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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢

5.追放令嬢と釣り逃がした魚

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……
………

「長風呂は危ないですよ~」とケイトが声をかけて入ってきた。

 いつの間にか結構な時間がたっていたようだ。
湯が絶え間なく流れてくる温泉は普通の風呂とは違って湯が冷めることが無いようだ。
気づかないうちにエルシャの体はかなり熱を帯びており、フラフラになる直前といった感じだ。
だが馬車の長旅で凝り固まった筋肉の方は随分解されたようで体は驚くほど軽くなっていた。

 忠告に従い風呂から上がり、用意してもらった服に着替える。
この家のやり方に従い自分で着ようとするも、いいからいいからとケイトが手伝う。

「お洋服は申し訳ないんですが、お客様用の物をご用意しましたので~。
お姫様の荷物は部屋に入れてあるそうです。
御付きの人めっちゃ怒ってたって愚痴られちゃいましたよ~」

嫌な仕事をサクッと他の使用人に押し付けたケイトはあはは~と笑いながら言ってくる。

「じゃあ部屋に食事を用意してあるのでご飯食べちゃってください」

言って部屋へ案内されると、そこには既に料理が用意されていた。



見たことがない料理の数々に思わず顔が引きつるエルシャだった。

「あ~と…坊ちゃんからはなるべくパン食をって事前に言われてたんですが、今日はあいにく準備が間に合わず…
ってわけで、じゃじゃ~ん!!我が領の主食であるお米で~す!!」

 目の前に出された料理は…なんだか全体的に茶色っぽい?
お米というのは白いのだが…
一匹まるまる焼いた魚に黒いソースをかけたもの。
野菜と芋を煮たこれまた茶色っぽい煮物。
そして、茶色いスープ。
嗅いだことのない匂いに警戒心が駆り立てられる。
唯一の救いは新鮮そうな野菜のサラダだろうか…

「ちなみに~この魚は湖で坊ちゃんが釣ってきたもので泥抜き終わったころだったんで出してみました!」
「あら…ケヴィン様が釣ってきたのですか。釣りがお好きなのですね」

とゆう事は、魚については残すという事はどうやら許されないようだ…。

「ええ、もう趣味になってるみたいですね~。
なんでも昔釣り逃した湖のヌシをもう一度釣り上げるんだって躍起になってるんです。
初めて会った時からこーんな大きい魚だっ!って自慢してくるんですよ?」

腕を一杯に伸ばしながら言ってくるケイトにエルシャは「流石にそんな…」と思わず苦笑い。
しかしケイトはすぐさまそれを否定する。

「いやーそれが本当にいたんですよね~湖のヌシ、こーんな大きい魚」

キョトンとするエルシャ…

 聞けば以前ケヴィンの友人が仲間と一緒に釣りに行き、その際に偶然釣り上げたのだそうだ。
しかし、その時運悪くケヴィンが外出中で不在。
仕方ないのでリリースするかと相談していたら、いつの間にか仲間の一人が勝手に調理を始めてしまっていた。
ケヴィンが知ったら絶対怒るだろうと思った面々はその秘密をそっと胃袋に秘めたのであった。

「ちなみに味は微妙でした…あ、でも坊ちゃんに知られないようコッソリ食べるヌシの味は蜜の味でしたけどね~!」

 この話は秘密ですよ~と言って締めた。
そして、ケヴィンは今もその湖でヌシを釣り上げようとしているのだそうだ。
もう友人たちに食べられてしまっているというのに…

 ケヴィン様という人間は一体どういう方なのだろうか?
そういえば姉からの扱いも雑だった気がする…。
ここまでの情報を合わせるとある疑惑が湧いた。

(…もしかして残念な人?)

容姿や佇まいは割とかっこよく見えたのだから流石にそれは…

評価を保留することにして料理に意識を戻す。
目の前の見たことがない料理たち…
エルシャは恐る恐る手を付けようとするが、用意された食器はナイフとフォークと2本の棒……棒?

「あ、やっぱり箸って使わないですよね~、片づけちゃいますね~」

 待って、何それ…気になるのだけれど…
言う前に下げられ、ケイトは「ごゆっくり~」とさっさと下がってしまった。
色々と聞きたいことがあったのだがケイト曰く、式の準備で人手が足りないとの事だったので引き止めるわけにもいかない…

 諦めて食事に手を付けることにする。
一品ずつ出てくるのではなく、全ての皿が一気に出されるなどパーティーの時くらいだろうか?
勿論パーティーで食事をとるなどあり得ないため実質初めての経験である。

 手間取りながらも一皿ずつ食べていき、一応完食することが出来た。
エルシャも空腹であったのが幸いであっただろう。
それと、ケヴィンが釣ってきた魚を食べ残すという無礼は絶対にできなかったのも大きい。
マナーが全く分からず、正直味わう余裕はないので食べるだけで疲れる作業ではあったのだが。
…パンが恋しいと切に思う。

 腹が膨れるた後はソファーで一休み…
エルシャの疲れた体はソファーの上で限界を迎え、次第にウトウトと眠りに落ちて行ってしまった。

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