いをした。
「僕はもう十分だから、これを高村さんにあげたいんです」
ごめんなさい。でも、何故だか渡さなきゃいけない気がしてる。
そう先輩に説明すると、いいよって言ってくれた。その目が慈しみに満ちている。
きっと先輩は僕が知らない事情を知ってる。僕自身よりも、この形にならない感情を知っているんだろう。
僕を包み込む優しい瞳に背中を押されて、高村さんのいる場所へと向かった。
高村さんに会ってみると、意外なことに痩せてて威勢がなくなっていた。空気の抜けた風船のようにしなびれてる。女の子たちと楽しく遊び回っていると思っていたから驚いた。
「どうしたんですか?」
「……ミナヨに振られたんだよ」
知らない女性の名前が出た。彼女に振られてしょんぼりしていたのか。なんだ、相変わらずだった。
「あーあ、折角の爆乳が。あんな凄いチチ滅多にないんだぜ、ちくしょう。おい、笑うな馬鹿野郎」
「すみません」
最後に別れた時がアレだったから、会ったら何て言おう、気まずくならないかなって思ってたけど、案外普通に話せるもんだな。むしろ縛られてた関係がなくなってお互いさっぱりしたみたいだ。やっぱり無理に繋がれてたのがよくなかったんだ。
「で?今日はなに?怖い彼氏はどうしたよ」
あ、先輩やっぱり怖かったんだ。あらら。
「ちゃんとお礼とお別れが言いたくて。数ヶ月間だけだったけど、相手をしてもらってありがとうございました」
「お礼?お前はバカなの?あんなに酷いことされたのにお礼言っちゃうの?」
「傷は高村さんがしたんじゃないですよ、自分でやってたじゃないですか」
「ほんっとに馬鹿だな、おまえ……」
呆れられてしまった。
「それとこれ、もらって欲しくて」
僕は右手を差し出した。手のひらに乗っているのは水晶の子馬だ。
(幸運をもたらす魔法の子馬。水晶だから魔除けになるよ。悪いものを取り払って、馬の速い足で幸運を運んできてくれる)
そう言って先輩がくれた子馬。苦しい時は何度もこの子に願い、救ってもらった。
大事な子馬だけど、君にお願いする。
高村さんにも幸運を運んできて。
「魔法の子馬です。僕はいま幸せだから、次は高村さんに幸運を運んで欲しくて」
「ラッキーアイテムってか。これ何?水晶?高く売れるなら確かにハッピーになれるな」
「信じてませんね?ホントなんですよ、大事にしてあげてください」
「ふん、安物っぽいから売らねえよ。宝くじ買ってコイツに括っとくさ」
口が悪いのは相変わらずだ。でも少しは元気出たかな?
「じゃあ、もう行きますね。早く次の彼女さん見つけて下さい」
ぺこりと頭を下げて来た道を戻っていった。
「晶馬!」
途中で高村さんに呼ばれて振り返る。
「……元気で。旦那と仲良くやりな」
「はい!高村さんもお元気で」
同じ大学だからまた会うけど、学年も専攻も違うから接点はない。知り合いに少し毛が生えたくらいの関係に戻る。
高村さんは、いつか高村さんの傷を理解して心の隙間を埋めてくれる彼女さんと出会えるだろう。その日が早く来ることを願う。
宜しくね、子馬。今までありがとう。
僕は心の中で子馬にもバイバイを言った。
「晶馬くん、子馬あげちゃったね」
「ええ。彼に持っていて欲しいんだそうです」
遠く離れたところで私と牧之原さんは二人を見ていた。
「あの子馬は高村くんの番が消えゆく寸前まで握っていたものです。彼の幸せを願いながら消えていったので、いわば形見。高村くんが持つのが正しいでしょう」
「そうか」
「折角頂いたのにあげてしまってすみません」
「かまわないよ。晶馬くんは先輩からもらった宝物をホイホイあげるような子じゃないでしょ?子馬自身が行きたがったんだ。それがあの子馬の使命だからね。あの子馬はうちの家内も誰かに幸せを願われて渡された。その前の人も誰かから。ずっとそうやって人から人へと願いを託されて渡ってきたんだ」
今、子馬は高村の番の願いを乗せて彼の元へと走って行った。だが高村は子馬を次に渡せない。幸せを願いたい相手がもういなくなってしまったのだから。
ここが終着点。子馬の旅は今ようやく終わりを迎えたのだ。
(どうか、幸せになって──)
子馬よ、子馬、あの人の元へ。僕の願いを届けておくれ。
子馬は願いを乗せて彼の元へと駈けていった──
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