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1章:オラガ村にやってきた侯爵令嬢
26.追放令嬢と湖の女神
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連れられ到着した場所、それは広々とした美しい湖だった。
エルシャはケヴィンが何かを言う前に下車してその湖に近づいて行った。
馬車を繋ぎエルシャの傍に寄ってきたケヴィンはそんなエルシャに対して鼻高々に言ってくる。
「どうだ、広いだろ」
「サレツィホール領のベイルーン海はこれよりも広大です…
ですが…これは…この美しさは比べるべきものではないでしょう」
水鳥達が羽を休め、太陽の光がさざ波で反射しキラキラと輝きを放ち…
湖面にはロアヌの雄大な山々が映し出されている…
その光景に一目で目を奪われ言葉を失ってしまう。
しばらくそうしていると、ケヴィンがどこかに向かって歩いて行ってしまった。
多分エルシャに気を使っているのだろうが、流石に無視する事は出来ないため慌てて追いかける。
向かった先は湖のほとりにある小さな祠…
そしてそこには小さな女神像が祀ってあった。
ケヴィンはその祠を軽く掃除すると祠の奥にしまってあった酒瓶を取り出し、空になっているお供え用のコップにチョコンと酌をする。
女神像は村から離れた野外に有るというのに奇麗に掃除されている。
そして酒と空になった皿がお供えされており頭には花冠が飾られていた。
空になった皿にはお米がお供えされていたようだが、どうやら女神様に食べられたらしい。
そして、頭の花冠はここに遊びに来た女の子達が人形代わりに飾り付けたのだろうとの事…
女神に略式で祈りを捧げるエルシャ、ケヴィンも同じように祈りを捧げる。
「ここはうちの領の水源地の一つになっていてな…田んぼの水の多くがここから流れている。
この領の生命線と言っても良いかもな…んで感謝と豊作を願ってここに女神像があるんだ」
「でも何故村から離れた場所でこんなに奇麗にされているのですか?」
「ここは村のガキどもの遊び場にもなっててな。あいつらがたまに掃除するんだよ」
「あの子達が…」
とてもそうは見えない…という失礼な感想が頭をよぎってしまった。
そしてケヴィンの御参りの仕方に指摘をすることも出来なかった。
あまりにも自然に、まるで友達の家に遊びに来た、くらいの感覚で御参りをしていたからだ。
むしろ、この場では厳格にする事が野暮とでも思わせるような…
「秋の収穫祭には麦藁…今は稲わらだけど、それで作った神輿が領の村々を回る祭りがあるんだ。
そんでもって、ココはそのゴール地点」
「地方の村ではそのような祭りがあるとは聞きましたが…本当だったのですね」
確か地方貴族の御令嬢が似たような話をしてくれた事があったのを思い出した。
しかし、いざ自分がそのような土地に嫁ぐことになろうとは思いもよらず驚いてしまう。
今年の秋にそれを見る事になるのかもしれないが純粋に興味しかない。
「それでここに到着したら女神が見ている目の前でその神輿に盛大に火をつけるんだ」
「燃やしてしまうのですか?」
「ああ、それでその神輿をここから男たちが根性で流して燃え尽きるまでに中央まで行ったら来年は豊作ってな」
「それは…流す方は責任重大ですね」
エルシャもまさか本当に豊作がかかっているとは思ってはいないのだが、しかしこの村の男達は違うようだ。
「村の男達はもう必死よ」
「ただのゲン担ぎではないのですか?」
「いや、不作だと困るからな…豊作祈願のために女神に奉納する酒の量が増えちまうんだ」
「つまり自分達が飲む分が少なくなる…と」
いやはや、何ともゲンキンな…
しかし、そう思いつつもその祭りというものに空想を巡らせてしまう。
この領の領民たちに囲まれ盛大に燃え上がる神輿を男たちが必死に湖に運ぶ…
その姿に女たちが囃し立て皆が笑いあう…
そんな光景を…
ケヴィンには信仰心が足りないと思う所はあるし、貴族としてはそれではいけない。
今後エルシャがしっかりと監視、指導をするつもりである事に変わりはない。
だが、この土地の人々の女神に対する接し方に自分とは違う物を感じた。
彼らにとっての女神は人を導くための思想ではなく、土地に感謝を伝えるための仲介役なのかもしれない…と。
エルシャがそれを真似する事はないだろう…
しみついた義務、後世にそれを受け継がせる責務…
それを捨てる事など、貴族である事を誇りとするエルシャにとっては自身の存在の否定でしかない。
だが、この土地の人々の女神との向き合い方をエルシャが間違えだと断じる事…それもまた出来はしない。
肩肘を張らず、お酒の量が関係するからという建前の下必死に祈りを捧げる…
そんな彼らの信仰が間違っていない事を、彼らの笑顔が証明しているのだから…
そんな事を考えながら、ふと祠の女神像を見ると…
不思議な事にいつも神々しいと感じていたその顔が何故だかイタズラ好きの普通の少女に見えてきてしまった。
きっとこの少女は下界に降りて人間達と面白おかしくお酒でも飲んで騒ぎたいだけ…
そんな風に見えてしまうのだった…
エルシャはケヴィンが何かを言う前に下車してその湖に近づいて行った。
馬車を繋ぎエルシャの傍に寄ってきたケヴィンはそんなエルシャに対して鼻高々に言ってくる。
「どうだ、広いだろ」
「サレツィホール領のベイルーン海はこれよりも広大です…
ですが…これは…この美しさは比べるべきものではないでしょう」
水鳥達が羽を休め、太陽の光がさざ波で反射しキラキラと輝きを放ち…
湖面にはロアヌの雄大な山々が映し出されている…
その光景に一目で目を奪われ言葉を失ってしまう。
しばらくそうしていると、ケヴィンがどこかに向かって歩いて行ってしまった。
多分エルシャに気を使っているのだろうが、流石に無視する事は出来ないため慌てて追いかける。
向かった先は湖のほとりにある小さな祠…
そしてそこには小さな女神像が祀ってあった。
ケヴィンはその祠を軽く掃除すると祠の奥にしまってあった酒瓶を取り出し、空になっているお供え用のコップにチョコンと酌をする。
女神像は村から離れた野外に有るというのに奇麗に掃除されている。
そして酒と空になった皿がお供えされており頭には花冠が飾られていた。
空になった皿にはお米がお供えされていたようだが、どうやら女神様に食べられたらしい。
そして、頭の花冠はここに遊びに来た女の子達が人形代わりに飾り付けたのだろうとの事…
女神に略式で祈りを捧げるエルシャ、ケヴィンも同じように祈りを捧げる。
「ここはうちの領の水源地の一つになっていてな…田んぼの水の多くがここから流れている。
この領の生命線と言っても良いかもな…んで感謝と豊作を願ってここに女神像があるんだ」
「でも何故村から離れた場所でこんなに奇麗にされているのですか?」
「ここは村のガキどもの遊び場にもなっててな。あいつらがたまに掃除するんだよ」
「あの子達が…」
とてもそうは見えない…という失礼な感想が頭をよぎってしまった。
そしてケヴィンの御参りの仕方に指摘をすることも出来なかった。
あまりにも自然に、まるで友達の家に遊びに来た、くらいの感覚で御参りをしていたからだ。
むしろ、この場では厳格にする事が野暮とでも思わせるような…
「秋の収穫祭には麦藁…今は稲わらだけど、それで作った神輿が領の村々を回る祭りがあるんだ。
そんでもって、ココはそのゴール地点」
「地方の村ではそのような祭りがあるとは聞きましたが…本当だったのですね」
確か地方貴族の御令嬢が似たような話をしてくれた事があったのを思い出した。
しかし、いざ自分がそのような土地に嫁ぐことになろうとは思いもよらず驚いてしまう。
今年の秋にそれを見る事になるのかもしれないが純粋に興味しかない。
「それでここに到着したら女神が見ている目の前でその神輿に盛大に火をつけるんだ」
「燃やしてしまうのですか?」
「ああ、それでその神輿をここから男たちが根性で流して燃え尽きるまでに中央まで行ったら来年は豊作ってな」
「それは…流す方は責任重大ですね」
エルシャもまさか本当に豊作がかかっているとは思ってはいないのだが、しかしこの村の男達は違うようだ。
「村の男達はもう必死よ」
「ただのゲン担ぎではないのですか?」
「いや、不作だと困るからな…豊作祈願のために女神に奉納する酒の量が増えちまうんだ」
「つまり自分達が飲む分が少なくなる…と」
いやはや、何ともゲンキンな…
しかし、そう思いつつもその祭りというものに空想を巡らせてしまう。
この領の領民たちに囲まれ盛大に燃え上がる神輿を男たちが必死に湖に運ぶ…
その姿に女たちが囃し立て皆が笑いあう…
そんな光景を…
ケヴィンには信仰心が足りないと思う所はあるし、貴族としてはそれではいけない。
今後エルシャがしっかりと監視、指導をするつもりである事に変わりはない。
だが、この土地の人々の女神に対する接し方に自分とは違う物を感じた。
彼らにとっての女神は人を導くための思想ではなく、土地に感謝を伝えるための仲介役なのかもしれない…と。
エルシャがそれを真似する事はないだろう…
しみついた義務、後世にそれを受け継がせる責務…
それを捨てる事など、貴族である事を誇りとするエルシャにとっては自身の存在の否定でしかない。
だが、この土地の人々の女神との向き合い方をエルシャが間違えだと断じる事…それもまた出来はしない。
肩肘を張らず、お酒の量が関係するからという建前の下必死に祈りを捧げる…
そんな彼らの信仰が間違っていない事を、彼らの笑顔が証明しているのだから…
そんな事を考えながら、ふと祠の女神像を見ると…
不思議な事にいつも神々しいと感じていたその顔が何故だかイタズラ好きの普通の少女に見えてきてしまった。
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