80 / 81
それぞれの明日
秘薬・2〈 side.淳也 〉
しおりを挟む
二階のカフェテリアに日野晶馬を呼び出して藤代と別れろと迫ったが、強情を張るので強行手段に出ることにした。ウチの秘蔵の惚れ薬を飲ませてやる。
僕の後ろにいた奴に羽交い締めにさせて顎を掴み、にぃっと笑って誰にも聞こえないように囁いた。
「これは惚れ薬さ。相手にはあんたに相応しい下衆を用意しといてあげたよ。素直に離れとけばそんなのと番わなくて済んだのにね」
うちの秘薬はとても強力で、一度飲んだらその相手と二度と離れられなくなる。
そう、まるで運命の番のようにね。
日野が口を引き結び、顔を逸らして顎の手から逃れようとしたので更に強い力で上を向かせて唇をこじ開けた。
「どうする?あの人諦める?」
キッと睨み返す日野。あーあ、残念だね。そんな顔しても何も出来ないじゃん。
「そ。じゃあ新しい相手とお幸せに」
心底楽しくなり、笑いながら紙コップを傾けていった。縁から薬入りのコーヒーがタラタラと零れていく。
ふふ、ふふふ……。これであの稀少種は僕のものだ。
バッ
その瞬間、誰かの手が日野の口を覆った。唇に触れる寸前だったコーヒーがその手に阻まれて床に流れる。もう一方の手が僕の手の上から紙コップを掴んだ。
「誰だ、お前!離せ、邪魔するな!」
「おイタが過ぎたね」
そいつは日野を羽交い絞めから逃すと、腕を後ろ手に捻り上げて僕を拘束した。今度は逆に紙コップが僕の口に当てられる。
「やめろ、やめ、うっ、やめろ!」
口を閉じて抵抗しても細身の老人とは思えない強さで器用にこじ開けられる。
どんなに抗ってもびくともしない。抗えずに口に含まされ、飲み下しを強要された。
ゴクッ
コーヒーが胃に落ち、しばらくしてからやっと体を解放された。すぐに嘔吐いたが、もう液体は出てこなかった。
「ゲエッ、ゲエッ」
「よくこんな古い薬を飲もうと思ったよね。僕ならお腹壊すのが怖くて飲めないよ」
「なっ、」
先祖代々の秘宝を鼻で笑われてカッとなる。
「いいことを教えてあげようか。その薬は本物だよ。惚れ薬なんてなま優しいものじゃない、互いを運命の鎖で縛る薬だ。おめでとう。お前にも運命の相手が出来たんだよ」
「え」
老人は柔和な顔で祝福を述べたが、目はゾッとするように冷たかった。
その人ならざる雰囲気に、それが真実だと本能が理解した。
「望まぬ者が運命の相手だった悲劇は、君もよく知ってるよね」
知っている。高村と日野だ。ボロボロになっていく日野を僕は可哀そうにと嗤っていた。
そんなバカな!冗談じゃない、もう一本はどうしようもないクズに飲ませている。あんなのと番ったら破滅する!
「さて、薬の始末も終わったし、私はもう行くよ。いいタイミングで君の迎えも来た事だしね」
老人が去ると、後ろから僕を呼ぶ声がした。
「淳也さん、まだっすか~。いつになったらヤリ放題のΩと会わせてくれるんすか」
「ひっ」
「あれ、あんた……何だよ、そういう事かよ」
「来るな!俺を見るな!向こうに行ってろ!」
「つれないな。アンタと俺の仲だろ」
「ふざけるな、こっちに」
グイッと引かれて思わず奴の顔を見てしまった。
「来る、な……」
その瞬間、俺は恋に落ちた。
僕の後ろにいた奴に羽交い締めにさせて顎を掴み、にぃっと笑って誰にも聞こえないように囁いた。
「これは惚れ薬さ。相手にはあんたに相応しい下衆を用意しといてあげたよ。素直に離れとけばそんなのと番わなくて済んだのにね」
うちの秘薬はとても強力で、一度飲んだらその相手と二度と離れられなくなる。
そう、まるで運命の番のようにね。
日野が口を引き結び、顔を逸らして顎の手から逃れようとしたので更に強い力で上を向かせて唇をこじ開けた。
「どうする?あの人諦める?」
キッと睨み返す日野。あーあ、残念だね。そんな顔しても何も出来ないじゃん。
「そ。じゃあ新しい相手とお幸せに」
心底楽しくなり、笑いながら紙コップを傾けていった。縁から薬入りのコーヒーがタラタラと零れていく。
ふふ、ふふふ……。これであの稀少種は僕のものだ。
バッ
その瞬間、誰かの手が日野の口を覆った。唇に触れる寸前だったコーヒーがその手に阻まれて床に流れる。もう一方の手が僕の手の上から紙コップを掴んだ。
「誰だ、お前!離せ、邪魔するな!」
「おイタが過ぎたね」
そいつは日野を羽交い絞めから逃すと、腕を後ろ手に捻り上げて僕を拘束した。今度は逆に紙コップが僕の口に当てられる。
「やめろ、やめ、うっ、やめろ!」
口を閉じて抵抗しても細身の老人とは思えない強さで器用にこじ開けられる。
どんなに抗ってもびくともしない。抗えずに口に含まされ、飲み下しを強要された。
ゴクッ
コーヒーが胃に落ち、しばらくしてからやっと体を解放された。すぐに嘔吐いたが、もう液体は出てこなかった。
「ゲエッ、ゲエッ」
「よくこんな古い薬を飲もうと思ったよね。僕ならお腹壊すのが怖くて飲めないよ」
「なっ、」
先祖代々の秘宝を鼻で笑われてカッとなる。
「いいことを教えてあげようか。その薬は本物だよ。惚れ薬なんてなま優しいものじゃない、互いを運命の鎖で縛る薬だ。おめでとう。お前にも運命の相手が出来たんだよ」
「え」
老人は柔和な顔で祝福を述べたが、目はゾッとするように冷たかった。
その人ならざる雰囲気に、それが真実だと本能が理解した。
「望まぬ者が運命の相手だった悲劇は、君もよく知ってるよね」
知っている。高村と日野だ。ボロボロになっていく日野を僕は可哀そうにと嗤っていた。
そんなバカな!冗談じゃない、もう一本はどうしようもないクズに飲ませている。あんなのと番ったら破滅する!
「さて、薬の始末も終わったし、私はもう行くよ。いいタイミングで君の迎えも来た事だしね」
老人が去ると、後ろから僕を呼ぶ声がした。
「淳也さん、まだっすか~。いつになったらヤリ放題のΩと会わせてくれるんすか」
「ひっ」
「あれ、あんた……何だよ、そういう事かよ」
「来るな!俺を見るな!向こうに行ってろ!」
「つれないな。アンタと俺の仲だろ」
「ふざけるな、こっちに」
グイッと引かれて思わず奴の顔を見てしまった。
「来る、な……」
その瞬間、俺は恋に落ちた。
0
あなたにおすすめの小説
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる